インターネット字書きマンの落書き帳
目覚めた時に隣に受けちゃんがいない話(シンドー×あらいBL)
平和な世界線で普通に付き合っている新堂×荒井の話をしまーす。(挨拶)
最近は少し文字を書くのをサボっていましてね……。
ずっとモブサイコ100(アニメ版)をシリーズ通しで見たり、FF14遊んだり、グノーシアで遊んだりしてました。
ので! 久しぶりに字を書くからすこしノンビリとリハビリ気分で書こうとおもーいまーす。
よーろしーくねー。
今回の話は、夜中に目覚めたら隣にいるはずの荒井がいなくてやけに不安になってしまう新堂パイセンの話です。
目が覚めたら隣に大切な人がいない……。
このフォーマットは僕が特に最高だな……と思っているのでもれなく書く事が決められています。
キミは好きかい?
今日から好きになるといいよ!
最近は少し文字を書くのをサボっていましてね……。
ずっとモブサイコ100(アニメ版)をシリーズ通しで見たり、FF14遊んだり、グノーシアで遊んだりしてました。
ので! 久しぶりに字を書くからすこしノンビリとリハビリ気分で書こうとおもーいまーす。
よーろしーくねー。
今回の話は、夜中に目覚めたら隣にいるはずの荒井がいなくてやけに不安になってしまう新堂パイセンの話です。
目が覚めたら隣に大切な人がいない……。
このフォーマットは僕が特に最高だな……と思っているのでもれなく書く事が決められています。
キミは好きかい?
今日から好きになるといいよ!
『闇を零し暗澹を抱く』
新堂誠はぼんやりとした不安を掻き立てる夢から目覚めた時に寝ぼけたまま周囲を見やればそこが普段寝ている自分のベッドではなかったためにひどく同様した。
しかし慌てたのも一瞬のことで、そこが勝手知ったる荒井の部屋である事に気付きひとまず安堵の息を漏らす。そしてゆっくりと昨夜の出来事を思い出していた。
荒井の家に両親がいない日、新堂はよく荒井の家に泊まるようになっていた。
他愛もない話をし、一緒に食事をしてゲームをしたり映画を見たりして過ごす。夜ともなれば自然とセックスをする事が多かったが特に何もしなくとも一緒にいるだけで楽しかった。
眠る前は二人で何をしていただろうか。
普段より早く食事を済ませた後、自然とベッドに転がってからはどちらが求めたという訳でもなく互いの肌を重ねた気がする。ひとしきり抱いた後は二人でシャワーを浴び微睡んでいるうちに眠ってしまったのだろう。
時計を見ればまだ午前2時を少し過ぎたばかりである。
眠りに落ちる前までは確かに腕の中にいた荒井の姿は、今はない。
こんな時間でも荒井なら好奇心の赴くままに夜の散歩をするかもしれないが、新堂一人を置き去りにして出かける事はないだろう。事実として部屋を見回しても着替えた様子もなければ鞄も置きっぱなしのままだ。
もし荒井が寝る前と同じ服を着ていたとするなら寝間着代わりに着せた新堂のシャツを羽織っているはずだから、まさか明らかに大きなシャツを着たまま外に出かけるなど神経質な荒井がするはずもない。
外に出ていないのならばこの家のどこかにいるはずだろう。
おそらくは水を飲むためにキッチンへ向かったか催したのでトイレにでも行っているに違いない。新堂が気にせずともすぐ戻るはずだからこのままベッドで寝転んでいればいい。5分もすれば戻ってきてまた新堂の腕を枕にして眠るのだろう。
そんな事を考えながら寝返りをうち横になると自然と窓へと視線が向く。月のない夜なのだろうか、カーテンが開いているにもかかわらず何の光も届かぬ宵闇が広がっていた。
吸い込まれるほど暗く深い闇を見つめていると新堂の心にもじわりじわりと不安の色が広がっていく。
きっと悪夢のせいだろう。
どんな夢を見たかは曖昧だが蒸し暑い夏の日、新聞部での集会に出ていた時の夢だった気がする。
室内は息をするのも億劫なほど重苦しく妙な緊張感に包まれている。
