インターネット字書きマンの落書き帳
坂上の事兄さんだと思う荒井という概念
荒井昭二、いかにも兄がいる名前なのに彼の話には兄弟がいる気配が一切ないよな……。
実は年の離れた兄がいたらいいな。
小学校くらいにはもう大学生活をしていて一人暮らしをはじめていて、ほとんど話した事はないけど別に仲は悪くない。そんな兄がいたらいいな……。
その兄が坂上くんに雰囲気とか似てたらいいな。
坂上くんのこと年下なのに「兄さんみたいだな」と思っていたらいいな……。
という願望の煮こごりを書きました。
俺の煮こごりを見てください。
実は年の離れた兄がいたらいいな。
小学校くらいにはもう大学生活をしていて一人暮らしをはじめていて、ほとんど話した事はないけど別に仲は悪くない。そんな兄がいたらいいな……。
その兄が坂上くんに雰囲気とか似てたらいいな。
坂上くんのこと年下なのに「兄さんみたいだな」と思っていたらいいな……。
という願望の煮こごりを書きました。
俺の煮こごりを見てください。
『僕の年下のお兄さん』
荒井昭二には一回りも年上の兄がいる。
荒井が小学校の頃にはすでに大学生となり家を出て一人暮らしを始めていたものだから一緒に遊んだ記憶もなければそれほど多く話した記憶もない、物心ついた時にはすでに大人だったというのが兄の印象だ。
それでも兄は年の離れた弟である荒井をよく可愛がってくれていた。
年が離れすぎているから荒井に対してどのように接していいのかわからず困るような素振りを見せる事もあったが、誕生日も覚えてくれていたしクリスマスも忘れた事がなく、兄弟だというのにお年玉までくれたからこちらを気遣ってくれるのは良く分かっていた。
兄とは今でも離れてくらしており、会うのも年に1度か2度程度。メッセージツールで時々やりとりはするがあまり自分の事を多く語ろうとはしないタイプであり、兄がどういう人間なのか、16年も兄弟として過ごしているにもかかわらず、未だによくわからないままだった。
だが、物心ついた時にはすでに一人の大人として荒井に接していた兄に荒井はぼんやりとした理想と憧れを抱いている所があった。
「ほら、昭二。誕生日だったよな、これ、プレゼント。小さい頃好きだったもんな」
そんな事を言いながら15歳の誕生日におおきなピカチュウのぬいぐるみを渡された時はいつまでも自分のことを小さい子供だと思っているのだと少し呆れはしたが、優しい兄を荒井は慕っていた。
そんな兄と最後に会ったのは、今年の正月だったか。久しぶりに会った兄は普段の黒髪ではなくやや明るめの茶色い髪に染めていた。
「これか? 最近白髪も出てきたし、少し垢抜けた方が新人も話しやすいって言われて染めてみたんだけど、変か?」
兄は照れたように笑いながら荒井に聞いた。
確かに黒髪だった頃の兄はいかにも生真面目そうだったし、弟の荒井からしても黙って考え込んでいる時は怒っているように見える事もあった。それを考えると髪色を明るくしたことで雰囲気は随分柔らかくなっただろう。
だが、好きか嫌いかで言われたら以前の黒髪だった兄のほうがずっと好きだった。見慣れているというのもあるのだろうが、落ち着いた雰囲気の兄が好きだったのだ。
「えぇ、似合ってますよ、兄さん」
兄にそう伝えたのは、兄なりに考え悩んだ末に髪色を変えたのだろうと思ったからだ。仕事上で必用だったからか、あるいは気になる相手が出来て容姿を気にするようになったのかもしれない。黒髪の方が好きだったのは荒井の好みであり、髪色が明るくなった兄のほうがよりスマートで格好良く見えているとも思う。
だから一般的な感想として答えたのだが、兄が自分の兄ではなく周囲の人々に愛される一人の男になっていくようでほんの少し寂しかった。
坂上修一と出会ったのは、それから半年ほど経った後である。
物腰柔らかな雰囲気と優しげな表情は、一目見た時から兄を連想させた。
別段顔が似ているという訳でもないし坂上は兄より小柄ではあったが立ち姿という振る舞いといい話し方といい雰囲気がよく似ていたのだ。
自分の後輩であるにも関わらず、坂上のことを兄と重ねるのも不思議な気がしたが、それほど坂上は兄と印象が重なっていたのだ。
だから自然と、兄は人と話をするとき、こんな風に笑うのだろうか。兄と一緒に学校に行っていたら、自分とはこんな距離感で接していたのだろうか。そんな他愛もない事を自然と考えるようになっていた。
