インターネット字書きマンの落書き帳
知らない間に距離が近い風間と坂上の話
知らない間に距離が近くなっている風間と坂上の話です。
Twitter(頑なにTwitter呼び)にも放流した話なんですけどね
風間も意識してないうちに、坂上のことを特別に思っている。
それが知らないうちに態度に出ていて、距離感は嘘をつかない……話を、書きたかったので書きました。
ちょっとした疑問を抱いた坂上が、風間に実はメチャクチャ好かれている。
それに日野は気付くけど、肝心の風間も坂上も気付いてない……みたいな話ですよ。
Twitter(頑なにTwitter呼び)にも放流した話なんですけどね
風間も意識してないうちに、坂上のことを特別に思っている。
それが知らないうちに態度に出ていて、距離感は嘘をつかない……話を、書きたかったので書きました。
ちょっとした疑問を抱いた坂上が、風間に実はメチャクチャ好かれている。
それに日野は気付くけど、肝心の風間も坂上も気付いてない……みたいな話ですよ。
『微かな距離』
日野は愛用しているデジタルカメラを取り出し、そのデータを見返す。
「やっぱりそうだったか……ふぅん、なるほどね」
そして満足げにそう、独りごちるのだった。
※※※
坂上は椅子にちょこんと腰掛けると、腕組みをして考えこんでいた。
「どうした坂上、珍しいな、随分と考え込んでるみたいじゃないか」
日野はたまったファイルを整理しながら坂上へと声をかける。すると坂上は「たいした事じゃないんですけど」と前置きをしながら、おずおずと話し始めた。
「今日、倉田さんと一緒に部の備品をとりに行ったじゃないですか」
「あぁ、確かにおまえと倉田に頼んだな。それが、どうかしたのか?」
「その時、気付いたら倉田さんがずいぶん後ろを歩いていたんですよ。出たのは一緒なのに、遅いなぁってちょっとからかったら……ほら、いつも僕、倉田さんにはからかわれてばかりだから、たまには僕がやり返してやろうって、ちょっと意地悪なこと考えちゃったんです。そしたら倉田さん、身長差があるから当然だ、って言われたんですよね」
坂上は同年代の男子からすると小柄だが、倉田はそんな坂上よりももっと背が低く、10cm近くの身長差がある。確かにそれだけ身長差があれば、一歩の大きさは随分と違うだろう。同じペースで歩いていれば小柄な倉田が置いていかれるのも当然だ。
「たしかに、僕は日野さんと一緒に歩いているとき、気付いたらけっこう遅れていますよね。僕、ずっと自分の足が遅いから遅れてるんだと思ってたんですけど……」
「そりゃぁ違うな、倉田の言い分が正しいだろ。背が高い方が歩幅が大きくなるのが普通だ、お前の足が遅いんじゃなく、俺の歩幅が大きいのさ」
「でも……風間さんと歩いている時は、置いていかれた事がないんですよ」
その言葉に、日野は首を傾げる。風間は日野より背が高く、坂上と比べたら20cm以上の身長差があるはずだ。風間ほど足が長ければ並んで歩くだけで坂上ならどんどん置いていかれるだろうが、置いていかれてないということは風間が気を遣って坂上のためペースを落としている事になる。日野の知る風間は、そんな気づかいと無縁の男だった。
「うーん、気のせいじゃないか。風間の方が後ろから声をかけてきて、話しているうちに自然と並んでいたとか……ほら、あいつ知り合いの背中を見かけたら誰それかまわず声をかけてくるもんな」
「きっとそうですよね! ……なんかちょっと不思議だな、と思ったけど、日野さんに言われてスッキリしました。あっ、ファイルの整理僕も手伝いますよ」
坂上は幾分かモヤモヤが晴れた顔になり、日野の手伝いをはじめる。坂上が手伝ってくれたおかげで、ファイルの整頓は予定より随分と早く終わらせる事ができた。
「それじゃぁ、日野さんお先に失礼します」
