インターネット字書きマンの落書き帳
新堂さんが何もしてくれないんですゥ~(新堂×荒井/BL)
新堂×荒井のこと好きかい?
今日から好きになろうぜ!
という訳で、今回の話は、恋人同士になって、荒井の家に入り浸るようになった新堂。
だが、新堂は荒井に何もしなかった。
そう……何もしなかったのである!
みたいな話をするよ。
鈍感で空気を読めないけど体幹だけはしっかりしているマコト・シンドー。
好きだよ♥
今日から好きになろうぜ!
という訳で、今回の話は、恋人同士になって、荒井の家に入り浸るようになった新堂。
だが、新堂は荒井に何もしなかった。
そう……何もしなかったのである!
みたいな話をするよ。
鈍感で空気を読めないけど体幹だけはしっかりしているマコト・シンドー。
好きだよ♥
『貴方が何もしないから』
新堂が目を覚ました時、すでに両腕の自由は奪われていた。
「はぁ? 一体何だっていうんだよ……」
シンプルな本棚には見た事もない本がずらりと並び、飾り棚には洋酒の瓶や丁重に作られたボトルシップが几帳面に飾られている。テレビの下には何種類ものゲーム機やDVDプレイヤーがおかれている。引き出しの中には映画のDVDがいくつも入っている事は新堂もよく知っていた。
目の前に広がるこの部屋には見覚えがある。荒井の部屋に間違いない。
多趣味な荒井は沢山のモノを所有しているというのにそれら全てがコンパクトにまとめられており、その室内はさながらモデルルームのようになっていた。
よく言えば見栄えがよく、悪く言うのなら生活感が希薄だ。
考えてみれば荒井自身も、そんな人間だと新堂は考える。
当たり前のように装っているが、顔をのぞき込めば目の覚めるような美少年である。立ち振る舞いも洗練され口調も態度も品位を感じるが、人間くさい悩みやしがらみをもっているとは思えない、人形のような男。それが荒井昭二という男だった。
だけど、新堂は知っている。荒井は感情に乏しく冷静に見えるが、ただそう見えるだけだ。
荒井は人並みに悩むし、恋を煩いため息をつく事だってある。嫉妬深いし、独占欲も強い。新堂がクラスメイトと話しているだけでも露骨に機嫌を悪くし、あまりかまってやらないとへそを曲げてしまう。そういう男だ。
荒井と付き合う前、新堂は荒井のことを綺麗な少年だと思っていた。
おおよそ暴力とは無縁で、神秘的で、謎めいている。自分とは心の作りも違うような存在なのだと。だが実際に話して、それはただ自分の想像と理想を荒井に投影していただけだというのにすぐに気付かされた。
荒井はよく笑うし、よく怒る。驚くほど嫉妬深く執念深く、そして独占欲が強い。それだというのに、新堂に嫌われるのが怖くて泣きそうな顔をして指先を握ったりもする。
そして、心配するな、他に誰も好きにならないと耳元で囁けば、安心したように笑うのだ。
可愛いと思うし、愛しいとも思う。自分には勿体ないほどの恋人だとも。
だがその恋人は、しばしば突拍子もない事を思いつき、そして実践する悪い癖があった。
新堂はしばらく身動ぎをして、縛られた腕は簡単に自由にならないのを確かめた。
両腕は後ろに縛られており、少し動かしてもピクリとも動かない。丁重に布を噛ませて縛ってあるあたり、新堂の体を気遣っているのは間違いないだろう。
一体荒井は何を企んでいるのだろうか。
新堂は眠る前の行動を振り返った。
荒井の家は両親が留守にしている事が多い。
「新堂さん、今日はうち両親がいないので泊まっていきますか?」
そう誘われるのが最近、当然になってきており、新堂は荒井の家に泊まる日が増えていた。
というのも、荒井の家は鳴神学園の徒歩圏内にあるというのが大きかっただろう。
新堂の自宅は電車で1時間近く揺られたところにあり、朝練に行く時は朝の5時に起きなければ間に合わなかったのが、荒井の家からだともう1時間ゆっくりしていられるのだ。