そして思ってしまうのだ。
坂上が自分の兄だったら良かったのにと。坂上が兄として自分とこんな風に学園生活を送ってくれれば、きっと楽しかっただろうと。
「坂上くんは地毛ですか?」
七不思議の集会で作った特集記事の下書きを確認するため新聞部に来た時、原稿を準備する坂上の頭を撫でついそう問いかける。
坂上の明るく茶色い毛は、ちょうど髪を染めた兄によく似ていたからだ。
「ふぁっ!? な、何するんですか荒井さん……えぇ、僕は地毛ですよ。ちょっと色が明るいから染めているんじゃないかって言われますけど」
坂上は驚き声をあげる。彼の声で、荒井は何の断りもなく坂上の頭を触るという不躾な態度をとっている事に気付いた。
坂上の雰囲気があまりに兄と重なるため、つい油断していたのだ。
「すいません、急に触るなど失礼なことをしてしまって……いえ、坂上くんでしたら黒髪でも似合うだろうなと。そう思ったもので」
すると、その様子を見ていた新堂が笑いながら声をあげる。彼もまた坂上の原稿を確認するため、部活の合間に新聞部まで来ていたのだ。
「ははッ、髪の色変えるのにわざわざ黒くするなんて勿体ねぇだろ。どうせなら舐められないよう、派手な色にしたほうがいいんじゃ無ェのか。俺みたいに金髪にするとか、赤くするとか……緑は止めたほうがいいぜ。黒髪と混ざるとスイカみたいになるからな」
新堂の言う事も最もだ。髪色をわざわざ暗い色にするなんて、就職活動中の学生でもなければしないだろう。
それでも坂上は少し考えるような仕草をすると、荒井の方へ目を向けた。
「そうですね……荒井さんが似合うと思うなら、黒にしてみるのもいいかもしれませんね」
坂上は淡く明るい髪色が充分に似合っている。それも社交辞令だろう。だがその優しさと笑顔が、憧れ慕う兄の姿と重なる。
やはりそうだ、坂上は自分の兄に似ている。だが自分の兄とは違い、より自分の理想に近づいてくれるような気がして僅かだが危うさを覚えた。
もし坂上が自分の思うような人間だったらきっと、自分は想像以上にのめり込んでしまうのではないか。理想通りに兄を演じてくれる彼に、自分はより多くの情熱と希望を注いでしまうのではないか。思い通りの理想の兄を、彼を通して作りたくなるのではないだろうか。
いや、そうしたい。
自分の手で彼を、自分の理想通りに優しく頼れる兄として作る事ができたらどれだけ楽しいだろうか。
「……気が向いたら、お願いします。強制はしませんよ」
荒井は自然と笑顔になっていた。
坂上の中にある危うさと、自分の内にある脆さに言い知れぬ不安と疼くような期待を抱きながら。
荒井昭二には一回りも年上の兄がいる。
荒井が小学校の頃にはすでに大学生となり家を出て一人暮らしを始めていたものだから一緒に遊んだ記憶もなければそれほど多く話した記憶もない、物心ついた時にはすでに大人だったというのが兄の印象だ。
それでも兄は年の離れた弟である荒井をよく可愛がってくれていた。
年が離れすぎているから荒井に対してどのように接していいのかわからず困るような素振りを見せる事もあったが、誕生日も覚えてくれていたしクリスマスも忘れた事がなく、兄弟だというのにお年玉までくれたからこちらを気遣ってくれるのは良く分かっていた。
兄とは今でも離れてくらしており、会うのも年に1度か2度程度。メッセージツールで時々やりとりはするがあまり自分の事を多く語ろうとはしないタイプであり、兄がどういう人間なのか、16年も兄弟として過ごしているにもかかわらず、未だによくわからないままだった。
だが、物心ついた時にはすでに一人の大人として荒井に接していた兄に荒井はぼんやりとした理想と憧れを抱いている所があった。
「ほら、昭二。誕生日だったよな、これ、プレゼント。小さい頃好きだったもんな」
そんな事を言いながら15歳の誕生日におおきなピカチュウのぬいぐるみを渡された時はいつまでも自分のことを小さい子供だと思っているのだと少し呆れはしたが、優しい兄を荒井は慕っていた。
そんな兄と最後に会ったのは、今年の正月だったか。久しぶりに会った兄は普段の黒髪ではなくやや明るめの茶色い髪に染めていた。
「これか? 最近白髪も出てきたし、少し垢抜けた方が新人も話しやすいって言われて染めてみたんだけど、変か?」
兄は照れたように笑いながら荒井に聞いた。
