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インターネット字書きマンの落書き帳

   
無自覚に幽霊を見る新堂と荒井のはなし(BL)
平和な世界でじきに付き合う新堂×荒井のハナシをします。(挨拶)
付き合っていても付き合っていなくても新堂は左に。
荒井は右に置きたい人生でした……。

今回は、実は霊のことメチャクチャ見えている新堂さんが見えている時、さりげなく見えてない荒井を庇ったり見せないようにしながら歩いてるといいな、という妄想のハナシをします。

二次創作はいつも妄想!
そうだね♥


『みえるひと』

「荒井くん、なぎさ通りに行ったんですか。一人で?」

 荒井が細田に声をかけさして会話をしないうちに細田は驚き声をあげる。その声があまりに大きかったためクラスメイトの何人かは細田の方を向くが、声をあげたのが細田だと知り「なんだ、またか」と呆れ顔をして元の会話へと戻って行った。
 唯一心配しているのは、やや髪の長いの大人しそうな少年だろう。確か名前は大河内といったか。細田の事を本当に心から理解し心配してくれている数少ない友人に見えるが、細田はどうも他人の感情に鈍感なのか、それとも虐められて一人でいる自分に酔っているのか彼を心配し手を差し伸べてくれる友人の優しい視線には気付いていないようだった。

「えぇ。一人ではなく、通りかかっただけだったんですけど……その時、知り合いが現れてやたら庇うように僕の肩を引き寄せて喋ったりしたから不自然に感じたんです。まるで後ろを見るなというような態度で……」

 その日、荒井は塾へ向かう途中だった。
 別に遅れそうだった訳でもなかったが普段通っている代わり映えのない通路とはたまには違った道を通って行こうか、そう考えた時、裏路地にあたるなぎさ通りへ足を向けたのだ。
 なぎさ通りはかつてバブルの時期に沢山のバーやスナックがあり飲み屋街として賑わっていたがバブルが弾けた後は徐々にかつての賑わいをなくし、コロナで外出制限が出来てからはほとんど人がよりつかない場所になったのだという。
 今でも残っているのはその土地に自社ビルをもっているバーか、反社会的勢力に準ずるチームの支援を受けているような店が殆どで元々治安があまり良くないのだ。特になぎさ通りの袋小路には刺客が多く、自分たちのルールに従わなかった人間にケジメをつけるための私刑が日常茶飯事で行われているなどと物騒な噂がある。
 当然荒井はその噂を知っていたが、噂であって実際にケジメをつけられている人間は見た事はない。好奇心が勝り、普段は通らないルートへと向かっていったのだ。もちろん、噂の元となっている袋小路は一通り歩くようにルートを選んで。
 裏路地は治安が良くはなく危険だとわかっていたが、塾のカバンを提げた高校生にまだ無体を強いるような危険は犯さないだろうと踏んでいたし、幽霊か何かが出たのなら儲けものくらいの気持ちでいたのだった。
 こうして裏路地を一つ抜け、二つ抜け、三つ目も何もなくやはり噂は噂でしかないのか、そう落胆しはじめた時だった。

「よぅ、荒井じゃ無ェかこんな所で何してんだよ、こっちはぼったくりバーとねーちゃんがサービスするような店しか無いぜ」

 彼を呼び止めたのは、先輩である新堂だった。何故新堂がこんな裏路地になどいるのだろうと不思議だったが。

「電車が来るまでゲーセンで遊んでたらお前がフラフラ路地に入っていくのが見えたんだよ。そっちは本物のゴクドーさんがいるらしいから近づかねぇ方がいいぞ」

 新堂の言葉で荒井はそばにあった陰気な建物がゲームセンターであることに気付いた。とはいえほとんど開店休業状態なのだろう。窓ガラスは破られ、中の筐体は一応電源がついているが何年前のゲームだかわからないようなモノが点滅している。
 ゲーセンで遊んでいたというのは方便で、変な道をうろうろしている荒井に気付き後を付けていたのだろう。そしていよいよ危ない道に入ろうとして留めたのだ。