その上、キツい練習で歩くのもやっとなほどヘトヘトになっても、歩いて帰れる距離に家があるのは有り難い。
新堂が荒井の家に入り浸るようになったのも、ほとんど必然だっただろう。
とはいえ、荒井にあまり迷惑をかけるのは本意ではないので、新堂なりに気遣いはしていた。
夕食は事前にコンビニで買っていたし、朝も自分の方が早起きだから、握り飯くらいは作っておいた。荒井が食事を作ってくれることもあったが、そういう時は食器を洗うくらいの事はしていたし、部屋も風呂も必用以上に汚さないよう気を遣ってきたつもりだ。
泊めてもらう感謝はしていたつもりだが、知らないうちに縛られて転がされるほど荒井を怒らせていたのだろうか。
「……あぁ、起きましたか新堂さん」
辺りの様子をうかがう新堂の動きに気付いたのだろう。荒井は一声かけてから、新堂が寝ているベッドへと腰掛けた。
荒井の仕草を見て、新堂は眠りにつく前の記憶を呼び起こす。
夏の大会が控えている今は、ますます練習が厳しくなってきた。精神的な緊張といつもより増えた練習量に一学期の新入部員たちを面倒見ないといけないという責任、主将なんだから結果を出さなければいけないという重圧ばかりがのしかかる。
肉体敵にも精神的にも摩耗する日々の疲れから、食事のあとシャワーを浴びてすぐ、荒井のベッドに倒れてからすっかり記憶が飛んでいた。きっとそのまま眠ってしまったのだろう。
やはり、普段と変わったことはしていない。荒井を特別怒らせたつもりもないのだが。
「荒井か。おまえか、俺の手を縛ったのは」
「えぇ、他にいないでしょう。ここは僕の家で、今は両親もいないんですから」
新堂の問いかけに、荒井は涼しい顔で答える。
声色に怒りは見られない事が、ますます新堂を混乱させた。
「何でこんな真似するんだ。俺、おまえに何かしたか?」
怒らせた理由は、まったくわからない。だが、あれこれ考えるのは自分の性分ではない。わからない事は本人に聞くのが一番だろう。
すると荒井も、それを聞かれるのがわかっていたかのように新堂を見て、一度その髪を撫でた。
「いえ、別に新堂さんは何もしていませんよ。えぇ、あなたはずっと僕に何もしませんでした」
何もしなかった。
強調して告げられることで、鈍い新堂もそれが悪かったことは何となしに気付く。
とはいえ、それが悪いことだとも思っていなかった。
新堂が他人に叱られる時は、大概に余計なことを仕出かした時であり、何もしていない時は怒られることがない。
むしろ、何もしてないだけで褒められることの方が多かったからだ。
だが、荒井はそれが不服だったのだろう。ベッドの上に横たわる新堂の腰あたりにまたがりうっすらと笑みを浮かべた。
「……言いましたよね、もうすぐ両親が帰ってくるから、しばらく家で会うのは難しいかもしれない、って」
そういえば、今日荒井の家に入ってすぐに、そんな事を言われたか。
荒井の両親は仕事で長期不在だから、普段は家に荒井一人しかいない。だから新堂は最近、すっかり荒井の家に入り浸りだったのだが、両親が帰ってくるのなら今のまま、荒井の家に通うのは流石に難しいだろう。
聞いた時にはそれくらいにしか思っていなかった。
新堂は見るからに不良であり、荒井はほとんど授業に出ていない引きこもり気質の生徒だが、見た目は真面目な優等生だ。新堂のような風体の男は友達に一人もいないだろう。
突然新堂が押しかけたら、荒井の両親から「息子が虐められているんじゃないか」とか「不良が家に入り浸るようになった」と思われるのは火を見るより明らかだ。
だから荒井から「両親が帰ってくる」と告げられた時、新堂は「しばらく家に近づかない方がいいな」と思ったし、「これからは自宅からまた時間をかけて通わなければいけないんだ」くらいにしか思っていなかった。