校内新聞の〆切もなく、まだ次の記事の予定もない新聞部は特にやることもない。ファイル整理も部活動というより、雑然としはじめた棚の様子が気になったので片付け始めただけだから、もう他の部員もいない。手伝いが終わった坂上は一足先に部室を後にした。
一人残された日野は、今日坂上が言っていた事が気になりデジカメを取り出す。データを校内のパソコンに落とせば、これまで撮ったいくつもの写真が画面に現れた。
「日常のスナップ、ってのは新聞の開いたスペースにも使えるから、いつも撮っておくんだよな、どれどれ……」
データの中には生徒たちの日常風景や、各部活動の活動風景が多く映されている。これだけ数を取っていれば風間が歩く姿もあるはずだ。
風間はとにかく、顔とスタイルはかなり良い方なので写真を撮れば画面映えするから、よく被写体としておさえているのだ。うっかり新聞に利用するとすぐさま500円を請求しにくるのは少しばかり難点だが、風間が紙面に載ると意外なくらい下級生の受けはよい。実体を知らないというのはきっと、幸福なことだろう。
「やっぱり風間は足が長いな、一歩が大きい……さて、坂上と一緒に歩いている写真はあるかな」
さらにデータを確認すると、坂上と並んで歩く写真もいくつか出てくる。その写真はどれも、普段の風間からすると半分程度の歩幅しかなかった。
それだけじゃない、坂上と並んで話している写真ではどれも、風間は坂上の方へ身体を傾けている。身長差があるから坂上の言葉を聞くため、文字通り耳を傾けているのだろう。
これも、風間は他の生徒ではしない行動だ。
「やっぱりそうだったか……風間のやつ、意識しているのかしてないのか、坂上にあわせて行動してるな……ふぅん、なるほどね」
腕を組み独りごちる。
風間は自分がそうしている事に気付いているのだろうか。少なくとも坂上は気付いてないようだが、坂上にそれを伝えたら風間の事をどう思うのだろう。日野がそれを伝えたら、風間が坂上に対して他の生徒より親切に接している事くらいは鈍感な坂上でも気付くだろう。
悪戯心が芽生えたが、今は心に蓋をする。
「俺がとやかく言うのは野暮だよな。このまま少し見守って……時が来たらこの写真を、あいつらにプレゼントしてやるか」
日野は微かに笑うと、一枚の写真を見る。
並んで話す二人は、互いとびっきりの笑顔を見せていた。
日野は愛用しているデジタルカメラを取り出し、そのデータを見返す。
「やっぱりそうだったか……ふぅん、なるほどね」
そして満足げにそう、独りごちるのだった。
※※※
坂上は椅子にちょこんと腰掛けると、腕組みをして考えこんでいた。
「どうした坂上、珍しいな、随分と考え込んでるみたいじゃないか」
日野はたまったファイルを整理しながら坂上へと声をかける。すると坂上は「たいした事じゃないんですけど」と前置きをしながら、おずおずと話し始めた。
「今日、倉田さんと一緒に部の備品をとりに行ったじゃないですか」
「あぁ、確かにおまえと倉田に頼んだな。それが、どうかしたのか?」
「その時、気付いたら倉田さんがずいぶん後ろを歩いていたんですよ。出たのは一緒なのに、遅いなぁってちょっとからかったら……ほら、いつも僕、倉田さんにはからかわれてばかりだから、たまには僕がやり返してやろうって、ちょっと意地悪なこと考えちゃったんです。そしたら倉田さん、身長差があるから当然だ、って言われたんですよね」
坂上は同年代の男子からすると小柄だが、倉田はそんな坂上よりももっと背が低く、10cm近くの身長差がある。確かにそれだけ身長差があれば、一歩の大きさは随分と違うだろう。同じペースで歩いていれば小柄な倉田が置いていかれるのも当然だ。
「たしかに、僕は日野さんと一緒に歩いているとき、気付いたらけっこう遅れていますよね。僕、ずっと自分の足が遅いから遅れてるんだと思ってたんですけど……」
