インターネット字書きマンの落書き帳
祖国にいたころのオエコモバ過去模造
オエコモバの過去模造すきすき大好き~。
これは比較的に昔に書いた過去模造を、サルベージしてちょっと加筆しました。
思ったより加筆することになりました。
祖国ではテロリストだったオエコモバの設定、実にいいですね……。
SBRでもオエコモバのように何となく背景を感じさせる人間。
実に楽しい!
……実に楽しいので、みんなも今日から好きになってください!
これは比較的に昔に書いた過去模造を、サルベージしてちょっと加筆しました。
思ったより加筆することになりました。
祖国ではテロリストだったオエコモバの設定、実にいいですね……。
SBRでもオエコモバのように何となく背景を感じさせる人間。
実に楽しい!
……実に楽しいので、みんなも今日から好きになってください!
『再び踊り出すまで 』
オエコモバの事を、国家転覆を目論むテロリストの一員と蔑む奴がいる。
同時に、腐った国家を覆すレジスタンスの一員として敬う輩もいる。
歴史、あるいは政治というのは常にそのようなもので、現状に不満があるものにとっては正義に見える存在が、己の立場を危うくする悪となるのが常だ。
だが、オエコモバ当人が何を思っていたかといえば、別に大きな志があったわけではない。
例えば世界をひっくり返してやろうとか、例えばこの腐った国政に一石を投じてやろうとか、そんな大それた野望く理想を掲げそのために死ねるほど、清らかな人間ではなかった。
慣れ親しんだ友人と歌いぎ、酒をのんで騒いで、母国を愛し、自分たちの境遇に唾を吐き、自由にならないのを社会のせいにして、少しばかり斜に構え日々を過ごす。そういう意味では、オエコモバはいたって普通の。あるいは、普通より少しばかり裕福な青年の部類だったろう。
もし、オエコモバに人と違った所があったとするのなら、彼の周囲にいた友人たちの主張は他の連中よりほんの少しばかり強い熱を帯びていたということくらいだったはずだ。
そして、若い情熱というものは最も扱いやすく、最も捨てられやすい歯車の一つである。
オエコモバは普段通り、僅かな仕事の成功で酒を飲み、口笛を吹いてダンスを楽しんでいただけだったが、その時すでに戻れないほど大きな革命のうねりに取り込まれていたのだ。
運んでおけば一日楽しく飲み食いできるといわれ運んだ荷物は、国家の転覆を狙うテロリストが国を脅かす爆発物の一つであり、その後多くの死傷者を出したという。
多くの友人達はその駒として腐敗した国家から民を救う為、あるいは国の伝統を守るため、国民の自由を勝ち取るため、そんな耳障りのよい甘言に惑わされ、あるものは忠犬のように走り回り、またあるものは猟犬のように殺し、殺され、一人また一人、オエコモバのまわりから消えていった。
オエコモバが死ななかった理由の一つは、捨て駒にされた友人たちの中でも少しばかり金があり、一通りの学問を修め、他国の言語にも多才だったからだろう。
組織にとって簡単に使い潰すのは惜しいと思われたのは、長生きするということが幸運なことだとしたら、オエコモバは幸運だった。
とくに化学に関して造形が深かったオエコモバは、より多く殺し、殺さないまでも相手に致命傷を負わせるような爆弾を作る事に情熱を燃やした。
幼い頃から工作好きであり手先が器用だった事も高じて生み出されたオエコモバ流の爆弾は、すぐに爆発する手投げ弾から決められた時刻に大爆発をおこす時限爆弾など、残された設計図だけでも30は下らないという。
最初は爆竹くらいの音をならして驚かすだけで楽しかった。
それが指を吹き飛ばす程度の威力になり、馬車を転がす程の威力になり、人を鎧ごと吹き飛ばす威力になり、パーティ会場にやってきた正装の男女をフロアごと吹き飛ばし、血濡れた体を引きずってうめき声をあげるようになっていく。
いつからか、オエコモバの胸が高鳴るのは爆破の音を聞く時だけになっていた。
