インターネット字書きマンの落書き帳
誕生日プレゼントを渡しに風間ん家に行く坂上(BL)
風間さんの誕生日には、坂上くんからプレゼントをもらうためわざわざ学校まで来る風間さんを書きましたが、これを書いていて「今年の3月3日は日曜日だし、風間の家までプレゼントを渡しにくる坂上も書きたいなぁ」と思ったのでそのようにします。
ここまで挨拶。
風間の家にプレゼントを渡しにいって「プレゼントは僕でーす」と言ったがばかりに本気にされてしまい押し倒される坂上くんの話を……してますよ!
坂上に拒絶されてちょっと風間がうじうじしたり、でもすぐ仲直りしてイチャイチャする感じの話を……してます!
左右に拘りはないので皆さんお好きな解釈でどうぞ♥
何でもお好きな解釈でどうぞしてしまう、俺はそんな悪い大人なんだ。
ここまで挨拶。
風間の家にプレゼントを渡しにいって「プレゼントは僕でーす」と言ったがばかりに本気にされてしまい押し倒される坂上くんの話を……してますよ!
坂上に拒絶されてちょっと風間がうじうじしたり、でもすぐ仲直りしてイチャイチャする感じの話を……してます!
左右に拘りはないので皆さんお好きな解釈でどうぞ♥
何でもお好きな解釈でどうぞしてしまう、俺はそんな悪い大人なんだ。
『特別な日の特別なキス』
3月3日、たまたま休日だったのもあり坂上は風間の家を訪ねていた。今日が誕生日の彼にプレゼントを渡すためだ。
3月1日の卒業式をもってすでに鳴神学園から離れた風間にわざわざプレゼントを届ける義理もなければ、在学中の風間には迷惑ばかりかけられてお礼を言う必用もないだろうと日野にはからかわれたが、出会った頃は繰り返し繰り返し「3月3日がボクの誕生日なんだ、卒業した後になるけどプレゼントはいつでも受け付けるからね」なんて軽口を叩いていた風間が、受験シーズンに入ってから殆ど顔を合わずに過ごし、卒業式も顔を合わせるまえに帰ってしまったから、せめてきちんと対面し何か言葉を交わしたいと、そう思ったのだ。
在学中は毎日のように絡んでは「500円」「500円」と繰り返していたのに、卒業前には急によそよそしくなりサヨナラも言わせてくれないなんて随分と不躾な扱いをされたものだと抗議の一つでもしてやるつもりだと周囲には語っていたが、つまるところ最後に一目でも風間の姿を見ておきたかったからである。
散々と迷惑もかけられたし、面倒に思うこともあったのだが、それでも坂上は風間のことを決して憎いと思ったことはなかったのだから。
「いやぁ、わざわざ来てくれたんだねぇ坂上くん、ありがとう。ちょっと散らかっているけど上がってくれたまえよ」
出迎えた風間はラフな姿をしていた。案内された自室にはいくつもの段ボールが並んでいて、まさに片付けの真っ最中のようだ。風間からは何も聞いてないが、おそらく四月から家を出て、一人暮らしを始めるのだろう。
進学するのかそれとも就職するのか、地元に留まるのか都会へ行ってしまうのか、鳴神学園にいる時も何度か聞いたのだが「さぁ、どうだろうね。ボクを求めているオニャノコたちはたーくさんいるから、中々決められないんだよ」なんてのらりくらりと言い逃れをされ、卒業式が終わった今でも風間がどこに行くのか聞けてはいない。
部屋にあがった坂上は自分の座れる場所が無いのに気付くと仕方なく風間のベッドへ腰掛けた。
「それで、何の用があって家まで押しかけて来たんだい? ボクが鳴神のアイドルだから会えなくなって寂しいのはわかるけど、見ての通り。今は片付けで忙しくて……」
久しぶりに会ったが、相変わらずの軽口は健在のようだ。坂上は記憶と違わぬ風間の姿に密かに安堵を抱いていた。
