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インターネット字書きマンの落書き帳

   
桜の木の下には、死体が埋まっている(新堂と荒井と坂上)
新堂と荒井と坂上が出る話です。
特にBLではないんですが、新堂×荒井を書いている人がかいているため、出汁が出てたら……ラッキー! って思ってください。
俺の出汁は美味しいゾ♥

桜がぼちぼち咲き始める季節なので、梶井基次郎の短編「桜の木の下には」をモチーフにした話を書きました。
作中で頻繁に引用していますので、よかったら「桜の木の下には」も読んでください♥

青空文庫「桜の木の下には」(梶井基次郎)はこちらからどうぞ

話としては、部室で記事を書いていた坂上くんのところに「死体さがそうぜ!」って遊びにくる新堂と荒井といっしょに、桜の木の下を掘る話です。

桜の木の下には屍体が埋まっている!
これは信じていいことなんだよ。



『桜の木の下には、埋まっている』

 錆びたスコップを肩に担いで、新堂誠は笑っていた。

「よぉ、坂上。死体を探しにいこうぜ」

 隣には荒井昭二が俯きながら、試すような視線を坂上修一へと向けている。
 二人とも、先の集会で知り合ったばかりの先輩だ。
 運動好きでスポーツ万能の新堂と家でゆっくり読書をするのを好みそうな荒井が連んでいるのは意外な気がしたが、二人とも怖い話に対する好奇心は強く、夕焼け時ともなれば怪異・幽霊・妖怪とあらゆる噂が飛び交う鳴神学園でも好んで幽霊が出るというスポットに出かけては、本当に何かいるのか確認しにいくタイプである。死体を探しに行こうというのも、何かしら奇妙な噂を聞いてのことだろう。

「死体を探すとか、物騒ですね。どこを探すつもりですか?」

 坂上は書きかけていた新聞記事をファイルすると、のろのろと立ち上がる。
 新堂に逆らっても首根っこをつかまえられて無理矢理引きずられるのはわかっていたし、集会を終えてからは以前より怖い話に対しての恐怖感が薄れていたからだ。これは、鳴神学園に通う以上、怪異の噂をよく聞いて場所を把握しておかなければ自分が巻き込まれるのだということを、身をもって体感したからというのもあるだろう。もちろん、運が良ければ新聞記事にしようという打算もある。

「桜の木の下を掘ろうと思ってます。部室棟からも見える、今頃咲いた桜の木があったでしょう。桜の木の下には、死体が埋まっているに違いありませんから」

 本気か冗談か、荒井はそう告げると微かに笑う。部室の窓からは、僅かに花を付けたソメイヨシノの花弁が揺れていた。
 季節は秋だが、今年は小春日和と呼ぶに相応しい暖かい日が多かった。そのせいか、今、新聞部から見える桜の木は八分咲きになっている。時々、冬を越えたと勘違いした桜が秋に花開くことはあるということを、坂上は歩きがてらに荒井から聞いた。秋に咲いてしまった桜は、春にはつぼみが育ちきらず咲く事がないということも。

「だから、桜の木の下には死体が埋まっているんです」

 荒井は最後にそう告げたが、何で「だから」なのかはさっぱり分からなかった。
 秋に咲く桜は魔性を秘めているとでもいいたいのだろうか。首を傾げる坂上の隣で、スコップを担いでいた新堂は歩きながら諳んじた。

「桜の木の下には死体が埋まっている! これは信じていいことなんだよ」

 詩だろうか。それとも何かしらの物語だろうか。

「俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だった。しかしいま、やっとわかるときが来た。桜の木の下には屍体が埋まっている。それは信じていいことだ」

 涼しい声で朗々と語られるそれは、どこかで聞いたことがある気がする。だが、思い出せない。新堂のオリジナルといった訳ではないだろうが、何の話から抜粋したのだろう。首を傾げる坂上を振り返ると、新堂は意外そうな顔をした。

「梶井基次郎の短編だぜ。知らないか? 『桜の木の下には』ってやつだ」
「そうなんですか、知りませんでした。新堂さんすごいですね、暗記してるんですか」
「一年の頃、教科書に載ってたんだよ。ここまで暗記すればテストに加点してくれるって言うから覚えただけだぜ。今年、お前も習うんじゃ無ェのか」

 新堂は再び前を向くと「桜の木の下には、桜の木の下には」とリズムを取るように口ずさむ。
 こんな不気味な話を教科書で習ったりするのだろうかと思ったが、鳴神学園の教科書には載っているのかもしれない。坂上はまだ全て読んでいない現代文の分厚い教科書のことを思い出していた。

「僕の頃は習いませんでしたから、もう無くなっているのかもしれませんよ。鳴神学園の教科書も気まぐれなものですね。僕はその作品、嫌いではないので習えるかと期待していたのですが」

 荒井は新堂を見ないまま、部室棟の渡り廊下におかれた長靴へと履き替える。渡り廊下にはどこからもってきたのか、坂上が履けそうな長靴と手袋、大きめのスコップなど穴を掘る道具が一通り準備されていた。