爆発の度合いは大きくなり、爆発のタイミングも自由に操れるようになる。
爆弾についての知識ばかり蓄えていたオエコモバの歓喜は、火花を散らすことだけに集約されていく。
いま、自分がどんな組織に所属しているのかなんて、次第にどうでもよくなっていった。
ただ、注文された爆弾の構造が難しければ難しいほど、作るのが楽しかった。
材料となる火薬も、爆弾を組み立てる部品も、欲しいと思ったものは組織が好きなだけくれた。
「素晴らしい結果だ」
「よくやった」
「すごいな、他の連中じゃこうはいかない」
一つ成功させるだけで、多くの称賛を浴びるのは心地よかったが、それ以上に新たな爆弾が成功し、激しい炎を上げて周囲を破壊しつくす高揚感はそれよりも遙かにオエコモバを満足させた。
賛辞が増えるごとにより、大きな仕事が舞い込んだ。
仕事が大きければ大きいほど、より高い技術が求められ、組織のしがらみや人間関係のいざこざも増えていったが、爆破が成功した時は全ての苦労がどうでもよくなるほどに昂ぶった。
次第にオエコモバを軽んじる人間はいなくなり、仕掛けがうまくいかないという理由で新人の頭を殴ったとしても、誰も咎めるものはいなくなる。
組織ではお偉方と呼ばれる立場の人間も、オエコモバの自由な振る舞いを許し、わざわざ頭を下げにくるようになる。
だが、いかなる立場になってもオエコモバが心躍る時は、爆弾と向き合っている時だけだった。
つまるところ、オエコモバという人間の世界は、自分と爆弾、そして爆弾で吹き飛ばされる肉塊だけがあれば完成していたのである。
当然、外の風評など一切気にしていなかった。
一緒に酒を酌み交わし、笑って踊る仲間はみんな冷たい土の下に埋まった。
気付いた時には、爆弾魔オエコモバの名は国に知られる悪党になっていた。
オエコモバは、やりすぎたのだ。
組織は国からしても放っておけないほど大きな規模になり、オエコモバ自身も末端の一員という扱いではなくなっていた。
外に出る時、濃いめの化粧をし顔を隠すようになったのはちょうど手配書の似顔絵が広く張り出されるようになった頃だろう。
組織の人間は国全体から追われるようになり、オエコモバは家族も縛り上げられ獄中死したと聞かされた。幼馴染みたちは皆、オエコモバを毛虫の如く嫌っていたし、僅かにでも手を差し伸べようとした人間はすぐさま捉えられ、冷たい石の牢獄へ放り込まれた。
今までパトロンとして散々煽っていた協力者たちも、潮が引いたようにいなくなる。
作るべき爆弾をなくしたオエコモバが顔をあげた時にはすでに、差し出された手は一つもなくなっていた。
帰る所もないオエコモバと周りに残った僅かな仲間は残された金とパンで食いつなぎ、地下や裏路地へ逃げ込んだ。
それでも腐敗した国を修正する。
そんな綺麗な言葉を掲げ何とか王に一泡ふかせてやる事が出来ないか、そう考える連中が多く残っていたのは、脇目も振らず前を見て進んで来た人間ばかりが取り残されたからだろう。
そうじゃない人間は、とっくに他の連中に取り入ってのうのうと生きているのだ。
時々、それを悔しがる奴もいた。
裏切り者だとか、蝙蝠野郎と罵る言葉も聞いた。
だが、オエコモバがそういう思いに至らなかったのは、自分の鼻腔にいつでも火薬のにおいが残っていたからだろう。
「必ず成功させてくれよ、オエコモバ」
すでに組織とよぶには小さすぎる集団と貸した時も、オエコモバを頼る友人がいた。
オエコモバと違い、熱意に満ちた男だ。
いつだってよく通る声で話し、その立ち振る舞いが自信に満ちていたのは、自分のしている事こそ正義だと疑っていなかったからだろう。
一挙手一投足にどこか気品があり、知らず知らずに見てしまう、そんな生来のカリスマ性をもっていた。 学もあり弁舌もたち、整った顔立ちをしていたこの男が最後まで残っていたのは、他の連中同様に愚直すぎる性格からだったろうが、この男だけ何があっても信念を曲げようとはしなかった。
組織が大きかった頃も雄弁に語り、じり貧になった今でさえも常に皆を先導する。
