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インターネット字書きマンの落書き帳

   
孤島の鬼のファン創作です
孤高の鬼の諸戸ファン創作をしました。
あ~、江戸川乱歩、諸戸のスピンオフのために生き帰ってくれねぇかなぁ~。

何か! 諸戸が! 何か!
もっと報われてほしいんですよね!

そういうもどかしい気持ちを込めてかきました。
諸戸の「手記」あるいは「出せなかった手紙」という体裁の書簡形式の作品です。

諸戸!
来世で幸せになれ!(あの時代では幸せになれんかったので)


【引き出しの肥やし】


 いま、筆を執っているけれども、僕はこの手紙を誰のために書いているか正直なところよくわからないんだよ。
 もちろん、宛先は君にするつもりだ。
 けれども、この手紙を出しに行くかは、書いてる今でも迷っているんだ。

 君はもう聞いているかな。
 いや。もし聞いていたとしても、きっと君は気に留めたりはしないだろう。

 いま、僕は肺病を患っている。
 そして多分、長くはないんだよ。

 もう最後なのだから、君が本心からどう思っているのかなんて気を遣ったり、格好付けたりするのも馬鹿馬鹿しい。
 最後くらい、君にはっきりと僕の気持ちを伝えておきたい。

 そう思ったのだけれども、ぐずぐずと色々考えてしまってね。
 筆を執った今でも、ため息が出る回数ばかり増えて、言葉が上手くまとまらないんだ。

 君のことが、好きだ。愛している。
 うん、書けた。良かった。

 けれども、君は僕の恋心になんて、とっくに気付いているんだよね。
 気付いた上で君は、僕じゃない女性を愛し、大恋愛をし結婚したんだよね。

 わかっている。
 今の君がとても幸せなのも、その幸せを得るため僕にとても感謝しているということもね。
 だからこそ、いちいち幸せな報告を僕にも話してくれるんだろう。

 だけどねぇ、君。
 僕は、本当に、困ってしまったよ。

 はにかんで笑う君。
 白髪になった髪を、妻だけが愛しく撫でてくれると話す君。
 冷えた布団でも、二人で眠れば温かいと語る君。

 その話をきいた僕は、しぼんだ顔で洗い髪を自分でなでつけて、冷たい布団にくるまるんだ。

 君はきっと、僕が向ける恋心なんて、男女の間にあるそれとまったく別の世界にある異国の話に思えているんだろうね。

 それとも、僕が知性をもって欲望を抑圧し、務めて冷静に振る舞い、君の話をウンウンと作り笑いで聞くのを当然のものだと思っていたのかな。

 それなら、実際その通りさ。
 僕はいちど。本当に一度きりだけど、君のまえで自分の欲望を露わにした。
 あの時の君の、おぞましい化け物を見たかのような顔……。

  愛する君の、絶対的な拒絶を見た時、僕はこの口から歌を詠んではいけないと知った。

 君はきっと、あの時の僕が恐ろしくも悍ましい怪物に見えたのだろう。
 でも僕は、今の君がそのように見えるんだ。

 あの島にいた、どんな奇妙な人間より。
 チグハグに作られた細工の人間たちより、君のことがよっぽど理屈のわからない怪物のように思えたんだよ。

 そう、君は鬼だ。
 孤島の鬼だ。

 自分の美貌や才覚に無頓着なくせにそれを利用するのを厭わない狡猾さと、大衆の傘を被り、凡庸という牙で僕を貪る残酷さを内包した、白髪の鬼人だ。

 それがわかっているのに僕は、君の浅く吐く呼吸のぬるさが忘れられない。
 だから、僕だって大概なのだろう。

 自惚れているのはわかっているけど、僕はよく美しいと言われる。
 君のように自分がまともだと思っている人たちからも、艶やかさと美貌を褒められる事だってある。

 だけどそれは、僕が女性に嫉妬しているから生まれたものだろう。
 女性のもつしとやかさや清廉さ、貞淑さなどが羨ましくて、そのように振る舞っているから、そう思われているだけ。
 僕の美貌は、張り子細工とさしてかわりない作り物で、決して君に届くことはないんだ。

 君は決して僕のものになりはしないし、僕の思いに応えもしない。
 だけど僕の愛は、今までで一番激しく燃えている、本物の愛だ。
 今まで出会ったどんな相手だって、誰も僕に響きはしない。
 君だけが、僕の心を爛々と照らしてくれる炎であり灯火なのだ。

 それなのに、君にとっての僕はただの戯れでしかないんだよね。

 そう、ちょうど金魚鉢のなかに手をつっこんで、中にいる朱文金が指をぱくぱく噛みついてきたら、何だい、くすぐったくて気持ち悪いな。そうやって笑って、慌てて水槽から手を引っ込める。

 僕と君との関係は、つまるところそういうものなんだよ。

 もし君が、僕と同じ舞台で愛の歌を口ずさめるのなら、君は決して僕に、今の幸せを語りはしないだろう。
 最愛の妻と幸せな日々を囀ることが、どれだけ僕を苦しめているかなんて想像もできやしないのだ。

 僕と君は、立っている舞台が違うんだから。

 ほら、君の舞台から見た僕は、口をぱくぱく開けて浮いたり沈んだりする、朱文金にしか過ぎないのだろう。

 遠くで見る観賞用。
 金魚鉢の朱文金は、鉢の中から出てはいけない。
 鉢の中から出たら干からびて、死ぬことが望まれるんだ。

 そういうものなんだ、それくらいはわかっているつもりだ。
 わからないつもりでいても、世間は許してくれないんだろう。

 生まれた時からの性分で変えようのないことだ。
 本来交わらないはずの、平行線の僕たちがただ一瞬でも交わる事があったのだから、僕はそれを黙って抱え、静かに生きて静かに死ぬ。

 そういうのが似合いなんだよ。

 だけどねぇ、君。
 僕は、それが一番よいことだとわかっているというのに、胸には空気ではないものがどんどん溜まっていくんだよ。
 それは、肺病になった今よりずうっと僕を苦しめているんだ。

 だから、もうお別れにしよう。
 僕は、君と二度と会わない。だから君も、僕のことはもうそっとしておいてくれ。

 僕は、あの孤島で君と、人として対等であった断片だけをポケットに入れれば、それでもう生きていけるのだから。

 さて、こんな泣き言を書いてしまったけど、僕はこの手紙を君に届けることができるのかな。
 封筒にいれて迷っているうちに、もたもたして死んでしまうのかもしれないね。
 そして僕は、筆を執り思いを書き連ねているこの時さえ、ただひたすらに願っているんだよ。

 できることなら君が、僕に「そばに来て欲しい」と願いませんように。と。

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紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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