だが、荒井にとってその言葉は、もっと別の意味があり、もっと大きな意味のある言葉だったようだ。
「どうして何もしないんですか新堂さん!? 僕はあなたの恋人ですよね? 今まで泊まりに来た時も、特に恋人らしい事はしてきませんでしたけど……今日が最後かもしれない、と伝えてもあなたは何もしようとしない……一体どういうことですか? 僕のこと、そんな風に好きではない……という事でしょうか」
荒井は馬乗りになり、悲痛な声をあげる。青白い荒井の頬は目に見えて赤くなっていた。
その姿を見て、新堂はようやく「なるほど」と合点する。
基本的に色恋沙汰には鈍感な方だとは自分でも思っていたから、そういった雰囲気を察知するのは不得手だった。
荒井の場合、同性であるため普段から恋人の距離感というより、特別な友人のような距離感が抜けなかったというのもあるだろう。
だからここまで荒井を追い詰めているなど、微塵も思っていなかったのだ。
だが、確かに新堂は今まで積極的に荒井には触れてこなかった。
疲れていたのもあったし、精神的な余裕がなかったというのもあった。荒井の事を大切にしたいと思っていたし、どういうタイミングで触れていいのかイマイチ距離感がつかめていないというのもあったのだが、全て言い訳だろう。
「いや、好きだぜ? ……好きだから、お前のこと大事にしたいって思っているのは本当だ」
「大事にされている、というのは分かっています。僕のことを特別に思っていることも、そのように扱ってくれているのも。ですが……僕はもっと、あなたとふれ合いたい。あなたの肌を感じ、唇で慰めてほしい……そう、思ってしまうのです」
荒井の指先が新堂の頬を、首筋を、胸元を滑っていく。
その姿を見て、新堂は一つため息をついた。
「あー……悪い、荒井。ほんと、我慢してたんだよ。今は部活あるだろ? 練習キツいから、今おまえに何かしたら、ひどい事しそうだ……って。でもよぉ……お前がそうするなら、仕方ねぇよな?」
ニヤリと笑った唇から、鋭い犬歯がちらりと覗く。
その瞬間、新堂は足を強く上げ、荒井の体を揺らした。
しっかりと腰まわりに座っていたはずの荒井だが、体格差があり華奢でもある荒井は新堂に揺さぶられた勢いの強さからバランスを崩す。
新堂はそれを見過ごす事がなく、足でしっかり荒井の体を捕らえると、そのまま器用に回転し、荒井の体をベッドへと押し沈めた。
「し、新堂さん……?」
すべて一瞬のことで、自分がベッドに倒される側になっている理由が荒井は理解できないようだった。
まったく、腕の自由を奪ったくらいで新堂を押さえ込めると思っているあたり、頭の良い荒井にしては詰めが甘い。あるいは、意図的に逃げれるようにしておいたのだろうか。
「悪かったな、荒井。お前をそこまで追い詰めてるとか、そこまで俺のこと好きでいてくれるってのに全然気付いてなかったぜ。俺はどうもそういうの、鈍いからよ」
新堂は荒井の腰に座ると、僅かに笑って見せた。
この場所を抑えれば、新堂と荒井の体格差では今、自分がやったような芸当は出来ないだろう。腕は縛られているが、上にいる分新堂のほうが圧倒的に優位だ。
「でもよ、別におまえとそういうことしたくねぇ、って訳じゃねぇんだぜ? これでもかなり我慢している、ってか……夏の大会が終わるまではストイックに。じゃねぇが……俺あんまり器用な方でもねぇから、大会が終わってからしっかり向き合おうと思ってたんだがよ。お前がそう言うなら、まぁ……仕方ねぇよな」
荒井は焦ったように体を動かすが、新堂はびくともしない。
体幹の違いや体重移動の上手さ、身体能力の高さ、体格の差から、例え両手を縛った状態であっても上にいる新堂を押しのけることは出来ないはずだ。