血筋さえ良ければきっと、この男は本当にこの国を根っこから変えていたのだろう。
そう思わせる気品があったのこの男が、実は高貴な一族の落とし種だと噂に聞いたのはオエコモバがアメリカに渡った頃だった。
今はもう確かめる術はないが、あの立ち振る舞いから恐らくそれは真実なのだろう。
祖国での最後の仕事は、その男の計画だった。
寝られた計画は万全だったろう。だが、準備は不完全としか言えなかった。何せ、人もモノも不足していたのだ。火薬だって満足にない。
ただ、追いつめられた組織にはもうやるという選択肢しか残されてはいなかったのだ。
全ての準備が万全だったとしても成功するのは半々といった所だ。
不完全な準備で成功するなんて無理なのは最初からわかっていたのに、誰も止めようとはしなかった。
理想を掲げた組織に最後まで取り残された人間は、その名を墓標に刻むのが最後の望みだったのだろう。
オエコモバにとっても、それが最後の花火になる予定だった。
だが、失敗した。
爆弾が破裂するより先に、王直属の護衛官が目聡く見つけ、自分たちを激しく追い立てたのだ。
いよいよ逃げられないって時に、計画の首謀者が立ち止まった。
オエコモバたちにとって、集団を指揮できる最後の人物であるあの男だ。
「剣術のたしなみはある。王の護衛に一矢報いてやるさ」
なんてカッコつけた事をいって、オエコモバたちを逃がした。
あいつだってわかっていただろう。王の護衛は鉄球とかいう奇妙な技術をもっているのだ。勝てる訳がない。
「オエコモバ、お前の爆弾を使う事すら出来なくて悪かったな」
男は、オエコモバに頭を下げた。
才能に関していえば、爆弾作り一辺倒であったオエコモバと比べればこの男の方が圧倒的に高かっただろう。
カリスマがあり弁舌があり学があり、人をひきつけまとめる力があるのだ。
彼がいなくなれば、残された自分たちなど烏合の衆だ。
「だから生きてくれ、オエコモバ。おまえが最後の爆弾を爆破もさせないで終わらせたなんていったら、恥だからな。そして、何がなんでもこの腐ったネアポリスの歴史が覆るその日まで、おまえの情熱で、全てを破壊し続けてくれ」
オエコモバにはわからなかった。
どうしてこれだけ立派な男に、後を託されるのか。
ただ、僅かな喜びがあった。
まだ、爆弾を作れる。作る機会さえあれば、きっともっと大きな火花を散らし、周囲をメチャクチャに破壊することができる。
オエコモバは、男を置いて逃げ出た。
散々人の身体をシェイクしてきたが、死ぬのは怖くて仕方なかった。
誇り高く生きて名誉の為に死ぬという気持ちなど、これっぽっちも理解できなかったのだ。
1日でも長く生きて、1つでも多くの爆弾をつくり、1カ所でも多く破壊する。
そう考えるほうが、よほど楽しく、よほど昂ぶった。
その時だけ、生きているという実感があったのだ。
男は捕まり、そして死罪となった。
「死刑執行がツェペリ家によって行われるなら名誉な事だ。歴史の中にぼくという正義を血で汚したと、国家により証明されるんだからね」
あいつは望んだ名誉を得られたのだろう。
死刑執行はツェペリ家により行われたのだと噂で聞いた。
その死が正義はこの国の汚点になったのかどうか、オエコモバにはわからない。
時が経ち、歴史が大きく動いていけばわかる時がくるのだろう。
ただ、事実が一つあるのなら、あいつは死んで名誉になったということ。
そして、オエコモバは生きて空虚になったということだ。
爆弾と向き合っていれば昂ぶるものだと思っていた。
それなのに、指導者を失い散り散りになった仲間たちを前に、オエコモバはただ満たされぬ心を持て余していた。
結局自分は考えをやめ、鈍感になろうとし、逃避のため爆破に執心していたのだろうか。
煩わしい思考から逃げるため、没頭できる事に集中していただけで、本当は自分も名誉ある死や、正義の鉄槌という綺麗事を信じて、そのために生きていたのだろうか。