「そりゃぁ違うな、倉田の言い分が正しいだろ。背が高い方が歩幅が大きくなるのが普通だ、お前の足が遅いんじゃなく、俺の歩幅が大きいのさ」
「でも……風間さんと歩いている時は、置いていかれた事がないんですよ」
その言葉に、日野は首を傾げる。風間は日野より背が高く、坂上と比べたら20cm以上の身長差があるはずだ。風間ほど足が長ければ並んで歩くだけで坂上ならどんどん置いていかれるだろうが、置いていかれてないということは風間が気を遣って坂上のためペースを落としている事になる。日野の知る風間は、そんな気づかいと無縁の男だった。
「うーん、気のせいじゃないか。風間の方が後ろから声をかけてきて、話しているうちに自然と並んでいたとか……ほら、あいつ知り合いの背中を見かけたら誰それかまわず声をかけてくるもんな」
「きっとそうですよね! ……なんかちょっと不思議だな、と思ったけど、日野さんに言われてスッキリしました。あっ、ファイルの整理僕も手伝いますよ」
坂上は幾分かモヤモヤが晴れた顔になり、日野の手伝いをはじめる。坂上が手伝ってくれたおかげで、ファイルの整頓は予定より随分と早く終わらせる事ができた。
「それじゃぁ、日野さんお先に失礼します」
校内新聞の〆切もなく、まだ次の記事の予定もない新聞部は特にやることもない。ファイル整理も部活動というより、雑然としはじめた棚の様子が気になったので片付け始めただけだから、もう他の部員もいない。手伝いが終わった坂上は一足先に部室を後にした。
一人残された日野は、今日坂上が言っていた事が気になりデジカメを取り出す。データを校内のパソコンに落とせば、これまで撮ったいくつもの写真が画面に現れた。
「日常のスナップ、ってのは新聞の開いたスペースにも使えるから、いつも撮っておくんだよな、どれどれ……」
データの中には生徒たちの日常風景や、各部活動の活動風景が多く映されている。これだけ数を取っていれば風間が歩く姿もあるはずだ。
風間はとにかく、顔とスタイルはかなり良い方なので写真を撮れば画面映えするから、よく被写体としておさえているのだ。うっかり新聞に利用するとすぐさま500円を請求しにくるのは少しばかり難点だが、風間が紙面に載ると意外なくらい下級生の受けはよい。実体を知らないというのはきっと、幸福なことだろう。
「やっぱり風間は足が長いな、一歩が大きい……さて、坂上と一緒に歩いている写真はあるかな」
さらにデータを確認すると、坂上と並んで歩く写真もいくつか出てくる。その写真はどれも、普段の風間からすると半分程度の歩幅しかなかった。
それだけじゃない、坂上と並んで話している写真ではどれも、風間は坂上の方へ身体を傾けている。身長差があるから坂上の言葉を聞くため、文字通り耳を傾けているのだろう。
これも、風間は他の生徒ではしない行動だ。
「やっぱりそうだったか……風間のやつ、意識しているのかしてないのか、坂上にあわせて行動してるな……ふぅん、なるほどね」
腕を組み独りごちる。
風間は自分がそうしている事に気付いているのだろうか。少なくとも坂上は気付いてないようだが、坂上にそれを伝えたら風間の事をどう思うのだろう。日野がそれを伝えたら、風間が坂上に対して他の生徒より親切に接している事くらいは鈍感な坂上でも気付くだろう。
悪戯心が芽生えたが、今は心に蓋をする。
「俺がとやかく言うのは野暮だよな。このまま少し見守って……時が来たらこの写真を、あいつらにプレゼントしてやるか」
日野は微かに笑うと、一枚の写真を見る。
並んで話す二人は、互いとびっきりの笑顔を見せていた。
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