インターネット字書きマンの落書き帳
【殺される意味というもの(新荒・BL)】
殺人クラブ、もう皆さんクリアしましたか?
ぼくは全然エンディング埋まってません!
いや……増えすぎですよ……。
「クリスマスプレゼントはいっぱいある方が嬉しいよね!」 という心意気はよぅくわかりますが、増えすぎ……。
増えて嬉しいんですけどね!
ぼちぼち、とプレイしている最中、「やっぱ殺人クラブおもしれェー!」となったので殺人クラブのネタを盛り込んだ短編を……書きました!
・新堂×荒井の世界で生きている人間が書いてるゾイ
・殺人クラブ、荒井ルートの話をしているゾイ
・何か他にも色々なルートの話が混ざっているゾイ
ネタバレな世界の話をしているので殺人クラブまったく触れてない人は今日から頑張って触れていこうな!
この作品はweb用に加筆修正とかしてまーす → web版はこちら
ぼくは全然エンディング埋まってません!
いや……増えすぎですよ……。
「クリスマスプレゼントはいっぱいある方が嬉しいよね!」 という心意気はよぅくわかりますが、増えすぎ……。
増えて嬉しいんですけどね!
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・殺人クラブ、荒井ルートの話をしているゾイ
・何か他にも色々なルートの話が混ざっているゾイ
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『生きるという傷痕』
荒井昭二が目覚めた時、隣には新堂誠が座っていた。
和室の畳には鮮血が広がり室内はむせかえるほどの血の臭いに包まれている。
「よぉ、やっと起きたのかよ荒井」
血で滲んだ拳にタオルを巻いて止血している新堂の前には首なし死体が血の海に無い頭を突っ込んでいる。それを見て荒井は今回も死ねなかったのだという事を理解した。
「ヒデェ有様だったぜ。おまえ坂上に何吹き込んだんだよ。内臓あっちこっち飛び散って滅茶苦茶だったから元に戻すの苦労したぞ」
新堂はそう言い長く息を吐く。 荒井が自分の腹を見ればデタラメに裂かれた傷痕がホッチキスで無理矢理止められていた。これは以前新堂に縫合をさせたら糸ははみ出て内臓がこぼれ落ちそうなほど非道い有様だったから「出来ない事はするな」「せめてなみ縫いくらい覚えてから人の身体を縫え」などと散々文句を言ったからだろう。それだけ文句を言われても新堂はいちおう様子を見に来て助けてくれるのだから思ったより面倒見の良い所はあるのだが。
「別にたいした事は言ってませんよ。ただ、鍵は飲み込んだから僕を殺して取ってみろと、そう告げただけです」
「はぁん、それでコイツは馬鹿正直にお前を殺した後腹の中をこねくり回し探したって訳か。どうせ鍵なんて飲んで無ェんだろ」
「えぇ、僕の目的は彼との心中でしたから」
抑揚のない声でそう言い、腹の傷を撫でる。新堂は内臓も無茶苦茶にされていたといったから腹には適当に臓腑を押し込みホッチキスで留めたのだろう。 そんなデタラメな手術でも一週間もあれば荒井の身体は綺麗さっぱり元の身体に戻るのだ。
荒井昭二は死ねない身体なのだから。
「とても残念です。坂上くんは素質がありました。死へと邁進する感情へ寄り添える考えの持ち主だった。彼と一緒に死ねるのなら寂しくないと思ったんですけれどもね」
坂上修一はすでに死体となって横たわっている。恐らくは荒井の「鍵を飲み込んだ」という言葉を信じ必死になって腹をかき混ぜそのまま時間切れとなって首輪が爆発したのだろう。 予定通りの行動ではあるが、今回もまた自分だけ生き残ってしまうのはやはり悲しかった。
「死なない癖によく言うぜ。どうせ今日も死ぬ瞬間に狼狽えて焦りながら鍵を探す坂上の顔でも想像して笑ってたんだろテメェはよ。本当にいい性格をしてるぜ」
新堂は呆れたように肩を上げる。
毒を煽ろうが刺されようが荒井は決して死ぬ事はなかった。
