インターネット字書きマンの落書き帳
幽霊につれていかれそうになる新堂と助けにきた荒井、福沢の話
霊感があるので幽霊とかまるで実在する人間のようにハッキリ見えるけど、それにあまり自覚がないという新堂誠の概念です。
うっかり幽霊たちがいっぱいいる場所に迷い込んだけど何となく波長があっちゃって帰りたくないなー。
そんな事を考えている新堂を、荒井と福沢が助けにくるような話ですよ。
強火の新堂×荒井をかいている人が描いた話ですが、今日は自分のオーラをちゃんとおさえて万人受け新堂さんを描けたと思います。
あるいはそう思い込んでいるだけかもしれない。
それはそれとして新堂×荒井のこともよろしくな!
うっかり幽霊たちがいっぱいいる場所に迷い込んだけど何となく波長があっちゃって帰りたくないなー。
そんな事を考えている新堂を、荒井と福沢が助けにくるような話ですよ。
強火の新堂×荒井をかいている人が描いた話ですが、今日は自分のオーラをちゃんとおさえて万人受け新堂さんを描けたと思います。
あるいはそう思い込んでいるだけかもしれない。
それはそれとして新堂×荒井のこともよろしくな!
『あなたの居場所はそこではない』
駅前こそ賑わっているが一歩路地を抜けるととたんに人の気配はなくなり寂れたシャッター街が広がる。かつては賑わい今は廃墟の装いが強い裏路地を新堂誠は慣れた様子で歩くとそのうち一件の扉が壊れた店へと立ち止まった。
かつては地域の子供たちのため駄菓子や文房具を売っていたのだろう。破れたメニュー表に焼きそばやかき氷といった軽食メニューが書いてあるあたり、潰れる前は子供たちにおやつなどをふるまっていたのだろう。食品衛生法などの届けを出していたかまでは知らないが。
新堂はほこりっぽい椅子にこしかけると学校で買ったコッペパンといちごオ・レを取り出す。すると何処に隠れていたのか、数人の子供たちが集まってきた。
「誠兄ちゃんが来てる」
「誠兄ちゃん、学校終わったんだ」
「誠兄ちゃん、部活はどうしたのー」
子供たちの背丈は椅子に座った新堂よりまだ小さいだろう。
俯きがちながら、笑顔だけは子供そのものだ。
新堂がこの古びたゲーセンに気付いたのは何のこともない、勉強も練習も上手くいかず真っ直ぐ家に帰りたくなかった時、裏路地を歩いていたら夜中だというのにこの店でだけ子供の声が聞こえたからだ。妙に思って入ってみれば、自分と同じように家に帰りたくない子供たちがいた。
皆、家に帰りたくない理由があり、また暗くなってからは大人たちに見つかればどうして帰らないのだと説教をされ、帰りたくない家に無理矢理帰らされるからとこの場所を秘密基地にしているのだという。
行き場がなくなった少年少女に自分の行き詰まった思いが重なったのか、新堂はそれから時々シャッター街にきては子供たちの顔を見に来ていた。
「うるせぇな、とっとと帰れっての」
そう言いつつ、いつでも自分の「誠兄ちゃん」と呼び慕ってくれているのは嬉しかった。
部活でも調子があがらず、テストで赤点をとればしばらく補習だと脅され、家に帰っても勉強をしろ、ボクシングばかりで進路は大丈夫かなんてつつかれる日々のなかここにくれば誰も自分を拒まないし怒りもしないという事実だけが安らぎだった。
「誠兄ちゃんだって帰らないくせに」
誰かが頬を膨らませて言う。
「誠兄ちゃん、いっしょに遊ぼ。かくれんぼがいいかな、鬼ごっこがいい?」
また誰かが新堂の手を引いて笑う。
「ここで鬼ごっこなんて怪我するだろ、かくれんぼでいいか? 鬼は俺がやってやるから」
新堂の合図で、子供たちは感性をあげ散り散りになっていく。
狭い店内に隠れる場所はあまりなく、10数えた後辺りを見渡せば背の高い新堂には誰がどこに隠れたか全て丸見えだった。
「ほら、見つけた」
物陰で小さくなっている背中を叩いてやれば、少年はくすぐったそうに笑う。何て他愛のない遊びだろうとは思うのだが。
「みんな見つかっちゃったね」
「誠兄ちゃん、次は何で遊ぶ?」
子供たちがせがんでくる姿を見て、こういうのも悪くないと思うのだ。
そういえば、以前荒井に言われたか。
『新堂さんはあまり成績が芳しくないですが……スポーツ推薦では教育学部へ進めますよ。体育教師なら、新堂さんに向いているんじゃないですか?』
何で自分が教師なんてやらなきゃいけないんだと思ったが。