「何言ってるんですか、風間さん。今日は風間さんの誕生日でしょう。散々僕にに3月3日は誕生日だから婦前途を強請っていたじゃないですか」
坂上の言葉にれ、風間は目を丸くする。鳴神学園にいた時は毎日のように500円をねだり、そのついでに誕生日を吹き込んではいたが実際に覚えているとは思っていなかったのだろう。自身も新生活の準備に忙しくて忘れていたに違いない。
「そうかそうか、わざわざプレゼントを届けてくれるなんて殊勝なことだねぇ。うんうん、流石坂上くんだ。ボクがいかに大人物かわかっているじゃぁないか。嬉しいなぁ、それで何をもってきてくれたのかな」
嬉々として坂上の隣へと腰掛ける風間を見ているうちに、坂上の中にある僅かな悪戯心が急にムクムクと肥大する。
坂上が誕生日の時、風間は手ぶらでやってくると教室内で両手を広げ「坂上くん、プレゼントはボクだよ。一日このボクをキミが好きなように占有したまえよ。鳴神のプリンスであるボクを独り占めできるなんて、最高の栄誉だろう?」なんて高らかに宣言したものだから、クラスメイトに「坂上は上級生を飼い慣らす同性愛者なんだ」というあらぬ噂をたてられて随分とからかわれたのを思い出したからだ。
一年生の殆どが上級生である風間の生態を知らなかったことと、風間が顔とスタイルだけ見れば長身の美男子だということ、自覚はないが坂上も他の生徒たちから可愛らしい外見だと思われていること、それを何処からか聞きつけた倉田が「なになに!? 坂上くんに彼氏爆誕!? 日野さんのことはどうするの!? 三角関係? 本当は日野さんが好きだけど鳴神のプリンスを自称する風間さんに迫られて困る、けど冷たい日野さんより優しくしてくれる風間さんのほうが……と心が揺れる坂上くん!? 恵美ちゃんに任せて、三人とも幸せにしてあげるから!」と意味のわからないことを言い出し、10万文字を超える大作BL同人誌を作った結果、根も葉もない噂がたてられなかなか消えなかったのだ。
仕返しにはならないだろうが、あの時自分が受けた迷惑と困惑を少しでも味合わすことができれば良い。それで風間の記憶に少しでも自分が残るのなら、多少は気も晴れるというものだ。
「プレゼントは僕ですよ、風間さん……今日は一日だけ僕の事、好きにしていいですから……」
坂上にそう言わせたのは、そのような思いからだった。
上目遣いで風間の様子をうかがえば、言葉の意味をどう捉えていいのか推し量っているのだろう。風間はきょとんとした顔で坂上の顔を見ている。少しは驚いているのだろう。普段そんなことばかり言うような風間でも、同じ事を言われるとやはり戸惑うのだ。いつも困らせられてばかりいたから、困った顔をする風間を見るのは面白い。
だが、あまり黙っているとまた風間から「キミのみすぼらしい身体なんて使える場所がないじゃないか、いらないよ」なんて冷淡に追い出されてもいけないし、そろそろ冗談だとネタばらしをして鞄に入れたプレゼントを渡しておこう。
そんな風に考えていたのだが、坂上は気付いた時ベッドに押し倒されていた。風間のベッドに座っていたのだから肩を強く押されただけでベッドに押し沈められるのは必然だろう。風間とは体格が違うのだから、抑えられたら身動きも取れない。
「ちょっ、風間さん……」
待ってください。その言葉を告げる前に風間の唇が重なっていた。
キスをしているんだ。理解するより先に舌が滑り込み、口の中をかき回す。生温かな舌が絡み、互いの唾液が混ざり合う最中も坂上はそれを拒もうとせず、懸命に舌を絡めてくる風間にあわせるよう互いの唇を舐り続けている自分にも少し驚いていた。
お互い決して上手ではない、むしろ不慣れなキスだったろう。心地良さよりむず痒いようなじれったさが勝り気持ち良いわけでもないのに、坂上は風間からの口づけを驚くほど自然に受け入れていたのだ。