派手に臓腑をぶちまけても自然と元通りになっているし毒の苦しみに喘いでも死に至る事はなく気付いたら元通りの健康体に戻っているのだ。
荒井がそのような体質になった理由を詳しく知るものは誰もいない。荒井自身はよく「人魚の呪い」として話しているが新堂はそれも作り話だろうと思っていた。
今の新堂にわかっている事実はふたつ。
荒井が死なない身体だというのと、それだというのに死を渇望しているという事だけだ。
「せっかくお眼鏡にかなった相手でも一緒に死ねなきゃ意味ねぇよな。まったく、お前の心中ごっこに付き合わされて可愛そうなもんだぜ。きっと死ぬ直前までどうして鍵がないのかって絶望しながら腹ん中あさってたんだろうよ」
乾いた笑みを浮かべ新堂は首のない死体を転がす。この死体が荒井の傍に転がっていたのなら新堂の言う通り必死になって荒井の臓腑をまさぐり絶望に顔を歪めながら死んでいったのだろう。その滑稽さを思い浮かべるだけで死ぬ事の出来なかった悲しみや空しさは幾分か薄らいだ。
「新堂さんは坂上くんにやられたんですか?」
そこで荒井は新堂の非道く傷ついた拳に気付く。
殺人クラブのなかでもリングに上がった新堂を相手にして打ち勝てた相手は一人だっていた事がない。たとえ武器をもつ相手であっても素人同然の相手なら新堂は敵にしないからだ。 その新堂がリングの上で後れを取ったのなら坂上はかなり賢く立ち回ったのだろう。
「まぁな。くそッ、この野郎腹にテッパンなんか仕込んでいやがったんだぜ」
新堂は苛立たしげに死体の腹を蹴り上げる。彼は強いが浅慮な所があるから簡単な挑発にでも乗ってしまったのだろう。
「それを殴ったんですか? 相変わらず浅はかですね。自分の強さに自信を持つのは結構なことですが、もっと周囲を観察し立ち回る余裕をもったほうがいいですよ。だから実力より下のランクに甘んじてしまうんです」
「うるせぇな……クソみてぇな説教はゴメンだぜ」
新堂は顔を歪めこちらを睨み付けるが殴りかかろうとはしてこない。殺人クラブでは部員同士の殺し合いを御法度としているというのもあるだろうが荒井に言われなくともそれを当人も自覚していたというのはあるだろう。
「鉄板なんか殴ったのなら拳は潰れてしまったでしょう。新堂さん、怪我を見せてください」
荒井に言われると新堂は渋々と言った様子でタオルをまいた手を差し出す。タオルを外せば右手の拳から骨が飛び出ているのが見えた。
「これはこれは随分と思いっきり打ち据えたようですね。少し荒療治ですが我慢してください」
そう言うが早いか拳の中へ骨を押し込んでいく。折れた骨を麻酔もなく強引に元の場所へと戻していくのだから痛みの程は尋常ではないだろう。
「まて荒井テメェ何するんだくっそ! 痛ェ! 痛ェ、痛ェって言ってんだろッ!」
当然のように新堂は喚きちらしこちらの喉笛を食いちぎりそうな程に顔を歪めるがこちらを襲ってこないのは闘争心より痛みがよほど勝っていたからだろう。
「殺人クラブでもキルスコアがトップクラスの貴方がたかだか骨折の治療で泣き喚くの、みっともないですよ。はい、とりあえず終わりました。骨の位置が正しくないと治りが遅くなりますからね」
そうして落ちていたナイフを手にとると慣れた様子で手首を切り新堂の傷口へ直接自分の血を注ぐのだった。
「おい、荒井いいのか? お前の血を使うかどうかは日野の許可が必用だろう」
「日野さんだって新堂さんの傷を見れば使ってやれといいますよ。あまり大きな傷痕を残したままでは日常生活に支障も出ますし、新堂さんもその拳では試合に出られなくなるのは困るでしょう」
荒井は死ねない体質であると同時にその血肉で他者の傷を治す事が出来ていた。彼の血肉を食した人間は活力がみなぎり本来の力より遙かに高い身体能力を得るというのは殺人クラブ内でも密かに囁かれている噂であり日野が他の面々と比べ明らかに華奢な身体だというのに圧倒的な強さを誇る秘密もまた荒井の血と肉であると言われている。
