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インターネット字書きマンの落書き帳

   
映像の中にいる好きな男(新堂×荒井/BL)
平和な世界線で普通に付き合っている新堂×荒井の話をします。
ここまで挨拶を兼ねた幻覚の説明です。

周囲には恋人同士であることを隠して付き合ってる新堂×荒井。
そんなある日、時田の新作に何故か新堂が出演してて、しかもBL作品でバッチバチにイケメンな告白をしていて、「そんな……僕の新堂さんがどうして……」みたいなうろたえ方をする荒井を……かきました!

力いっぱい書いたので、楽しんでいってください!



『嘘の真実』

 時田安男が1年の頃、たった一人で機材をもちこみ自主映画をつくるため映画同好会を立ち上げたことは鳴神学園でも有名だった。
 物珍しさから思った以上に多くの生徒が集まり、秋の文化祭では作った自主映画を公開したことも、それが校内外にも噂で広まりそこそこの評価を得ていることも、生徒の多い鳴神学園でも多く知られている。

 そんなこともあり、時田の元に「こういう映画を撮ってほしい」「こんな作品を作る気はないか」なんて話を振ってくる生徒は多くいた。中には自作の小説を持ちこみ「この作品を映画にしてください」なんて熱心に頼み込む生徒もいるという。
 だがその大半は未完だったり、ダラダラと序章ばかり続く内容だったりしておおよそ映画で使える内容ではなかったり、映画向きの話ではなかったりするのだが、それでも時々採用される作品があり、時田が持ち込みの企画で映画を撮るということもあった。

 その撮影は大概が一週間程度で、内容は30分未満のショート・ムービーになるようなコンパクトな作品が多く、時田としてもあくまで撮影アングルの実験や演出の練習などの意味合いが強い作品であり、表に出すことはなく、企画を持ちこんだ人物と協力者、そして身近な少数の友人たちの間だけで共有されるものなのだ。

 そんな勢いにまかせて作られた作品の編集を荒井が任されたのは、つい先日のことである。

「1年の女子が、短編でBLストーリーの映画とか撮りませんか? って押しかけてきて、脚本を渡してくれたんだよね。たいして長い話じゃないし、学園青春BLって話だったから。ほら、学園モノなら衣装もセットも準備しなくても、全部鳴神学園だけで完結するだろ? 恋愛ものとかBLものとか、そういう技術の練習もしたいし。いい機会だと思って撮ったんだ。編集、手伝ってくれないかな」

 データを渡す前、時田からそう言われていたので内容がBLものだということは知っていた。

「突発で作ったから、主演は袖山くんにやってもらったんだ。作品の内容も、真面目な少年が不良っぽい男に惹かれるって話だから、袖山くんならピッタリだと思ったんだよね」

 時田の自主映画は、突然いい画が撮れたからという理由で作られることも多い。
 そういった時、主演をやらされるのは袖山であることが多かった。
 袖山は普段から荒井や時田とよく話もするし、時田が突発的に撮影をする時も撮影補助の役や、衣装作り、場所の確保などを色々と手伝ってくれる要員として呼ばれやすい。
 また、頼まれたことを基本的に断ることが出来ない性格や、時田の周りにいる他の友人は荒井を含め表舞台に立つのをあまり好まない性格というのもあり、登場シーンが多い役柄をよく押し付けられるのだ。
 だから、メインで袖山が出ているという事も、ある意味当然だと思っていた。

「袖山くんに濡れ場を頼むわけにはいかないから、キスもしてない健全な作品だよ。全部それっぽく撮ってるだけだから、気まずい思いもしなくていい」

 そう言われていたから、安心していたし油断もしていた。
 袖山は荒井にとって命をかけても守るに値する尊い友人だ。そんな彼の尊厳を蹂躙するようなシーンが撮られていたのだとしたら、たとえ時田が天才でも、罵詈雑言が口から出ていたことだろう。
 それに、キスシーンのような軽い接触でも、友人の姿が写っているのは流石の荒井も気まずい。

