インターネット字書きマンの落書き帳
【友達の前だとフツーの男子高校生になるあらい概念(BL)】
平和な世界線で普通に付き合っている新堂×荒井の話をしています。(正気にて狂気の挨拶)
今回は、ほら、バレンタインデーの季節ですからね。
バレンタインデーの礼儀としてバレンタインデーの話をしようと思いますよ。
今日は2月18日だって?
この年齢(とし)になるとねぇ、バレンタインのネタを考えるのがバレンタイン当日なんですよォ!
というわけで今回は 今年のバレンタインネタ の続きみたいな話をします。
教室でチョコレートのやりとりをした後ひとしきりイチャイチャした新堂×荒井が帰ろうとしていたら荒井の友人である袖山が声をかけてくる話ですよ。
袖山の前だと普通の少年っぽく振る舞う荒井という概念が好きなのでそれを顕在化させたくて書きました。
自分の頭の中にある概念をどんどん顕在化させると健康になります!
読んでくれた人も健康になるといいなっ!
一連のバレンタイン話はまとめてpixivにおいてあります → pixivこちらから
webでもまとめたのをおいてあるので一気にまとめた話が読みたい人は コチラから どうぞ
今回は、ほら、バレンタインデーの季節ですからね。
バレンタインデーの礼儀としてバレンタインデーの話をしようと思いますよ。
今日は2月18日だって?
この年齢(とし)になるとねぇ、バレンタインのネタを考えるのがバレンタイン当日なんですよォ!
というわけで今回は 今年のバレンタインネタ の続きみたいな話をします。
教室でチョコレートのやりとりをした後ひとしきりイチャイチャした新堂×荒井が帰ろうとしていたら荒井の友人である袖山が声をかけてくる話ですよ。
袖山の前だと普通の少年っぽく振る舞う荒井という概念が好きなのでそれを顕在化させたくて書きました。
自分の頭の中にある概念をどんどん顕在化させると健康になります!
読んでくれた人も健康になるといいなっ!
一連のバレンタイン話はまとめてpixivにおいてあります → pixivこちらから
webでもまとめたのをおいてあるので一気にまとめた話が読みたい人は コチラから どうぞ
『自分の知らない相手のすがた』
日も暮れ始め校内に誰の姿も見えなくなる頃、新堂誠は荒井昭二と他愛も無い話をしながら歩いていると階段にさしかかった時誰かが荒井を呼び止めた。
どこから声がしたのかと不思議に思いながら辺りを見渡せば階下の踊り場で息を弾ませて立つ袖山勝の姿がある。彼の姿を見つけると荒井は驚いたように声をあげた。
「どうしたんだい、袖山くん。こんな時間にまだ学校に残ってたのかい」
黄昏時を過ぎたこの時間は学校に残るには随分と遅い時刻だったろう。平時であれば運動部や文化部がグラウンドか部活棟で活動している時間だがテストが間近に迫ったこの時期は部活も原則中止になるため校内には人の気配などない。
しかもここ鳴神は怪異の噂が後を絶たず実際に生徒が被害にあい毎年何人かが消えていなくなっているような有様だったから放課後一人で居残っているというだけで危険なのだ。
その思いもあったのだろう、荒井の言葉は普段よりやや強い語調になっていた。
「ダメじゃないか、早く帰らないと。黄昏時は逢魔が時とも言って怪異や妖異といったよくないものが出る時間なんだ、他の学校ならまだしもこの鳴神で一人になるなんて危険すぎるよ。どうしてこんな時間まで残ってたんだい」
荒井が存外に強い言葉で迫ったからだろう。元々気の弱そうな袖山は狼狽えながら元々細い目をさらに細めた。
「えっ、あっ、ごめんね、荒井くん。僕ももっと早く帰るつもりだったんだけど……そ、そうだ。これっ……」
そして狼狽えながらも鞄を開くと中から丁重にラッピングされた手作りらしいブラウニーを取り出すと荒井の方へ差し出した。リボンにはかわいらしいカードに「荒井さんへ」とメッセージも添えられている。
それを見て隣で黙っていた新堂がついに耐えきれなくなったように口を開いた。