真偽は定かではないが、荒井の血を傷に直接滴らせれば瞬く間に治っていくというのは事実だった。荒井の血が注がれた新堂の傷口は見る間に肉が盛り上り傷など元々存在しなかったかのように綺麗になっていく。
「本当にスゲぇなお前の血は。おかげで俺たちも殺人クラブなんて物騒な活動を続けていられるんだろうけどな」
すっかり痛みのなくなった拳を握ったり開いたりしながら新堂は感心したように言う。
「なぁ、荒井。テメェは死ねない上に他人の傷まで治せる能力があるのにどうして殺人クラブにいるんだよ。テメェはいつも率先して殺そうとはしてねぇし、今日みたいに自殺の巻き添えにしてきた奴も多いだろ? 無理に日野に付き合ってやってるって感じだが事情でもあるのか」
そして首を傾げながら不思議そうに聞くのだった。
荒井は深いため息をつくと億劫そうに俯いた。
「それは以前福沢さんにも聞かれたことがありますね。確かに僕は日野さんの付き合いで殺人クラブに所属していますが、今は皆さんの一員という事で納得して頂けませんか」
福沢はそれで納得した。聞いてはみたが実際のところ荒井がどうして殺人クラブにいるかなんて興味などなかったのだろう。 だが新堂は首を傾げたまま納得しかねるといった表情で荒井の鼻先まで顔を近づけて見せた。
「死にたがりのお前が殺人クラブの一員だぁ? 日野に義理立てして参加してるだけで死に場所探してるだけじゃねぇのか。何があったのか知らねぇけどよ、そんなに死にたいならお前が本当に死ぬまで何度でもこの俺がブチ殺してやってもいいんだぜ、なぁ」
荒井は目を閉じ、再び長いため息をつく。
死にたがりといわれる荒井だが心中する相手はいつも選んでいた。自分と似たように生きる意味が見いだせず絶望し死にとりつかれ渇望しながらそれでも生きたがるような矛盾した心を抱く愚かな人間が自分の合わせ鏡のようで好きなのだ。 だから一緒に死ぬ相手はいつもそのように無様に足掻こうとする人間と決めていた。
荒井の基準からすると新堂は今の生に満足し絶望など感じた事はないように見える。何かを激しく求めた事など一度だってなく現状にはそれなりに満足をしているのだろう。
もし新堂が絶望し渇望する人生を歩むようになったのなら彼と心中するのも悪くないとは思うが、新堂の性分はそのような湿っぽい考えなど抱く事はないだろう。
それに新堂には可能なら別の思いを抱いて狂って欲しい。
「今の新堂さんには殺されたくないですね。貴方は本当の絶望も知らない子供ですから」
「はぁ? テメェ、俺を舐めてんのか。テメェの方が年下じゃ無ぇか」
「高校生が学年通りの年齢とは限りません。何でも見たまま受け取るのは貴方の悪い癖ですよ。あぁ、でもそうですね。もし僕を殺してみたいと思ったのなら……」
荒井は自分の血で汚れた手で新堂の頬を撫でると妖艶な笑みを浮かべる。
「僕を愛してください。僕のことを愛して、僕がいない世界の事など想像できないほどになったのなら……貴方に殺されてること、真剣に考えておきますよ」
そして言い終わるや否や、隣に座る新堂と唇を重ねた。
突然のキスに戸惑いながら新堂は力一杯に荒井の身体を突き放す。
「てっ、テメェ、いま何しやがった!?」
「キスくらいで大げさですよ新堂さん。それとも、キスは初めてでしたか?」
「くっ、な、わけねぇだろッ。クソ、さっさと日野んトコ行くぞ。坂上の死体も運ばなきゃいけねぇし、テメェが汚した和室の掃除もあるんだからな」
新堂は怒りながら床に転がる死体を蹴飛ばし正門へと向かう。
あんなに怒って狼狽えるとは、キスをするのは初めてだったのだろう。だとしたら随分と初心な反応だ。そんな事を思いながら新堂の後ろ姿を眺め、荒井は静かに目を閉じた。
荒井は一人で死にたくなかった。
死にたい気持ちはあるが一人では逝きたくないと思うのは過去の経験からだろう。
一緒に死ぬ相手は人間がいいと思ったし、生きる事に絶望し死を渇望しながらそれでも生にすがりつくそんな人間と一緒に死ねたら幸福だろうとも思っていた。
だがもし新堂が自分を愛し自分のいない世界に絶望を感じる程感情を傾けてくれたのなら、一人で死ぬのも悪くない。
