インターネット字書きマンの落書き帳
宇宙人の風間さんと、坂上くんと日野さん
特にBLとか関係なく、キャラがダラダラっと話すタイプの文章をしたためるのも好きなので今回はそういう話を書き……ます!
今回は、地球に調査という秘密の任務をかかえてスンバラリア星からきた風間が、人間に擬態していて大体の事は問題なくこなしているけど、実は貨幣の500円以外がどれだけ価値があるのかサッパリわからない! という不具合を抱えていたら……という話ですよ。
やさしく500円を貸してくれる坂上くん。
意味深に貸してくれる日野さんがいます。
BLではない話として書いているんですが、作者が普段からBL生産工場のラインをつとめているので、そういう成分が入ってしまったら……。
ラッキー! と思ってください♥
今回は、地球に調査という秘密の任務をかかえてスンバラリア星からきた風間が、人間に擬態していて大体の事は問題なくこなしているけど、実は貨幣の500円以外がどれだけ価値があるのかサッパリわからない! という不具合を抱えていたら……という話ですよ。
やさしく500円を貸してくれる坂上くん。
意味深に貸してくれる日野さんがいます。
BLではない話として書いているんですが、作者が普段からBL生産工場のラインをつとめているので、そういう成分が入ってしまったら……。
ラッキー! と思ってください♥
『500円玉貸してあげる坂上くん』
地球というのは不便な星だ。
周囲に擬態する必用があるというのはどの星もそうだが、日本人の高校生という存在は覚える事が思った以上に多い。
数学や国語などといった一般教養は事前に詰め込んできたからテストでは目立つ程でもないが秀でた所もない程度の成績がとれるようにはなっている。読み書きは何とか整えてきたが言葉のニュアンスがよく分からず、迂闊にも間違った言葉を使う事もあったが、幸いにも風間望という人間は周囲から時々天然ボケをする面白いキャラクターと装う事ができたので、あまり疑われずに済んでいた。
風間が鳴神学園で得たポジションは「面白い奴」「変わった奴」「面倒くさい奴」といったもので、それはスンバラリア星人のスパイとして間違えた言葉を使っても軽く流されるし、あれこれ探る時も別段珍しがられない良いポジションであったから、地球の文化や資源の有無などを調査する先遣隊としては充分な活躍が出来ていたといえよう。
幸い、鳴神学園は古くから宇宙人との交流を深めており、母星を失い流浪中の身であった他の星に住むものやスンバラリア星人と同じように生物や歴史の調査に趣く学者などを受け入れ居ているため、テスト内容もこっそり共用宇宙語が仕組まれていたり、数学で出る内容も全宇宙で共通の計算式を多く取り上げているなどしてくれているので、任務中に付け焼き刃で知識を得る宇宙人たちには優しい潜伏先となっている。
だがそれらの手厚い環境にいても、風間には未だ慣れない事があった。
「はーい、焼きそばパンと珈琲で、489円になりまーす」
昼に食べる為立ち寄ったコンビニで、風間は財布を片手に立ち尽くす。
これだ、この小銭の支払いが苦手なのだ。
全てのスンバラリア星人がそういう訳ではないのだが、風間は日本の貨幣が全く区別がついていなかった。
大きさが違い、数字が書いてあるのはわかる。穴があいているのもだ。だが、どの貨幣がいくらを指し示しているのか未だに判断できてはいない。
だからこそ、いつも支払いは500円以下になるようにしていた。500円に収まる買い物をすれば、500円を払えばいい。500円だけは一番大きい貨幣と認識できている、ただ一つの存在だったのだ。
だがその日、風間の財布には1枚も500円がなかった。普段から気をつけて友人たちから500円を借りて財布に一枚は入れるように心がけていたのに、うっかり使ってしまったかどこかに落としてきたらしい。
500円の他にも小銭はあるが、茶色の小銭を出せばいいのか銀色を多く出した方がいいのかさっぱりわからない。
いっそ財布の中身ごとぶちまけてしまった方が早いのかもしれないが、今はずっしりと重くなっているこの小銭を全部ぶちまけるのは逆に時間を取るような気がした。
それでなくとも朝は学校へ行く生徒のほかに仕事へ急ぐ会社員も多く、コンビニのレジは殺気立っているのだ。一刻も早く解決したい時に限って札入れには何も入れてないのだからついてない。