身じろぎする事さえ許されないような張り詰めた空気の中で荒井が淡々と語る姿を新堂は黙って聞いていた。安普請のパイプ椅子が時々軋む音がする。抑揚のない声で語られる話は影男に囚われ血すら出ない身体となり自分が自分でないのだと嘆く荒井だった。
いや、荒井はもとより人間ではないのだ。死んだ人間そっくりに作られた人形であり元々その身体に血など一滴も流れていないのだ。駆け巡るのは血潮ではなく墨汁のように黒く滴る得体の知れない何かであり、人形のようなこの顔もすべて失われた記憶の残渣にすぎないのだ。 この学校にいる時だけ人間らしく動く事ができるが、自分のもつ外見も性格も感情もなにもかもが模倣である自分という存在は人形であり影である。
「それなら、貴方を思うこの気持ちも全て偽りだというのでしょうか。胸が軋むほどに痛むこの感情も」
自分の胸元を掴み苦しそうに吐露する荒井を前に、新堂は何も出来ないでいた。
手を伸ばそうとしても身動きとれず、泣くことすら許されずその場に崩れ落ちる荒井をただ眺めているだけなのだ。
本当は今すぐにでも抱き留めて支えてやりたいというのに、荒井の話を聞く時の新堂はいつだってただの傍観者なのだ。
静かな部屋で窓を見つめているうちに曖昧だった悪夢の記憶が鮮明になっていく。
一体どうしてこんな夢を見たのだろうか。
夢で荒井の語った話は一度だって聞いた事のない怪談だったがまるで以前どこかで聞いた事があるような生々しさをもっていた。
いくらリアリティがあろうとも夢は夢だ。さして気にする必用など無いというのはわかっているが、荒井がこの場にいないのがひどく不安になってくる。
時計をみてもまだ2,3分程度しか過ぎていないのだが、荒井は何処にいったのだろう。トイレにしても水にしても自分が目覚める前から部屋にいないのなら随分と戻っていないのではないだろうか。
「くそッ、こんな事を気にしたって仕方ねぇもんなァ」
耐えきれなくなった新堂は頭を掻きながら起き上がり荒井を探しに行く事にした。
外には出てないだろうから家の中を探せば何処かしらにいるだろう。そう思い部屋のドアを開け廊下を覗けばどこにも灯りはなく人の気配がない。
荒井の家には何度か泊まりに来ているがほとんどを荒井の部屋で過ごしているからどこに何の部屋があるのかは把握していなかったが、キッチンもトイレも風呂も全て一階にあるはずだからきっと荒井は一階にいるのだろう。 それに、二階のどの部屋からも灯りが漏れていないのだからここには誰もいないだろう。そう思った新堂は足音を忍ばせ一階へと降りていった。
それにしても荒井の家は新堂の家と比べて幾分か広く部屋数も多いように見えるがまったく生活感がない。 廊下にはモノ一つ置かれておらず、壁にはカレンダーの類がかけられている事もないのだ。
新堂の家は電話が廊下に置かれておりその電話には母が手芸で作ったパッチワークのような布が敷かれていたり壁にはどこの土産だかもわからぬような木彫りの壁掛けがぶら下がっていたりと雑然としているからそういったものが一切ない荒井の家はなおさら殺風景に見える。
普段ならさして気にしない光景でも、夜の静寂に包まれた中ではいっそう不安を掻き立てた。
悪夢の中で慟哭する荒井の姿が脳裏によぎり、この家のどこかで泣いているのではないかと思うと焦燥ばかりが募っていく。
一階に降りるがやはり灯りはどこにもない。廊下を見ればトイレのドアも確認できる間取りなのだがトイレに入っているのなら電気の一つもつけるだろう。 その光がないのだからトイレにいない。
だとしたら他にどこにいるのだろう。一階もまた二階と同様闇に包まれ灰色の世界では壁の輪郭がぼんやりと浮かび上がるだけのように見えた。
新堂はひとまず玄関を覗き、荒井の靴があるかを確認する。外に出ていたら流石に探しようがないと思ったからだ。幸いにも荒井の靴はそこに残されており、少なくとも外には出ていない事が確認できる。
いるとしたらキッチンか。
耳が痛くなるほど静かな闇へ足を向け食堂を覗くがやはり誰もいなかった。これでキッチンに誰もいなかったらいよいよどこにいるのか分からなくなってくる。