「さぁ、桜の木の下には死体が埋まっているのか確かめに行きましょう」

 新堂も荒井も、どこまで本気なのだろう。
 坂上は本当に死体が見つかったらどうしようかという不安と、そんなことあるはずがないという思いを揺らしながら二人の後をついていった。見れば桜の木の根元は、坂上の膝丈くらいまで掘られている。

「ここまで掘った時にな、新聞部の部室からお前の姿が見えたもんで、お前もつれてくるかって話になったんだよな」

 八分咲きのソメイヨシノは季節外れの花弁を舞い落とし根元をうっすらとピンク色に染めている。
 顔をあげればちょうど新聞部の部室が見える位置であった。
 他の部がすでに灯りを消してあるのに、新聞部だけは坂上が長っ尻して記事を書いていたから薄暗くなったこの場所でも坂上の姿は目立ったことだろう。つまり、根元を掘り続けていた新堂と荒井からはずっと坂上が見えていたということだ。
 それに気付いた坂上は急に気恥ずかしくなっていた。記事を書いている途中、変なことをしてなかっただろうか。頭を掻いたりため息をつくのはいつも通りだが、眠りそうになってガクンと身体を揺らしていたのを気付かれたら恥ずかしい。

「心配しなくても、お前の恥ずかしい格好なんて見てねぇよ。ふっと窓を見たらまだ灯りが付いていて、お前の影が見えたから声をかけたってだけさ」

 新堂は坂上の心を見透かしたように笑うと、スコップで穴を掘り始めた。筋肉質の新堂をもってしても粘度の高い土は掘りにくいらしく、作業は思いの外難航している。
 掘るのは新堂が主で、周囲に出来た邪魔な土をどけるのが荒井と坂上の役割だった。長時間穴を掘り続けて新堂のペースが墜ちてきたら、少しの間は荒井と坂上が交代で穴を掘る。そうやって分担しながら作業をしていれば最初は膝丈ほどしかなかった穴は、少しずつ大きく広がっていった。

「桜の木の下には、死体が埋まっている」

 穴を掘るとき、坂上も自然とそう口ずさむようになっていた。

「桜の木の下には、死体が埋まっている」
「何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか」

 湿った土はずっしりと重いというのに、桜の木は凜とした美しさをもって学校内でただ一つ、淡い花弁を咲き誇らせている。
 薄い桜色の花弁は死体のもつ血の毒々しさもなければ饐えたような生臭さも一切感じさせず、ただ美しくそして清楚なまま佇んでいるが、なるほど、これだけ美しければどこかに醜いものを抱えていなければ不自然だと思っても仕方ないだろう。
 新堂もそうだ。
 三年間ボクシング一筋で練習に打ち込み、夏の大会では大きな成果を出した彼の身体は均整が取れて美しい。だが彼がそこまで上り詰める為に、人知れずしたのは努力だけではなかったのだと、数々の噂が囁かれていた。
 同級生を陥れて二度と練習ができない身体にした。下級生をダシにして悪い輩と連んでいる。ギャンブルで借金をし恐喝まがいの暴力沙汰を何度もおこしている……数多の噂は噂に過ぎず真実とは限らないが、その後ろ暗い秘密こそが新堂の美しさに続いているような気がした。

「しかしいま、やっとわかるときが来た。桜の木の下には、屍体が埋まっている。これは信じていいことだ」

 掘り出した土をどけながら、荒井も自然と口ずさむ。
 荒井だってそうだ。
 彼は人形のように美しい。華奢な身体に透き通るような白い肌、長い睫毛、整った顔立ち。坂上から見てもどきっとするような美しい少年である荒井の周りで消えてしまった友人やクラスメイトは他よりずっと多いのだという。
 皆、荒井に深入りしすぎたがために消されたと言われている。荒井は人を殺すのに何の躊躇いもない殺人鬼なのだとも。そもそも荒井はもう10年以上も変わらぬ姿で生きている不老不死の化け物だとか、誰かが作った人形だとか、そんな突拍子のない噂まで学園内には流れていた。
 だけどそれでも、荒井が美しい少年であることは何らかわりはしないのだ。
 美しいから奇妙な噂がたつのか、奇妙な噂通りの出来事があったから美しいのか、坂上は判別できなかったが。

「ああ、桜の樹の下には屍体が埋まっている……」

 繰り返し口ずさみ、気付いた時には坂上がすっぽり入れる程の穴になっていた。
 当然、屍体が出てくることはない。木の根で育っていた白い芋虫や沢山の蟻が巣をひっくり返され驚いて出てきただけだ。

「屍体、ありませんでしたね」

 死体が見つかった方が大事件なのだから見つからない方がいいのだが、何もなかった安心より寂しさのほうが勝っていた。
 桜はこんなに美しいのに、何の秘密も何の罪も抱えていないというのか。僅かに空を仰げば、薄い桜色の花弁が夜空に舞い散り坂上の手元へと墜ちてきた。