自分のいない世界で新堂がどのように生きるのか。自分の手で殺し自ら絶望へと追いやった後の新堂がどのように生きそして死んでいくのか。そんな事を思いながら死ねるのならきっと笑って死ねるだろう。
このままどれだけ繰り返しても理想の死が訪れるのはきっとまだずっと先だろうから、それなら今より絶望を知らない男の内に種をまき息をするのさえ苦痛になるほどの絶望を育てていくのもきっと面白い。
「あぁ、そういう死もあっていい。新堂さん、貴方が僕を愛してくれるのなら、僕は本当に貴方に殺されてもいいですよ」
誰に聞かせるともなくつぶやく荒井は久しぶりに心からの笑みを浮かべていた。
荒井昭二が目覚めた時、隣には新堂誠が座っていた。
和室の畳には鮮血が広がり室内はむせかえるほどの血の臭いに包まれている。
「よぉ、やっと起きたのかよ荒井」
血で滲んだ拳にタオルを巻いて止血している新堂の前には首なし死体が血の海に無い頭を突っ込んでいる。それを見て荒井は今回も死ねなかったのだという事を理解した。
「ヒデェ有様だったぜ。おまえ坂上に何吹き込んだんだよ。内臓あっちこっち飛び散って滅茶苦茶だったから元に戻すの苦労したぞ」
新堂はそう言い長く息を吐く。 荒井が自分の腹を見ればデタラメに裂かれた傷痕がホッチキスで無理矢理止められていた。これは以前新堂に縫合をさせたら糸ははみ出て内臓がこぼれ落ちそうなほど非道い有様だったから「出来ない事はするな」「せめてなみ縫いくらい覚えてから人の身体を縫え」などと散々文句を言ったからだろう。それだけ文句を言われても新堂はいちおう様子を見に来て助けてくれるのだから思ったより面倒見の良い所はあるのだが。
「別にたいした事は言ってませんよ。ただ、鍵は飲み込んだから僕を殺して取ってみろと、そう告げただけです」
「はぁん、それでコイツは馬鹿正直にお前を殺した後腹の中をこねくり回し探したって訳か。どうせ鍵なんて飲んで無ェんだろ」
「えぇ、僕の目的は彼との心中でしたから」
抑揚のない声でそう言い、腹の傷を撫でる。新堂は内臓も無茶苦茶にされていたといったから腹には適当に臓腑を押し込みホッチキスで留めたのだろう。 そんなデタラメな手術でも一週間もあれば荒井の身体は綺麗さっぱり元の身体に戻るのだ。
荒井昭二は死ねない身体なのだから。
「とても残念です。坂上くんは素質がありました。死へと邁進する感情へ寄り添える考えの持ち主だった。彼と一緒に死ねるのなら寂しくないと思ったんですけれどもね」
坂上修一はすでに死体となって横たわっている。恐らくは荒井の「鍵を飲み込んだ」という言葉を信じ必死になって腹をかき混ぜそのまま時間切れとなって首輪が爆発したのだろう。 予定通りの行動ではあるが、今回もまた自分だけ生き残ってしまうのはやはり悲しかった。
「死なない癖によく言うぜ。どうせ今日も死ぬ瞬間に狼狽えて焦りながら鍵を探す坂上の顔でも想像して笑ってたんだろテメェはよ。本当にいい性格をしてるぜ」
新堂は呆れたように肩を上げる。
毒を煽ろうが刺されようが荒井は決して死ぬ事はなかった。
派手に臓腑をぶちまけても自然と元通りになっているし毒の苦しみに喘いでも死に至る事はなく気付いたら元通りの健康体に戻っているのだ。
荒井がそのような体質になった理由を詳しく知るものは誰もいない。荒井自身はよく「人魚の呪い」として話しているが新堂はそれも作り話だろうと思っていた。
今の新堂にわかっている事実はふたつ。
荒井が死なない身体だというのと、それだというのに死を渇望しているという事だけだ。
「せっかくお眼鏡にかなった相手でも一緒に死ねなきゃ意味ねぇよな。まったく、お前の心中ごっこに付き合わされて可愛そうなもんだぜ。きっと死ぬ直前までどうして鍵がないのかって絶望しながら腹ん中あさってたんだろうよ」
乾いた笑みを浮かべ新堂は首のない死体を転がす。この死体が荒井の傍に転がっていたのなら新堂の言う通り必死になって荒井の臓腑をまさぐり絶望に顔を歪めながら死んでいったのだろう。その滑稽さを思い浮かべるだけで死ぬ事の出来なかった悲しみや空しさは幾分か薄らいだ。
