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インターネット字書きマンの落書き帳

   
悪魔の風間は新一年生になるのかもしれない(風間と坂上)
悪魔の風間という概念が好きなので書きました。
悪魔の風間にずーっとウザ絡みをされている坂上くんの話です。

今、三年生だから卒業しちゃう風間が来年も鳴神学園にちゃっかり居座るため、新一年生として入学する予定だという話をしてますよ。

ウザ絡みされているのは面倒だけど、離れてしまうとちょっと寂しい。
そんな距離感の風間と坂上の話してますぞい。



『悪魔の風間はいちねんせい』

 放課後、他の部員が帰った後も一人部室に残り校内新聞用の記事を書く坂上の耳にいつもと少し違うトーンで風間が話しかけてきた。

「やぁ坂上くん、今日も一人で残業かい? キミも相変わらず懲りないねぇ、この鳴神学園には怪異がうようよしているっていうのにさ」

 部室のドアが開いた時は、部員の誰かが忘れ物を取りに来たかいつものように風間が茶化しにきたのだろうと思って気に留めていなかった。 だが風間の声がいつもより幾分か高めに聞こえたので不思議に思い顔を上げ、その姿を見た時は風間が見せる大概の奇行にもすっかり慣れたと思っていた坂上も流石に目を見開いた。

「ど、どうしたんですか風間さん、その姿……僕くらいの大きさになっているじゃないですか」

 風間は目に見えて縮んでいたのだ。坂上が見た通り、背丈は彼と同じくらいだろう。普段の風間と比べれば20cm以上縮んだ事になる。それに、顔立ちも幾分か若く幼くなっている気がする。驚き次の言葉が浮かばない坂上を前に、風間は得意げな顔をした。

「それだけ驚くってことは、以前の姿と随分違って見えるみたいだね。うんうん、安心したよ。ボクはうまく擬態しているとは思うけど人間の感性ってやっぱりわからないから……」

 普段は鳴神学園の三年生を演じている風間だが、その正体は学園に巣くう悪魔の一人である。
 梅雨時に行われた新聞部の特集・学園に潜む七不思議を収集する集会で怯えて怖がる坂上を見て悪戯し甲斐があると思われたのか、それからずっと風間は坂上の周りにつきまとって悪魔の契約をもぎ取ろうと言葉巧みにすり寄っているのだ。
 とはいえ、風間はそれほど多くの魔法を使える訳でもない、綾小路から言わせると下級悪魔なので、普段の風間は完全に後輩から500円をねだる金欠で大人げない先輩でしかないものだから普段はあまり気に留めてなくても大事には至らないものだから、今日のように、明らかに魔術か何かを使わないと出来ない容姿へ変わっているというのは極めて珍しい事になる。

「何でそんな格好をしているんですか……」

 辛うじて疑問を口にする坂上を前に、風間は気取ったポーズを見せた。

「いやぁ、ボクも三年生だろう。卒業しなきゃいけない年になったわけだけど、鳴神学園ほど負のオーラが強い土地なんて早々ないからね。ここを離れるより一年生の姿に戻って再入学したほうがいいと思って、一年生の姿に変身してみたんだけど、どうかな。これならボクが三年生の風間望だなんて誰も思わないだろ」

 そして得意げにその場でくるりとターンをしてみせる。確かに、元々身長が181cmもあった風間の容姿からすると今の小柄でまだあどけなさを残す姿は想像がつかないだろう。それに、鳴神学園は生徒数が多く知り合いでもなければ顔を覚える事なんて滅多にないのだ。

「わざわざ一年生に戻って再入学しなくても、三年生のままでもごまかせるんじゃないですか。鳴神は生徒数が多いですから」
「それも考えたんだけどね、ほら、ボクは集会の時、荒井くんとちょっとモメただろ? あぁいう風に感情と記憶が結びついてしまうと、ボクが魔法を使ってごまかしても違和感を覚えちゃう事があるんだよね。それだったら、一年からやり直した方がトラブルが少ないかなぁと思って。いやぁ、これでも随分と気づかいが出来る悪魔なんだよね、ボクは」

