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インターネット字書きマンの落書き帳

   
荒井がカズの事好きでも別にいい新堂の話(BL)
僕はッ……カズの事が好きでずっと引きずっている荒井という概念が大好きッ。
その上で、新堂×荒井を書くのもまた……大好きッ。

なので書きました。
ずっと胸の内にカズの面影を抱きながら、新堂を引っかけてしまった荒井の話です。

引っかけただけのつもりだったのに、新堂がメチャクチャ自分の事愛してくれるから、カズのこと忘れられない自分に罪悪感抱きまくりの荒井と、荒井のそんな部分も含めて愛そうとしてくる、愛の深いタイプの新堂が出ますよ。

具体的な描写はしてませんが、めちゃくちゃ抱かれている最中です。
めちゃくちゃ抱かれている最中でも雰囲気だけなので、何もしてないかもしれません。
してるかもしれません、シュレディンガーのベッド。


『重ならない面影を飲み込んで』

 闇のなか、荒井は指先で新堂の身体を確かめていた。
 外は月夜なのだろう、カーテンを閉めていても窓から青白い月光が差し込み室内をぼんやりと照らしているおかげでベッドの上にいる新堂の輪郭は微かに読み取れたが、彼がどんな顔をしているのかまではっきりと見る事は出来なかった。
 だた軋むベッドの音とふれ合う肌の熱で、新堂が本気で自分を愛し慈しんでくれていることがわかる。痺れるような快感が内側に広がるたび、荒井は彼を愛し、彼に愛される幸せに浸っていた。

 幸せだ。愛し愛され深く求め合う時間を共に過ごせるのだから、文句のつけようがないくらい幸せだろう。

 新堂は常に全力で荒井を愛してくれているし、荒井の願いなら全て聞き入れてくれている。
 寄り添っていて欲しい時は黙って寄り添い、話を聞いて欲しい時はじっと話を聞く。必用なら言葉を交わすのも唇を交わすのも躊躇などなく、壊れそうなほど孤独を感じる今日のような夜はこうして、肌を重ねる事も厭わない。
 言葉からも指先からも、荒井を決して壊さぬ為の思いやりと優しさが溢れる程に伝わった。

 それだというのに自分はいつも、抱かれる度に思うのだ。

 夏の青空と生ぬるい風を。早朝から馬糞を片付けるひどい臭い、永遠に刈り終わる事がないと思えるほどに広く広がった牧草の緑、一日中強いられる単純労働の中で滴る汗、そして、おおよそあの場所に似つかわしくない物憂げで美しい青年……カズと名乗った男の事を。
 言葉を交わした回数は、新堂よりずっと少ないだろう。僅かに指先が触れただけで、それ以上は彼に立ち入らせてはもらえなかった。ある日突然、牧場から姿を消しその行方は杳として知れない。
 共に過ごした日々は一ヶ月と満たず、二人でいられた時間はもっと短いというのに、うだるような暑さのなか畑に入りスイカを盗んだ日のことは今でも鮮明に覚えていた。苦手なトマトを食べて美味しいと思ったことも、ヘビイチゴを毒イチゴだといわれ、さして美味くもないのに両手いっぱいに食べさせられたことも、目を閉じれば今でもカズの声や吐息を思い出せる程、はっきり記憶に刻まれている。

 こうして新堂に抱かれている今もその手がもしカズの手だったら。その肌が、身体がカズのものだったらと想像を巡らせ快楽に耽る程に、荒井の心は未だカズの面影を引きずっていた。
 その思いは、新堂をより深く愛すれば愛するほどに強くなっていくのだ。

 最低だ、それではまるで最初からカズの面影を重ねるため、新堂のことを好きになったようじゃないか。
 荒井は無意識に唇を噛み、声を抑える。いま、思いに任せて声をあげればカズの名が零れそうだと思ったし、それがどれだけ失礼でどれだけの裏切りなのか、そのくらいは荒井にもわかっていた。

 新堂はカズではない。カズの面影と被らぬよう、正反対の気質である新堂を選んだのだ。
 直情で単純で一本気な新堂なら性愛と愛情の区別がつかず、接触すれば自分を好きになると思って彼に近づいたのだ。計算通り、新堂は荒井の事を愛し、繊細な飴細工を前にしたかのように丁寧に扱ってくれている。
 短気な性分ながら男女分け隔て無く接する新堂なら、荒井との関係が遊びであってもすぐさま切り替えて他の相手を好きになるだろうと思っていたのに、彼の愛は深く、重く、心地よいほど荒井を包み込もうとしていた。

 だから、とても息苦しかった。

 彼のように純粋で直向きな人間を、カズの代わりにしている自分の行いがどれほど卑怯で浅ましく愚かしいのが身に染みて理解できる。新堂の深く重くそして強い愛情は、鉛のように荒井を縛り付け、深淵へと運んでいった。

 吐息を漏らし、快楽だけに意識を集中する。
 そうしなければ頭の片隅にいるカズの姿が思い浮かび、名を求めそうになっていたからだ。

「……声出せよ、荒井」

 必死に声にするのを耐える荒井の様子に気付いたのだろう。新堂は耳元で囁くと、そのまま首筋に唇を沿わせた。
 自分だって声をあげたい。これだけの喜びを与えてくれているのだから、感謝と歓喜を伝えたい。しかし、そうすればきっと新堂とは別の名を呼び、その男の身体を考えてしまうだろう。そうなれば、新堂はきっとショックを受ける。
 カズの面影をいまだ忘れられないとはいえ、新堂への愛も本物だ。だからこの純粋で一本気な先輩を悲しませる事はしたくなかった。
 乞われても必死に声をこらえる荒井の耳元に、新堂は再度唇をつける。

「いいんだ、お前の好きな男の名前呼べよ。そうしながらイけ。俺は、そんなお前を愛しているんだからな」

 背筋にぞわりと冷たいものが走る。
 いつから新堂は気付いていたのだろう。カズに対しての思いを人に告げた事もなければ、日記やメモに記録を残したことすらなかったというのに。
 疑問を抱くと同時に、納得も少しはあった。
 新堂という人間は荒井の全てを受け入れるつもりなのだ。その為に愛しているのだから、荒井が隠そうとしていた思いにも何とはなしに気付いていたのだろう。いつもそれだけ真っ直ぐに、荒井だけを見てくれているのだから。

「カズさん……」

 許された事で耐えきれなくなり、今まで奥底に封じてた名を呼ぶ。

「カズさん、カズさんっ、カズさん……愛してます、愛してます……愛してます……」

 名を呼び、縋りながら何度も果てる荒井を、新堂は強く抱きしめる。腕の中で知らない男の名を呼ぶ荒井を、それでも新堂は優しく慈しむような瞳を向けていた。

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