『子供、好きですよね』
悪戯っぽく笑う荒井の顔が脳裏によぎる。
別に子供は嫌いじゃない。素直だといいが、ひねくれ者でもちゃんとスジを通して話してやればわかる事だってある。当然わからない奴もいるが、それでも話を聞いてやったり、同じ視点に立ってやる事で何かしら出来る事があるはずだ。綺麗事だと思うが、そう考える事は少なくない。
自分自身がこんなスレた性格をしているからかもしれないが、素直にしたってくれる後輩や子供たちは世話をしてやりたいし、何とかしてやりたいとは思っていた。
「誠兄ちゃん、今日は帰っちゃうの?」
気付けば遅い時間になっている。いくら新堂の家でも、そろそろ帰らなければ大目玉だろう。
「ねぇ、誠兄ちゃん、もっと遊んでよ」
「そうだよ、ずっとぼくたちのお兄ちゃんでいてよ」
子供たちは無邪気に笑って新堂の足下に絡みつく。
家に帰りづらく行き場所のない子供たち。そういう子供たちに対して兄のように接するこの環境も、それほど悪くないだろう。
少なくとも立ち止まって動けず、何でも自分の思い通りにはならない現実よりずっと……。
「新堂さん! どこにいますかー」
「まこちゃーん? こっちいる? まこちゃーん!」
その時、何処かから誰かの声がする。聞き覚えのある声だ。
行かないといけない。彼ら、彼女らに呼ばれているのだから、自分の居場所はここではない。
「あっ……悪ぃな、何か俺……呼ばれてるみてぇだから、ちょっと行ってくる。また遊んでやるからよ」
新堂は子供たちの頭を撫でると、暗がりに開いたガラス戸をくぐりその店から出て行った。
「やっぱり、誠兄ちゃんはあっち側の人だね」
「仕方ないよ、誠兄ちゃんは僕たちと違うもの」
「僕たちと違う、誰かに愛されて、求められて、ちゃんと居場所がある……そういう人だもの」
その背を見送ると、少年たちは影へと消える。
あとには半ば廃墟となったかつての駄菓子屋が残されていた。
「あー、いたまこちゃん先輩。探したんですよ」
明るい表通りに戻れば福沢と荒井が並んで新堂を見る。言葉尻にトゲがあるがどこか安心した表情になっているのに気付いた。
「だれがまこちゃん先輩だよ……まぁ別にいいけどな」
最近、福沢は新堂の回りによく顔を見せるようになり、すっかり馴染んでいる。以前はちゃんと「新堂先輩」と呼んでいたのに最近は専ら「まこちゃん先輩」だ。それでもあまり悪くないと思うのは福沢の明るさとその呼び名がマッチしているからだろう。
「しかし福沢はともかく、荒井にまで探されていたとはな……どういうことだ」
「全部、細田さんの話ですよ。細田さんからメッセージが届いて、新堂さんが何か危ない場所に行ってる気がする、霊感でそう叫んでいる、けど自分は怖くて行けないし、鳴神学園周辺だから自分はもう家に帰って行けないから、誰か近くの人見に行って! ……なんて言うもんですから一応、見に来たんです」
そういえば、荒井は鳴神学園の近くに住んでいたか。
福沢は部活が終わってすぐにメッセージを受け取り、荒井と一緒に探しに来たのだろう。
「どこいってたんですか、スマホも繋がらなかったんですけど」
むくれる福沢の顔を見て、新堂はスマホを取り出す。
福沢だけでなく、坂上や倉田、日野、風間に荒井と様々な知り合いから「どこにいる」「いつ帰るんだ」とメッセージが飛び交っていた。これは返事をするのが大変そうだ。
たかだか1時間程度遊んでいただけだが随分と心配をかけてしまったらしい。
「別にどこにも行ってねぇよ、ガキと少し遊んでただけだ。すぐそこの……」
と、振り返った時に新堂は我が目を疑う。自分の見てきたシャッター街の駄菓子屋などはそこになく、更地になった小さなスペースだけが存在していたからだ。
確かに自分はそこから出てきたはずなのに、どういう事なのだろうか。奇妙に思いながら、納得もする。
きっと自分は呼ばれたのだ。寂しい心を引きずったままどこにも行けない魂か何かが、自分たちの兄として同じように何処にも行きたくない魂をあの場所へ呼び込んだ。
他の場所では知らないが、鳴神学園近郊では神隠しもまたよくある事だ。
あのまま残っていたら取り込まれていたのかもしれない。
荒井は何もない空間を見据える新堂の手を握り、彼にきこえるようにだけ小さく呟いた。
「勝手にどこかへ行かないでください」
