インターネット字書きマンの落書き帳
従兄弟を訪ねる夜に。(隆押異談)
従兄弟の隆幸兄さんに思慕を抱いている押切トオルくん概念です。
(今回の挨拶を兼ねた幻覚の説明)
変な家に住んでいるものだから、日頃からおじ・おばと従兄弟の家にやっかいになってる。
だから悪いなぁ……と思いながらも、隆幸兄さんの家にいられるときはちょっと安心する。
でも、迷惑をかけていて本当に仕方ないという気持ちが子供心に大きいトオルくんという概念を……描いてますよ。
見えない概念が欲しくて、見えない概念を描きまくれ。
本当の歌を聴かせておくれよ……。
(今回の挨拶を兼ねた幻覚の説明)
変な家に住んでいるものだから、日頃からおじ・おばと従兄弟の家にやっかいになってる。
だから悪いなぁ……と思いながらも、隆幸兄さんの家にいられるときはちょっと安心する。
でも、迷惑をかけていて本当に仕方ないという気持ちが子供心に大きいトオルくんという概念を……描いてますよ。
見えない概念が欲しくて、見えない概念を描きまくれ。
本当の歌を聴かせておくれよ……。
『夜に逢う』
真夜中の来訪だったというのに、おば夫婦は押切トオルを快く招き入れてくれた。
「よく来たわね、トオルちゃん。寒かったでしょ。はい、これでも飲んで」
おばは笑顔のままホットミルクを差し出す。 突然来たのに何があったのか詳しく聞いたりしないのは、おばもまたトオルの住む家の異常さを知っているからだろう。
壁からひそひそと声が聞こえる。
誰もいないはずの場所で人影を見る。
5人しかいないはずなのに、靴だけが6足並んでいる……。
おばが来ている時でもこれだけの奇妙な出来事があったのだ。 親戚のなかでも「押切家には幽霊がいる」というのはもはや共通認識となっていた。
(実際、いるのはお化けや幽霊の類いじゃないんだけど……)
トオルはホットミルクをちびちびとすすりながら、一人思う。トオルはすでにあの家にいるものの正体をつかんでいた。
あの家は全体の時間と空間が歪みどこか別の世界へと度々つながってしまう、無数にある異世界の出入り口なのだ。
異世界にいるのは自分たちと同じような姿をした、だが別の生き方をした何かだ。さしずめトオルの家は「平行世界(パラレルワールド)」の出入り口があるのだろう。
平行世界の入り口はいつ開いているのかもわからない。ひょっとしたらトオル本人も気づかないうちに、自分が生まれた世界とは別の世界に移動しているのかもしれないと思う事さえある。
それでも長くあの家に一人で住んでいるから小さな異質……ささやき声が聞こえたり、足音が鳴ったりする程度の事は特に気にならなくなっていた。
物音程度なら何ら害が無い事を知っていたからだ。
だが時にあの家は、それをも越えた異常な現象を起こす。
それはモノが勝手に飛び交ったり、壁全体が顔のようになり笑い出したり、明らかに別世界から来た人間が明らかな殺意をもって現れたりといった異常があった時、あるいはありそうな時はおばの家に避難する事にしていた。
幸いおばの家は自転車で行ける距離だ。
夜道の恐怖も、家から得体の知れないモノが出てくる恐怖と比べればずっとマシだと思う。
夜中に突然訪問するのは流石に迷惑をかけているだろうから、なるべく使いたくない最後の手段ではあるが……。
「トオルちゃん。おばさんはね、トオルちゃんが無事だったらそれがイチバンいいのよ。ね? 無理しないで、こっちの家に住むようになっても大丈夫だからね」
おじもおばも、いつだって、何時だって快く出迎えてくれている。
それだけはトオルにとって救いだった。
「ありがとう、おばさん」
トオルはホットミルクを飲み干すと、力なく笑う。
あの家は異常だ。今までは大事になるのを回避していたがいつ自分もあの異質な家に飲み込まれてしまうかはわからない。異世界の口は何処に開いているかわからないのだから。 それは理解していた。