 自分で気を遣っている等と言うのは随分とずうすうしい気がするが、悪魔として生活するのも思ってより制約があるようだ。あるいは風間の魔力が弱いので出来る事が限られているのかもしれないが。

「ちなみに、一年に戻ったら夏休み頃にまた少し成長して大人で格好いいボクの雰囲気に少しずつ戻る予定さ。荒井くんが卒業したあたりには完全に以前のボクに戻ってあげるつもりだから、坂上くんは心配しないで見守ってくれたまえよ。何なら、キミと二人っきりの時は出会った頃のボクの姿になって沢山可愛がってあげるからね」

 しかも倉田が聞いていたら嬉々として誤解しそうな事まで言い出した。今まで迷惑をかけられた事があっても可愛がられる事なんて一度もなかったはずだが。

「そうですか、来年は風間さん、僕の後輩になるんですね。名前はどうするんですか?」
「悪魔にとって名前って結構大事なんだよね。だから安易に変える事ができないか、出来たとしてもアナグラムっていうのかい? 名前の順番を変えるくらいが限度だから、普通に風間望で入学するつもりだよ。この名前は気に入ってるしね」

 やはり、悪魔にも色々ルールがあるらしい。今はまだ綾小路が卒業していないから何かあった時は彼が何かと庇ってくれているから実害はないが、自分一人になったら果たして風間の魔法とウザさを詰め込んだ接触に耐えきれるのだろうか。
 それに、風間が一年生に戻ったら自分よりもっと気弱な生徒を見つけて執拗に追いかけたりするのではないか。それは後輩が気の毒だ。そんな事を考えるなんて、まるで風間が自分に絡んでこないのが寂しいと思っているようで少しシャクではあるが。

「どうせなら、僕と同じ二年生をやればいいじゃないですか。どうせつきまとうなら同じクラスになっても……」

 そこまで言って、何を馬鹿な事をと思う。風間と同じクラスなど、二学年も離れている今でも充分に面倒くさいのに、自分から厄介を抱え込む必用はないのだ。頭でそれがわかっていても、やはり風間が他の誰かに興味を移し熱烈なアプローチをする事があるのだろうと思うと、何となく気に障る。
 友情やら愛情というよりも、餌をあげてた野良猫が一度も餌をあげたことがない知らない誰かに懐いていると少し寂しいくらいの嫉妬ではあるのだが。

「なーんだい坂上くん、そんなにボクの事好きだったのか。いいともいいとも、来年はキミと同じクラスになってあげようじゃないか。楽しみだねぇ、一緒に修学旅行にいったら是非、好きな子の話をしたり枕投げをして楽しもうじゃぁないか。するんだろう、人間はそういうのを」

 すると風間は大げさなくらいにはしゃぎ始めた。よほど今まで邪険にされてきたのか、本当に楽しそうに笑っている。

「風間さん、修学旅行なんて遠出できるんですか? 鳴神学園から離れられないのでは?」
「あくまで鳴神学園の居心地がいいってだけで、別に離れても活動は出来るからね。最も、ここにいる時より疲労はするし、魔力は弱まるしろくなことはないんだが、坂上くんが近くにいるならギリギリ消滅しないで済むから安心したまえよ」
「ギリギリなんですね……」
「ふふ、楽しみだねぇ、修学旅行は京都だったかい? 木刀を買う行事だよね、坂上くん木刀を買ってくれたまえよ。おそろいの木刀にしようじゃないか」

 言ってすぐ、やはり調子にのらせてしまったかと後悔する。本当に同じ学年になったら今以上にウザ絡みをされるのだろう。
 それでも、一緒に話す時間が増えるのは面白いかもしれない。そんな風に思う自分の変化に戸惑いながら、坂上は目を細めはしゃぐ風間を見つめるのだった。

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