「新堂さん、ちょっと……待ってください、あの。僕ッ……」
「ダメだ。お前が本気にしたんだから、責任とれよな」
新堂は犬歯を見せて笑うと、唇を重ねる。
いつもより深く激しい唇は荒井の体を、否応なしに熱く昂ぶらせる。
それから荒井は、まさしく文字通り本気になった新堂の寵愛を体全体で知る事になるのだった。
新堂が目を覚ました時、すでに両腕の自由は奪われていた。
「はぁ? 一体何だっていうんだよ……」
シンプルな本棚には見た事もない本がずらりと並び、飾り棚には洋酒の瓶や丁重に作られたボトルシップが几帳面に飾られている。テレビの下には何種類ものゲーム機やDVDプレイヤーがおかれている。引き出しの中には映画のDVDがいくつも入っている事は新堂もよく知っていた。
目の前に広がるこの部屋には見覚えがある。荒井の部屋に間違いない。
多趣味な荒井は沢山のモノを所有しているというのにそれら全てがコンパクトにまとめられており、その室内はさながらモデルルームのようになっていた。
よく言えば見栄えがよく、悪く言うのなら生活感が希薄だ。
考えてみれば荒井自身も、そんな人間だと新堂は考える。
当たり前のように装っているが、顔をのぞき込めば目の覚めるような美少年である。立ち振る舞いも洗練され口調も態度も品位を感じるが、人間くさい悩みやしがらみをもっているとは思えない、人形のような男。それが荒井昭二という男だった。
だけど、新堂は知っている。荒井は感情に乏しく冷静に見えるが、ただそう見えるだけだ。
荒井は人並みに悩むし、恋を煩いため息をつく事だってある。嫉妬深いし、独占欲も強い。新堂がクラスメイトと話しているだけでも露骨に機嫌を悪くし、あまりかまってやらないとへそを曲げてしまう。そういう男だ。
荒井と付き合う前、新堂は荒井のことを綺麗な少年だと思っていた。
おおよそ暴力とは無縁で、神秘的で、謎めいている。自分とは心の作りも違うような存在なのだと。だが実際に話して、それはただ自分の想像と理想を荒井に投影していただけだというのにすぐに気付かされた。
荒井はよく笑うし、よく怒る。驚くほど嫉妬深く執念深く、そして独占欲が強い。それだというのに、新堂に嫌われるのが怖くて泣きそうな顔をして指先を握ったりもする。
そして、心配するな、他に誰も好きにならないと耳元で囁けば、安心したように笑うのだ。
可愛いと思うし、愛しいとも思う。自分には勿体ないほどの恋人だとも。
だがその恋人は、しばしば突拍子もない事を思いつき、そして実践する悪い癖があった。
新堂はしばらく身動ぎをして、縛られた腕は簡単に自由にならないのを確かめた。
両腕は後ろに縛られており、少し動かしてもピクリとも動かない。丁重に布を噛ませて縛ってあるあたり、新堂の体を気遣っているのは間違いないだろう。
一体荒井は何を企んでいるのだろうか。
新堂は眠る前の行動を振り返った。
荒井の家は両親が留守にしている事が多い。
「新堂さん、今日はうち両親がいないので泊まっていきますか?」
そう誘われるのが最近、当然になってきており、新堂は荒井の家に泊まる日が増えていた。
というのも、荒井の家は鳴神学園の徒歩圏内にあるというのが大きかっただろう。
新堂の自宅は電車で1時間近く揺られたところにあり、朝練に行く時は朝の5時に起きなければ間に合わなかったのが、荒井の家からだともう1時間ゆっくりしていられるのだ。
その上、キツい練習で歩くのもやっとなほどヘトヘトになっても、歩いて帰れる距離に家があるのは有り難い。
新堂が荒井の家に入り浸るようになったのも、ほとんど必然だっただろう。
とはいえ、荒井にあまり迷惑をかけるのは本意ではないので、新堂なりに気遣いはしていた。
