インターネット字書きマンの落書き帳
遊園地バイトする石動とアントニオの話
この人、令和に石動とアントニオの二次創作をしている……!
(1日ぶり、二回目の挨拶)
という訳で、無事にキマイラまで読み終わり石動シリーズ読了のアチーブメントを解放したので、石動とアントニオの話を書きました。
理由になってない? 二次創作はな、理屈じゃ無ェんだよ……。
生き霊の少女と話をするアントニオとか、探偵の仕事が全然なくて遊園地でバイトする石動とかそういう話です。
石動←アントニオの愛情が重たい感じの話ですよ。
時系列はキマイラより後です。
これはBL……言い逃れが出来ない方のやつだ……。
とは思うけど、穴が無事なので大丈夫だと思います。
ガバガバな大丈夫理論で生きてます。
(1日ぶり、二回目の挨拶)
という訳で、無事にキマイラまで読み終わり石動シリーズ読了のアチーブメントを解放したので、石動とアントニオの話を書きました。
理由になってない? 二次創作はな、理屈じゃ無ェんだよ……。
生き霊の少女と話をするアントニオとか、探偵の仕事が全然なくて遊園地でバイトする石動とかそういう話です。
石動←アントニオの愛情が重たい感じの話ですよ。
時系列はキマイラより後です。
これはBL……言い逃れが出来ない方のやつだ……。
とは思うけど、穴が無事なので大丈夫だと思います。
ガバガバな大丈夫理論で生きてます。
『考える方と愛する方』
賑やかなマーチング・テーマが流れる遊園地で、少女は一人佇んでいた。
回転木馬の前で視点も定まらぬままぼんやりと立ち尽くし少女に誰も見向きはしない。
子供をつれた家族は仲良さそうに手をつないで歩き、カップルと思しき二人は肩を寄せ合いソフトクリームなどを手にして笑う声が賑やかな音楽と混じり合い、遊園地は空虚な賑わいを見せていた。
「お嬢さん、お一人ですか」
そんな少女の隣に、一人の青年が寄り添う。長髪で整った顔立ちの青年は流暢な日本語で話しかけてきたが、どこか異国の香りがした。
突然現れ話しかけてきた青年に、少女は驚き目を見開いてそれから小さく頷いて見せる。白いワンピースの裾がふわりと揺れた。
「誰かをお待ちで?」
再度話しかけてくる青年を見上げ、少女は小さくうなづくとおずおずと口を開いた。
「お父さんとお母さんが、ここで待ってなさいって言って……それから、もう戻ってこないの」
その言葉で青年は全てを悟る。ただの迷子などではない、捨てられたのだ。捨てられた時の辛さと悲しさ、裏切られたという絶望がこの場に留まってしまったのだろう。
「お兄さん、私のこと見えるのね」
少女はワンピースの裾をはたきながら、僅かに目を細める。自分自身が周囲には認識されていない事をとっくに気付いているのだろう。
「えぇ、お嬢さんくらいの歳にはもう色々と見えてましたし余計な話ばかりきこえてましたよ」
「そう、それは大変ね」
少女の言葉はどこか冷めていた。恐らくこの少女も見えているし、きこえているような体質なのだろう。
「お嬢さん、名前は」
青年の問いかけに、少女は黙って首を振る。覚えていないのか、思い出したくないのかもしれない。
「お兄さん、名前は」
「あたしはアントニオと呼ばれてます。あだ名ですけどね」
「そう、アントニオさん。私は死んじゃったのかな。幽霊になっちゃったのかな」
思いが強いと霊が成仏できずその場に留まるとはよく言われている事だ。実際にアントニオも場に縛られた霊というのをいくつか見てきているし、先日などは幽霊が取り憑いた人間から霊を引っ張り出したばかりである。
だが、少女の場合は死んだ無念で成仏できぬ幽霊とは違うようだった。少女の頃、この場に取り残され捨てられた誰かの記憶がずっと留まっているだけだろう。言うなれば生き霊だ。元々ある種の力をもっていた少女が両親への思いを募らせた結果、その思いだけがこの場に縛られてしまったのだ。
「お嬢さんは生きてますよ、ただ帰り方を忘れてしまっただけです」
「そう、そうなんだ……」
少女は寂しそうに俯く。