まるで最初から、プレゼントは自分だと告げた時からそれを望んでいたかのように。
「あ、ご、ごめん。キミが急にそんなことを言うから、つい……」
風間自身も自分の行動に驚いたようで、しどろもどろになり視線を逸らす。困惑して慌てる風間を見るという目的は達したが、まさかキスをされるとは思っていなかった。それに対して嫌悪感を抱かないことも、むしろ少し喜ぶ気持ちの方が勝っていることも。 全てが坂上にとっても予想外の出来事だったのだ。
「な、何でこんなことするんですか!? 誕生日に、僕をとか……冗談のつもりだったのに……」
驚きと困惑で冷静になれぬまま思考ばかりが渦巻く最中、坂上は殆ど反射的にそんな言葉を漏らしていた。これは、本心と言うよりも自分の迂闊さで風間の心を乱してしまったのではないか。風間も気まぐれで自分をからかったのではないかという不安から自分を守りたい気持ちから漏れた、心にもない言葉である。
だがその言葉を聞いた風間は見たこともないほど狼狽えはじめた。
「えぇっ、冗談だったのかい!? キミがボクの部屋に来て、そんなことを言うからてっきり、その……いいのかな、って思って……」
後半は殆ど消え入りそうな声になる。本当に反省しているのだろう。坂上は身体を起こしベッドに腰掛けると、風間の様子をうかがった。普段の明朗でふざけた態度は、今は鳴りをひそめている。
「風間さん、僕にこういうことしたかったんですか。ずっと? ずっと僕のことそんな風に見ていたんですか?」
「いや、その。ち、違うんだよ坂上くん。そりゃぁ、キミはからかい甲斐があるし、優しいし、可愛い後輩だと。そう、思っていた。思っていたんだけどねぇ……」
風間は自分の毛先を指先で弄りながら坂上から目をそらしていたが、やがて意を決したように向き直ると坂上の両肩をしっかりと掴んでいた。
「……卒業して、もうキミに会えなくなると思うと無性に寂しかったんだよ。キミはまだ一年生だろう? 二年生になれば後輩が出来て、学校生活にも慣れて、新聞部で良い先輩になる。そうしている内に隣にはボクじゃない誰かがいて、楽しい学園生活を送るんだろうと思うと、胸が焼けるように痛いんだよ。その道にはもうボクはいないんだと思うと、寂しいし、悔しいしで、何でボクはあんなに時間があったのに、もっとキミと話をしなかったんだと思って気が狂いそうになるんだ」
坂上の肩をつかむ腕の力が、ぐっと強くなる。きっと指の痕が残るだろうと僅かに思ったが、こんな風間の姿を見るのは初めてだったから、肩の痛みなど感じる暇もなかった。
「だから、卒業式でもキミへの挨拶は簡素に済ましたつもりだったんだ。顔をあわせたら話さなくてもいいことまで言ってしまいそうだったから。誕生日だってキミに会おうとも思わなかった。キミに何か期待して、施されてしまったらボクはきっとこの思いがどうしようもなく止められなくなるって、そう思ってたから。だけど、キミは来てくれて、そんなことを言うから……」
風間は坂上から手を離すとがっくりと項垂れる。長い髪が邪魔をして、どんな顔をしているのかはわからなかった。だがその背中は、まるで泣いているようだった。
「だから、期待しちゃったんだよねぇ。ほら、ボクって格好いいだろう? 背だって高いしスタイルもいい。自分に自信があるとかナルシストなんて言われてるけど、ボクなりに自分の顔と身体の価値はしっかり心得てるつもりだから、ひょっとしたらキミがボクの事を好きになってくれているかもしれないなんて、そんな風に思っちゃったんだよ。はは、これがキミと会うのは最後だろうって時に、こんな笑えない冗談しか言えないなんて。風間望の名が廃るってものだよねぇ。でも……今は、本当に、何の笑い話も出来ないんだ……ゴメンよ」