どうしようか考えあぐねてその場でカチコチに固まっている風間の横から、500円を差し出す手があった。
「はい、これで足りますよね」
見れば新聞部の坂上が頬を膨らませている。
順番待ちの列が長くなっているのを見ていられなくなり、500円を差し出したのだろう。
まさに天の助けだ。宇宙人である風間は当然、神に祈る習慣はないのだがこの時ばかりは坂上のような存在こそ地球では神と呼ぶのだろうと思っていた。
買い物を済ませれば、先に進む坂上へ走って近づくと風間は彼と肩を組む。
「いやぁ、助かったよ坂上くん。500円をちょうど切らしていてね、どうしようかと思っていた所なんだよ」
「後で返してくださいよ。僕にとっても500円って結構大金なんですから……」
「えぇ、返すのかい? こんなに可愛いボクから取り立てようとするなんて、ひどいねぇ」
「後輩に支払いをさせといてしらばっくれる方がひどいと思いますよ」
坂上はそう言いながら、ぷくっと頬を膨らませる。
茶褐色の髪の毛が淡く柔らかそうに見えるのと小柄な身体も相まって、風間は地球にいる小動物の姿を思い出していた。
あれはたしか、シマリスと呼ばれている生き物だ。口いっぱいにどんぐりを詰め込み蓄える姿が可愛いが、坂上の容姿はどこかそんな小動物を思わせた。
可愛いや愛くるしいといった形容が、きっと彼には似合うだろう。
「そうだねぇ、今回は本当に助かったし。そうだ、ボクのもってる小銭をあげよう」
「えぇ、小銭なんて……」
いかにもいらなそうな顔をする坂上の財布を勝手に開けると、風間は自分の小銭入れをひっくりかえし中身をそっくり入れてしまう。
「はは、これでよし。また今度、ボクが困っている時は是非500円を貸してくれたまえよ」
軽快に去って行く風間を見送ると、坂上は困惑しながらパンパンに膨れ上がった小銭入れを見る。
「えぇ、どういう事……これ、小銭で1000円以上ありそうだけど……」
そして不思議そうに首を傾げるのだった。
※※※
備えあれば憂いなし、なんて言葉があるが風間はよくその備えを怠る。
今朝もまた財布の中に一枚も500円玉が入っていない事実に直面し、軽い絶望を覚えていた。
礼によって紙幣は一枚も入っていない。これは高校生は無闇に紙幣を財布に入れるものではない、というリサーチからのものだったが、せめて1枚くらいは緊急の時に入れてくればよかったのだと後悔した。
あいかわらず小銭はいくつかあるが、どれがどの価値と相当しているのかわからない。
今日は少量だから全部ぶちまけて店員に数えてもらうのも手だが、そこまでして「足りません」と言われたら朝から嘲笑のなか惣菜パンを返しにいかなければならないだろう。
忙しさもあり、今日もまた風間の後ろには急ぎの列が出来上がっている。このままだと順番待ちに耐えかねた不良が殴りかかってきそうなオーラさえ感じていた。
「それじゃ、コレで支払っておいてくれ」
困惑しフリーズしかけていた風間の隣から、日野はカードを取り出す。定期券と電子マネーが一緒になったカードはこの店でも利用できるようだ。
ピッと軽快な音をたて会計をすますと、日野は風間と並んで歩く。
「いやぁ、助かったよ日野。財布の中に小銭がぜんぜん無くってね。いやぁ、鳴神のプリンスであるボクとしたことが、恥ずかしい」
「気にするなよ、困った時はお互い様……だろ。お前にはこの前集会に来てくれた礼もしてなかったからな」
「えぇ、今のでお礼おしまいかい!? 日野からのお礼、結構期待してたんだけどなぁ」
肩を落としていかにも落胆する風間の背を叩くと、日野はニヤリと笑って見せた。
「なぁに、これはちょっとしたサービスさ。それよりお前、今日の昼休み新聞部に来てくれないか。見せたいものがあるんだ」
「ん、いいけど何だい?」
「それは、見てのお楽しみさ」
日野は悪戯っぽく笑うと、風間の胸元を軽く叩いて足早に学校へ向かう。そんな日野の背中を眺め、風間は不思議そうに首を傾げてからゆっくり登校するのだった。
そして、すぐに昼となる。食事はまだだが、日野はもう新聞部に来ているだろうか。鞄に今日の昼食代わりにかった惣菜パンをつめて新聞部に向かえば、日野は大きな貯金箱のようなものを前に顔を上げた。
「来てくれたのか風間」