長い思考のあと、オエコモバは立ち上がる。
名誉を背負いそして死んだ男が認めたのは、オエコモバの破壊だった。
それならば、求められるままにそうしよう。
殺して、爆破して、殺して、火薬を混ぜて、殺して、火をはなって、殺して、追い立てて、殺して、殺して、殺して、殺して。
ただそれだけを繰り返す。
故郷を壊し、居場所も失った傀儡でも、轟音と煙が立ち上り激しい火柱が上がるのを見る時だけ、心が激しく律動した。
たとえ傀儡でも好き放題に爆破をするような存在を野放しにするほど国家というのは甘くなかったが、爆破の中だけに生を与えられたオエコモバにとっては牢獄さえも華奢な籠にすぎなかった。
隠していた爆弾で逃げ出す時、見張りの看守はボロ雑巾のように元の姿もなくなっていた。
悪名も極めれば有名人、とでもいうのか。
散々殺してまわったオエコモバが逃げおおせる事が出来たのは、かつて組織を支えた連中の一人だった。
オエコモバの才能をこのまま消すより、どこかに囲っておいて必要な時に呼び出して使えればいいと考えたのだろうか。
それとも、このまま祖国で暴れさせていれば、いずれ組織から手を引いた自分たちの命が狙われるのかもしれないと、怖れたからか。
理由は、定かではない。
だがオエコモバは脱獄し、新大陸行きの船へと乗せられた。
言葉を流暢に話すために一ヶ月、爆破に必要な道具などを取りそろえる店を探すのにさらに半年は費やしただろう。
オエコモバはスラムのような裏路地で冷ややかに世界を眺めていた。
新大陸からみれば、祖国でオエコモバがしてきた事なんて些細な事だったのだろう。
ここではネアポリスの動乱など、些末なことなのだ。
誰にも気に留められる事もない生活のなかでも、オエコモバは相変わらず心と体に爆弾を背負い続けていた。
誰かに聞いてほしい、はの華々しい爆音を。
立ち上る煙を、火柱を、全てを吹き飛ばしたガレキを。
それを夢見るようになり、一体どれだけ時が過ぎただろう。
「スイませェん……」
塒にしていた粗末な木の扉に、乾いた靴音が響く。
無視して眠ったふりをすれば、長いブロンドを束ねた黒衣の男が、訝しげにこちらを見据えていた。
黒衣の裏から確かに血と硝煙のにおいを感じ、オエコモバは男と向き合う。
きっと男は、自分と同じ世界の人間だ。すぐにそれに気付いたからだ。
「貴方に頼みたい事があって参りました。あの、少しお話を……」
空虚な心が、律動する。
ただ爆弾を作るだけの絡繰り仕掛けの傀儡から、歯車の回る音を感じた。
オエコモバは半ば呆然としながら、火薬のついた指先で男を出迎える。
「殺してもらえませんか」
男は存外と単刀直入に言った。
あぁそうだ、オエコモバの爆弾はそのためにある。だからどこに行っても、殺すことでしか存在できない。
常に火薬の臭いを漂わせ、炎で誰かの身体を焦がしてやらなければ、生きているという存在を認められさえしないのだ。
それがオエコモバの才能だ。
全てを破壊し燃やす時だけ激しく心が律動する、そんな空虚な才能なのだ。
そう思っていたのだが。
「標的は、ジャイロ・ツェペリ。貴方の国の人間です」
男からツェペリの名を聞いた時、オエコモバは初めて運命というものを感じた。
誇り高き国を背負う処刑人の名前。
偶然の一致だったのだろうか、それとも……。
空虚になろうとして、傀儡に身を落としたオエコモバに久しく忘れていた笑みが浮かぶ。
「あぁ、いいだろう。任せてくれ」
ネアポリスのツェペリ。
彼が処刑人であるのなら、オエコモバもまた破壊者へと戻ろう。
祖国にいた頃と同じような道化の化粧し、全て壊しつくしてやろう。
祖国で死んだ仲間が望む名誉という薄っぺらい言葉を背負い、この才能で全てを粉々に吹き飛ばしてやろう。
新しい爆薬はもう必要ない。
今は指先でいくらでも、生み出す事ができるのだから。
虫除けと、哀悼の意味をこめたヴェールに顔を包む。
長らくしまっていた服は、僅かに故郷のにおいがした。