まさか荒井は闇に溶け消えてしまったのだろうか。
そんな空想を振り払うよう新堂は大げさに首を振った。そんな怪談話あるはずがない。鳴神学園の中だったら怪異にさらわれる事もあるかもしれないが、ここは荒井の家なのだ。頭では理解しているがぼんやりとした不安はいよいよ湿度と重さをもって胸へと覆い被さり新堂の不安を掻き立てる。
「クソッタレ、何で俺がこんな気持ち悪い思いしなくちゃいけねぇってんだよ……」
新堂は誰に聞かせるでもなく呟くと胸を押さえキッチンへと向かった。
もしここにいなかったらどうしたらいいのだろう。どこかで行き違いになったのか。他の靴を使って外に出たのか。本当に影にでも飲まれてしまったのではないか……様々な思惑が渦巻くなかキッチンの扉を開く。
「あ……どうしたんですか、新堂さん」
そこに、荒井はいた。
水を飲みに来ていたのだろう、手には濡れたグラスが握られており驚いたように新堂を見つめている。その姿は普段の新堂が知る荒井と何らかわりのない。
「いや、別に何でもねぇんだよ。何でもねぇんだけどなァ……」
荒井がいる。荒井の声がし、荒井の呼吸を感じる。
当たり前の事を確認し、新堂の不安はようやく薄らいでいった。それと同時に今まで不安にとりつかれていた自分がひどく滑稽に思えてくる。まったくいつからこんなにも臆病になってしまったのだろうか。
怖れ知らずの不良として鳴神学園でも名の知れた存在である自分がただ荒井がそばにいないというだけで不安になるとは思ってもいなかった。
「何でもねぇんだが、起きたらお前がいねぇだろ? あんまり寝覚めも良くなくてな……お前が俺の前からふらりといなくなりやしねぇかとか……今までおまえと過ごした時間が夢だったんじゃ無ェかとか……そんなガラでもねぇ事考えてたら、怖くなっちまってな。お前の事探しにきたんだ……かっこ悪いだろ?」
こんな事を荒井に言ったってしょうがないのは分かっていた。今までの全てが夢だったらなんて感傷的な言葉が自分らしくもないというのもだ。それでも口に出していたのは荒井を見つけた安堵の気持ちが大きかったからだろう。
それに荒井になら多少かっこ悪い姿を見せてもいい。別に荒井はこれくらいで自分の事を嫌いになったりするような男じゃない。そういうのを分かってきたのもある。
「何をいってるんですか新堂さん……」
荒井は思いがけぬ言葉を聞いたといった表情を一瞬だけ見せるが、すぐに濡れたグラスを置きかわりに新堂の手に触れる。
彼に触れ幾分か冷静さを取り戻した新堂は自分がどれだけ恥ずかしい事を口にしていたのか改めて思い出しとたんに気恥ずかしくなっていた。
「わかってるって、らしくねぇってのは……でもなァ、荒井」
慌てて言い訳しようとする新堂を前に、荒井は静かに首を振る。
「いえ、いいんです。あの……僕も一人で水を飲みにきて、ふと……不安になっていたんです。きっと周囲があまりにも暗く、静かだったからでしょうね。水を飲んでドアを見ていたら、世界で僕しか生きていないような気がして……この闇に一人で取り残されてしまっていたらどうしよう。二階の部屋に戻っても貴方がいなかったら……それを思うと不安になって、どうにも動けなくなっていた所なんです」
そして新堂の身体に抱きつくとやっと安寧を得たかのような穏やかな笑みを浮かべた。
「迎えに来てくれてありがとうございます、新堂さん」
腰のあたりを抱きしめる荒井の身体を抱きしめ返せば微かだがミントの香りがする。華奢で細い荒井の身体は強く抱きしめれば折れてしまいそうな程にか弱く見え、抱きしめているうちにそのまま影へと消えてしまいそうな気さえしてくる。
「よし、それじゃ……そろそろベッドに戻るとするか」
新堂は不安の全てを押し出すよう腹から息を吐き出し声をあげそのまま荒井を抱き上げた。突然横抱きにされた荒井は驚いて目を丸くする。