「うん、早い方がいいと思ってね。で、これ何だい。でっかい貯金箱みたいだけど」
上に穴の開いた箱を不思議そうに眺める風間の横で、日野は箱の上っ面を叩いてみせる。
「これは、募金箱だよ。以前新聞部で募ったチャリティーの募金箱を、一つだけ開け忘れたままここに置き去りにされているという中々に人道的に悪いモノだから、いつかこっそり紛れさせるため今まで新聞部で保存している、ってワケアリのものだ」
「なるほど、どこかで見たと思ったら募金箱か。よく駅前でボランティア部の生徒が『募金おねがいしまーす』って集めているアレかい。それがまた……」
「この中には500円玉が結構入ってるんだよ。だから、お前が両替したい時に便利だろうと思ってな」
両替、といわれて風間は首を傾げる。何を両替するというのだ。
そんな風間の耳元で、日野は静かに囁いた。
「風間、おまえって500円以外の硬貨の価値をよくわかってないんじゃないのか」
図星だった。まさかスンバラリア星の密偵として長年数多の星を調査してきたプロである風間の隙に気付くとは、日野は人類のなかでもかなり目聡い性格なのだろう。
もし、スンバラリアの事までバレていたらどうしようか。この場で日野を始末するか、温情で試験官にいれ調査個体として持ち帰るか、二つに一つしか選択肢はないが、出来れば親しい友人として楽しくすごしている日野を手にかけたくないのだが。
「だから俺のところに来てくれれば、いつでも500円に両替してやるよ。他の奴らでやるとカモにされてるのも気の毒だしな」
「どうしてそんな事を思ったんだい? ボクは……」
「いつも500円を強請るし、500円しか使ってないだろ。この前坂上に渡したおつりも1000円以上あったんだが、気付かなかったみたいだし。おまえ財布に入れた硬貨がいくら入っているのかすぐ忘れちまう性分なんだろうな。時々見てやるから、こいよ。財布もサッパリするし、いいと思うぜ」
どうやら日野は風間が粗雑なだけで、おつりの勘定などあまり気にしない性分だと捉えたようだ。
風間が宇宙人であるということは疑ってなさそうに見える。
良かった、幸い友人である日野を試験官につめて母星に送らなくても事は済みそうだ。
「ありがとう、頼むよ。いつも財布が重くなっていても、中を確認するのが億劫で仕方ないんだ」
そうして財布の中身をぶちまければ、日野はそれを3枚の500円玉に変えてくれた。
「思ったより財布が重くなっていたようだな」
「いやー、助かった、日野、ありがとうな」
「気にするなって、こっちは募金箱の中にある小銭と入れ替えただけだからな」
風間は上機嫌になり幾度も感謝しながら、鼻歌交じりで部室を出る。
そんな風間の背を見送ると。
「いやぁ、本当にいるのかもな。鳴神高校に、宇宙人ってやつは」
誰にも気取られる事なく、そう独りごちるのだった。
地球というのは不便な星だ。
周囲に擬態する必用があるというのはどの星もそうだが、日本人の高校生という存在は覚える事が思った以上に多い。
数学や国語などといった一般教養は事前に詰め込んできたからテストでは目立つ程でもないが秀でた所もない程度の成績がとれるようにはなっている。読み書きは何とか整えてきたが言葉のニュアンスがよく分からず、迂闊にも間違った言葉を使う事もあったが、幸いにも風間望という人間は周囲から時々天然ボケをする面白いキャラクターと装う事ができたので、あまり疑われずに済んでいた。
風間が鳴神学園で得たポジションは「面白い奴」「変わった奴」「面倒くさい奴」といったもので、それはスンバラリア星人のスパイとして間違えた言葉を使っても軽く流されるし、あれこれ探る時も別段珍しがられない良いポジションであったから、地球の文化や資源の有無などを調査する先遣隊としては充分な活躍が出来ていたといえよう。
幸い、鳴神学園は古くから宇宙人との交流を深めており、母星を失い流浪中の身であった他の星に住むものやスンバラリア星人と同じように生物や歴史の調査に趣く学者などを受け入れ居ているため、テスト内容もこっそり共用宇宙語が仕組まれていたり、数学で出る内容も全宇宙で共通の計算式を多く取り上げているなどしてくれているので、任務中に付け焼き刃で知識を得る宇宙人たちには優しい潜伏先となっている。