この少女が実際は幾つくらいの女性なのかは定かではない。だが、幼少期両親に捨てられた忌々しい記憶を思い出すのも嫌うあまり、この場に魂の一部だけが留まってしまったのだろう。少女の肉体が忌々しい記憶を受け入れないかぎり、彼女はずっとここに置き去りのはずだ。
彼女は賑やかなマーチの中、幸せそうな笑顔のなかでずっとひとりぼっちな気持ちを抱え生きているに違いない。
「お父さんとお母さんに捨てられちゃった私のこと、私は嫌いなんだよね。遊園地のことも、賑やかな音楽のことも」
明るいマーチソングは幸せな時に聴けば楽しいが、気が塞いでいる時に聞くとどこか不安になる。少女はここで賑やかな音を聞き一人不安に過ごしているのだろう。そしてもう、両親が迎えに来る事はないのだ。もし両親が迎えに来ていたただの迷子だったら、彼女はここに立ってないはずだから。
「私、ずっと遊園地のこと嫌いになっちゃうんだろうな……」
「好きである必用なんてありませんよ。皆が好きなものを好きである必用もなければ、明るい場所で明るくしてる必用もないですから」
「そうだね、でも私……遊園地好きだったのにな……」
アントニオは目を閉じ、思案する。賑やかな街に輝くネオンの光を以前は好いていた。人に囲まれ笑顔に包まれている時は幸せだと思ったし、楽しかった。だが実際、自分の力が忌むべきもので無駄に命をすり減らすだけの無益なものだと気付いた時、明るい世界などどこにもないのだと知った。
街の賑わいも明るさも無味となり狂いそうなほどの孤独に陥った時、このまま死ねればどれだけ楽だろうと思うと同時に、迫り来る死に恐怖した。散々殺してきた分際で死ぬのが怖かったし、誰からも見つけられず芥のように倒れ捨てられるのを恐怖した。
「お嬢さんが遊園地のこと嫌いじゃないんなら、また好きになれますよ」
「本当に? お父さんもお母さんも戻ってこないのに?」
「えぇ、本当です。本当に好きなものは、簡単に嫌いにはなれませんからね」
石動に手を差し伸べられた時。まだ少し生きていていいのだと許されたような気がした。
石動に名前を呼ばれた時、まだ自分を必用とされているのだと思った。
例えそれが血の繋がりもない赤の他人であっても、思い思われるという幸せがあるのだと知った時、まだ生きていたいと思えたのだ。
「人間に大事なのは、考える事と愛する事です。あたしは考える方が苦手なんで愛する方を頑張っているんですけどね、そうすれば……家族じゃなくても、誰かが同じように思ってくれて、そうして楽しくも、幸せにもなれるもんですよ」
少女は顔をあげ、アントニオを見る。黒曜石のように磨かれた黒い瞳には微かに光が宿っていた。
「本当に? 私でも、誰かが必用としてくれるのかな」
「勿論です、お嬢さんがしっかり考えるか、ちゃんと愛することが出来れば……かならず、こたえてくれる人がいますよ」
「考えるか、愛する……」
「お嬢さんの得意なほうを選んで、やってみるといいです。大切だと思った誰かのために一生懸命考えるか、その相手を愛する。人間の繋がりってのは、血だけじゃないですからね」
その時、誰かがアントニオを呼ぶ。振り返ればそこには汗だくになった石動の姿があった。
「何でそんな所にいるんだよアントニオ、探したんだぞ」
「すいません、大将。やることも全部終わったんで一人待つのも退屈だからちょっとぶらぶらしてたんですよ」
毎日が閑古鳥で人員は石動一人でも過剰なくらいの石動探偵事務所は大々的なCMもしていなければ大きな事件を解決している訳でもないため毎月の家賃を捻出するのも心許ない有様だった。そのため、時には知り合いの伝手をかりて仕事をすることもあれば臨時バイトを入れて何とか家賃だけは間に合わせる事もある。
その日はアントニオと二人で遊園地の臨時アルバイトとして雇われていた。 何でも人の入りが多い休日にインフルエンザが蔓延し職員が足りなくなり、急遽人員が必要となった話が回り回って石動の所へとやってきたのだ。
探偵としての自負がある石動は遊園地のバイトを相当に渋ったが背に腹はかえられず遊園地へ来てみれば、小柄な石動は真っ先にクマの着ぐるみに入るよう命令されますますへそを曲げてしまった。屋台の売店でホットドッグやポップコーンを売るように任されたアントニオと変わってほしいと散々駄々をこねたが、石動とアントニオでは背の高さが違い、クマのぬいぐるみは石動くらいの背丈ではないと入れない大きさだったから仕方ないだろう。
