忍者ブログ

インターネット字書きマンの落書き帳

   
【変な家2の二次創作です(ネタバレあり)】
「変な家2」がだいぶ面白かったのでファン創作をしました。
「あの、地元では有名な建築会社」でおこった事故とその顛末の話です。

・作中の「筆者」ではない第三者が事件を解決します
・家の間取りの事件ではありません
・作中であまり言及されてない人物を勝手にひどい目にあわせてます
・作中のネタバレがあるのでちゃんと本編を読んでね♥

 こんな感じの作品。
 一生懸命書いたので、「変な家2」を読み終わったら是非読んでください♥

 pixivに加筆した話を置いてありますのでお好きなほうどお読みくださいませ♥ → pixiv版はこちらから

『因果』

 そのメールを受け取ったのが私だったのが良かったのか悪かったのかは、今でもわからない。  メールの文面はひどく丁重で、内容は「母が二階から転落する事故にあった、その現場を見に来て欲しい」というものであった。 差出人は、その土地では有名建築会社の現社長になっている。そして、私はその会社のことを良く知っていた。
 私はとある編集部で雇われたフリーランスの編集者である。
 といえば格好がつくが、ようは〆切が迫って編集やライターが抜けた穴を埋めるためのピンチヒッターだ。
 その時は、日本中にある奇妙な間取りについての考察を主とする本が出版される予定であり、私はその作品に下読みから参加をしていた。それ故に、メールにあった有名建築会社の内情もよく知っていた。
 推測の域が出ないながら、その家で何がおこったのかもわかっていたし、概ね事実であろうと予測していた。
 だからこそ、その会社にいた『母』の『事故』というのを捨て置くことが出来なかったのだ。  だから私は件の本を書いた作者へすぐにメールをした。
 生憎、作者は東京から遠く離れた別の県におり、筆者もまた確信に迫る相手と対話をするのだという。

「それならば、彼女の事故に関しては私が確認してもいいでしょうか」

 私の提案に、作者である人物も二つ返事でOKしてくれた。きっと作者も、実質的な支配者であったはずの女王が何故、事故などをおこしたのか気になったのだろう。
 すぐさま了承のメールをした後、相手は群馬県北部の建物へ来るように案内した。メールには実際の住所がのっていたのだが、私はそれを見てまさか、と思った。
 何故ならその住所は、著作でも触れられている「ねずみ捕りの家」だったからだ。
 作品内ではおおよそ20年前、この館には祖母と孫が二人だけで住んでいた。 そして、孫が友人を呼びお泊まり会などしたその日、祖母は階段から転落して亡くなった屋敷である。
 まさか、同じ場所で彼女が。祖母の娘であり、孫の母でもあった人物が転落したというのだろうか。
 不思議に思うと同時に、なるほどこちらに連絡した理由は合点がいった。
 あの建設会社も、自分の周りで取材を続けている人間の存在には薄々気付いていたのだろう。地元ではイメージ戦略を売りにしているという。悪いイメージがつくような噂が流れていないか、過去を変に蒸し返す輩はいないかなんて密かに目を光らせていた可能性は高い。
 流石に調査に行ったらすぐ殺される、ということは無さそうだがある程度覚悟はしておこうと気を張っていた私だが、実際は想像するよりずっとスムーズに館へ通された。

「いらっしゃいませ」

 現れたのは鷲鼻が印象的な中年男だった。事前の情報だと、建築会社では現社長をつとめているのがこの男だ。

「この度はお母様が大きな事故に遭われたようで、大変でしたね」

 有り体の社交辞令で頭を下げれば、男はどこか思案顔で俯いた。

「えぇ、実はそう。それなんです。貴方は、本当にこれがただの事故だと思いますか?」

 突然の問いかけに、私は言葉の意味を推し量ろうとする。だがそれより先に男は矢継ぎ早にまくし立てていた。

「最近、フリーランスの記者という人が過去の事件を色々と探っているとは聞いてます。我が社はイメージが商売ですから、悪い噂がたってはいけませんからね」
「この屋敷の事も、もうご存じなんでしょう。私の祖母が事故死した屋敷です」
「貴方たちは、再生の館についてもお調べだと聞いています。我が社と再生の館については過去のことですから蒸し返されても困るんですよね」