確かに黒髪だった頃の兄はいかにも生真面目そうだったし、弟の荒井からしても黙って考え込んでいる時は怒っているように見える事もあった。それを考えると髪色を明るくしたことで雰囲気は随分柔らかくなっただろう。
だが、好きか嫌いかで言われたら以前の黒髪だった兄のほうがずっと好きだった。見慣れているというのもあるのだろうが、落ち着いた雰囲気の兄が好きだったのだ。
「えぇ、似合ってますよ、兄さん」
兄にそう伝えたのは、兄なりに考え悩んだ末に髪色を変えたのだろうと思ったからだ。仕事上で必用だったからか、あるいは気になる相手が出来て容姿を気にするようになったのかもしれない。黒髪の方が好きだったのは荒井の好みであり、髪色が明るくなった兄のほうがよりスマートで格好良く見えているとも思う。
だから一般的な感想として答えたのだが、兄が自分の兄ではなく周囲の人々に愛される一人の男になっていくようでほんの少し寂しかった。
坂上修一と出会ったのは、それから半年ほど経った後である。
物腰柔らかな雰囲気と優しげな表情は、一目見た時から兄を連想させた。
別段顔が似ているという訳でもないし坂上は兄より小柄ではあったが立ち姿という振る舞いといい話し方といい雰囲気がよく似ていたのだ。
自分の後輩であるにも関わらず、坂上のことを兄と重ねるのも不思議な気がしたが、それほど坂上は兄と印象が重なっていたのだ。
だから自然と、兄は人と話をするとき、こんな風に笑うのだろうか。兄と一緒に学校に行っていたら、自分とはこんな距離感で接していたのだろうか。そんな他愛もない事を自然と考えるようになっていた。
そして思ってしまうのだ。
坂上が自分の兄だったら良かったのにと。坂上が兄として自分とこんな風に学園生活を送ってくれれば、きっと楽しかっただろうと。
「坂上くんは地毛ですか?」
七不思議の集会で作った特集記事の下書きを確認するため新聞部に来た時、原稿を準備する坂上の頭を撫でついそう問いかける。
坂上の明るく茶色い毛は、ちょうど髪を染めた兄によく似ていたからだ。
「ふぁっ!? な、何するんですか荒井さん……えぇ、僕は地毛ですよ。ちょっと色が明るいから染めているんじゃないかって言われますけど」
坂上は驚き声をあげる。彼の声で、荒井は何の断りもなく坂上の頭を触るという不躾な態度をとっている事に気付いた。
坂上の雰囲気があまりに兄と重なるため、つい油断していたのだ。
「すいません、急に触るなど失礼なことをしてしまって……いえ、坂上くんでしたら黒髪でも似合うだろうなと。そう思ったもので」
すると、その様子を見ていた新堂が笑いながら声をあげる。彼もまた坂上の原稿を確認するため、部活の合間に新聞部まで来ていたのだ。
「ははッ、髪の色変えるのにわざわざ黒くするなんて勿体ねぇだろ。どうせなら舐められないよう、派手な色にしたほうがいいんじゃ無ェのか。俺みたいに金髪にするとか、赤くするとか……緑は止めたほうがいいぜ。黒髪と混ざるとスイカみたいになるからな」
新堂の言う事も最もだ。髪色をわざわざ暗い色にするなんて、就職活動中の学生でもなければしないだろう。
それでも坂上は少し考えるような仕草をすると、荒井の方へ目を向けた。
「そうですね……荒井さんが似合うと思うなら、黒にしてみるのもいいかもしれませんね」
坂上は淡く明るい髪色が充分に似合っている。それも社交辞令だろう。だがその優しさと笑顔が、憧れ慕う兄の姿と重なる。
やはりそうだ、坂上は自分の兄に似ている。だが自分の兄とは違い、より自分の理想に近づいてくれるような気がして僅かだが危うさを覚えた。
もし坂上が自分の思うような人間だったらきっと、自分は想像以上にのめり込んでしまうのではないか。理想通りに兄を演じてくれる彼に、自分はより多くの情熱と希望を注いでしまうのではないか。思い通りの理想の兄を、彼を通して作りたくなるのではないだろうか。
いや、そうしたい。
自分の手で彼を、自分の理想通りに優しく頼れる兄として作る事ができたらどれだけ楽しいだろうか。
「……気が向いたら、お願いします。強制はしませんよ」
荒井は自然と笑顔になっていた。
坂上の中にある危うさと、自分の内にある脆さに言い知れぬ不安と疼くような期待を抱きながら。
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