「リアルな映像を撮りたいから、相手役の人は最初、映画を撮っているとは一切言わないでおいたんだ。いやぁ、こっちの思った通りに行動してくれる人で助かったよ」

 笑いながらそんな事を言っていたから、相手役をやらされた生徒は事前に何の説明も受けていなかったのも聞いていた。
 演劇部に入っているとか、子役の頃からテレビに出ていて今も現役の役者であるなんて経歴でもあれば別だが、大概の高校生は演技経験などない。事前に台本を読み、その通りに行動してもわざとらしさというのはどうしても出てしまうものだ。
 荒井はそれも自主映画の醍醐味だと思っていたし、時田はそういった演技力不足をうまくカバーするような撮影が出来る人間なのを知っていた。演技力をカバーし自然な表情を引き出すため、日常風景の何気ない様子を勝手に切り取って映像に組み込むという事も頻繁にしているのを知っていたから、作品はいいものになるだろうと思ってもいた。

「映画のあらすじをまとめておいたよ。脚本を読むの面倒だろうから、大体のシーンのイメージも、絵コンテにしてあるから。何かわからないことがあったらメッセージを飛ばしてくれれば応対するよ」

 事前に渡された資料から、おおまかな内容も理解していた。
 気弱な主人公(この役が袖山だろう)が不良に絡まれた時、助けてくれた相手に惹かれ、何とかアプローチしようと色々誘うも空回りするが、相手との距離は縮んでいく。そんな中、相手に好意が気付かれ、距離を置かれるが、主人公が他の男に連れ去られそうになったとき、相手が助けてくれた上で、主人公の好意を受け入れハッピーエンド、といった内容だ。

 きっと、袖山にわざと不良をけしかけたに違いない。
 腕っ節に自身がありお人好しな生徒が袖山を助けるシーンを経て、助けてくれた生徒にお礼として、袖山から食事に誘ったり弁当を渡すように指示をしたのだろう。
 そしてまた、他の生徒に絡まれている袖山を助けたお人好しな生徒の前に見せつけ、助けるシーンを撮影する……概ねこんな策略を練って、相手側をハメる形で撮影をしたのだろう、というのは何とはなしにわかっていた。

 あらゆることを予測していた荒井にとって、その「相手役」が新堂だということだけが、完全に予想外の出来事だった。

「どうして新堂さんなんですか!?」

 もらったデータの編集をしようと映像を見た時、荒井の口からついそんな言葉が出る。
 だが同時に、あの脚本を相手側に黙って撮影させるのなら、助けに入る最有力候補の一人が新堂であるのはある意味必然のようにも思えた。

 新堂はボクシング部の部長で腕っ節には自信があり、鳴神学園の不良相手なら臆する事はない。
 袖山とも顔見知りだから、もし妙な輩に袖山が絡まれているのを見たら間違いなく助けに入るだろう。
 袖山が食事に誘ったり、お弁当を作ったりしてきても特に警戒することもなく、自然に受け入れるのも想像に難くない。

 だが、周囲に公言してないとはいえ自分の恋人が他の相手を前に、あたかも恋をしているかのように振る舞う姿を見るのは穏やかではない。
 相手が袖山だということと、事前に深い恋愛シーンはしてないと聞かされてなかったら嫉妬で狂っていただろう。

「どうしてなんですか……何でなんですか、どうして……どうして……」

 自然と漏れる言葉を止めることなく、荒井は時田の希望通り編集を続ける。
 不良に絡まれている袖山を助け出すシーンも、昼食に誘うシーンも普段の新堂と代わらぬ口調なのを見る限り、撮影だということは本当に知らなかったのだろう。カメラに一切目線を向けてないことからも、全て時田の隠し撮りだったのがわかる。
 新堂からすれば、何も意図してないのに巻き込まれたようなものだろう。だから、荒井が嫉妬をするのはお門違いだということも理解できる。

 だがそれでも、いかにも袖山に好意があるかのような演出を編集しなければいけないのは荒井を苛立たせた。BL作品というのも恋愛要素が多分に含まれているものであり、映像からも擬似的に新堂と恋愛をしているかのような演出が多いのも苛立ちを加速させる。

 違う、新堂の好意は自分だけのものだ。
 他の誰かに向けられていいものではない。

 時田の作り出した偽りの話だとわかっていても、あたかも袖山に好意を寄せるように描かれ、映画を見ている人間からすれば誰から見たって好青年に見えるように演出された新堂を見ていると焦燥感にかられる。