 出版前に圧力をかけたいのだろうか。そう思ったが、目の前の男にはそこまでの覇気は無さそうだ。 むしろ絡みつく運命の糸を前に、傀儡でいることを強いらた人形がとつぜん繰り手を失いどうしていいのかわからず、呆然としているようにすら見えた。
 実際、この会社で影の権力者は男の母だったのだから、その母が事故で動けなくなってしまい自分だけでは判断しきれない状況を前に戸惑っているのだろう。

「えぇ、と。こちらは一定の事実を語るつもりではありますから、多少明らかになる事実はそちらの不利益もあるとは思います。再生の館で荒稼ぎをしていたのは事実ですからね」
「そう……でしょうね」
「ですが、それが罪に問われるということはないでしょう。もう解散している教団のはなしですし、そちらは希望通りの施工をしていただけでしょうから」
「えぇ……そう、です。ですが……」

 男は二階へと視線を向ける。きっと入って右手側にある階段から、彼の母も転落したのだろう。恐らくは、彼の祖母と同じように。

「……どうして私の家族は、壊れてしまったんでしょうか」

 きっと、長男である彼は何も見ることはなく育てられたのだろう。この家の汚いところは勿論、悪徳ともいえる商売方法すら正当化された世界で生きてきたのだ。
 だから母から逃れていった妹の気持ちもわからないのだ。恐らく、実母を恨み各地に実母が忌み嫌った姿を建てることで復讐の喜びを得ていた母の気持ちさえも。

「ひとまず、どうしてお母様が事故をおこしたのか教えてもらえますか」

 私の言葉に男は頷くと、静かに階段を登っていった。
 この家はトイレのすぐ脇に階段があり、バランスを崩せばすぐ階段へ転がり落ちていくような形になっている。 かつて住んでいたのは孫娘と身体の悪い祖母だけだったから、いずれ祖母が足を滑らせて落ちるような仕組みにしてあると、言ってもいいだろう。だからこそ、この家は著作で「ねずみ捕りの家」と呼ばれていたのだ。

「母は、そろそろこの家を処分するため今の状態を確認に来ていたようです。何年も使っていませんでしたからね、使用人に掃除はさせておきましたが建物も古くなってますし、リノベーションするくらいなら更地にしたほうがいいんじゃないかと言ってましたよ」

 私は話を聞きながら、何とはなしにかつて、この家の祖母が住んでいたという部屋を開ける。
 驚いたことに部屋はまだ誰かがいるのかと思わせるように生活感があり、椅子の上には大きめのストールが埃を被っていた。

「では、お母様はこの家を壊すつもりで最後の確認をしていたんですね」
「そうだと思います。祖母も妹も、荷物を置きっぱなしにしたままで……妹も、きっと戻ってこないでしょうからね」

 次いで私は、彼の妹で女の娘の部屋を開けてみる。
 その部屋は祖母の部屋と違い綺麗に片づいていた。布団なども新しいシーツがはられ、いつ部屋に戻っても使えそうに見える。
 私の心にチリチリと痛むような違和感を覚えた。
 彼女はなぜ戻らない娘の部屋を掃除していたのだろうか。いずれ諦めて戻ってくるとでも、そう思っていたのだろうか。

「それにしても、随分寒いですね。暖房なんかはないんですか」

 廊下にいるだけで足下から冷気が流れてくる。底冷えという奴だ。私の問いかけに、男は申し訳なさそうに頭を下げた。

「長らく使ってない屋敷ですから、暖房は室内だけにしかないんです。廊下やトイレなんかはとても寒いんですよね」
「なるほど、お母様は泊まっている時は二階にいらしたんですか」
「はい、二階の妹が暮らしていた部屋のすぐそばです。トイレからも近いですし、二階の方が痛んでいない部屋が多いので」

 トイレを開ければ、廊下よりもさらに寒々しい風邪が拭いてくる。
 私は目を閉じ、少し思案した。

「あの、お母様はトイレの前で倒れ、そのまま階段へ転がり落ちていったのではないですか」
「どうでしょう、使用人が気付いた時は一階に転がり頭を強かに打ち付けて血だまりになっていたと言いますので……」
「病院では何と言ってましたか?」
「左側の脳挫傷がひどく、機能の回復は難しいと……」
「では、右半身が麻痺の状態ですね」
「いえ、母の場合は打ち所が悪かったのか、左半身も強い麻痺が出てしまったようなんです。右側の脳からも出血がひどくて……」