何とか一日、子供と家族連れを前に愛想をたっぷり振りまいてきたが汗だくになって限界まで働かされたのですっかり不機嫌になっているのは見てとれる。
「ほら、さっさと帰るぞ。まったく、二度とこんな所来るもんか」
石動はアントニオの手を引くと、心底疲れた顔をしてどんどん進んで行く。彼に手を引かれ、アントニオは振り返ると少女の方を見て小さく手を振った。
その姿を、少女はどこか安心したように眺める。そして静かに、黄昏へと消えていった。
賑やかなマーチング・テーマが流れる遊園地で、少女は一人佇んでいた。
回転木馬の前で視点も定まらぬままぼんやりと立ち尽くし少女に誰も見向きはしない。
子供をつれた家族は仲良さそうに手をつないで歩き、カップルと思しき二人は肩を寄せ合いソフトクリームなどを手にして笑う声が賑やかな音楽と混じり合い、遊園地は空虚な賑わいを見せていた。
「お嬢さん、お一人ですか」
そんな少女の隣に、一人の青年が寄り添う。長髪で整った顔立ちの青年は流暢な日本語で話しかけてきたが、どこか異国の香りがした。
突然現れ話しかけてきた青年に、少女は驚き目を見開いてそれから小さく頷いて見せる。白いワンピースの裾がふわりと揺れた。
「誰かをお待ちで?」
再度話しかけてくる青年を見上げ、少女は小さくうなづくとおずおずと口を開いた。
「お父さんとお母さんが、ここで待ってなさいって言って……それから、もう戻ってこないの」
その言葉で青年は全てを悟る。ただの迷子などではない、捨てられたのだ。捨てられた時の辛さと悲しさ、裏切られたという絶望がこの場に留まってしまったのだろう。
「お兄さん、私のこと見えるのね」
少女はワンピースの裾をはたきながら、僅かに目を細める。自分自身が周囲には認識されていない事をとっくに気付いているのだろう。
「えぇ、お嬢さんくらいの歳にはもう色々と見えてましたし余計な話ばかりきこえてましたよ」
「そう、それは大変ね」
少女の言葉はどこか冷めていた。恐らくこの少女も見えているし、きこえているような体質なのだろう。
「お嬢さん、名前は」
青年の問いかけに、少女は黙って首を振る。覚えていないのか、思い出したくないのかもしれない。
「お兄さん、名前は」
「あたしはアントニオと呼ばれてます。あだ名ですけどね」
「そう、アントニオさん。私は死んじゃったのかな。幽霊になっちゃったのかな」
思いが強いと霊が成仏できずその場に留まるとはよく言われている事だ。実際にアントニオも場に縛られた霊というのをいくつか見てきているし、先日などは幽霊が取り憑いた人間から霊を引っ張り出したばかりである。
だが、少女の場合は死んだ無念で成仏できぬ幽霊とは違うようだった。少女の頃、この場に取り残され捨てられた誰かの記憶がずっと留まっているだけだろう。言うなれば生き霊だ。元々ある種の力をもっていた少女が両親への思いを募らせた結果、その思いだけがこの場に縛られてしまったのだ。
「お嬢さんは生きてますよ、ただ帰り方を忘れてしまっただけです」
「そう、そうなんだ……」
少女は寂しそうに俯く。
この少女が実際は幾つくらいの女性なのかは定かではない。だが、幼少期両親に捨てられた忌々しい記憶を思い出すのも嫌うあまり、この場に魂の一部だけが留まってしまったのだろう。少女の肉体が忌々しい記憶を受け入れないかぎり、彼女はずっとここに置き去りのはずだ。
彼女は賑やかなマーチの中、幸せそうな笑顔のなかでずっとひとりぼっちな気持ちを抱え生きているに違いない。
「お父さんとお母さんに捨てられちゃった私のこと、私は嫌いなんだよね。遊園地のことも、賑やかな音楽のことも」
明るいマーチソングは幸せな時に聴けば楽しいが、気が塞いでいる時に聞くとどこか不安になる。少女はここで賑やかな音を聞き一人不安に過ごしているのだろう。そしてもう、両親が迎えに来る事はないのだ。もし両親が迎えに来ていたただの迷子だったら、彼女はここに立ってないはずだから。
「私、ずっと遊園地のこと嫌いになっちゃうんだろうな……」