「新堂さんは坂上くんにやられたんですか?」
そこで荒井は新堂の非道く傷ついた拳に気付く。
殺人クラブのなかでもリングに上がった新堂を相手にして打ち勝てた相手は一人だっていた事がない。たとえ武器をもつ相手であっても素人同然の相手なら新堂は敵にしないからだ。 その新堂がリングの上で後れを取ったのなら坂上はかなり賢く立ち回ったのだろう。
「まぁな。くそッ、この野郎腹にテッパンなんか仕込んでいやがったんだぜ」
新堂は苛立たしげに死体の腹を蹴り上げる。彼は強いが浅慮な所があるから簡単な挑発にでも乗ってしまったのだろう。
「それを殴ったんですか? 相変わらず浅はかですね。自分の強さに自信を持つのは結構なことですが、もっと周囲を観察し立ち回る余裕をもったほうがいいですよ。だから実力より下のランクに甘んじてしまうんです」
「うるせぇな……クソみてぇな説教はゴメンだぜ」
新堂は顔を歪めこちらを睨み付けるが殴りかかろうとはしてこない。殺人クラブでは部員同士の殺し合いを御法度としているというのもあるだろうが荒井に言われなくともそれを当人も自覚していたというのはあるだろう。
「鉄板なんか殴ったのなら拳は潰れてしまったでしょう。新堂さん、怪我を見せてください」
荒井に言われると新堂は渋々と言った様子でタオルをまいた手を差し出す。タオルを外せば右手の拳から骨が飛び出ているのが見えた。
「これはこれは随分と思いっきり打ち据えたようですね。少し荒療治ですが我慢してください」
そう言うが早いか拳の中へ骨を押し込んでいく。折れた骨を麻酔もなく強引に元の場所へと戻していくのだから痛みの程は尋常ではないだろう。
「まて荒井テメェ何するんだくっそ! 痛ェ! 痛ェ、痛ェって言ってんだろッ!」
当然のように新堂は喚きちらしこちらの喉笛を食いちぎりそうな程に顔を歪めるがこちらを襲ってこないのは闘争心より痛みがよほど勝っていたからだろう。
「殺人クラブでもキルスコアがトップクラスの貴方がたかだか骨折の治療で泣き喚くの、みっともないですよ。はい、とりあえず終わりました。骨の位置が正しくないと治りが遅くなりますからね」
そうして落ちていたナイフを手にとると慣れた様子で手首を切り新堂の傷口へ直接自分の血を注ぐのだった。
「おい、荒井いいのか? お前の血を使うかどうかは日野の許可が必用だろう」
「日野さんだって新堂さんの傷を見れば使ってやれといいますよ。あまり大きな傷痕を残したままでは日常生活に支障も出ますし、新堂さんもその拳では試合に出られなくなるのは困るでしょう」
荒井は死ねない体質であると同時にその血肉で他者の傷を治す事が出来ていた。彼の血肉を食した人間は活力がみなぎり本来の力より遙かに高い身体能力を得るというのは殺人クラブ内でも密かに囁かれている噂であり日野が他の面々と比べ明らかに華奢な身体だというのに圧倒的な強さを誇る秘密もまた荒井の血と肉であると言われている。
真偽は定かではないが、荒井の血を傷に直接滴らせれば瞬く間に治っていくというのは事実だった。荒井の血が注がれた新堂の傷口は見る間に肉が盛り上り傷など元々存在しなかったかのように綺麗になっていく。
「本当にスゲぇなお前の血は。おかげで俺たちも殺人クラブなんて物騒な活動を続けていられるんだろうけどな」
すっかり痛みのなくなった拳を握ったり開いたりしながら新堂は感心したように言う。
「なぁ、荒井。テメェは死ねない上に他人の傷まで治せる能力があるのにどうして殺人クラブにいるんだよ。テメェはいつも率先して殺そうとはしてねぇし、今日みたいに自殺の巻き添えにしてきた奴も多いだろ? 無理に日野に付き合ってやってるって感じだが事情でもあるのか」
そして首を傾げながら不思議そうに聞くのだった。
荒井は深いため息をつくと億劫そうに俯いた。