「あぁ、久しぶりに心地いいな。楽しいリズムの始まりだ」
止まっていた歩みが、ようやく再び動き出す。
SBR、それはただ単純に大きいだけのレースではない陰謀渦巻くものだろうが、そんな事はもうどうでもいい。
オエコモバの中に熱い血潮が巡るのを感じる。
死んでいった仲間が認めてくれた、たった一つの才能が全身のリズムを刻む。
それが、彼の全てだった。
オエコモバの事を、国家転覆を目論むテロリストの一員と蔑む奴がいる。
同時に、腐った国家を覆すレジスタンスの一員として敬う輩もいる。
歴史、あるいは政治というのは常にそのようなもので、現状に不満があるものにとっては正義に見える存在が、己の立場を危うくする悪となるのが常だ。
だが、オエコモバ当人が何を思っていたかといえば、別に大きな志があったわけではない。
例えば世界をひっくり返してやろうとか、例えばこの腐った国政に一石を投じてやろうとか、そんな大それた野望く理想を掲げそのために死ねるほど、清らかな人間ではなかった。
慣れ親しんだ友人と歌いぎ、酒をのんで騒いで、母国を愛し、自分たちの境遇に唾を吐き、自由にならないのを社会のせいにして、少しばかり斜に構え日々を過ごす。そういう意味では、オエコモバはいたって普通の。あるいは、普通より少しばかり裕福な青年の部類だったろう。
もし、オエコモバに人と違った所があったとするのなら、彼の周囲にいた友人たちの主張は他の連中よりほんの少しばかり強い熱を帯びていたということくらいだったはずだ。
そして、若い情熱というものは最も扱いやすく、最も捨てられやすい歯車の一つである。
オエコモバは普段通り、僅かな仕事の成功で酒を飲み、口笛を吹いてダンスを楽しんでいただけだったが、その時すでに戻れないほど大きな革命のうねりに取り込まれていたのだ。
運んでおけば一日楽しく飲み食いできるといわれ運んだ荷物は、国家の転覆を狙うテロリストが国を脅かす爆発物の一つであり、その後多くの死傷者を出したという。
多くの友人達はその駒として腐敗した国家から民を救う為、あるいは国の伝統を守るため、国民の自由を勝ち取るため、そんな耳障りのよい甘言に惑わされ、あるものは忠犬のように走り回り、またあるものは猟犬のように殺し、殺され、一人また一人、オエコモバのまわりから消えていった。
オエコモバが死ななかった理由の一つは、捨て駒にされた友人たちの中でも少しばかり金があり、一通りの学問を修め、他国の言語にも多才だったからだろう。
組織にとって簡単に使い潰すのは惜しいと思われたのは、長生きするということが幸運なことだとしたら、オエコモバは幸運だった。
とくに化学に関して造形が深かったオエコモバは、より多く殺し、殺さないまでも相手に致命傷を負わせるような爆弾を作る事に情熱を燃やした。
幼い頃から工作好きであり手先が器用だった事も高じて生み出されたオエコモバ流の爆弾は、すぐに爆発する手投げ弾から決められた時刻に大爆発をおこす時限爆弾など、残された設計図だけでも30は下らないという。
最初は爆竹くらいの音をならして驚かすだけで楽しかった。
それが指を吹き飛ばす程度の威力になり、馬車を転がす程の威力になり、人を鎧ごと吹き飛ばす威力になり、パーティ会場にやってきた正装の男女をフロアごと吹き飛ばし、血濡れた体を引きずってうめき声をあげるようになっていく。
いつからか、オエコモバの胸が高鳴るのは爆破の音を聞く時だけになっていた。
爆発の度合いは大きくなり、爆発のタイミングも自由に操れるようになる。
爆弾についての知識ばかり蓄えていたオエコモバの歓喜は、火花を散らすことだけに集約されていく。
いま、自分がどんな組織に所属しているのかなんて、次第にどうでもよくなっていった。
ただ、注文された爆弾の構造が難しければ難しいほど、作るのが楽しかった。
材料となる火薬も、爆弾を組み立てる部品も、欲しいと思ったものは組織が好きなだけくれた。
「素晴らしい結果だ」
「よくやった」