「何だよ袖山、おまえ荒井にチョコ渡すために待ち伏せしてたのか?」
「ひっ……し、新堂先輩。ち、違いますよ……これは、荒井くんに渡したいけど本人に直接渡すのが恥ずかしいって子が僕に渡すよう頼んできたので、それを預かっただけですっ……」
添えられたカードの字を見ても袖山が作ったとは思えなかったが、どうやら彼は荒井のポストにされていたらしい。
バレンタインとなればチョコレートがもらえるのか多少は期待もするだろうに無常にも男心を踏みにじられたということだろう。人の良い袖山が断り切れなかった姿が目に浮かぶ。
「袖山……テメェがお人好しなのは知ってるが、そんな頼み受ける必用無ェだろ。どこのどいつだ? 俺が少し強めに話つけておいてやろうか?」
「ひぃっ……だ、大丈夫です新堂先輩。そんな事したら女の子が可愛そうじゃないですか……それに、どこの誰かは分からないんですよ」
「分からねぇ? 何でだよ。おまえにチョコ託したってんだろ」
「はい、確かに僕はチョコを渡すよう頼まれたんですが、肝心の女の子は名前も言わないで逃げるように立ち去って去ってしまったので……きっと僕にチョコを託すのが精一杯だったんでしょうね。あいにくチョコの包みにも名前は書いてないみたいですし、手紙のようなものも無いでしょう。流石に誰からのプレゼントかわからないと荒井くんも困るでしょうし、これを託してくれた女の子も思いが伝えられないのは気の毒じゃないですか。だから僕はずっとその生徒を探していたんです。そうしたらこんな遅くなってしまって……結局誰が渡したのかわからなかったけど、せめてチョコレートだけでも渡しておこうかなって。荒井くんがまだ帰っていなくて安心しました」
どうやら袖山は校内に生徒の姿が見えなくなるまで差出人不明のチョコレートを渡した女子生徒を探していたのだという。鳴神学園はたとえ同じ学年でも一度だって顔を合わせない事があるほど広く1学年の教室が3階まであるほどクラスも多いのだ。その中から女子生徒を一人捜すなんて骨が折れただろうし、見つからなくても仕方ないだろう。
新堂は改めて袖山の人の良さと根気に感心していた。決して要領の良い方ではないがこのように何に対しても真摯であることが袖山の美徳なのだ。
「ごめんね、袖山くん。僕のせいでキミに余計な気遣いをさせてしまって……」
包みを受け取りながら申し訳なさそうに頭を下げる荒井を前にして、袖山は大げさなくらい首を振って見せる。そこからは苦労させられた恨みの類いは一切感じられなかった。
「そんなことないよ! 僕こそちゃんと名前を聞いておかなくてごめんね」
「名前を伝えなかったのは相手のミスだから袖山くんが気にする事じゃないよ。本当にありがとう……袖山くん、もし良かったら途中まで一緒に帰るかい? 学校を出るまでは一人で歩くのも危ないだろう」
「えーっと……」
袖山は少し考えるが新堂の方を見ると顔を引きつらせる。それはあまり表情が読めない袖山でも明らかにわかるほどのNOの感情だった。
「誘ってくれたのは嬉しいけど、さっき同じ部活の内山くんと会ってね。彼と一緒に帰ろうと思うからまたの機会にするよ。それじゃあまた、学校でね」
そうしてやや早口でまくし立てると転がるように階段を降りていく。あの様子を見ると明らかに新堂を怖れて逃げ出したのだろう。内山と帰るなどというのもきっと方便だ。
「何だよ袖山のヤツ、別に取って食いやしねーっての。ってか逃げ足早ェなあいつ、運動神経なんざぷっつり途切れてると思ってたんだがなァ」
自分が怖がられていることくらい分かっているのだろう、新堂は呆れたように頭を掻くと逃げ去った袖山の方を見る。
そんな新堂を荒井はいつものような愛想のない顔で見つめていた。
「……新堂さん、袖山くんの事知っているんですね」
「まぁな……あいつサッカー部だろ? 去年サッカー部の三軍連中を面倒見てやったんだが、その中にアイツも居たんだよ。いやァ、あんな運動センスのないヤツも珍しいってくらい何やらせてもヘッタクソだったけど、諦めたり投げ出したりはしねぇ根性のあるヤツだったから覚えてたんだよな」