夕食は事前にコンビニで買っていたし、朝も自分の方が早起きだから、握り飯くらいは作っておいた。荒井が食事を作ってくれることもあったが、そういう時は食器を洗うくらいの事はしていたし、部屋も風呂も必用以上に汚さないよう気を遣ってきたつもりだ。
泊めてもらう感謝はしていたつもりだが、知らないうちに縛られて転がされるほど荒井を怒らせていたのだろうか。
「……あぁ、起きましたか新堂さん」
辺りの様子をうかがう新堂の動きに気付いたのだろう。荒井は一声かけてから、新堂が寝ているベッドへと腰掛けた。
荒井の仕草を見て、新堂は眠りにつく前の記憶を呼び起こす。
夏の大会が控えている今は、ますます練習が厳しくなってきた。精神的な緊張といつもより増えた練習量に一学期の新入部員たちを面倒見ないといけないという責任、主将なんだから結果を出さなければいけないという重圧ばかりがのしかかる。
肉体敵にも精神的にも摩耗する日々の疲れから、食事のあとシャワーを浴びてすぐ、荒井のベッドに倒れてからすっかり記憶が飛んでいた。きっとそのまま眠ってしまったのだろう。
やはり、普段と変わったことはしていない。荒井を特別怒らせたつもりもないのだが。
「荒井か。おまえか、俺の手を縛ったのは」
「えぇ、他にいないでしょう。ここは僕の家で、今は両親もいないんですから」
新堂の問いかけに、荒井は涼しい顔で答える。
声色に怒りは見られない事が、ますます新堂を混乱させた。
「何でこんな真似するんだ。俺、おまえに何かしたか?」
怒らせた理由は、まったくわからない。だが、あれこれ考えるのは自分の性分ではない。わからない事は本人に聞くのが一番だろう。
すると荒井も、それを聞かれるのがわかっていたかのように新堂を見て、一度その髪を撫でた。
「いえ、別に新堂さんは何もしていませんよ。えぇ、あなたはずっと僕に何もしませんでした」
何もしなかった。
強調して告げられることで、鈍い新堂もそれが悪かったことは何となしに気付く。
とはいえ、それが悪いことだとも思っていなかった。
新堂が他人に叱られる時は、大概に余計なことを仕出かした時であり、何もしていない時は怒られることがない。
むしろ、何もしてないだけで褒められることの方が多かったからだ。
だが、荒井はそれが不服だったのだろう。ベッドの上に横たわる新堂の腰あたりにまたがりうっすらと笑みを浮かべた。
「……言いましたよね、もうすぐ両親が帰ってくるから、しばらく家で会うのは難しいかもしれない、って」
そういえば、今日荒井の家に入ってすぐに、そんな事を言われたか。
荒井の両親は仕事で長期不在だから、普段は家に荒井一人しかいない。だから新堂は最近、すっかり荒井の家に入り浸りだったのだが、両親が帰ってくるのなら今のまま、荒井の家に通うのは流石に難しいだろう。
聞いた時にはそれくらいにしか思っていなかった。
新堂は見るからに不良であり、荒井はほとんど授業に出ていない引きこもり気質の生徒だが、見た目は真面目な優等生だ。新堂のような風体の男は友達に一人もいないだろう。
突然新堂が押しかけたら、荒井の両親から「息子が虐められているんじゃないか」とか「不良が家に入り浸るようになった」と思われるのは火を見るより明らかだ。
だから荒井から「両親が帰ってくる」と告げられた時、新堂は「しばらく家に近づかない方がいいな」と思ったし、「これからは自宅からまた時間をかけて通わなければいけないんだ」くらいにしか思っていなかった。
だが、荒井にとってその言葉は、もっと別の意味があり、もっと大きな意味のある言葉だったようだ。
「どうして何もしないんですか新堂さん!? 僕はあなたの恋人ですよね? 今まで泊まりに来た時も、特に恋人らしい事はしてきませんでしたけど……今日が最後かもしれない、と伝えてもあなたは何もしようとしない……一体どういうことですか? 僕のこと、そんな風に好きではない……という事でしょうか」