「そうだな、これだけ掘っても出てこなきゃ、なさそうだな」
「ここならありそうだと思ったんですけどね」

 二人は悪戯っぽく笑うと、坂上へと手を伸ばす。一瞬だけ坂上はこのまま二人に頭を殴られ埋められてしまうのではと恐怖したのだが、杞憂だったようだ。坂上はその手をとって、何とか穴から這い出てくれば思ったよりずぅっと大きな穴がぽっかり口を開けていた。これは埋めるのも大変だろう。そう思いながら穴をのぞき込んでいた坂上の隣に、荒井はどさりと重い袋を投げ出した。

「それじゃぁ、これを埋めておきましょう」

 置かれたのは5,6個の頭陀袋だった。口がしっかり結ばれているから何が入っているのかわからないが、一つ一つはずっしりと重く、どこか血腥い。
 まさか、と思って顔をあげれば、新堂は八重歯を見せて笑っていた。

「ビビってんじゃ無ェよ。本当の死体な訳ねぇだろ。頭陀袋に血糊をぶちまけて、少し砂が入ってるだけさ」
「そ、そうなんですか。な、何でそんなことを……」
「桜の木の下には、死体が埋まっている……僕たちみたいなことを考えて、ふと桜の下を掘ってみた後輩がいた時、何もなかったら可愛そうでしょう。先輩たちからの、悪戯という名のタイムカプセルですよ」

 荒井は淡く笑うと頭陀袋を穴へと投げる。ずしゃりとした水っぽい音は、ただの砂袋なのか疑わせた。

「本当に死体が入っていると思ってますか? ……確かめてみます?」

 途中、荒井は大きめの袋を差し出すと妖艶な笑みを浮かべる。だが、その袋を開けてしまえばもっと恐ろしいことがおこる気がして、坂上は黙って首を振った。
 桜の木の下に、死体など埋まっていない。
 そんなものがなくても、桜は凜として美しいものなのだから。
 全ての袋を放り込み、穴をすっかり元通りに埋め直したころはすっかり夜になっていた。

「遅くなっちまったなぁ」

 制服に土汚れを残したまま、新堂は笑う。

「僕の家なら鳴神学園から歩いてすぐですよ、良かったら寄っていきますか。新堂さんと坂上くんなら泊まっていってもかまいませんよ。僕の家には滅多に両親がいないので……」

 荒井に誘われたが、坂上は一人で家に帰ることにした。疲れた身体をたっぷり休めるために自宅の湯船につかりたいのもあったし、今は両親の元に返って母の作った食事を食べなければ日常と非日常の区別が曖昧になり、人間側と怪異側が入り交じった世界に置き去りにされるような、そんな気がしたからだ。

「僕は帰ります。新堂さん、荒井さん、ありがとうございました。今日は、僕もちょっと楽しかったです」

 手を振ってから立ち去る帰り道、坂上は自然と口ずさんでいた。

「桜の木の下には、屍体が埋まっている」

 だからきっと、美しいのだ。美しさに最もな理由があれば、それでやっと安心する。
 屍体がないのなら、屍体を埋めておこう。次の誰かが、桜の美しさはやはり死がそばにあるのだと納得と理解を得るために。
 そう思ったから、坂上は二人がする悪戯の意味も、何となくだが理解出来た。

 二人と別れて家に帰ってから、新堂はあまり話す機会もないまま卒業していった。鳴神学園と系列の大学に行ったとは聞いていたが、それから連絡をとっていもいない。
 さらに一年後、荒井もまた卒業していく。彼とは一年、勉強を教えてもらったり新聞記事の編集を手伝ってもらったりと色々世話になったというのに、荒井がどこに学校に行ったのかはとうとう教えてもらえなかった。進学したのは間違いないようだが、結局最後まで聞けずじまいだったのだ。

「坂上くんに教えるのは失礼にあたりますよ。あなたは、僕や新堂さんとは違う人ですから」

 卒業式の少し前、そういって笑った彼の顔が妖しくも美しい笑顔だったのだけは、強く記憶に残っている。
 坂上も受験を終え、間もなく卒業となる。来年度からは晴れて大学生で、2年前に卒業した日野と同じ大学に行くことになるだろう。新聞部での活動がきっかけで記事を書くことや編集作業に興味がわいたから、また日野に教わることもあるだろう。倉田も同じ学校だったから、久しぶりに新聞部の仲間たちが集まれそうだ。
 春からの期待に胸を膨らませる坂上の目に、すっかり膨らんだ桜のつぼみがとまる。最近は早く開花するようになったという桜を見ると、坂上はあの薄暗い夜にひたすら穴を掘った日のことを思い出すのだ。
 桜の木の下には、死体が埋まっている。
 そう呟きながら穴を掘り、何かを埋めたあの日のことを。
 本当にあれは、ただの砂袋だったのだろうか。それとも、実は誰かの屍体で桜の木の下に、本当に屍体を埋める事になったのだろうか。だとしたら、あの桜はもっと美しく華やかに咲き誇っているのではないか。そしていつか、同じ言葉を口ずさみ根元を掘る生徒が死体を見つけたりするのだろうか。
 曖昧な空想を抱きながら、坂上の口から自然と言葉が漏れる。

「ああ、桜の木の下には屍体が埋まっている……それは、信じていいことなのだ」

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東吾
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インターネット駄文書き
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ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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