だがおばの家に住まわせてもらうのはどうしても気が引けた。
それは普段は一人暮らしで自炊をし、両親の仕送りでいろいろとやりくりをしているが人一人が暮らすといろいろと物入りになるのを知っているというのもあるだろう。
おば一家の事はよく知っているが、それでも長く顔を合わせていればいろいろなしがらみも出るはずだし、それでおばの家と険悪な空気にはなりたくない。
それに何より。
「……母さん、トオルの布団、準備できたから」
台所の入り口から、従兄弟の隆幸が顔を覗かせる。その顔を見てトオルはうれしさから笑顔になったが、すぐに視線をそらしうつむいてしまった。
いつも隆幸の顔を見ていると心臓が早鐘のように鳴り、息苦しい程だったからだ。
小柄で童顔なトオルと比べ、従兄弟の隆幸は男らしい精悍な顔立ちと立派な体躯を持っていた。 親戚なのだから同じ血筋だというのに、小柄で童顔なトオルとは対照的な体格と言っても過言ではないだろう。
最初、隆幸に抱いている感情は自分にないもの……高い身長と、年相応の顔立ちを羨んでいるだけだと思っていたのだが……。
(ダメだな……隆幸兄さんを見ると、どうしても心臓がドキドキする……顔、赤くなってないといいけど)
今はハッキリ自覚している。
これは恋心だ。自分は彼に触れたいと思っているし、彼とより深い仲になりたいと願ってもいる。手をつないで一緒にデートしたり、食事をしたり、帰り際にキスをしたり、その後はベッドで戯れるなんて、おおよそ思春期の男子がするような妄想全てを従兄弟である隆幸でしてきた。
おばから「こっちの家においで」と何度も言われているのに踏ん切りがつかないのは、それが理由でもあった。
もし、今隆幸と同じ家に住む事になったら、自分の気持ちが抑えられない。
そんな気がしたからだ。
「今日は客間に布団を敷いたから。一人にしちゃって悪いけど、我慢してくれよ」
隆幸はそう言いながら、トオルを客間へと案内した。
畳の部屋にぽつんと一つ布団が敷かれているのはどこか寒々しくさみしいような気がしたが、壁から声が聞こえるような家から逃げてきた今はこの静寂が心地よかった。
だが、いつもトオルが泊まりにくると彼はだいたい隆幸の部屋に泊まる。どうして今日は客間なのだろうと思っていれば。
「俺は、提出しなきゃいけないレポートが残ってるんだ。今日は遅くなりそうだから、トオルが寝られないと困るもんな」
トオルの思いを見越したように隆幸は言う。
彼も大学生で何かと忙しいのだろう。
それだというのに自分のために貴重な時間を割いて布団まで敷いてくれたのだから、同じ部屋で寝られないとさみしいなんて言ってられない。
「ありがとう、隆幸兄さん。俺、何もお礼出来てないのによくしてもらって……」
「何言ってるんだよ、従兄弟だろ? そんなに気を遣わなくてもいいさ。それにまだトオルは未成年だからな。親とかうちの家族とか……もっと頼っていいんだぞ」
隆幸の家に転がるように逃げ込んだ時、いつでも彼はそういって笑う。
だけど、トオルはまだ何も隆幸にも、おじやおばにも何ら恩返しをする事が出来ないのがもどかしかった。
自分の出来る事といえば、皿を洗ったり洗濯をしたりと少しだけ家事を手伝う事くらいだ。
もっと大人だったらお礼の品を贈るとか、いくらかの心付けを渡すとかやりようがあるのだろうが……。
「でも……ごめん」
うつむき謝るトオルの頭を、隆幸はその大きな手でなでると穏やかに笑った。
「それに、俺にとってトオルが元気でいる事がイチバンの孝行だ。俺はおまえが無事ならそれでいいんだよ」
それは優しく、暖かい笑顔だったから……。
「……ありがとう、兄さん」
トオルはその手に触れ、自然と微笑む。
そして密かに思うのだ。
やっぱりこの人を好きになって、良かったと。
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