「そうですか……袖山くんは何に対しても真摯に行動出来る人ですからね」
袖山の話をしている時、荒井の表情は幾分か柔らかくなる。その姿を見て新堂はさも意外だといった様子で荒井を見た。
「いや、それより荒井。おまえ、袖山の前だとあんななのか?」
「あんな……とはどういう意味ですか」
「だから、袖山の前だとあんなネコかぶったみたいに普通の高校生です、ってしゃべり方になるのかよ。お前もっとこう……ツンケンしてるだろ、普段は」
「待ってください、僕をまるで人の心がない人形みたいに言うのはやめてくれませんか。僕だってごく普通の高校生ですから、普通の高校生のらしく振る舞うのは当たり前じゃないですか」
そう語る荒井の口調はひどく淡々としており感情の起伏さえ感じられないのだから言っていることとやっていることが違いすぎる。袖山の前で随分と柔らかい口調になっているのに自分で気付いていないのだろうか。
そもそも荒井は新堂に対して普段より敬語で話す傾向がある。いや、新堂だけではない。年下である坂上や倉田、友人である時田や赤川と連んでいる時だっておおむね敬語だ。
そのような姿しか見ていないからてっきり敬語でしか話さないのだと思っていたからこそ、袖山の前でみせた砕けた口調が意外に思えた。
「そりゃぁそうだけどよ……何か袖山に対して話し方といい態度といい随分と違って見えたからよォ。おまえ、何かこう……袖山とあった訳じゃ無ェよな?」
「何を言ってるんですか、僕が袖山くんに対してそんなことするはず無いでしょう……もし僕が袖山くんを前にして雰囲気が違うように見えるのだとしたら、それはきっと袖山くん自身の力ですよ。袖山くんは穏やかな人ですから、彼の前だと僕も力まず自然に接する事が出来るんだと思います」
「あぁ、確かに袖山ってちょっと抜けてるってか、毒気が抜かれるような所があるもんなァ」
新堂は納得したように頷くと薄暗くなりはじめた階段を降りる。荒井は紙袋に袖山から受け取った包みを入れると新堂の後を追いかけた。
「あー、でもそれってアレか。お前、俺の前では一応気を遣って話してるってことか? 袖山の前では気張ってねぇんだろ? 俺の前では一応、敬語だもんな」
「当たり前でしょう? 新堂さんは先輩です。後輩として先輩に失礼のないよう話すのは礼儀の一つですからね」
「確かに俺はお前の先輩ではあるけどよォ。その前にお前の彼氏でもあるんだぜ。恋人の前で肩肘張って過ごすってのも何か違うんじゃ無ェか?」
「違いませんよ。好きな人の前だとなおさら格好付けたくなる……なんて、新堂さんこそそうなんじゃないですか。僕の前でもかっこ良くて強い男でいたい、って思ってませんか? 僕は別にあなたがかっこ悪くて弱っていても嫌いになんかならないですよ」
荒井に言われ新堂はぐっと押し黙る。荒井の前では格好いい男でいたい、男らしくありたいと思っているのは確かにその通りだったからだ。
「そりゃぁそうだけどよ……無理して俺に敬語使ってんなら普通に喋ってもいいんだぜ。お前にあんまり気を遣わせたくはねぇからな」
「新堂さんは僕が無理をしているように見えますか?」
「いや、そりゃ……全然見えねぇけどよ……」
「そうでしょう。僕は別に無理はしていませんよ、家でも基本的にはこのように話してますから」
荒井は笑いながら本気か冗談かわからぬようなことを言う。まさか本当に家でも敬語で会話しているとは思いがたいが荒井の家ならあり得そうだ。
そう思っているうちに荒井は新堂の前とまわるとこちらの顔をのぞき込んできた。
「それとも、もっと普通の高校生みたいに話す僕のほうが好きかな。どうだい、誠さん。変じゃないなら……そうしてみようかな?」
荒井は悪戯っぽく笑いながらまるで袖山と話している時のように砕けた口調で話し出したのだ。 普段から慇懃無礼なまでの物言いをする荒井が年相応の少年らしい話し方をするのは新鮮だったし、新堂のことを名前で呼ぶのも珍しいことだったから驚くと同時に気恥ずかしくなる。