だがそれらの手厚い環境にいても、風間には未だ慣れない事があった。
「はーい、焼きそばパンと珈琲で、489円になりまーす」
昼に食べる為立ち寄ったコンビニで、風間は財布を片手に立ち尽くす。
これだ、この小銭の支払いが苦手なのだ。
全てのスンバラリア星人がそういう訳ではないのだが、風間は日本の貨幣が全く区別がついていなかった。
大きさが違い、数字が書いてあるのはわかる。穴があいているのもだ。だが、どの貨幣がいくらを指し示しているのか未だに判断できてはいない。
だからこそ、いつも支払いは500円以下になるようにしていた。500円に収まる買い物をすれば、500円を払えばいい。500円だけは一番大きい貨幣と認識できている、ただ一つの存在だったのだ。
だがその日、風間の財布には1枚も500円がなかった。普段から気をつけて友人たちから500円を借りて財布に一枚は入れるように心がけていたのに、うっかり使ってしまったかどこかに落としてきたらしい。
500円の他にも小銭はあるが、茶色の小銭を出せばいいのか銀色を多く出した方がいいのかさっぱりわからない。
いっそ財布の中身ごとぶちまけてしまった方が早いのかもしれないが、今はずっしりと重くなっているこの小銭を全部ぶちまけるのは逆に時間を取るような気がした。
それでなくとも朝は学校へ行く生徒のほかに仕事へ急ぐ会社員も多く、コンビニのレジは殺気立っているのだ。一刻も早く解決したい時に限って札入れには何も入れてないのだからついてない。
どうしようか考えあぐねてその場でカチコチに固まっている風間の横から、500円を差し出す手があった。
「はい、これで足りますよね」
見れば新聞部の坂上が頬を膨らませている。
順番待ちの列が長くなっているのを見ていられなくなり、500円を差し出したのだろう。
まさに天の助けだ。宇宙人である風間は当然、神に祈る習慣はないのだがこの時ばかりは坂上のような存在こそ地球では神と呼ぶのだろうと思っていた。
買い物を済ませれば、先に進む坂上へ走って近づくと風間は彼と肩を組む。
「いやぁ、助かったよ坂上くん。500円をちょうど切らしていてね、どうしようかと思っていた所なんだよ」
「後で返してくださいよ。僕にとっても500円って結構大金なんですから……」
「えぇ、返すのかい? こんなに可愛いボクから取り立てようとするなんて、ひどいねぇ」
「後輩に支払いをさせといてしらばっくれる方がひどいと思いますよ」
坂上はそう言いながら、ぷくっと頬を膨らませる。
茶褐色の髪の毛が淡く柔らかそうに見えるのと小柄な身体も相まって、風間は地球にいる小動物の姿を思い出していた。
あれはたしか、シマリスと呼ばれている生き物だ。口いっぱいにどんぐりを詰め込み蓄える姿が可愛いが、坂上の容姿はどこかそんな小動物を思わせた。
可愛いや愛くるしいといった形容が、きっと彼には似合うだろう。
「そうだねぇ、今回は本当に助かったし。そうだ、ボクのもってる小銭をあげよう」
「えぇ、小銭なんて……」
いかにもいらなそうな顔をする坂上の財布を勝手に開けると、風間は自分の小銭入れをひっくりかえし中身をそっくり入れてしまう。
「はは、これでよし。また今度、ボクが困っている時は是非500円を貸してくれたまえよ」
軽快に去って行く風間を見送ると、坂上は困惑しながらパンパンに膨れ上がった小銭入れを見る。
「えぇ、どういう事……これ、小銭で1000円以上ありそうだけど……」
そして不思議そうに首を傾げるのだった。
※※※
備えあれば憂いなし、なんて言葉があるが風間はよくその備えを怠る。
今朝もまた財布の中に一枚も500円玉が入っていない事実に直面し、軽い絶望を覚えていた。
礼によって紙幣は一枚も入っていない。これは高校生は無闇に紙幣を財布に入れるものではない、というリサーチからのものだったが、せめて1枚くらいは緊急の時に入れてくればよかったのだと後悔した。
あいかわらず小銭はいくつかあるが、どれがどの価値と相当しているのかわからない。
今日は少量だから全部ぶちまけて店員に数えてもらうのも手だが、そこまでして「足りません」と言われたら朝から嘲笑のなか惣菜パンを返しにいかなければならないだろう。
忙しさもあり、今日もまた風間の後ろには急ぎの列が出来上がっている。このままだと順番待ちに耐えかねた不良が殴りかかってきそうなオーラさえ感じていた。