こんなにも不安定な気持ちを風間が吐き出しているのは初めて見た。そしてこれは恐らく、本心なのだろう。坂上は項垂れたままの風間の髪を上げ彼の顔を見る。風間は目にいっぱいの涙をためて、それでも精一杯の作り笑いを浮かべていた。
「何するんだい、いまさらボクの顔を見たって、面白くはないだろう。それともキミはこんな惨めなボクを見て笑いものにするほうがお好みかな。いや、わかってるさ。キミは優しいからそんな風に思わないよね。だけどその優しさは罪作りだよ。ボクのように誤解して、変な事する輩だっているだろうから、あんまり安易に妙なことを言わない方がいい。ボクみたいに惨めに引き下がるような情けない男ばっかりじゃないんだからね」
いままで風間はずっと思いを秘めて接してくれていたのだろうか。道化を演じることで、坂上の思いを誤魔化していたのだろうか。いや、風間はもともと冗談言い、ふざけた話で場を茶化すタイプの人間だから、誤魔化すための道化芝居ではなかっただろう。
だが、卒業が近くなるにつれ坂上と会う回数が減ってきていたのは実感していた。受験するにも就職するにも忙しい時期だからだろうと考えていたが、風間が意識的に避けていたのだろう。
だから坂上も、諦めようと思ったのだ。距離をとられたのなら、このまま自分も思いを秘めて離れてしまおうと。こんな淡い恋心は、離れてしまえばきっと忘れられるだろうと、そう思っていたから。
「風間さん、僕は……僕も、風間さんのこと好きですよ」
だけど、お互い本心からそう思っていたのなら今さら何を隠す必用があるのだろう。
思い切って告げる坂上を見ようともせず、風間は小さく首を振るだけだった。
「やめてくれたまえよ、慰めを言うのは。ボクは本気なんだから、いまさらキミに優しくされるのはかえって惨めじゃないか」
風間の言うことも最もだ。
坂上の言葉ですっかり舞い上がっていた所、いきなり拒絶されれば誰だって心が折れるだろう。坂上が試すような真似をしたばかりに、かえって風間の傷つけてしまった。それだけのことをしたのだから、言葉だけで伝えるのはどだい無理な話だろう。風間が本当に宇宙人や超能力者で、坂上の頭を覗いていればこちらの思いもわかってくれるはずなのだが、彼はどこにでもいる18歳になったばかりの、少し困った先輩でしかないのだから。
「だから、もう帰ってくれないかな坂上くん。引っ越しの準備で忙しいから……」
突き放すような語気で告げ立ち上がろうとする風間の手を握ると、坂上は殆ど夢中で彼の身体にすがると唇を重ねていた。
風間はしばらく驚いたような目で坂上を見つめていたが、静かに目を閉じると彼の身体を抱きしめる。 最初に風間と交わしたキスと比べれば触れるだけの稚拙なキスだろう。だけど、下手な言葉を語るよりずっと心に響いたはずだ。唇を離した後も、風間は驚きと戸惑いが入り交じった顔で坂上を見つめていた。
「冗談めかして伝えるのって逆効果ですね。僕も……風間さんのこと、好きです」
「さっ、坂上くん。そ、それは冗談じゃないよね。ボク、本気にしちゃうけど……いいのかい?」
不安そうな顔でこちらを見る風間を安心させるよう、もう一度キスをする。
その唇を受けて、強張っていた風間の身体は幾分か力も抜けて行き、唇を交わす坂上の身体を抱き留めるくらいの余裕は出来ていた。
「あぁ……冗談じゃないよね。今さら、やっぱり嘘ですなんて言わないよねぇ」
「風間さんじゃぁないんですから、そんなこと言いませんよ。それとも、もう一回言って欲しいですか? ……好きです、風間さん。遅くなったけど、やっと言えました。風間さんは、どうなんですか? 僕しか好きだと言ってないから少しだけ……不安です」