 この作品を見た人間はきっと新堂を好意的に見るのだろう。
 それを考えただけで、得体の知れない感情が胸の内からこみ上げてくるのだ。

 それでも編集を耐えたのは、やはりそれが作り物だとわかっていたことと、時田の映像技術が素晴らしい水準だったことがあるだろう。
 袖山は演技としてやるように言われているのはわかるが、相手が年上の新堂だというのもあり、会話がぎこちなく続かなくなるのはかえってリアリティがあり惹きつけられる。今回は外部の持ち込み脚本で、その脚本もなかなか魅せる展開なことや、時田の演出が優れていることもあり、苛立ちよりこの作品を見たい、作り上げたいという気持ちが勝っていたのだ。

 所詮は時田の作品として演出されたものだ。
 自分の恋人である新堂の姿とは別なのだから、何も焦ることはない。

 心の中でそう言い聞かせ作業をする荒井の手が、あるシーンで止まる。
 それは、主人公の袖山が告白しようとし必死になって言葉を紡ごうとするが何も言えない姿を見て、焦れた新堂が先に告白をする、というシーンだ。

「まてよ、俺に言わせてくれ。……好きだぜ。おまえの、優しいところも鈍くさいところも、全部な」

 袖山の肩をしっかり掴み、ぎこちない笑顔で語られる愛の言葉は、今まで見たシーンと比べ随分と演技っぽさを感じる。
 カメラのある方向も意識しているようだから、このシーンを撮る時は新堂にネタばらしをし、作品作りの協力をとりつけたのだろう。
 この台詞も台本があり、言わされている言葉だというのはわかる。
 だが不器用に笑う姿も、台詞回しも、全てが荒井のよく知る恋人としての新堂が見せる顔だった。

「どうしてなんですか新堂さん。あなたは、誰にでもそういう顔が出来るんですか?」

 焦りに似た怒りと、嫉妬の混じった苛立ちからついそう声が漏れ、気付いた時はスマホを手にしていた。

 新堂に連絡をして、この映画のことを問いただそう。
 どうして袖山にあんな笑顔を向けたのか、どういう思いを抱いてあんな台詞を言ったのか。
 普段自分に向けている笑顔も言葉も、全部演技だったのか、それを聞かなければ。

 通話をしようと思うが、一呼吸おいてメッセージを送ることにした。
 今、新堂の声を聞いたら冷静に対応できず、感情的な言葉をまくし立ててしまいそうな気がしたからだ。

「新堂さん、時田くんから作品の編集を頼まれました。出演してたんですね」

 あくまで冷静を装いメッセージをおくれば、すぐに返事がくる。

「あぁ、見たのか? ひでぇよなぁ、袖山を助けたつもりが、ずーっとハメられてたみたいだな」
「えぇ、映像を確認しました。殆ど隠し撮りみたいですね」
「ネタばらしされた時はぶん殴ってやろうかと思ったが、あの時田って奴のペースに完全に飲まれちまってな。なぁなぁのうちに、撮影に参加することにされて、参ったぜ。演技の経験なんてねぇから、見て笑うなよ?」
「笑ったりしませんよ。時田くんの作品ですから。ただ、その……最後のシーンで、袖山くんに告白するシーンが」
「待て、もうそこまで見たのか? やめろ、あれは告白しろって言われて、最初に準備された台詞が恥ずかしくて言えなかったから半分くらいアドリブなんだよ」

 それまですぐに来ていた返事が、僅かに留まる。荒井もまた、先の言葉をどう続けていいのかわからず考えていると、先に新堂からメッセージが届いた。

「台詞言えないなら、何でもいいから告白っぽいことしろって時田に言われてなぁー。アレコレ考えてもずーっとダメだったんだけどよ。袖山のことお前だと思って言ってみたら、やっとオッケーもらえたんだぜ」

 思わぬ言葉が、胸を貫く。
 照れた顔も、震えた言葉も、いつもの自分が知る新堂だと思っていたが、実際その通り、自分に向けられた言葉だったのだ。

「何ですか。僕のこと、優しいとか鈍くさいって思ってたんですか」
「そこは、袖山に置き換えた奴だよ。お前のことは……わかってんだろ。いつも言ってんだから」
「そうですね。今度改めて、新堂さんの口から聞かせてもらいます」

 荒井はスマホを置くと、編集中の画面を見る。
 最初見た時はあれほどうろたえたというのに、今はぎこちなく笑い、懸命に言葉を探す新堂の姿が何よりも愛しく思えた。

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ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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