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インターネット字書きマンの落書き帳

   
シュレディンガーは宇宙猫の夢を見るのか
オリジナルのSFっぽい話を書きました。
俺の中にある概念としてのSFなので実際のSFとは違う気がしますがSFはわりと「俺がそうだと思ったらそうなんだよ」でゴリ推ししてもOKかなと思ったのでゴリラ推しします。

ウホ……ウホ……。

内容は誰もいない土地で偶然受け取ってしまったメッセージを読んでなんかしんみりする話ですよ。

作中で特に触れてませんが、果ての惑星はイメージとして月だし出てくる彼も不法クローンで実際に人間というより有機物で動く何かです。
無機質でプログラムにより動くロボットは有機物である何かを特別視する傾向があるくらいの時代ですよ。

そんな時代があるみたいな言い方するなと思いますが未来はまだ生まれてないので可能性は存在するのです。(適当な意見)



『観測されない世界を猫は生きもせず死にもしない』

 果ての惑星と呼ばれる星があった。
 有益な資源をもたずあまり広い星でもないうえ30分以上は続く地震が頻繁におこるという不便極まりない星だ。しかもその星だけでは生活できるほどの水や食料を得るのも困難なのだから人が寄りつかないのも当然だろう。

 建物一つを作るだけで莫大な資金と資材を浪費するという事もありその星はいくつかの倉庫と小さな管理用の建物があるだけだった。

 倉庫の管理ほとんどは業務用ロボットがしているが全ての業務をロボットのみで行えないというのは宇宙開発が進んだ現在でもよくある事で果ての惑星にもロボットたちの監視や管理、整備などを担う人間が一人だけ常駐していた。

 いや、実のところをいえばこの人間も正しく人間ではなく人間を模した有機生命体でしかないのだが今回はその点が話に関わる事もないので割愛しよう。

 果ての惑星にある倉庫には見られれば不都合があるものの補完が義務づけられている重要な記録が多く唯一の人間である彼の役目は倉庫によからぬ輩が潜入しないかという警護と警護や管理のために配属されたロボットたちに異常がないか点検するというのが主であった。

 労働時間もきっかり8時間と決められており作業の合間はあまり仕事に無関係なことをする訳にもいかない。だがロボットが異常行動をすることなど年に1度あるかないかで監視という点では人間を模した彼よりもロボットたちのほうがずっと優秀である。

 労働時間中、暇をもてあました彼は一日のほとんどを通信室で過ごすようになっていた。
 通信室は星の管理に滞りがないか確認のメッセージが来る他、遅いながらも他の星での出来事が受け取れるようになっており娯楽の少ないこの星では時々くるその通信が数少ない人との接点だったのだ。

 彼はいつものように新しい通信が来ていないかを確認した。
 今日来ていたのは毎月ほとんど同じ文面の報告書だけだったがそれでも退屈しのぎにはなる。届いたばかりの報告書を機械音声に読み上げさせながら彼は他に何かしら面白い通信が来ていないかを確認し、何も来てないことを知ると今度は飛び交う無数のデータのなかで読み取れるものがないかを探し始めた。

 この宇宙開発時代では国家所有の大規模宇宙船から民間所有の一人用宇宙船まで数多くの宇宙船(ロケット)が空を飛び毎日毎秒通信を飛ばしている。
 そのほとんどは特定の機体でしか解読できぬようプロテクトされた情報ではあり通信を受けても読み取れないことが多いのだがそれでも自分以外の誰かがこの宇宙で生きているのだと思えるのは孤独な作業を続ける彼を安心させるのだった。

 ……などと言えば綺麗に聞こえるが、彼の本当の目的は誰でも受け取れる通信信号ではなくプロテクトがかかった秘匿情報の方である。
 業務時間に暇を持て余すことの多かった彼は多少プロテクトされた通信であってもそれを解除するだけの技術を自然と会得しており個人的なメッセージ情報などを密かに盗み読むのが趣味となっていたのだ。

 流石に国家機密や星一つを揺るがす程の大きな情報を得ることは出来なかったが、宇宙船内で密かにされた殺人計画の内容から浮気不倫といった下世話な話題はろくすっぽプロテクトもないまま宇宙に放流され、誰にも知られていないと思って行われた秘密の会話は彼の俗っぽい好奇心をたまらなく刺激した。

 もちろん、のぞき見るだけでそれ以上のことはしない。
 どこかの艇で艦長暗殺を試みる動きがあったとしてもその通信を受けた座標を見る限り教える事も出来ないし、そもそも教えられるような通信機能がこの星に備わっていないのだ。
 むしろ下手に関われる距離だったら他人事のように振る舞えない。
 関わる事ができないこそ、彼は安心して他人の秘密をのぞき見ることが出来ていた。

 慣れた手つきで一般的な通信を勝手に拾うとどの情報を開くか吟味しようと思った時、施設内を管理する人工知能がけたたましい警報を鳴らす。
 この警報が鳴るということは適当に拾った通信の中で緊急信号があったということだろう。

 緊急信号は何かしら宇宙船にトラブルが起こった時や不測の事態に出される特殊な信号であり多くは人命の危険がある時に発信されるものである。

 地球生まれのロボットや人工知能はほとんど全てが人間に危害を加えないといった命令を大前提に設計されており緊急信号を正しく人間に何かしらの危機が迫っている状態と認識しているものだからそれを見つけると危機管理レベルが最大に振り切れて過剰なまでの反応を示すのだ。