「すごいな、他の連中じゃこうはいかない」
一つ成功させるだけで、多くの称賛を浴びるのは心地よかったが、それ以上に新たな爆弾が成功し、激しい炎を上げて周囲を破壊しつくす高揚感はそれよりも遙かにオエコモバを満足させた。
賛辞が増えるごとにより、大きな仕事が舞い込んだ。
仕事が大きければ大きいほど、より高い技術が求められ、組織のしがらみや人間関係のいざこざも増えていったが、爆破が成功した時は全ての苦労がどうでもよくなるほどに昂ぶった。
次第にオエコモバを軽んじる人間はいなくなり、仕掛けがうまくいかないという理由で新人の頭を殴ったとしても、誰も咎めるものはいなくなる。
組織ではお偉方と呼ばれる立場の人間も、オエコモバの自由な振る舞いを許し、わざわざ頭を下げにくるようになる。
だが、いかなる立場になってもオエコモバが心躍る時は、爆弾と向き合っている時だけだった。
つまるところ、オエコモバという人間の世界は、自分と爆弾、そして爆弾で吹き飛ばされる肉塊だけがあれば完成していたのである。
当然、外の風評など一切気にしていなかった。
一緒に酒を酌み交わし、笑って踊る仲間はみんな冷たい土の下に埋まった。
気付いた時には、爆弾魔オエコモバの名は国に知られる悪党になっていた。
オエコモバは、やりすぎたのだ。
組織は国からしても放っておけないほど大きな規模になり、オエコモバ自身も末端の一員という扱いではなくなっていた。
外に出る時、濃いめの化粧をし顔を隠すようになったのはちょうど手配書の似顔絵が広く張り出されるようになった頃だろう。
組織の人間は国全体から追われるようになり、オエコモバは家族も縛り上げられ獄中死したと聞かされた。幼馴染みたちは皆、オエコモバを毛虫の如く嫌っていたし、僅かにでも手を差し伸べようとした人間はすぐさま捉えられ、冷たい石の牢獄へ放り込まれた。
今までパトロンとして散々煽っていた協力者たちも、潮が引いたようにいなくなる。
作るべき爆弾をなくしたオエコモバが顔をあげた時にはすでに、差し出された手は一つもなくなっていた。
帰る所もないオエコモバと周りに残った僅かな仲間は残された金とパンで食いつなぎ、地下や裏路地へ逃げ込んだ。
それでも腐敗した国を修正する。
そんな綺麗な言葉を掲げ何とか王に一泡ふかせてやる事が出来ないか、そう考える連中が多く残っていたのは、脇目も振らず前を見て進んで来た人間ばかりが取り残されたからだろう。
そうじゃない人間は、とっくに他の連中に取り入ってのうのうと生きているのだ。
時々、それを悔しがる奴もいた。
裏切り者だとか、蝙蝠野郎と罵る言葉も聞いた。
だが、オエコモバがそういう思いに至らなかったのは、自分の鼻腔にいつでも火薬のにおいが残っていたからだろう。
「必ず成功させてくれよ、オエコモバ」
すでに組織とよぶには小さすぎる集団と貸した時も、オエコモバを頼る友人がいた。
オエコモバと違い、熱意に満ちた男だ。
いつだってよく通る声で話し、その立ち振る舞いが自信に満ちていたのは、自分のしている事こそ正義だと疑っていなかったからだろう。
一挙手一投足にどこか気品があり、知らず知らずに見てしまう、そんな生来のカリスマ性をもっていた。 学もあり弁舌もたち、整った顔立ちをしていたこの男が最後まで残っていたのは、他の連中同様に愚直すぎる性格からだったろうが、この男だけ何があっても信念を曲げようとはしなかった。
組織が大きかった頃も雄弁に語り、じり貧になった今でさえも常に皆を先導する。
血筋さえ良ければきっと、この男は本当にこの国を根っこから変えていたのだろう。
そう思わせる気品があったのこの男が、実は高貴な一族の落とし種だと噂に聞いたのはオエコモバがアメリカに渡った頃だった。
今はもう確かめる術はないが、あの立ち振る舞いから恐らくそれは真実なのだろう。
祖国での最後の仕事は、その男の計画だった。
寝られた計画は万全だったろう。だが、準備は不完全としか言えなかった。何せ、人もモノも不足していたのだ。火薬だって満足にない。