「うーん……ちょっと、考えさせてくれるかな。キミとキスをする時間に、もう少し浸っていたいから……ね、もう一回キスをしよう。そうしたらボクも、キミに思いを伝えるよ。それくらいのワガママ許してくれるよね。ボクの誕生日なんだから」
風間は坂上の身体を抱き寄せ、照れたように笑う。
「仕方ないですね……いいですよ。風間さんのワガママには、慣れてますから」
坂上は目を閉じると、三度唇を重ねる。
とけるほどに甘いキスというものはきっと、誕生日に相応しいプレゼントなのだろう。
3月3日、たまたま休日だったのもあり坂上は風間の家を訪ねていた。今日が誕生日の彼にプレゼントを渡すためだ。
3月1日の卒業式をもってすでに鳴神学園から離れた風間にわざわざプレゼントを届ける義理もなければ、在学中の風間には迷惑ばかりかけられてお礼を言う必用もないだろうと日野にはからかわれたが、出会った頃は繰り返し繰り返し「3月3日がボクの誕生日なんだ、卒業した後になるけどプレゼントはいつでも受け付けるからね」なんて軽口を叩いていた風間が、受験シーズンに入ってから殆ど顔を合わずに過ごし、卒業式も顔を合わせるまえに帰ってしまったから、せめてきちんと対面し何か言葉を交わしたいと、そう思ったのだ。
在学中は毎日のように絡んでは「500円」「500円」と繰り返していたのに、卒業前には急によそよそしくなりサヨナラも言わせてくれないなんて随分と不躾な扱いをされたものだと抗議の一つでもしてやるつもりだと周囲には語っていたが、つまるところ最後に一目でも風間の姿を見ておきたかったからである。
散々と迷惑もかけられたし、面倒に思うこともあったのだが、それでも坂上は風間のことを決して憎いと思ったことはなかったのだから。
「いやぁ、わざわざ来てくれたんだねぇ坂上くん、ありがとう。ちょっと散らかっているけど上がってくれたまえよ」
出迎えた風間はラフな姿をしていた。案内された自室にはいくつもの段ボールが並んでいて、まさに片付けの真っ最中のようだ。風間からは何も聞いてないが、おそらく四月から家を出て、一人暮らしを始めるのだろう。
進学するのかそれとも就職するのか、地元に留まるのか都会へ行ってしまうのか、鳴神学園にいる時も何度か聞いたのだが「さぁ、どうだろうね。ボクを求めているオニャノコたちはたーくさんいるから、中々決められないんだよ」なんてのらりくらりと言い逃れをされ、卒業式が終わった今でも風間がどこに行くのか聞けてはいない。
部屋にあがった坂上は自分の座れる場所が無いのに気付くと仕方なく風間のベッドへ腰掛けた。
「それで、何の用があって家まで押しかけて来たんだい? ボクが鳴神のアイドルだから会えなくなって寂しいのはわかるけど、見ての通り。今は片付けで忙しくて……」
久しぶりに会ったが、相変わらずの軽口は健在のようだ。坂上は記憶と違わぬ風間の姿に密かに安堵を抱いていた。
「何言ってるんですか、風間さん。今日は風間さんの誕生日でしょう。散々僕にに3月3日は誕生日だから婦前途を強請っていたじゃないですか」
坂上の言葉にれ、風間は目を丸くする。鳴神学園にいた時は毎日のように500円をねだり、そのついでに誕生日を吹き込んではいたが実際に覚えているとは思っていなかったのだろう。自身も新生活の準備に忙しくて忘れていたに違いない。
「そうかそうか、わざわざプレゼントを届けてくれるなんて殊勝なことだねぇ。うんうん、流石坂上くんだ。ボクがいかに大人物かわかっているじゃぁないか。嬉しいなぁ、それで何をもってきてくれたのかな」
嬉々として坂上の隣へと腰掛ける風間を見ているうちに、坂上の中にある僅かな悪戯心が急にムクムクと肥大する。