 人間でいうとロボットは緊急信号を見るとパニックをおこすのである。
 そして、そのような状態に陥ったロボットを落ち着かせるのもまた彼の仕事であった。

 まったく、地球生まれのロボットは性能がいいがその点が扱いづらい。
 彼は内心そう思いながら緊急信号を受け取った。

 とはいえここは果ての惑星である。
 もし緊急信号が救命信号であったとしても通信を受けた時点で助けに行けるほど燃料を積んだロケットの一つもなければ救命専用のロボットもいない。
 緊急信号を受けたという通信さえ有人星へ届けるのに三日以上かかるありさまだ。
 最初からどうにもならない事がわかっている通信を受けるのはひどく憂鬱であったがその通信を紐解かなければ人工知能が納得しないのだから仕方ない。
 彼はしぶしぶ通信を受けそれを読み取れるよう解読していった。

 だが解読しているうちに、それが緊急信号ではあるが救命に必要な座標情報が一切ないことに気付く。
 通常の緊急信号、とくに救命信号は乗っていた宇宙船が長時間居場所を示す座標を送り続けるのだがこの信号は継続した信号を発信せずやや多いデータ量ただ一度の発信で終わっていたからだ。

 救急であれば居場所くらいは教える必用があるだろう。
 不思議に思いながらデータを出力してみればそれはやや長いメッセージのようだった。

 このあたりでは使わない言語だ。
 仕方なく旧式の翻訳機にかけて現れたのは、おおむねこのようなメッセージだった。


 あろー あろー
 わたしは これから きんきゅうひなんよう ぽっと に のりこみます

 とうじょう した うちゅうせん が いんせきと しょうとつ し
 うんこう ふのうに なったからです

 この つうしんは きんきゅう ひなん しんごうを りようし おこなっております

 ぽっとには れいとうすいみんの そうちは ありません
 わずかな せいめいいじそうちは およそ 30 にちぶん です

 もし わたしの うちゅうせんが
 1000 にん きぼの おおきな うちゅうせんで あれば
 これは おおきな じことされ
 そうさくも だいだいてきに されていたのでしょう

 ですが わたしの のっている うちゅうせんは
 こじんきぎょうの ちいさいもの
 わたしの ほかに 7 にん ていどしか くるーは いません

 ですから わたしたちの うちゅうせんが なくなったとしても
 そうさく される どころか
 わたしたちの うちゅうせんが こないことにさえ
 きづかれない ことでしょう

 ましてや わたしの はいる ぽっと は
 うちゅうせんより ずっと ちいさい  のです

 うちゅうの ごみより ちいさい ぽっとなど
 みつけて もらえるとは とうてい おもえません

 だから わたしは ひなんしんごう ではなく めっせーじを のこすことに しました

 わたしは まだ いきていて ぽっとに のり うちゅうを ただよっています

 きっと この めっせーじを うけとった あなたも
 うちゅうにとって にんげんの ぽっとなど ちりのようなものだから
 わたしが ぶじに たすかる かくりつは
 あまりないことくらい わかっているでしょう

 だけど わたしは まだ いきているので
 この めっせーじを うけとった あなたには

 たすかった わたし
 たすからない わたし

 どちらも そんざいするのです

 あなたのなかで しゅれでぃんがーの ねこ になる
 それが いまの わたしなのです

 そんなことをしても わたしの うんめいは かわらない
 そのくらい わかっています

 だけど それでも わたしは

 ありえないきせきより
 ありえるかもしれない くうそうに なろうと おもったのです

 くうそうなど のうの よけいな ごさどう でしか ないのでしょうが
 それでも あなたの なかに

 たすかったわたし  と  そうでないわたし
 どちらも いて ほしいと おもいます

 それが いまの わたしの きぼう
 わたしが ぜつぼうに とらわれない りゆうに なりえるのです

 さいごまで きいてくれて ありがとう
 よい たびを


 全てを読み解いた彼は深いため息を吐く。
 そんな彼に旧時代の合成音声を鳴らし人工知能が問いかけた。

 たどれば通信があった座標を特定できるとか人命に関わる事であれば早急にパトロール要請を出すといった事務的な話だ。
 しかしこの通信がどれだけ遠くから来たのか彼は概ね把握していたし残されたメッセージ通りだと送信者がどうなったのか、あるいはどうにもならなかったのかはもう結果がわかっているはずだ。

 やれることは、何も無い。

 それを人工知能に伝えれば近い地域の情報を取り寄せようかと問われる。
 だが彼はそれを断ることにした。

 緊急信号はこちらが受信したときにすでに問題は解決している、詳細を追う必要もない。
 彼の判断を了承することで人工知能はいたって冷静さを取り戻しまた普段通りの業務へと戻っていく。
 地球生まれのロボットたちは人間あるいは人間を模したものの判断に極めて従順だったのだ。

 一人になり彼は椅子へ深く腰掛けると目を閉じしばし思案した。
 メッセージの通り、助かる可能性なんて無いのだろう。だが瞼を閉じた先で狭いポットに揺られる誰かの姿は恐怖にも絶望にも囚われる事なく穏やかに笑っていた。

 これが空想で脳の誤作動でしかないのなら、ロボットたちよりずっと不確定要素が多い人間というのも悪いもんじゃない。
 人間を模した有機生物である彼は、一人そう思い白と黒とが広がる窓を眺める。

 かなたに輝く星は普段よりもいっそう強く燃えているように思えた。

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