「ちょっとまってください新堂さん、何をするんですか……別に怪我はしてないですから、自分で歩けますって」
「何だよ俺がお前のこと落とすとでも思ってるのか?」
「そんな事は思ってませんけど……」
「だったら俺に運ばせてくれ……こうして腕の中で抱きしめてればお前がどこかに行くかもしれないなんて下らない心配しなくていいだろ。お前だってそうだ、俺がいなくなるなんて心配しなくていい……お互い変な気を起こさない為にも、こうするのが一番なんだよ」
そうして歩き出す新堂を呆れて眺めながらも荒井はまんざらでもない様子で身体すべてを新堂へと預ける。
微かな体温を感じながら歩けばもう闇に対する不安も心配もなにもかも溶けるように消えていた。
新堂誠はぼんやりとした不安を掻き立てる夢から目覚めた時に寝ぼけたまま周囲を見やればそこが普段寝ている自分のベッドではなかったためにひどく同様した。
しかし慌てたのも一瞬のことで、そこが勝手知ったる荒井の部屋である事に気付きひとまず安堵の息を漏らす。そしてゆっくりと昨夜の出来事を思い出していた。
荒井の家に両親がいない日、新堂はよく荒井の家に泊まるようになっていた。
他愛もない話をし、一緒に食事をしてゲームをしたり映画を見たりして過ごす。夜ともなれば自然とセックスをする事が多かったが特に何もしなくとも一緒にいるだけで楽しかった。
眠る前は二人で何をしていただろうか。
普段より早く食事を済ませた後、自然とベッドに転がってからはどちらが求めたという訳でもなく互いの肌を重ねた気がする。ひとしきり抱いた後は二人でシャワーを浴び微睡んでいるうちに眠ってしまったのだろう。
時計を見ればまだ午前2時を少し過ぎたばかりである。
眠りに落ちる前までは確かに腕の中にいた荒井の姿は、今はない。
こんな時間でも荒井なら好奇心の赴くままに夜の散歩をするかもしれないが、新堂一人を置き去りにして出かける事はないだろう。事実として部屋を見回しても着替えた様子もなければ鞄も置きっぱなしのままだ。
もし荒井が寝る前と同じ服を着ていたとするなら寝間着代わりに着せた新堂のシャツを羽織っているはずだから、まさか明らかに大きなシャツを着たまま外に出かけるなど神経質な荒井がするはずもない。
外に出ていないのならばこの家のどこかにいるはずだろう。
おそらくは水を飲むためにキッチンへ向かったか催したのでトイレにでも行っているに違いない。新堂が気にせずともすぐ戻るはずだからこのままベッドで寝転んでいればいい。5分もすれば戻ってきてまた新堂の腕を枕にして眠るのだろう。
そんな事を考えながら寝返りをうち横になると自然と窓へと視線が向く。月のない夜なのだろうか、カーテンが開いているにもかかわらず何の光も届かぬ宵闇が広がっていた。
吸い込まれるほど暗く深い闇を見つめていると新堂の心にもじわりじわりと不安の色が広がっていく。
きっと悪夢のせいだろう。
どんな夢を見たかは曖昧だが蒸し暑い夏の日、新聞部での集会に出ていた時の夢だった気がする。
室内は息をするのも億劫なほど重苦しく妙な緊張感に包まれている。
身じろぎする事さえ許されないような張り詰めた空気の中で荒井が淡々と語る姿を新堂は黙って聞いていた。安普請のパイプ椅子が時々軋む音がする。抑揚のない声で語られる話は影男に囚われ血すら出ない身体となり自分が自分でないのだと嘆く荒井だった。
いや、荒井はもとより人間ではないのだ。死んだ人間そっくりに作られた人形であり元々その身体に血など一滴も流れていないのだ。駆け巡るのは血潮ではなく墨汁のように黒く滴る得体の知れない何かであり、人形のようなこの顔もすべて失われた記憶の残渣にすぎないのだ。 この学校にいる時だけ人間らしく動く事ができるが、自分のもつ外見も性格も感情もなにもかもが模倣である自分という存在は人形であり影である。
「それなら、貴方を思うこの気持ちも全て偽りだというのでしょうか。胸が軋むほどに痛むこの感情も」
自分の胸元を掴み苦しそうに吐露する荒井を前に、新堂は何も出来ないでいた。