荒井は馬乗りになり、悲痛な声をあげる。青白い荒井の頬は目に見えて赤くなっていた。
その姿を見て、新堂はようやく「なるほど」と合点する。
基本的に色恋沙汰には鈍感な方だとは自分でも思っていたから、そういった雰囲気を察知するのは不得手だった。
荒井の場合、同性であるため普段から恋人の距離感というより、特別な友人のような距離感が抜けなかったというのもあるだろう。
だからここまで荒井を追い詰めているなど、微塵も思っていなかったのだ。
だが、確かに新堂は今まで積極的に荒井には触れてこなかった。
疲れていたのもあったし、精神的な余裕がなかったというのもあった。荒井の事を大切にしたいと思っていたし、どういうタイミングで触れていいのかイマイチ距離感がつかめていないというのもあったのだが、全て言い訳だろう。
「いや、好きだぜ? ……好きだから、お前のこと大事にしたいって思っているのは本当だ」
「大事にされている、というのは分かっています。僕のことを特別に思っていることも、そのように扱ってくれているのも。ですが……僕はもっと、あなたとふれ合いたい。あなたの肌を感じ、唇で慰めてほしい……そう、思ってしまうのです」
荒井の指先が新堂の頬を、首筋を、胸元を滑っていく。
その姿を見て、新堂は一つため息をついた。
「あー……悪い、荒井。ほんと、我慢してたんだよ。今は部活あるだろ? 練習キツいから、今おまえに何かしたら、ひどい事しそうだ……って。でもよぉ……お前がそうするなら、仕方ねぇよな?」
ニヤリと笑った唇から、鋭い犬歯がちらりと覗く。
その瞬間、新堂は足を強く上げ、荒井の体を揺らした。
しっかりと腰まわりに座っていたはずの荒井だが、体格差があり華奢でもある荒井は新堂に揺さぶられた勢いの強さからバランスを崩す。
新堂はそれを見過ごす事がなく、足でしっかり荒井の体を捕らえると、そのまま器用に回転し、荒井の体をベッドへと押し沈めた。
「し、新堂さん……?」
すべて一瞬のことで、自分がベッドに倒される側になっている理由が荒井は理解できないようだった。
まったく、腕の自由を奪ったくらいで新堂を押さえ込めると思っているあたり、頭の良い荒井にしては詰めが甘い。あるいは、意図的に逃げれるようにしておいたのだろうか。
「悪かったな、荒井。お前をそこまで追い詰めてるとか、そこまで俺のこと好きでいてくれるってのに全然気付いてなかったぜ。俺はどうもそういうの、鈍いからよ」
新堂は荒井の腰に座ると、僅かに笑って見せた。
この場所を抑えれば、新堂と荒井の体格差では今、自分がやったような芸当は出来ないだろう。腕は縛られているが、上にいる分新堂のほうが圧倒的に優位だ。
「でもよ、別におまえとそういうことしたくねぇ、って訳じゃねぇんだぜ? これでもかなり我慢している、ってか……夏の大会が終わるまではストイックに。じゃねぇが……俺あんまり器用な方でもねぇから、大会が終わってからしっかり向き合おうと思ってたんだがよ。お前がそう言うなら、まぁ……仕方ねぇよな」
荒井は焦ったように体を動かすが、新堂はびくともしない。
体幹の違いや体重移動の上手さ、身体能力の高さ、体格の差から、例え両手を縛った状態であっても上にいる新堂を押しのけることは出来ないはずだ。
「新堂さん、ちょっと……待ってください、あの。僕ッ……」
「ダメだ。お前が本気にしたんだから、責任とれよな」
新堂は犬歯を見せて笑うと、唇を重ねる。
いつもより深く激しい唇は荒井の体を、否応なしに熱く昂ぶらせる。
それから荒井は、まさしく文字通り本気になった新堂の寵愛を体全体で知る事になるのだった。
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