坂上が誕生日の時、風間は手ぶらでやってくると教室内で両手を広げ「坂上くん、プレゼントはボクだよ。一日このボクをキミが好きなように占有したまえよ。鳴神のプリンスであるボクを独り占めできるなんて、最高の栄誉だろう?」なんて高らかに宣言したものだから、クラスメイトに「坂上は上級生を飼い慣らす同性愛者なんだ」というあらぬ噂をたてられて随分とからかわれたのを思い出したからだ。
一年生の殆どが上級生である風間の生態を知らなかったことと、風間が顔とスタイルだけ見れば長身の美男子だということ、自覚はないが坂上も他の生徒たちから可愛らしい外見だと思われていること、それを何処からか聞きつけた倉田が「なになに!? 坂上くんに彼氏爆誕!? 日野さんのことはどうするの!? 三角関係? 本当は日野さんが好きだけど鳴神のプリンスを自称する風間さんに迫られて困る、けど冷たい日野さんより優しくしてくれる風間さんのほうが……と心が揺れる坂上くん!? 恵美ちゃんに任せて、三人とも幸せにしてあげるから!」と意味のわからないことを言い出し、10万文字を超える大作BL同人誌を作った結果、根も葉もない噂がたてられなかなか消えなかったのだ。
仕返しにはならないだろうが、あの時自分が受けた迷惑と困惑を少しでも味合わすことができれば良い。それで風間の記憶に少しでも自分が残るのなら、多少は気も晴れるというものだ。
「プレゼントは僕ですよ、風間さん……今日は一日だけ僕の事、好きにしていいですから……」
坂上にそう言わせたのは、そのような思いからだった。
上目遣いで風間の様子をうかがえば、言葉の意味をどう捉えていいのか推し量っているのだろう。風間はきょとんとした顔で坂上の顔を見ている。少しは驚いているのだろう。普段そんなことばかり言うような風間でも、同じ事を言われるとやはり戸惑うのだ。いつも困らせられてばかりいたから、困った顔をする風間を見るのは面白い。
だが、あまり黙っているとまた風間から「キミのみすぼらしい身体なんて使える場所がないじゃないか、いらないよ」なんて冷淡に追い出されてもいけないし、そろそろ冗談だとネタばらしをして鞄に入れたプレゼントを渡しておこう。
そんな風に考えていたのだが、坂上は気付いた時ベッドに押し倒されていた。風間のベッドに座っていたのだから肩を強く押されただけでベッドに押し沈められるのは必然だろう。風間とは体格が違うのだから、抑えられたら身動きも取れない。
「ちょっ、風間さん……」
待ってください。その言葉を告げる前に風間の唇が重なっていた。
キスをしているんだ。理解するより先に舌が滑り込み、口の中をかき回す。生温かな舌が絡み、互いの唾液が混ざり合う最中も坂上はそれを拒もうとせず、懸命に舌を絡めてくる風間にあわせるよう互いの唇を舐り続けている自分にも少し驚いていた。
お互い決して上手ではない、むしろ不慣れなキスだったろう。心地良さよりむず痒いようなじれったさが勝り気持ち良いわけでもないのに、坂上は風間からの口づけを驚くほど自然に受け入れていたのだ。
まるで最初から、プレゼントは自分だと告げた時からそれを望んでいたかのように。
「あ、ご、ごめん。キミが急にそんなことを言うから、つい……」
風間自身も自分の行動に驚いたようで、しどろもどろになり視線を逸らす。困惑して慌てる風間を見るという目的は達したが、まさかキスをされるとは思っていなかった。それに対して嫌悪感を抱かないことも、むしろ少し喜ぶ気持ちの方が勝っていることも。 全てが坂上にとっても予想外の出来事だったのだ。
「な、何でこんなことするんですか!? 誕生日に、僕をとか……冗談のつもりだったのに……」