だがそれは言った荒井も同じだったのだろう。勢いよく話してみたはいいが後から恥ずかしくなったのか、新堂が見てわかるほど頬を紅くさせ俯いた。
「……いや、やっぱり聞かなかったことにしてください。僕にはこういうの似合いませんよね。自分が一番わかってますから」
「おいおい、言った本人が恥ずかしがってんじゃ無ェよ。ったく……」
荒井を抱き寄せれば彼は新堂の胸元へ顔を埋めるようにして赤くなった頬を隠す。すると荒井は自嘲気味に笑うと新堂の制服を握りしめた。
「かっこ悪いですね、僕は。貴方をからかうつもりだったのに僕自身が恥ずかしくなってしまうなんてとんだお笑いぐさです。自分の考えたジョークで笑う芸人みたいに間抜けじゃないですか……」
「心配すんなよ。お前は俺がかっこ悪くても好きでいてくれんだろ? ……俺だってそうだ、お前がかっこ悪くたって嫌いになんかならねぇよ」
新堂は荒井を撫でてからその髪へ口づけする。
すっかり赤くなった耳に触れれば指先に愛しさと温もりとが伝わるのだった。
日も暮れ始め校内に誰の姿も見えなくなる頃、新堂誠は荒井昭二と他愛も無い話をしながら歩いていると階段にさしかかった時誰かが荒井を呼び止めた。
どこから声がしたのかと不思議に思いながら辺りを見渡せば階下の踊り場で息を弾ませて立つ袖山勝の姿がある。彼の姿を見つけると荒井は驚いたように声をあげた。
「どうしたんだい、袖山くん。こんな時間にまだ学校に残ってたのかい」
黄昏時を過ぎたこの時間は学校に残るには随分と遅い時刻だったろう。平時であれば運動部や文化部がグラウンドか部活棟で活動している時間だがテストが間近に迫ったこの時期は部活も原則中止になるため校内には人の気配などない。
しかもここ鳴神は怪異の噂が後を絶たず実際に生徒が被害にあい毎年何人かが消えていなくなっているような有様だったから放課後一人で居残っているというだけで危険なのだ。
その思いもあったのだろう、荒井の言葉は普段よりやや強い語調になっていた。
「ダメじゃないか、早く帰らないと。黄昏時は逢魔が時とも言って怪異や妖異といったよくないものが出る時間なんだ、他の学校ならまだしもこの鳴神で一人になるなんて危険すぎるよ。どうしてこんな時間まで残ってたんだい」
荒井が存外に強い言葉で迫ったからだろう。元々気の弱そうな袖山は狼狽えながら元々細い目をさらに細めた。
「えっ、あっ、ごめんね、荒井くん。僕ももっと早く帰るつもりだったんだけど……そ、そうだ。これっ……」
そして狼狽えながらも鞄を開くと中から丁重にラッピングされた手作りらしいブラウニーを取り出すと荒井の方へ差し出した。リボンにはかわいらしいカードに「荒井さんへ」とメッセージも添えられている。
それを見て隣で黙っていた新堂がついに耐えきれなくなったように口を開いた。
「何だよ袖山、おまえ荒井にチョコ渡すために待ち伏せしてたのか?」
「ひっ……し、新堂先輩。ち、違いますよ……これは、荒井くんに渡したいけど本人に直接渡すのが恥ずかしいって子が僕に渡すよう頼んできたので、それを預かっただけですっ……」
添えられたカードの字を見ても袖山が作ったとは思えなかったが、どうやら彼は荒井のポストにされていたらしい。
バレンタインとなればチョコレートがもらえるのか多少は期待もするだろうに無常にも男心を踏みにじられたということだろう。人の良い袖山が断り切れなかった姿が目に浮かぶ。
「袖山……テメェがお人好しなのは知ってるが、そんな頼み受ける必用無ェだろ。どこのどいつだ? 俺が少し強めに話つけておいてやろうか?」
「ひぃっ……だ、大丈夫です新堂先輩。そんな事したら女の子が可愛そうじゃないですか……それに、どこの誰かは分からないんですよ」
「分からねぇ? 何でだよ。おまえにチョコ託したってんだろ」