ただ、追いつめられた組織にはもうやるという選択肢しか残されてはいなかったのだ。
全ての準備が万全だったとしても成功するのは半々といった所だ。
不完全な準備で成功するなんて無理なのは最初からわかっていたのに、誰も止めようとはしなかった。
理想を掲げた組織に最後まで取り残された人間は、その名を墓標に刻むのが最後の望みだったのだろう。
オエコモバにとっても、それが最後の花火になる予定だった。
だが、失敗した。
爆弾が破裂するより先に、王直属の護衛官が目聡く見つけ、自分たちを激しく追い立てたのだ。
いよいよ逃げられないって時に、計画の首謀者が立ち止まった。
オエコモバたちにとって、集団を指揮できる最後の人物であるあの男だ。
「剣術のたしなみはある。王の護衛に一矢報いてやるさ」
なんてカッコつけた事をいって、オエコモバたちを逃がした。
あいつだってわかっていただろう。王の護衛は鉄球とかいう奇妙な技術をもっているのだ。勝てる訳がない。
「オエコモバ、お前の爆弾を使う事すら出来なくて悪かったな」
男は、オエコモバに頭を下げた。
才能に関していえば、爆弾作り一辺倒であったオエコモバと比べればこの男の方が圧倒的に高かっただろう。
カリスマがあり弁舌があり学があり、人をひきつけまとめる力があるのだ。
彼がいなくなれば、残された自分たちなど烏合の衆だ。
「だから生きてくれ、オエコモバ。おまえが最後の爆弾を爆破もさせないで終わらせたなんていったら、恥だからな。そして、何がなんでもこの腐ったネアポリスの歴史が覆るその日まで、おまえの情熱で、全てを破壊し続けてくれ」
オエコモバにはわからなかった。
どうしてこれだけ立派な男に、後を託されるのか。
ただ、僅かな喜びがあった。
まだ、爆弾を作れる。作る機会さえあれば、きっともっと大きな火花を散らし、周囲をメチャクチャに破壊することができる。
オエコモバは、男を置いて逃げ出た。
散々人の身体をシェイクしてきたが、死ぬのは怖くて仕方なかった。
誇り高く生きて名誉の為に死ぬという気持ちなど、これっぽっちも理解できなかったのだ。
1日でも長く生きて、1つでも多くの爆弾をつくり、1カ所でも多く破壊する。
そう考えるほうが、よほど楽しく、よほど昂ぶった。
その時だけ、生きているという実感があったのだ。
男は捕まり、そして死罪となった。
「死刑執行がツェペリ家によって行われるなら名誉な事だ。歴史の中にぼくという正義を血で汚したと、国家により証明されるんだからね」
あいつは望んだ名誉を得られたのだろう。
死刑執行はツェペリ家により行われたのだと噂で聞いた。
その死が正義はこの国の汚点になったのかどうか、オエコモバにはわからない。
時が経ち、歴史が大きく動いていけばわかる時がくるのだろう。
ただ、事実が一つあるのなら、あいつは死んで名誉になったということ。
そして、オエコモバは生きて空虚になったということだ。
爆弾と向き合っていれば昂ぶるものだと思っていた。
それなのに、指導者を失い散り散りになった仲間たちを前に、オエコモバはただ満たされぬ心を持て余していた。
結局自分は考えをやめ、鈍感になろうとし、逃避のため爆破に執心していたのだろうか。
煩わしい思考から逃げるため、没頭できる事に集中していただけで、本当は自分も名誉ある死や、正義の鉄槌という綺麗事を信じて、そのために生きていたのだろうか。
長い思考のあと、オエコモバは立ち上がる。
名誉を背負いそして死んだ男が認めたのは、オエコモバの破壊だった。
それならば、求められるままにそうしよう。
殺して、爆破して、殺して、火薬を混ぜて、殺して、火をはなって、殺して、追い立てて、殺して、殺して、殺して、殺して。
ただそれだけを繰り返す。
故郷を壊し、居場所も失った傀儡でも、轟音と煙が立ち上り激しい火柱が上がるのを見る時だけ、心が激しく律動した。