「それは以前福沢さんにも聞かれたことがありますね。確かに僕は日野さんの付き合いで殺人クラブに所属していますが、今は皆さんの一員という事で納得して頂けませんか」
福沢はそれで納得した。聞いてはみたが実際のところ荒井がどうして殺人クラブにいるかなんて興味などなかったのだろう。 だが新堂は首を傾げたまま納得しかねるといった表情で荒井の鼻先まで顔を近づけて見せた。
「死にたがりのお前が殺人クラブの一員だぁ? 日野に義理立てして参加してるだけで死に場所探してるだけじゃねぇのか。何があったのか知らねぇけどよ、そんなに死にたいならお前が本当に死ぬまで何度でもこの俺がブチ殺してやってもいいんだぜ、なぁ」
荒井は目を閉じ、再び長いため息をつく。
死にたがりといわれる荒井だが心中する相手はいつも選んでいた。自分と似たように生きる意味が見いだせず絶望し死にとりつかれ渇望しながらそれでも生きたがるような矛盾した心を抱く愚かな人間が自分の合わせ鏡のようで好きなのだ。 だから一緒に死ぬ相手はいつもそのように無様に足掻こうとする人間と決めていた。
荒井の基準からすると新堂は今の生に満足し絶望など感じた事はないように見える。何かを激しく求めた事など一度だってなく現状にはそれなりに満足をしているのだろう。
もし新堂が絶望し渇望する人生を歩むようになったのなら彼と心中するのも悪くないとは思うが、新堂の性分はそのような湿っぽい考えなど抱く事はないだろう。
それに新堂には可能なら別の思いを抱いて狂って欲しい。
「今の新堂さんには殺されたくないですね。貴方は本当の絶望も知らない子供ですから」
「はぁ? テメェ、俺を舐めてんのか。テメェの方が年下じゃ無ぇか」
「高校生が学年通りの年齢とは限りません。何でも見たまま受け取るのは貴方の悪い癖ですよ。あぁ、でもそうですね。もし僕を殺してみたいと思ったのなら……」
荒井は自分の血で汚れた手で新堂の頬を撫でると妖艶な笑みを浮かべる。
「僕を愛してください。僕のことを愛して、僕がいない世界の事など想像できないほどになったのなら……貴方に殺されてること、真剣に考えておきますよ」
そして言い終わるや否や、隣に座る新堂と唇を重ねた。
突然のキスに戸惑いながら新堂は力一杯に荒井の身体を突き放す。
「てっ、テメェ、いま何しやがった!?」
「キスくらいで大げさですよ新堂さん。それとも、キスは初めてでしたか?」
「くっ、な、わけねぇだろッ。クソ、さっさと日野んトコ行くぞ。坂上の死体も運ばなきゃいけねぇし、テメェが汚した和室の掃除もあるんだからな」
新堂は怒りながら床に転がる死体を蹴飛ばし正門へと向かう。
あんなに怒って狼狽えるとは、キスをするのは初めてだったのだろう。だとしたら随分と初心な反応だ。そんな事を思いながら新堂の後ろ姿を眺め、荒井は静かに目を閉じた。
荒井は一人で死にたくなかった。
死にたい気持ちはあるが一人では逝きたくないと思うのは過去の経験からだろう。
一緒に死ぬ相手は人間がいいと思ったし、生きる事に絶望し死を渇望しながらそれでも生にすがりつくそんな人間と一緒に死ねたら幸福だろうとも思っていた。
だがもし新堂が自分を愛し自分のいない世界に絶望を感じる程感情を傾けてくれたのなら、一人で死ぬのも悪くない。
自分のいない世界で新堂がどのように生きるのか。自分の手で殺し自ら絶望へと追いやった後の新堂がどのように生きそして死んでいくのか。そんな事を思いながら死ねるのならきっと笑って死ねるだろう。
このままどれだけ繰り返しても理想の死が訪れるのはきっとまだずっと先だろうから、それなら今より絶望を知らない男の内に種をまき息をするのさえ苦痛になるほどの絶望を育てていくのもきっと面白い。
「あぁ、そういう死もあっていい。新堂さん、貴方が僕を愛してくれるのなら、僕は本当に貴方に殺されてもいいですよ」
誰に聞かせるともなくつぶやく荒井は久しぶりに心からの笑みを浮かべていた。
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