「そうなんですか? 本物の……とはまだお会いした事がないから一度くらいお目にかかりたいものですが」
「バカ言うな、マトモな奴だったらいいが人間必ずしも話が通じる相手と会えるとは限らねぇんだぜ」

 新堂は荒井の肩を抱き寄せると、まるで荒井の後ろに立ちはだかるよう背中へと回る。

「新堂さ……」

 何か言いかけて振り返ろうとすれば、新堂は荒井の顎をしっかり掴み自分の顔へと向けるのだ。

「おまえ、塾だろ? そろそろ時間じゃ無ェのか?」
「……そうですね、そろそろ時間ですから」
「わかった、なら送って行ってやるからよ。俺を見てろ、目ぇあわせんな」

 実際に塾の時間まで迫っている。それに新堂は荒井を決して後ろを向かせる気はないのだろう。きっと何かある、というのと同時に新堂は自分から言ったりしないものの、存外に「見えるひと」なのではないかという思いを抱いた。

 その日は塾の前で新堂と別れたが、帰り道には袋小路へ向かう道はドラム缶やパレットで封鎖されていた。それが新堂の仕業かは知らないが、よほど見せたくない何かがあるのだろう。
 これだけ厳重に封印したくなる程なら、霊感の強さを自称する細田は何か知っているのかと思い話しかけてみたら、予想以上の反応だった。

「何も見なかったんですね、それなら良かった。あの場所は、僕は近くに寄っただけで寒気がするくらい強い怨念があるんですよ……」
「そうなんですか? 僕は何も感じませんでした……細田さんと違って霊感というのがないんでしょうね」
「そうですね、えへへ……でも霊感があるのも困りものですよ。僕はあそこにいくと怖くて足がすくんでしまいますから、なるべく近寄らないようにしています。何でも昔、組を抜けようとした男女が嬲り殺されて……女性がいる所では言えませんが、強姦っていうんですか? そういうのもあったらしくて……今でも子供を求めて血まみれでさまよう女性の霊が現れるって有名なんです。目をあわせたら、連れて行かれるとか……」
 普段からトイレの話ばかりする細田だが、霊感があるためか街にある幽霊スポットの話も一通り心得ているようだ。新堂もまたその噂を知っていたからあの場所にいたのだろうか。
 いや、新堂もやはり「見える人」なのだろう。あの時新堂は「目を合わせるな」と言ったのだ。新堂は恐らく、誰かの視線を感じていたのだろう。

「細田さんは実際そこで幽霊を見た事がありますか?」

 荒井の質問に、細田は大げさなくらい首を振る。

「み、み、見た事ないよ。実は僕、あんまり幽霊は見た事ないんですよ。立ち入った時に、あ、ここは何かいるなってのがわかるから深入りしないんです。だって幽霊を見て、幽霊に気付かれたら取り憑かれたり呪われたりしそうでしょ。そんなの怖いもんね」

 確かに細田の言う通りだ、幽霊に見つかって余計なしがらみまで抱えたくはないだろう。そもそも、細田は幽霊が見えるため、時々他のクラスの女子から霊がついているかとか、除霊を手伝ってほしいなんて厄介ごとに担ぎ出されている始末だ。
 細田は女子と会話できるチャンスだからそこまで悪い気はしてないようだが、霊が見えるという事で増える責任や不必要な干渉など一つや二つではないだろう。

 それを分かった上で、新堂は助けてくれたのだろうか。
 荒井には何も見えず何ら感じなかったが、一人の霊が見える人間として。
 その時、新堂は自分を気遣ってくれたのだろうか。それとも霊を哀れんだのだろうか。どちらにしても、新堂に話を聞いてみる必用はありそうだ。

「荒井くん、その場所には行かない方がいいよ。絶対にやめたほうがいいからね!」

 念を押すように言う細田に頭を下げると、荒井は三年のクラスへと向かう。
 今は袋小路に出る幽霊より、幽霊が見えているであろう先輩がいる事のほうが荒井の興味をそそっていた。

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