「好きである必用なんてありませんよ。皆が好きなものを好きである必用もなければ、明るい場所で明るくしてる必用もないですから」
「そうだね、でも私……遊園地好きだったのにな……」
アントニオは目を閉じ、思案する。賑やかな街に輝くネオンの光を以前は好いていた。人に囲まれ笑顔に包まれている時は幸せだと思ったし、楽しかった。だが実際、自分の力が忌むべきもので無駄に命をすり減らすだけの無益なものだと気付いた時、明るい世界などどこにもないのだと知った。
街の賑わいも明るさも無味となり狂いそうなほどの孤独に陥った時、このまま死ねればどれだけ楽だろうと思うと同時に、迫り来る死に恐怖した。散々殺してきた分際で死ぬのが怖かったし、誰からも見つけられず芥のように倒れ捨てられるのを恐怖した。
「お嬢さんが遊園地のこと嫌いじゃないんなら、また好きになれますよ」
「本当に? お父さんもお母さんも戻ってこないのに?」
「えぇ、本当です。本当に好きなものは、簡単に嫌いにはなれませんからね」
石動に手を差し伸べられた時。まだ少し生きていていいのだと許されたような気がした。
石動に名前を呼ばれた時、まだ自分を必用とされているのだと思った。
例えそれが血の繋がりもない赤の他人であっても、思い思われるという幸せがあるのだと知った時、まだ生きていたいと思えたのだ。
「人間に大事なのは、考える事と愛する事です。あたしは考える方が苦手なんで愛する方を頑張っているんですけどね、そうすれば……家族じゃなくても、誰かが同じように思ってくれて、そうして楽しくも、幸せにもなれるもんですよ」
少女は顔をあげ、アントニオを見る。黒曜石のように磨かれた黒い瞳には微かに光が宿っていた。
「本当に? 私でも、誰かが必用としてくれるのかな」
「勿論です、お嬢さんがしっかり考えるか、ちゃんと愛することが出来れば……かならず、こたえてくれる人がいますよ」
「考えるか、愛する……」
「お嬢さんの得意なほうを選んで、やってみるといいです。大切だと思った誰かのために一生懸命考えるか、その相手を愛する。人間の繋がりってのは、血だけじゃないですからね」
その時、誰かがアントニオを呼ぶ。振り返ればそこには汗だくになった石動の姿があった。
「何でそんな所にいるんだよアントニオ、探したんだぞ」
「すいません、大将。やることも全部終わったんで一人待つのも退屈だからちょっとぶらぶらしてたんですよ」
毎日が閑古鳥で人員は石動一人でも過剰なくらいの石動探偵事務所は大々的なCMもしていなければ大きな事件を解決している訳でもないため毎月の家賃を捻出するのも心許ない有様だった。そのため、時には知り合いの伝手をかりて仕事をすることもあれば臨時バイトを入れて何とか家賃だけは間に合わせる事もある。
その日はアントニオと二人で遊園地の臨時アルバイトとして雇われていた。 何でも人の入りが多い休日にインフルエンザが蔓延し職員が足りなくなり、急遽人員が必要となった話が回り回って石動の所へとやってきたのだ。
探偵としての自負がある石動は遊園地のバイトを相当に渋ったが背に腹はかえられず遊園地へ来てみれば、小柄な石動は真っ先にクマの着ぐるみに入るよう命令されますますへそを曲げてしまった。屋台の売店でホットドッグやポップコーンを売るように任されたアントニオと変わってほしいと散々駄々をこねたが、石動とアントニオでは背の高さが違い、クマのぬいぐるみは石動くらいの背丈ではないと入れない大きさだったから仕方ないだろう。
何とか一日、子供と家族連れを前に愛想をたっぷり振りまいてきたが汗だくになって限界まで働かされたのですっかり不機嫌になっているのは見てとれる。
「ほら、さっさと帰るぞ。まったく、二度とこんな所来るもんか」
石動はアントニオの手を引くと、心底疲れた顔をしてどんどん進んで行く。彼に手を引かれ、アントニオは振り返ると少女の方を見て小さく手を振った。
その姿を、少女はどこか安心したように眺める。そして静かに、黄昏へと消えていった。
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