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インターネット字書きマンの落書き帳

   
石動事務所を守るアントニオの話
この人ッ……令和に石動戯作とアントニオの話書いてる……!(挨拶)

石動とアントニオと書いてますが、アントニオがただ留守番するだけの話です。
美濃牛で出かける前、イヤイヤながら出かける石動を見送るアントニオみたいな話……ですが石動はとくに何も話しません、まぁ石動だから仕方ないよね。

留守番しているアントニオ、何もしてないけど何かしていたんじゃないかと思ってます。
だってアントニオの居場所はここだけだから……!

俺が書きたいので書きました。
殊能将之! あるんでしょ、石動とアントニオが出会った最初の事件……あるんでしょ!
出しなさい……!

もう出せない……そうだねっ……。
泣いちゃった……俺が……!


『冷たい街の匣の音』

 慣れないスーツとビジネスバッグを手にし、石動戯作は大きなため息をついた。 これから慣れ親しんだ東京を出て岐阜県まで出向き、大規模リゾート計画の契約を取り付けるまで帰ってくるなと命令されたのだから気が重いのだろう。

「大将、そんなシケた顔しなさんなって。ほら、ネクタイ曲がってますぜ」

 アントニオはニヤついた顔を見せ石動のネクタイを直す。その顔を見て石動は「まったく、お前は気楽でいいな」と言いたげな視線を向けていた。
 今、石動探偵事務所は風前の灯火の状態である。家賃はすでに三ヶ月滞納されているというのに仕事の依頼は一切なく、石動の貯金はとっくに底が尽きている。親戚一同に金を無心するにもとっくに愛想はつかされて、もはや振る袖もない有様だ。
 特に名声もない自称名探偵の癖に依頼をえり好みした結果といえば当然の有様といえばその通りで、いよいよ石動とアントニオ二人して路頭に迷おうという時、手を差し伸べてくれたのが石動とは旧知の仲であるという大学の先輩だった。
 岐阜県某所にある土地のリゾート開発、その仕事を手伝うなら家賃の支払いは何とかしてくれるという。その上、経費は向こう持ちで成功したら幾ばくかの給料も支払うというのだから渡りに船というものだろう。
 喜ぶべきであって文句をいう筋合いは一つもない破格の条件ではあったが、名声もない癖に仕事を選ぶ石動がやりたくもないセールス業を押しつけられた挙げ句、名探偵の肩書きまで変えさせられ東京から追い出されるというのは不満なようだった。都会の雑踏になれた石動だからしばらくは田舎暮らしを強いられる不安もあるのかもしれない。
 とはいえ、石動は人好きのする性格だ。人の心に気付いたらちょこんと居座り周囲に世話を焼かれるのは得意中の得意だから知らない土地へ行かされてもきっと何とかなるだろう。
 むしろ、現場に馴染みすぎて帰ってこなくなるのではと心配になる。

「はい、ハンカチはもちましたね? ティッシュもポケットに入ってますか。いってらっしゃい、ちゃんと帰ってきてくだせぇよ」

 軽く声をかけるアントニオの言葉とは裏腹に石動は鉛がついたように重い足取りで駅の方へと消えていった。
 駄々っ子のように行きたくないとぐずっていた石動が何とか旅立ったのを確認すると、アントニオは早速事務所へと戻る。石動から、居ない間は事務所を頼むと申し渡されていたからだ。
 これは文字通り、事務所を石動が出る前と同様に守っておけという意味であると同時に家賃の取り立てをのらりくらりとかわしておけという意味でもある。
 雑然とものが置かれ整理整頓とは無縁のお世辞にも綺麗とはいえない石動探偵事務所は盗むようなものもなければ金目のものもない。怖れるものがあるとしたら家賃を取り立てにきた不動産屋が業を煮やして荷物を外に運び出し強制退去となる事くらいだ。
 だから不動産屋の取り立てが石動にとっては何より心配だったのだろう。
 アントニオを留守番に置いたのも、取り立てで強面の連中に囲まれ恫喝されるのを怖れてだったのは想像に難くない。
 だがアントニオはその点の心配を一切していなかった。

「さて、何か書くものはっと……うん、この紙でいいですかね。これに、ちょいちょいっと」

 アントニオはノートの切れ端に赤いマジックペンで文字と記号を合わせたようなものを書くとそれを部屋の四隅に貼り付ける。
 必用な力はほんの少し、この部屋全体を心持ち押してずらすだけ。イメージを思い描いて念じれば、周囲と事務所の空間が一瞬歪んで、それから辺りは都内にあると思えないほど静かな空間へと変貌した。

「まぁ、こんな所でしょうかね」

 静寂に包まれた事務所を見渡すと、アントニオは一仕事終えたような顔をした。
 アントニオは生まれつきに特殊な力を持っている。それは数多の命を蹂躙できる力であり、時間や空間の流れにも干渉さえできるものであった。
 人間には過ぎたる力だ。必要以上に見えるのも、必要でもなく壊せるのも今はただ忌むべき力でしかない。
 実際アントニオは自分の力を忌避して故郷を去り、誰も知らない極東の地へ流れ着いて来たのだ。もうどうにでもなれ、死んでしまってもいい。そうとさえ思って自暴自棄になっていた彼を見つけたのが石動であり、居場所となったのがこの事務所である。
 忌むべきものだと思った力でも、やっと見つけた居場所を守るために使えるのなら存外に悪くないものだ。アントニオは今だけ、自分の過ぎた力に感謝した。
 時間と空間から僅かにずれたこの部屋は、今は周囲からの認識が殆ど薄くなっている。不動産屋が普通の人間なら取り立てをするのも忘れてしばらくは過ごす事だろう。この場所に来た人間が偶然特殊な力を持っていたとしても、十円玉の側面にギザギザが付いてる事なんて気にしてなければ気付かないのと一緒で、誰かが意図してこの空間をズラしている事なんてその意味を探ろうとでもしなければ気付かないはずだ。少なくとも石動が仕事を終え、家賃支払いの目処がたつまでこの事務所には誰も近づくまい。
 その最中、面白い依頼が来たのなら石動は悔しがるかもしれないが今は岐阜のリゾート開発に力を入れてもらうことにしよう。
 さて、一ヶ月か二ヶ月か、それとももっとかかるだろうか。
 机には何のメモだかわからない紙束が雑然と並んでいる。ラックには本や衣類がデタラメに押し込められ、どこまでが大事なものでどこからがガラクタなのか見ただけでは区別も出来ない。
 そもそも石動はちょっと整理しておくと「この書類は自分なりにまとめておいたのだ」と異議申し立てをするタイプの人間だ、下手に掃除や片付けなどはしないほうがいいだろう。
 アントニオは事務所の端にあるCDプレイヤーから石動のお気に入りを取り出すとそれをかけてから自分のハンモックへ潜り込む。

「大将がいない間、大将の好きな音楽でもお勉強しておきますかね」

 そしてそう独りごちると、静かに目を閉じた。
 一日でも早く事務所に喧騒が戻ってくるのを祈りながら。

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