「はい、確かに僕はチョコを渡すよう頼まれたんですが、肝心の女の子は名前も言わないで逃げるように立ち去って去ってしまったので……きっと僕にチョコを託すのが精一杯だったんでしょうね。あいにくチョコの包みにも名前は書いてないみたいですし、手紙のようなものも無いでしょう。流石に誰からのプレゼントかわからないと荒井くんも困るでしょうし、これを託してくれた女の子も思いが伝えられないのは気の毒じゃないですか。だから僕はずっとその生徒を探していたんです。そうしたらこんな遅くなってしまって……結局誰が渡したのかわからなかったけど、せめてチョコレートだけでも渡しておこうかなって。荒井くんがまだ帰っていなくて安心しました」
どうやら袖山は校内に生徒の姿が見えなくなるまで差出人不明のチョコレートを渡した女子生徒を探していたのだという。鳴神学園はたとえ同じ学年でも一度だって顔を合わせない事があるほど広く1学年の教室が3階まであるほどクラスも多いのだ。その中から女子生徒を一人捜すなんて骨が折れただろうし、見つからなくても仕方ないだろう。
新堂は改めて袖山の人の良さと根気に感心していた。決して要領の良い方ではないがこのように何に対しても真摯であることが袖山の美徳なのだ。
「ごめんね、袖山くん。僕のせいでキミに余計な気遣いをさせてしまって……」
包みを受け取りながら申し訳なさそうに頭を下げる荒井を前にして、袖山は大げさなくらい首を振って見せる。そこからは苦労させられた恨みの類いは一切感じられなかった。
「そんなことないよ! 僕こそちゃんと名前を聞いておかなくてごめんね」
「名前を伝えなかったのは相手のミスだから袖山くんが気にする事じゃないよ。本当にありがとう……袖山くん、もし良かったら途中まで一緒に帰るかい? 学校を出るまでは一人で歩くのも危ないだろう」
「えーっと……」
袖山は少し考えるが新堂の方を見ると顔を引きつらせる。それはあまり表情が読めない袖山でも明らかにわかるほどのNOの感情だった。
「誘ってくれたのは嬉しいけど、さっき同じ部活の内山くんと会ってね。彼と一緒に帰ろうと思うからまたの機会にするよ。それじゃあまた、学校でね」
そうしてやや早口でまくし立てると転がるように階段を降りていく。あの様子を見ると明らかに新堂を怖れて逃げ出したのだろう。内山と帰るなどというのもきっと方便だ。
「何だよ袖山のヤツ、別に取って食いやしねーっての。ってか逃げ足早ェなあいつ、運動神経なんざぷっつり途切れてると思ってたんだがなァ」
自分が怖がられていることくらい分かっているのだろう、新堂は呆れたように頭を掻くと逃げ去った袖山の方を見る。
そんな新堂を荒井はいつものような愛想のない顔で見つめていた。
「……新堂さん、袖山くんの事知っているんですね」
「まぁな……あいつサッカー部だろ? 去年サッカー部の三軍連中を面倒見てやったんだが、その中にアイツも居たんだよ。いやァ、あんな運動センスのないヤツも珍しいってくらい何やらせてもヘッタクソだったけど、諦めたり投げ出したりはしねぇ根性のあるヤツだったから覚えてたんだよな」
「そうですか……袖山くんは何に対しても真摯に行動出来る人ですからね」
袖山の話をしている時、荒井の表情は幾分か柔らかくなる。その姿を見て新堂はさも意外だといった様子で荒井を見た。
「いや、それより荒井。おまえ、袖山の前だとあんななのか?」
「あんな……とはどういう意味ですか」
「だから、袖山の前だとあんなネコかぶったみたいに普通の高校生です、ってしゃべり方になるのかよ。お前もっとこう……ツンケンしてるだろ、普段は」
「待ってください、僕をまるで人の心がない人形みたいに言うのはやめてくれませんか。僕だってごく普通の高校生ですから、普通の高校生のらしく振る舞うのは当たり前じゃないですか」
そう語る荒井の口調はひどく淡々としており感情の起伏さえ感じられないのだから言っていることとやっていることが違いすぎる。袖山の前で随分と柔らかい口調になっているのに自分で気付いていないのだろうか。
そもそも荒井は新堂に対して普段より敬語で話す傾向がある。いや、新堂だけではない。年下である坂上や倉田、友人である時田や赤川と連んでいる時だっておおむね敬語だ。