 私は、やはりそうだったかと合点する。

「……呪い、なんですかね。これも」

 男はそう、呟いた。
 呪いというのは、何であるのだろうか。その正体はわからない。だが、彼の母に関しては、理由が明白だ。

「いえ、違いますよ。あなたのお母様は、事故です。正確にいえば、右の脳血管が破裂したことにより、左麻痺が現れた結果の転落事故です」

 私の言葉を、男は不思議そうに聞いていた。

「これは憶測に過ぎませんが、貴方のお母様は部屋で暖かくすごし、トイレでは非常に寒い思いをしていた。そうですよね」
「はい、そうだと思います」
「このように寒暖差が激しい出入りを繰り返すのは、血圧にひどく負担がかかるのです。暖かい所から寒い所で過ごすだけで血圧が一気に上がってしまい、その上昇により脆くなっていた血管に負担がかかり、血管が破裂する。あるいは、元々脳血管にあった瘤などを刺激して脳血管が破裂する。そういうことはよくあるのです。お母様は右側の脳から出血がひどかったんですよね。おそらくは、その出血は最初におこった爆発ですよ」

 私はトイレの前に立つと、自らの右後頭部を指し示す。

「一般的に、右脳は左側の運動機能を。左脳は右側の運動機能を司っています。運動機能だけではなく、視覚や聴覚といった五感や認識などもですね。恐らくお母様はトイレで激しい血圧の変動に耐えられず、右の脳血管から出血をおこした。すると、左側に運動機能の障害や麻痺がおこります。お母様は左側の認識を失い、きっと階段のある場所に気づけなかったんですね、何とかよろける身体を立て直そうとして、そのまま階段へ転がり落ちてしまったんです」

 そして、トイレからあまりにも近すぎる階段へと目をやる。

「この家の形では、そうなっても仕方有りません。こうして左側を庇うこともできず転がりおちてしまった結果、左の脳挫傷をおこしてしまったんです。左右に麻痺が出てしまったのは、それが理由でしょう。最初に異変に気付いた時点で無理をせずその場に座っていれば転落は防げたかもしれませんけれども、それを今悔いても仕方ないですね」

 それにしても、何という皮肉だろう。
 実母を殺すためにつくった仕掛けが20年近くもたって、その仕掛けをつくった張本人の運命を壊すことがあるなんて、因果応報というべきか。
 ……いや、あるいは最初からそのような運命だったのだろうか。
 実母を愛することが出来ず、ただ憎むだけで理解しようとしなかった娘に我が子が生まれた時、彼女はその子を何と見たのだろうか。
 自分を飾るための道具と割り切り、自分の思い通りにいかなかったら壊せるものだと思っていたのか。
 もしそうだったら、何故この家にある部屋は今でも掃除が行き届いているのだろう。憎い実母の部屋に、思い出を集めたままにしているのだろうか。
 愛されたかった。愛したかった。そのどちらも、方法がわからなかった。
 そんな思いが、彼女の内に一欠片でもあったとしたら……。

 いや、いまさら考えても詮無き事だ。
 彼女の憎んだ母も、愛せなかった娘ももうここにはいないのだから。

「……呪いではない、そうなんですね」
「えぇ、不幸な事故が重なっただけですよ。だから貴方は心配せず、母の治療に専念すれば良いと思います。機会があれば、妹さんにも。返事がなくとも近状報告くらいはしてみたらいかがでしょうか。それがきっかけで、話せることもあると思いますから」
「そう……ですね、そうしてみます」

 私が去る時、男はどこか安心したような。だがひどく寂しげな笑みを浮かべていた。
 呪いとは絶え間ない憎しみの連鎖だ。他人を、あるいは己を許せない心を縛り付け、その歩みを止める枷だ。
 そういう意味では彼女もまた脈々と続く呪いを受けていたのかもしれない。
 だが、例えそうだとしても、一体何が出来るのだろう。
 重く冷たい感情に育まれた罪という名の呪詛。その重さを、私たちは知ることも背負うことも難しいのだから。

拍手

PR
  
COMMENT
NAME
TITLE
MAIL (非公開)
URL
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
PASS (コメント編集に必須です)
SECRET
管理人のみ閲覧できます
 
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 8 9
11 12 14 15 16
19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
プロフィール
HN:
東吾
性別:
男性
職業:
インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
Copyright ©  -- くれちきぶろぐ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]