驚きと困惑で冷静になれぬまま思考ばかりが渦巻く最中、坂上は殆ど反射的にそんな言葉を漏らしていた。これは、本心と言うよりも自分の迂闊さで風間の心を乱してしまったのではないか。風間も気まぐれで自分をからかったのではないかという不安から自分を守りたい気持ちから漏れた、心にもない言葉である。
だがその言葉を聞いた風間は見たこともないほど狼狽えはじめた。
「えぇっ、冗談だったのかい!? キミがボクの部屋に来て、そんなことを言うからてっきり、その……いいのかな、って思って……」
後半は殆ど消え入りそうな声になる。本当に反省しているのだろう。坂上は身体を起こしベッドに腰掛けると、風間の様子をうかがった。普段の明朗でふざけた態度は、今は鳴りをひそめている。
「風間さん、僕にこういうことしたかったんですか。ずっと? ずっと僕のことそんな風に見ていたんですか?」
「いや、その。ち、違うんだよ坂上くん。そりゃぁ、キミはからかい甲斐があるし、優しいし、可愛い後輩だと。そう、思っていた。思っていたんだけどねぇ……」
風間は自分の毛先を指先で弄りながら坂上から目をそらしていたが、やがて意を決したように向き直ると坂上の両肩をしっかりと掴んでいた。
「……卒業して、もうキミに会えなくなると思うと無性に寂しかったんだよ。キミはまだ一年生だろう? 二年生になれば後輩が出来て、学校生活にも慣れて、新聞部で良い先輩になる。そうしている内に隣にはボクじゃない誰かがいて、楽しい学園生活を送るんだろうと思うと、胸が焼けるように痛いんだよ。その道にはもうボクはいないんだと思うと、寂しいし、悔しいしで、何でボクはあんなに時間があったのに、もっとキミと話をしなかったんだと思って気が狂いそうになるんだ」
坂上の肩をつかむ腕の力が、ぐっと強くなる。きっと指の痕が残るだろうと僅かに思ったが、こんな風間の姿を見るのは初めてだったから、肩の痛みなど感じる暇もなかった。
「だから、卒業式でもキミへの挨拶は簡素に済ましたつもりだったんだ。顔をあわせたら話さなくてもいいことまで言ってしまいそうだったから。誕生日だってキミに会おうとも思わなかった。キミに何か期待して、施されてしまったらボクはきっとこの思いがどうしようもなく止められなくなるって、そう思ってたから。だけど、キミは来てくれて、そんなことを言うから……」
風間は坂上から手を離すとがっくりと項垂れる。長い髪が邪魔をして、どんな顔をしているのかはわからなかった。だがその背中は、まるで泣いているようだった。
「だから、期待しちゃったんだよねぇ。ほら、ボクって格好いいだろう? 背だって高いしスタイルもいい。自分に自信があるとかナルシストなんて言われてるけど、ボクなりに自分の顔と身体の価値はしっかり心得てるつもりだから、ひょっとしたらキミがボクの事を好きになってくれているかもしれないなんて、そんな風に思っちゃったんだよ。はは、これがキミと会うのは最後だろうって時に、こんな笑えない冗談しか言えないなんて。風間望の名が廃るってものだよねぇ。でも……今は、本当に、何の笑い話も出来ないんだ……ゴメンよ」
こんなにも不安定な気持ちを風間が吐き出しているのは初めて見た。そしてこれは恐らく、本心なのだろう。坂上は項垂れたままの風間の髪を上げ彼の顔を見る。風間は目にいっぱいの涙をためて、それでも精一杯の作り笑いを浮かべていた。
「何するんだい、いまさらボクの顔を見たって、面白くはないだろう。それともキミはこんな惨めなボクを見て笑いものにするほうがお好みかな。いや、わかってるさ。キミは優しいからそんな風に思わないよね。だけどその優しさは罪作りだよ。ボクのように誤解して、変な事する輩だっているだろうから、あんまり安易に妙なことを言わない方がいい。ボクみたいに惨めに引き下がるような情けない男ばっかりじゃないんだからね」