そのような姿しか見ていないからてっきり敬語でしか話さないのだと思っていたからこそ、袖山の前でみせた砕けた口調が意外に思えた。
「そりゃぁそうだけどよ……何か袖山に対して話し方といい態度といい随分と違って見えたからよォ。おまえ、何かこう……袖山とあった訳じゃ無ェよな?」
「何を言ってるんですか、僕が袖山くんに対してそんなことするはず無いでしょう……もし僕が袖山くんを前にして雰囲気が違うように見えるのだとしたら、それはきっと袖山くん自身の力ですよ。袖山くんは穏やかな人ですから、彼の前だと僕も力まず自然に接する事が出来るんだと思います」
「あぁ、確かに袖山ってちょっと抜けてるってか、毒気が抜かれるような所があるもんなァ」
新堂は納得したように頷くと薄暗くなりはじめた階段を降りる。荒井は紙袋に袖山から受け取った包みを入れると新堂の後を追いかけた。
「あー、でもそれってアレか。お前、俺の前では一応気を遣って話してるってことか? 袖山の前では気張ってねぇんだろ? 俺の前では一応、敬語だもんな」
「当たり前でしょう? 新堂さんは先輩です。後輩として先輩に失礼のないよう話すのは礼儀の一つですからね」
「確かに俺はお前の先輩ではあるけどよォ。その前にお前の彼氏でもあるんだぜ。恋人の前で肩肘張って過ごすってのも何か違うんじゃ無ェか?」
「違いませんよ。好きな人の前だとなおさら格好付けたくなる……なんて、新堂さんこそそうなんじゃないですか。僕の前でもかっこ良くて強い男でいたい、って思ってませんか? 僕は別にあなたがかっこ悪くて弱っていても嫌いになんかならないですよ」
荒井に言われ新堂はぐっと押し黙る。荒井の前では格好いい男でいたい、男らしくありたいと思っているのは確かにその通りだったからだ。
「そりゃぁそうだけどよ……無理して俺に敬語使ってんなら普通に喋ってもいいんだぜ。お前にあんまり気を遣わせたくはねぇからな」
「新堂さんは僕が無理をしているように見えますか?」
「いや、そりゃ……全然見えねぇけどよ……」
「そうでしょう。僕は別に無理はしていませんよ、家でも基本的にはこのように話してますから」
荒井は笑いながら本気か冗談かわからぬようなことを言う。まさか本当に家でも敬語で会話しているとは思いがたいが荒井の家ならあり得そうだ。
そう思っているうちに荒井は新堂の前とまわるとこちらの顔をのぞき込んできた。
「それとも、もっと普通の高校生みたいに話す僕のほうが好きかな。どうだい、誠さん。変じゃないなら……そうしてみようかな?」
荒井は悪戯っぽく笑いながらまるで袖山と話している時のように砕けた口調で話し出したのだ。 普段から慇懃無礼なまでの物言いをする荒井が年相応の少年らしい話し方をするのは新鮮だったし、新堂のことを名前で呼ぶのも珍しいことだったから驚くと同時に気恥ずかしくなる。
だがそれは言った荒井も同じだったのだろう。勢いよく話してみたはいいが後から恥ずかしくなったのか、新堂が見てわかるほど頬を紅くさせ俯いた。
「……いや、やっぱり聞かなかったことにしてください。僕にはこういうの似合いませんよね。自分が一番わかってますから」
「おいおい、言った本人が恥ずかしがってんじゃ無ェよ。ったく……」
荒井を抱き寄せれば彼は新堂の胸元へ顔を埋めるようにして赤くなった頬を隠す。すると荒井は自嘲気味に笑うと新堂の制服を握りしめた。
「かっこ悪いですね、僕は。貴方をからかうつもりだったのに僕自身が恥ずかしくなってしまうなんてとんだお笑いぐさです。自分の考えたジョークで笑う芸人みたいに間抜けじゃないですか……」
「心配すんなよ。お前は俺がかっこ悪くても好きでいてくれんだろ? ……俺だってそうだ、お前がかっこ悪くたって嫌いになんかならねぇよ」
新堂は荒井を撫でてからその髪へ口づけする。
すっかり赤くなった耳に触れれば指先に愛しさと温もりとが伝わるのだった。
PR
COMMENT