「それじゃ、コレで支払っておいてくれ」
困惑しフリーズしかけていた風間の隣から、日野はカードを取り出す。定期券と電子マネーが一緒になったカードはこの店でも利用できるようだ。
ピッと軽快な音をたて会計をすますと、日野は風間と並んで歩く。
「いやぁ、助かったよ日野。財布の中に小銭がぜんぜん無くってね。いやぁ、鳴神のプリンスであるボクとしたことが、恥ずかしい」
「気にするなよ、困った時はお互い様……だろ。お前にはこの前集会に来てくれた礼もしてなかったからな」
「えぇ、今のでお礼おしまいかい!? 日野からのお礼、結構期待してたんだけどなぁ」
肩を落としていかにも落胆する風間の背を叩くと、日野はニヤリと笑って見せた。
「なぁに、これはちょっとしたサービスさ。それよりお前、今日の昼休み新聞部に来てくれないか。見せたいものがあるんだ」
「ん、いいけど何だい?」
「それは、見てのお楽しみさ」
日野は悪戯っぽく笑うと、風間の胸元を軽く叩いて足早に学校へ向かう。そんな日野の背中を眺め、風間は不思議そうに首を傾げてからゆっくり登校するのだった。
そして、すぐに昼となる。食事はまだだが、日野はもう新聞部に来ているだろうか。鞄に今日の昼食代わりにかった惣菜パンをつめて新聞部に向かえば、日野は大きな貯金箱のようなものを前に顔を上げた。
「来てくれたのか風間」
「うん、早い方がいいと思ってね。で、これ何だい。でっかい貯金箱みたいだけど」
上に穴の開いた箱を不思議そうに眺める風間の横で、日野は箱の上っ面を叩いてみせる。
「これは、募金箱だよ。以前新聞部で募ったチャリティーの募金箱を、一つだけ開け忘れたままここに置き去りにされているという中々に人道的に悪いモノだから、いつかこっそり紛れさせるため今まで新聞部で保存している、ってワケアリのものだ」
「なるほど、どこかで見たと思ったら募金箱か。よく駅前でボランティア部の生徒が『募金おねがいしまーす』って集めているアレかい。それがまた……」
「この中には500円玉が結構入ってるんだよ。だから、お前が両替したい時に便利だろうと思ってな」
両替、といわれて風間は首を傾げる。何を両替するというのだ。
そんな風間の耳元で、日野は静かに囁いた。
「風間、おまえって500円以外の硬貨の価値をよくわかってないんじゃないのか」
図星だった。まさかスンバラリア星の密偵として長年数多の星を調査してきたプロである風間の隙に気付くとは、日野は人類のなかでもかなり目聡い性格なのだろう。
もし、スンバラリアの事までバレていたらどうしようか。この場で日野を始末するか、温情で試験官にいれ調査個体として持ち帰るか、二つに一つしか選択肢はないが、出来れば親しい友人として楽しくすごしている日野を手にかけたくないのだが。
「だから俺のところに来てくれれば、いつでも500円に両替してやるよ。他の奴らでやるとカモにされてるのも気の毒だしな」
「どうしてそんな事を思ったんだい? ボクは……」
「いつも500円を強請るし、500円しか使ってないだろ。この前坂上に渡したおつりも1000円以上あったんだが、気付かなかったみたいだし。おまえ財布に入れた硬貨がいくら入っているのかすぐ忘れちまう性分なんだろうな。時々見てやるから、こいよ。財布もサッパリするし、いいと思うぜ」
どうやら日野は風間が粗雑なだけで、おつりの勘定などあまり気にしない性分だと捉えたようだ。
風間が宇宙人であるということは疑ってなさそうに見える。
良かった、幸い友人である日野を試験官につめて母星に送らなくても事は済みそうだ。
「ありがとう、頼むよ。いつも財布が重くなっていても、中を確認するのが億劫で仕方ないんだ」
そうして財布の中身をぶちまければ、日野はそれを3枚の500円玉に変えてくれた。
「思ったより財布が重くなっていたようだな」
「いやー、助かった、日野、ありがとうな」
「気にするなって、こっちは募金箱の中にある小銭と入れ替えただけだからな」
風間は上機嫌になり幾度も感謝しながら、鼻歌交じりで部室を出る。
そんな風間の背を見送ると。
「いやぁ、本当にいるのかもな。鳴神高校に、宇宙人ってやつは」
誰にも気取られる事なく、そう独りごちるのだった。
PR
COMMENT