その手が存外に温かくて、自分は戻ってきたのだという事と、まだこちら側に必用とされているのを実感する。
「そうだよまこちゃん先輩! 勝手に何処かにいったら嫌ですからねー」
次いで福沢が新堂の腕にしがみついて笑う。
後輩たちに心配されるようでは先輩失格か。現実なんて嫌なことが山ほどあるが、どうやらまだ向こう側に行く事は許してもらえなそうだ。
「わかったって、心配しなくてもどこにも行かねぇよ」
新堂は微かに笑うと、二人の手を引き歩き出す。
更地にはえたススキは風に吹かれ静かに揺れていた。
駅前こそ賑わっているが一歩路地を抜けるととたんに人の気配はなくなり寂れたシャッター街が広がる。かつては賑わい今は廃墟の装いが強い裏路地を新堂誠は慣れた様子で歩くとそのうち一件の扉が壊れた店へと立ち止まった。
かつては地域の子供たちのため駄菓子や文房具を売っていたのだろう。破れたメニュー表に焼きそばやかき氷といった軽食メニューが書いてあるあたり、潰れる前は子供たちにおやつなどをふるまっていたのだろう。食品衛生法などの届けを出していたかまでは知らないが。
新堂はほこりっぽい椅子にこしかけると学校で買ったコッペパンといちごオ・レを取り出す。すると何処に隠れていたのか、数人の子供たちが集まってきた。
「誠兄ちゃんが来てる」
「誠兄ちゃん、学校終わったんだ」
「誠兄ちゃん、部活はどうしたのー」
子供たちの背丈は椅子に座った新堂よりまだ小さいだろう。
俯きがちながら、笑顔だけは子供そのものだ。
新堂がこの古びたゲーセンに気付いたのは何のこともない、勉強も練習も上手くいかず真っ直ぐ家に帰りたくなかった時、裏路地を歩いていたら夜中だというのにこの店でだけ子供の声が聞こえたからだ。妙に思って入ってみれば、自分と同じように家に帰りたくない子供たちがいた。
皆、家に帰りたくない理由があり、また暗くなってからは大人たちに見つかればどうして帰らないのだと説教をされ、帰りたくない家に無理矢理帰らされるからとこの場所を秘密基地にしているのだという。
行き場がなくなった少年少女に自分の行き詰まった思いが重なったのか、新堂はそれから時々シャッター街にきては子供たちの顔を見に来ていた。
「うるせぇな、とっとと帰れっての」
そう言いつつ、いつでも自分の「誠兄ちゃん」と呼び慕ってくれているのは嬉しかった。
部活でも調子があがらず、テストで赤点をとればしばらく補習だと脅され、家に帰っても勉強をしろ、ボクシングばかりで進路は大丈夫かなんてつつかれる日々のなかここにくれば誰も自分を拒まないし怒りもしないという事実だけが安らぎだった。
「誠兄ちゃんだって帰らないくせに」
誰かが頬を膨らませて言う。
「誠兄ちゃん、いっしょに遊ぼ。かくれんぼがいいかな、鬼ごっこがいい?」
また誰かが新堂の手を引いて笑う。
「ここで鬼ごっこなんて怪我するだろ、かくれんぼでいいか? 鬼は俺がやってやるから」
新堂の合図で、子供たちは感性をあげ散り散りになっていく。
狭い店内に隠れる場所はあまりなく、10数えた後辺りを見渡せば背の高い新堂には誰がどこに隠れたか全て丸見えだった。
「ほら、見つけた」
物陰で小さくなっている背中を叩いてやれば、少年はくすぐったそうに笑う。何て他愛のない遊びだろうとは思うのだが。
「みんな見つかっちゃったね」
「誠兄ちゃん、次は何で遊ぶ?」
子供たちがせがんでくる姿を見て、こういうのも悪くないと思うのだ。
そういえば、以前荒井に言われたか。
『新堂さんはあまり成績が芳しくないですが……スポーツ推薦では教育学部へ進めますよ。体育教師なら、新堂さんに向いているんじゃないですか?』
何で自分が教師なんてやらなきゃいけないんだと思ったが。
『子供、好きですよね』
悪戯っぽく笑う荒井の顔が脳裏によぎる。
別に子供は嫌いじゃない。素直だといいが、ひねくれ者でもちゃんとスジを通して話してやればわかる事だってある。当然わからない奴もいるが、それでも話を聞いてやったり、同じ視点に立ってやる事で何かしら出来る事があるはずだ。綺麗事だと思うが、そう考える事は少なくない。
自分自身がこんなスレた性格をしているからかもしれないが、素直にしたってくれる後輩や子供たちは世話をしてやりたいし、何とかしてやりたいとは思っていた。
「誠兄ちゃん、今日は帰っちゃうの?」
気付けば遅い時間になっている。いくら新堂の家でも、そろそろ帰らなければ大目玉だろう。
