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インターネット字書きマンの落書き帳

   
三太郎の鏡台
クリスマス向けの創作をしました。
クリスマスに暖かい創作をしたかったのでいっしょうけんめい、子供がほんわかする話を書きましたよ。

お察しください。
闇の創作者です。



「貴人の鏡台」

 都よりそう遠くもない山村に三太郎という大男が住んでいた。
 三太郎は知恵の回る男ではなく、いつも怠惰にくらしており日がな一日縁側に寝転んでは煙草を吹かす日々をおくるような男だったという。
 とくに流行病で両親が立て続けに死んでからは無気力さに拍車がかかり、裏庭にある僅かな畑を耕す他は殆ど寝転んですごすような生活をしておったそうだ。
 そんな三太郎でも得意なことが二つあった。
 一つは手先の器用さで、壊れた荷車を直すなんてのは朝飯前。縁側に寝転がりながら木彫り細工を仕立てたり、猟師が狩った猪の骨といった一見役に立たぬようなものでも三太郎の手にかかれば立派な首飾りやかんざしに姿をかえるといったある種の天才肌であったこと。
 もう一つは巨漢に違わぬ体力をもち、都まで普通なら三日はかかる険しい山道を昼夜をとわず歩き通してたった一日で駆け抜けていくという強靱な肉体である。
 三太郎はひなたぼっこをしながら細工をしたり、壊れた農具をなおしては食い扶持を稼ぎ、時に都にまで出て行っては露店で商いの真似事をし気楽な日々を送っていた。
 都では頭陀袋をかかえ山から降りてきた三太郎は、都でも田舎者が目立つようにとよく赤い着物をひっかけていたから「赤服の三太」なんて呼ばれ、風変わりながら腕のいい細工師として名を馳せていたのだという。
 さて、都では赤服の三太があつらえた細工がちょっと有名になった頃、村は厳しい寒さにさらされ、流行り病が広がった。
 変わり者の三太は里からちょいと離れた所に居を構えていたから何ともなかったが、多くの村人が病を患い日々の生活もやっとの有様となる最中、若い夫婦が病に倒れ幼い我が子を残しポックリとあの世に行ってしまったのだ。
 幼子一人では当然、冬をこす知恵も力もなく、また村全体に病が蔓延り余所の家まで見ている暇はない有様で、最初は一人でも懸命に生きていた幼子もついに倒れ親の後を追おうとしていた。 

「要らねぇもんは無ェか、あったらこの頭陀袋に入れてくれ。己が直して都さもって行くからなぁ」

 病に伏せる幼子を訪ねたのは三太郎であった。
 いつもの通り、村からがらくたを集めて細工をし都で売り払うか、壊れた農具をなおして食い物でも貰おうと思っていたのだ。
 だがその家にはすでに虫の息となっていた幼子が横たわるだけであった。

「誰さぁ、おまえさん」
「己は三太郎じゃ。都にいって、商いをしているもんじゃ」
「都に行くのかえ、おまえさんは達者なんじゃなぁ、わっちはこの村から出たことがない、都にはうめぇ食い物はあるか? あったけぇ布団もあるか?」

 幼子が何をしても手遅れだというのは、知恵の回らぬ三太郎が見ても明らかだった。

「ああ、都はうめぇもんも、あったけぇ布団もあるさ。綺麗な着物もな」
「そりゃいいなぁ、火にあたって、暖かい飯と汁が食いてぇ」
「ちっとは歩くが行ってみるか? 己の足ならおまえさんを抱えても一日歩けば着けるでよ」
「はは、一度でいいからいってみたかったねぇ、きっと楽しい所だったろうさぁ」

 布団にくるまる幼子の声は、だんだんとか細くなっていく。
 気付けば外は雪がしんしんと降り積もっていた。

「三太郎、おいら都にいきてぇなぁ、行けるかなぁ、だといいんだけど」

 やせぎすの幼子は、それを最後にとんと息をしなくなる。
 三太郎はそのさまを、ただじっと見ていた。

 年の瀬が迫るころ、都にあらわれた三太郎は見たこともないきらびやかな鏡台をこしらえてきた。手触りのよい皮と艶のある獣の牙に細やかな細工をした立派な鏡台はそりゃぁ見事なモノですぐに貴人の目にとまり、高い値で買われていったという。
 鏡台は長く貴人の家宝として大切にされ、あたたかな都の広々とした屋敷に飾られそれはそれは丁寧に扱われたということだ。

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