いままで風間はずっと思いを秘めて接してくれていたのだろうか。道化を演じることで、坂上の思いを誤魔化していたのだろうか。いや、風間はもともと冗談言い、ふざけた話で場を茶化すタイプの人間だから、誤魔化すための道化芝居ではなかっただろう。
だが、卒業が近くなるにつれ坂上と会う回数が減ってきていたのは実感していた。受験するにも就職するにも忙しい時期だからだろうと考えていたが、風間が意識的に避けていたのだろう。
だから坂上も、諦めようと思ったのだ。距離をとられたのなら、このまま自分も思いを秘めて離れてしまおうと。こんな淡い恋心は、離れてしまえばきっと忘れられるだろうと、そう思っていたから。
「風間さん、僕は……僕も、風間さんのこと好きですよ」
だけど、お互い本心からそう思っていたのなら今さら何を隠す必用があるのだろう。
思い切って告げる坂上を見ようともせず、風間は小さく首を振るだけだった。
「やめてくれたまえよ、慰めを言うのは。ボクは本気なんだから、いまさらキミに優しくされるのはかえって惨めじゃないか」
風間の言うことも最もだ。
坂上の言葉ですっかり舞い上がっていた所、いきなり拒絶されれば誰だって心が折れるだろう。坂上が試すような真似をしたばかりに、かえって風間の傷つけてしまった。それだけのことをしたのだから、言葉だけで伝えるのはどだい無理な話だろう。風間が本当に宇宙人や超能力者で、坂上の頭を覗いていればこちらの思いもわかってくれるはずなのだが、彼はどこにでもいる18歳になったばかりの、少し困った先輩でしかないのだから。
「だから、もう帰ってくれないかな坂上くん。引っ越しの準備で忙しいから……」
突き放すような語気で告げ立ち上がろうとする風間の手を握ると、坂上は殆ど夢中で彼の身体にすがると唇を重ねていた。
風間はしばらく驚いたような目で坂上を見つめていたが、静かに目を閉じると彼の身体を抱きしめる。 最初に風間と交わしたキスと比べれば触れるだけの稚拙なキスだろう。だけど、下手な言葉を語るよりずっと心に響いたはずだ。唇を離した後も、風間は驚きと戸惑いが入り交じった顔で坂上を見つめていた。
「冗談めかして伝えるのって逆効果ですね。僕も……風間さんのこと、好きです」
「さっ、坂上くん。そ、それは冗談じゃないよね。ボク、本気にしちゃうけど……いいのかい?」
不安そうな顔でこちらを見る風間を安心させるよう、もう一度キスをする。
その唇を受けて、強張っていた風間の身体は幾分か力も抜けて行き、唇を交わす坂上の身体を抱き留めるくらいの余裕は出来ていた。
「あぁ……冗談じゃないよね。今さら、やっぱり嘘ですなんて言わないよねぇ」
「風間さんじゃぁないんですから、そんなこと言いませんよ。それとも、もう一回言って欲しいですか? ……好きです、風間さん。遅くなったけど、やっと言えました。風間さんは、どうなんですか? 僕しか好きだと言ってないから少しだけ……不安です」
「うーん……ちょっと、考えさせてくれるかな。キミとキスをする時間に、もう少し浸っていたいから……ね、もう一回キスをしよう。そうしたらボクも、キミに思いを伝えるよ。それくらいのワガママ許してくれるよね。ボクの誕生日なんだから」
風間は坂上の身体を抱き寄せ、照れたように笑う。
「仕方ないですね……いいですよ。風間さんのワガママには、慣れてますから」
坂上は目を閉じると、三度唇を重ねる。
とけるほどに甘いキスというものはきっと、誕生日に相応しいプレゼントなのだろう。
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