たとえ傀儡でも好き放題に爆破をするような存在を野放しにするほど国家というのは甘くなかったが、爆破の中だけに生を与えられたオエコモバにとっては牢獄さえも華奢な籠にすぎなかった。
隠していた爆弾で逃げ出す時、見張りの看守はボロ雑巾のように元の姿もなくなっていた。
悪名も極めれば有名人、とでもいうのか。
散々殺してまわったオエコモバが逃げおおせる事が出来たのは、かつて組織を支えた連中の一人だった。
オエコモバの才能をこのまま消すより、どこかに囲っておいて必要な時に呼び出して使えればいいと考えたのだろうか。
それとも、このまま祖国で暴れさせていれば、いずれ組織から手を引いた自分たちの命が狙われるのかもしれないと、怖れたからか。
理由は、定かではない。
だがオエコモバは脱獄し、新大陸行きの船へと乗せられた。
言葉を流暢に話すために一ヶ月、爆破に必要な道具などを取りそろえる店を探すのにさらに半年は費やしただろう。
オエコモバはスラムのような裏路地で冷ややかに世界を眺めていた。
新大陸からみれば、祖国でオエコモバがしてきた事なんて些細な事だったのだろう。
ここではネアポリスの動乱など、些末なことなのだ。
誰にも気に留められる事もない生活のなかでも、オエコモバは相変わらず心と体に爆弾を背負い続けていた。
誰かに聞いてほしい、はの華々しい爆音を。
立ち上る煙を、火柱を、全てを吹き飛ばしたガレキを。
それを夢見るようになり、一体どれだけ時が過ぎただろう。
「スイませェん……」
塒にしていた粗末な木の扉に、乾いた靴音が響く。
無視して眠ったふりをすれば、長いブロンドを束ねた黒衣の男が、訝しげにこちらを見据えていた。
黒衣の裏から確かに血と硝煙のにおいを感じ、オエコモバは男と向き合う。
きっと男は、自分と同じ世界の人間だ。すぐにそれに気付いたからだ。
「貴方に頼みたい事があって参りました。あの、少しお話を……」
空虚な心が、律動する。
ただ爆弾を作るだけの絡繰り仕掛けの傀儡から、歯車の回る音を感じた。
オエコモバは半ば呆然としながら、火薬のついた指先で男を出迎える。
「殺してもらえませんか」
男は存外と単刀直入に言った。
あぁそうだ、オエコモバの爆弾はそのためにある。だからどこに行っても、殺すことでしか存在できない。
常に火薬の臭いを漂わせ、炎で誰かの身体を焦がしてやらなければ、生きているという存在を認められさえしないのだ。
それがオエコモバの才能だ。
全てを破壊し燃やす時だけ激しく心が律動する、そんな空虚な才能なのだ。
そう思っていたのだが。
「標的は、ジャイロ・ツェペリ。貴方の国の人間です」
男からツェペリの名を聞いた時、オエコモバは初めて運命というものを感じた。
誇り高き国を背負う処刑人の名前。
偶然の一致だったのだろうか、それとも……。
空虚になろうとして、傀儡に身を落としたオエコモバに久しく忘れていた笑みが浮かぶ。
「あぁ、いいだろう。任せてくれ」
ネアポリスのツェペリ。
彼が処刑人であるのなら、オエコモバもまた破壊者へと戻ろう。
祖国にいた頃と同じような道化の化粧し、全て壊しつくしてやろう。
祖国で死んだ仲間が望む名誉という薄っぺらい言葉を背負い、この才能で全てを粉々に吹き飛ばしてやろう。
新しい爆薬はもう必要ない。
今は指先でいくらでも、生み出す事ができるのだから。
虫除けと、哀悼の意味をこめたヴェールに顔を包む。
長らくしまっていた服は、僅かに故郷のにおいがした。
「あぁ、久しぶりに心地いいな。楽しいリズムの始まりだ」
止まっていた歩みが、ようやく再び動き出す。
SBR、それはただ単純に大きいだけのレースではない陰謀渦巻くものだろうが、そんな事はもうどうでもいい。
オエコモバの中に熱い血潮が巡るのを感じる。
死んでいった仲間が認めてくれた、たった一つの才能が全身のリズムを刻む。
それが、彼の全てだった。
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