手を伸ばそうとしても身動きとれず、泣くことすら許されずその場に崩れ落ちる荒井をただ眺めているだけなのだ。
本当は今すぐにでも抱き留めて支えてやりたいというのに、荒井の話を聞く時の新堂はいつだってただの傍観者なのだ。
静かな部屋で窓を見つめているうちに曖昧だった悪夢の記憶が鮮明になっていく。
一体どうしてこんな夢を見たのだろうか。
夢で荒井の語った話は一度だって聞いた事のない怪談だったがまるで以前どこかで聞いた事があるような生々しさをもっていた。
いくらリアリティがあろうとも夢は夢だ。さして気にする必用など無いというのはわかっているが、荒井がこの場にいないのがひどく不安になってくる。
時計をみてもまだ2,3分程度しか過ぎていないのだが、荒井は何処にいったのだろう。トイレにしても水にしても自分が目覚める前から部屋にいないのなら随分と戻っていないのではないだろうか。
「くそッ、こんな事を気にしたって仕方ねぇもんなァ」
耐えきれなくなった新堂は頭を掻きながら起き上がり荒井を探しに行く事にした。
外には出てないだろうから家の中を探せば何処かしらにいるだろう。そう思い部屋のドアを開け廊下を覗けばどこにも灯りはなく人の気配がない。
荒井の家には何度か泊まりに来ているがほとんどを荒井の部屋で過ごしているからどこに何の部屋があるのかは把握していなかったが、キッチンもトイレも風呂も全て一階にあるはずだからきっと荒井は一階にいるのだろう。 それに、二階のどの部屋からも灯りが漏れていないのだからここには誰もいないだろう。そう思った新堂は足音を忍ばせ一階へと降りていった。
それにしても荒井の家は新堂の家と比べて幾分か広く部屋数も多いように見えるがまったく生活感がない。 廊下にはモノ一つ置かれておらず、壁にはカレンダーの類がかけられている事もないのだ。
新堂の家は電話が廊下に置かれておりその電話には母が手芸で作ったパッチワークのような布が敷かれていたり壁にはどこの土産だかもわからぬような木彫りの壁掛けがぶら下がっていたりと雑然としているからそういったものが一切ない荒井の家はなおさら殺風景に見える。
普段ならさして気にしない光景でも、夜の静寂に包まれた中ではいっそう不安を掻き立てた。
悪夢の中で慟哭する荒井の姿が脳裏によぎり、この家のどこかで泣いているのではないかと思うと焦燥ばかりが募っていく。
一階に降りるがやはり灯りはどこにもない。廊下を見ればトイレのドアも確認できる間取りなのだがトイレに入っているのなら電気の一つもつけるだろう。 その光がないのだからトイレにいない。
だとしたら他にどこにいるのだろう。一階もまた二階と同様闇に包まれ灰色の世界では壁の輪郭がぼんやりと浮かび上がるだけのように見えた。
新堂はひとまず玄関を覗き、荒井の靴があるかを確認する。外に出ていたら流石に探しようがないと思ったからだ。幸いにも荒井の靴はそこに残されており、少なくとも外には出ていない事が確認できる。
いるとしたらキッチンか。
耳が痛くなるほど静かな闇へ足を向け食堂を覗くがやはり誰もいなかった。これでキッチンに誰もいなかったらいよいよどこにいるのか分からなくなってくる。
まさか荒井は闇に溶け消えてしまったのだろうか。
そんな空想を振り払うよう新堂は大げさに首を振った。そんな怪談話あるはずがない。鳴神学園の中だったら怪異にさらわれる事もあるかもしれないが、ここは荒井の家なのだ。頭では理解しているがぼんやりとした不安はいよいよ湿度と重さをもって胸へと覆い被さり新堂の不安を掻き立てる。
「クソッタレ、何で俺がこんな気持ち悪い思いしなくちゃいけねぇってんだよ……」
新堂は誰に聞かせるでもなく呟くと胸を押さえキッチンへと向かった。
もしここにいなかったらどうしたらいいのだろう。どこかで行き違いになったのか。他の靴を使って外に出たのか。本当に影にでも飲まれてしまったのではないか……様々な思惑が渦巻くなかキッチンの扉を開く。
