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インターネット字書きマンの落書き帳

   
小林さんと音無くんと。
時は令和である。(挨拶)

小林と音無は兄弟のような関係。
という話なので、小林の事を兄のように慕う音無くんという概念を抽出しようとしました。
結果出てきたのが『出会った時はトガってたのに、今は兄貴分の小林さんにデレデレになってしまった音無くんです。

どうしちまった……。(色々と)

俺に脳内革命が起きた結果キャラクター認識が俺のやりやすい方向に行ってしまいましたが、バグではなく仕様です。



『見えない自由』

 音無京助は常に一人で行動し誰とも連もうとしなかった。
 これで彼が臆病であったり極端な口下手であったりしたのなら単純に友人が少ないだけと言われていたのだろうが、音無は別段人付き合いが悪いワケでもなければ物怖じする性格でもない。
 ただクラスメイトとすごす事もなければ部活をするワケでもバイトに励むワケでもなく、誰かと深く付き合うのを極力避けている様子すらあった事から自然と『音無京助は一匹狼なのだ』という認識が浸透していた。

 頭は切れるが優等生というワケではない。
 喧嘩はするがスジの通らない暴力はしない。
 まだ1年であるにも関わらず、上級生に臆する事もない。

 その資質から上級生にもよく声をかけられたが、音無はそのグループに所属するのも拒んでいた。

 だがそれは孤独を好んでいるからというだけではない。
 彼は生まれつき、他人の考えやイメージのようなものを感じ取ってしまう特殊な才能をもっていたから、それ故に人付き合いを避けていたのだ。

 人の思いは、重い。
 触れてしまえば自分も背負ってしまう。

 生来優しい気質だった音無にとって、他人に深入りしその人生を背負ってしまう自分の性格は良く理解していたし、また他人の思いを背負うにはまだあまりにも若く未熟である事も自覚していた。
 それ故になるべく一人でいるようにしていた。

「おー、お前が音無かっ。噂に聞いてるぜ、一匹若狼! 冷峰四天王のヘッドである小林さんがお前に興味あるみたいだから、一回会ってみろよ。小林さん、すげーいい人だからお前も気に入ると思うぜ!」

 冷峰四天王の一人である望月に声をかけられた時は面倒な事に巻き込まれたと思った。
 望月という男のもつイメージは陽に偏っているが真っ直ぐで強すぎて傍にいるのは面倒だ。そんな男が慕っている相手ならきっと同じタイプの太陽みたいな男に違いない。
 輝きの強い男というのは人を惹きつけるのだろうが他人の考えを読みとれる音無にとって眩しすぎる存在の傍にいるのはあまりにも疲弊する。
 だから当然、小林に会うつもりなど無かった。

「ミルクティーがお好きでしたらどうぞ。コーヒーを買ったつもりだたんですが、自動販売機からこれが出てしまったので」

 会うつもりはなかったが、小林は自然と音無に声をかけてきた。
 手渡されたミルクティーは音無が良く買うものであり、それが本当に間違って買ってしまったものなのか。それとも事前に音無の事を調べて準備していたのかは今でも分っていない。

 ただ初めて会った時音無が驚いたのは、小林からは『何も見えなかった』事だった。

「……アンタは。あ、いや。人に名前を聞くのに自分が名乗らないのは非礼だな。俺は音無京助。冷峰の1年生だ」
「知ってますよ。思ったより有名人ですからね、音無くんは。私は3年生の小林です」
「小林……って、冷峰四天王の頭(ヘッド)の小林さんか?」
「ご存じでしたか。確かにそう呼ばれていますね……とはいえ、別段に偉いワケではないですよ。自分の成すべき事をしていたら、この位置にいたというだけなので」

 ブラックコーヒーを片手に小林は笑う。
 笑顔だというのに喜んでいるのかどうかさえ分らないというのは音無にとって初めての経験だった。
 それまで相手の気持ちが分りすぎてしまったが故に人との距離をとっていたが、分るからこそその力を利用していた部分も確かにあった。

 だが完全に分らない相手が現れたのは初めてだ。
 それが普通の事なのだろうが、その普通が音無にとって新鮮だった。

「うちの望月が面倒な事を言ったようで、申し訳ありませんでしたね。望月にはキツく言っておきましたから、音無くんは好きなようにしてください。貴方は才知がありますので冷峰学園を思えばゆくゆくは上に立って頂きたいのは本音ですが、安易に責任を担わせるわけにはいきませんからね」

 小林の事は何も見えないのに、小林は音無の境遇を全て理解しているような物言いをした。
 どんな感情でその言葉を語っているのか一切分らないが、音無を気遣っているのは確かなようだった。

(なるほど、冷峰四天王の頭がやけに人に慕われている理由が分った気がする……)

 音無はミルクティーをしばし眺めてから顔を上げる。

「俺は好きなように生きるし、したい事をするだけだが……俺の好きなようにしていいって言うなら、暫くアンタの傍にいてもいいか、小林さん」
「私のですか? ……別に構いませんけど、面白い事はないと思いますよ」
「面白いかどうかは俺が決める事だから。アンタから得るものは多そうだ」

 小林は少し考える素振りを見せるが。

「断っても付いてくるんでしょうね。好きにしてください。ですが、私から何かを得ようとするのは難しいですよ。誰かに教えるつもりは毛頭ありませんから」
「それは結構。こっちも教えてもらうつもりは無いからね」
「わかりました。邪魔だけはしないでくださいね」

 歩き出す小林の後を音無はついて歩く。
 この時は誰も思っていなかった。まさか……。

「小林さん、いますかっ。実は分らない所があるんで教えてほしいんですけどッ」
「音無くんですか……今手が空いてるからいいですが……また古典ですか? 音無くんは数学は良く出来るんですが古典と英語は本当にダメですね……」
「苦手だから教えてもらってるんじゃないですか……で、この問題なんですけど……」

 まさか音無が小林にメチャクチャ懐いてしまうという事も。
 小林が音無に勉強をメチャクチャ教えてくれる人になってしまうという事も。

「あー、また音無が3年の教室に来て小林さんに苦手科目教わってるぞー」
「勉強なら俺が見てやるから、小林さんにあんまり迷惑かけるなよ」

 あまりに小林にべったりなのを見て、望月と早坂が茶々を入れる。

「……勉強なら確かに早坂くんの方が良く出来ると思いますが」
「俺は小林さんに教えて欲しいし、小林さんに教えてもらったほうが分るからいいんです。で、こっちの問題なんですけど……」

 それでも傍にいる音無を見て、小林は笑っていた。
 その笑顔からは相変わらず何も読み取る事は出来なかったが、以前よりずっと優しい顔をしているように見えたのが音無には嬉しかった。

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