「ねぇ、誠兄ちゃん、もっと遊んでよ」
「そうだよ、ずっとぼくたちのお兄ちゃんでいてよ」
子供たちは無邪気に笑って新堂の足下に絡みつく。
家に帰りづらく行き場所のない子供たち。そういう子供たちに対して兄のように接するこの環境も、それほど悪くないだろう。
少なくとも立ち止まって動けず、何でも自分の思い通りにはならない現実よりずっと……。
「新堂さん! どこにいますかー」
「まこちゃーん? こっちいる? まこちゃーん!」
その時、何処かから誰かの声がする。聞き覚えのある声だ。
行かないといけない。彼ら、彼女らに呼ばれているのだから、自分の居場所はここではない。
「あっ……悪ぃな、何か俺……呼ばれてるみてぇだから、ちょっと行ってくる。また遊んでやるからよ」
新堂は子供たちの頭を撫でると、暗がりに開いたガラス戸をくぐりその店から出て行った。
「やっぱり、誠兄ちゃんはあっち側の人だね」
「仕方ないよ、誠兄ちゃんは僕たちと違うもの」
「僕たちと違う、誰かに愛されて、求められて、ちゃんと居場所がある……そういう人だもの」
その背を見送ると、少年たちは影へと消える。
あとには半ば廃墟となったかつての駄菓子屋が残されていた。
「あー、いたまこちゃん先輩。探したんですよ」
明るい表通りに戻れば福沢と荒井が並んで新堂を見る。言葉尻にトゲがあるがどこか安心した表情になっているのに気付いた。
「だれがまこちゃん先輩だよ……まぁ別にいいけどな」
最近、福沢は新堂の回りによく顔を見せるようになり、すっかり馴染んでいる。以前はちゃんと「新堂先輩」と呼んでいたのに最近は専ら「まこちゃん先輩」だ。それでもあまり悪くないと思うのは福沢の明るさとその呼び名がマッチしているからだろう。
「しかし福沢はともかく、荒井にまで探されていたとはな……どういうことだ」
「全部、細田さんの話ですよ。細田さんからメッセージが届いて、新堂さんが何か危ない場所に行ってる気がする、霊感でそう叫んでいる、けど自分は怖くて行けないし、鳴神学園周辺だから自分はもう家に帰って行けないから、誰か近くの人見に行って! ……なんて言うもんですから一応、見に来たんです」
そういえば、荒井は鳴神学園の近くに住んでいたか。
福沢は部活が終わってすぐにメッセージを受け取り、荒井と一緒に探しに来たのだろう。
「どこいってたんですか、スマホも繋がらなかったんですけど」
むくれる福沢の顔を見て、新堂はスマホを取り出す。
福沢だけでなく、坂上や倉田、日野、風間に荒井と様々な知り合いから「どこにいる」「いつ帰るんだ」とメッセージが飛び交っていた。これは返事をするのが大変そうだ。
たかだか1時間程度遊んでいただけだが随分と心配をかけてしまったらしい。
「別にどこにも行ってねぇよ、ガキと少し遊んでただけだ。すぐそこの……」
と、振り返った時に新堂は我が目を疑う。自分の見てきたシャッター街の駄菓子屋などはそこになく、更地になった小さなスペースだけが存在していたからだ。
確かに自分はそこから出てきたはずなのに、どういう事なのだろうか。奇妙に思いながら、納得もする。
きっと自分は呼ばれたのだ。寂しい心を引きずったままどこにも行けない魂か何かが、自分たちの兄として同じように何処にも行きたくない魂をあの場所へ呼び込んだ。
他の場所では知らないが、鳴神学園近郊では神隠しもまたよくある事だ。
あのまま残っていたら取り込まれていたのかもしれない。
荒井は何もない空間を見据える新堂の手を握り、彼にきこえるようにだけ小さく呟いた。
「勝手にどこかへ行かないでください」
その手が存外に温かくて、自分は戻ってきたのだという事と、まだこちら側に必用とされているのを実感する。
「そうだよまこちゃん先輩! 勝手に何処かにいったら嫌ですからねー」
次いで福沢が新堂の腕にしがみついて笑う。
後輩たちに心配されるようでは先輩失格か。現実なんて嫌なことが山ほどあるが、どうやらまだ向こう側に行く事は許してもらえなそうだ。
「わかったって、心配しなくてもどこにも行かねぇよ」
新堂は微かに笑うと、二人の手を引き歩き出す。
更地にはえたススキは風に吹かれ静かに揺れていた。
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