「あ……どうしたんですか、新堂さん」
そこに、荒井はいた。
水を飲みに来ていたのだろう、手には濡れたグラスが握られており驚いたように新堂を見つめている。その姿は普段の新堂が知る荒井と何らかわりのない。
「いや、別に何でもねぇんだよ。何でもねぇんだけどなァ……」
荒井がいる。荒井の声がし、荒井の呼吸を感じる。
当たり前の事を確認し、新堂の不安はようやく薄らいでいった。それと同時に今まで不安にとりつかれていた自分がひどく滑稽に思えてくる。まったくいつからこんなにも臆病になってしまったのだろうか。
怖れ知らずの不良として鳴神学園でも名の知れた存在である自分がただ荒井がそばにいないというだけで不安になるとは思ってもいなかった。
「何でもねぇんだが、起きたらお前がいねぇだろ? あんまり寝覚めも良くなくてな……お前が俺の前からふらりといなくなりやしねぇかとか……今までおまえと過ごした時間が夢だったんじゃ無ェかとか……そんなガラでもねぇ事考えてたら、怖くなっちまってな。お前の事探しにきたんだ……かっこ悪いだろ?」
こんな事を荒井に言ったってしょうがないのは分かっていた。今までの全てが夢だったらなんて感傷的な言葉が自分らしくもないというのもだ。それでも口に出していたのは荒井を見つけた安堵の気持ちが大きかったからだろう。
それに荒井になら多少かっこ悪い姿を見せてもいい。別に荒井はこれくらいで自分の事を嫌いになったりするような男じゃない。そういうのを分かってきたのもある。
「何をいってるんですか新堂さん……」
荒井は思いがけぬ言葉を聞いたといった表情を一瞬だけ見せるが、すぐに濡れたグラスを置きかわりに新堂の手に触れる。
彼に触れ幾分か冷静さを取り戻した新堂は自分がどれだけ恥ずかしい事を口にしていたのか改めて思い出しとたんに気恥ずかしくなっていた。
「わかってるって、らしくねぇってのは……でもなァ、荒井」
慌てて言い訳しようとする新堂を前に、荒井は静かに首を振る。
「いえ、いいんです。あの……僕も一人で水を飲みにきて、ふと……不安になっていたんです。きっと周囲があまりにも暗く、静かだったからでしょうね。水を飲んでドアを見ていたら、世界で僕しか生きていないような気がして……この闇に一人で取り残されてしまっていたらどうしよう。二階の部屋に戻っても貴方がいなかったら……それを思うと不安になって、どうにも動けなくなっていた所なんです」
そして新堂の身体に抱きつくとやっと安寧を得たかのような穏やかな笑みを浮かべた。
「迎えに来てくれてありがとうございます、新堂さん」
腰のあたりを抱きしめる荒井の身体を抱きしめ返せば微かだがミントの香りがする。華奢で細い荒井の身体は強く抱きしめれば折れてしまいそうな程にか弱く見え、抱きしめているうちにそのまま影へと消えてしまいそうな気さえしてくる。
「よし、それじゃ……そろそろベッドに戻るとするか」
新堂は不安の全てを押し出すよう腹から息を吐き出し声をあげそのまま荒井を抱き上げた。突然横抱きにされた荒井は驚いて目を丸くする。
「ちょっとまってください新堂さん、何をするんですか……別に怪我はしてないですから、自分で歩けますって」
「何だよ俺がお前のこと落とすとでも思ってるのか?」
「そんな事は思ってませんけど……」
「だったら俺に運ばせてくれ……こうして腕の中で抱きしめてればお前がどこかに行くかもしれないなんて下らない心配しなくていいだろ。お前だってそうだ、俺がいなくなるなんて心配しなくていい……お互い変な気を起こさない為にも、こうするのが一番なんだよ」
そうして歩き出す新堂を呆れて眺めながらも荒井はまんざらでもない様子で身体すべてを新堂へと預ける。
微かな体温を感じながら歩けばもう闇に対する不安も心配もなにもかも溶けるように消えていた。
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