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インターネット字書きマンの落書き帳

   
その鐘は誰かのために。(ヤマアル)
ヤマムラさんと付き合っているアルフレートくんの話です。
(啓蒙が高いので見えてます)

獣狩りをするものは、手強い獣と出会った時に鐘を鳴らす。
その鐘は獣狩りの狩人にだけは聞こえる……。

なんて世界観設定にしておいて、獣狩りに呼ばれると必ず立ち上がる。
そんなヤマムラさんを見送るアルフレートくんの話ですよ。

実際、アルフレートくんは鐘で呼べば喜んで獣狩りをしてくれるけど、まぁ細かいコトぁどうだっていいんだよ!




『誰がための鐘だったのか』

 何処かで鐘の音が鳴り響いていた。
 すでに夜は更け、多くの人々は眠りについているだろう。 鐘の音はやけに響くものだったが、市民らが起きる様子はない。何故ならあれは普通の市民らに聞こえる音ではないからだ。

 あれは、獣狩りの狩人だけが気づく事のできる警鐘。
 狩人一人では到底太刀打ちのできないような「化け物」と呼ぶにふさわしい強大な獣が現れた合図なのだ。
 血の医療を受け、狩人となったものは全て鐘の響く音を聞くことが出来る。
 ヤマムラもアルフレートも、響き渡る鐘の音を脳髄の奥底で聞いていた。

 誰もが寝静まった夜の事である。
 獣狩りの狩人にとって、強大な敵などたいした利益にはならない。ヤーナムでは小さくて弱い獣を数匹飼った方が大物を一匹仕留めるよりずっと容易く実入りがいいのだ。
 ましてや誰かがすでに戦っているような獣にほとんど得られるものなどない。 名声は獣を見つけた狩人か、あるいは医療協会がかすめ取っていく。残されるのは幾ばくかの金貨のみで、それでさえもっと殺しやすい犬や豚を数匹仕留めた額より劣る事があるのだから。

 狩人ならすべからく獣を狩るべきなのだろう。
 だが得るものが乏しい狩りに命を賭ける理由が果たしてあるのだろうか。

 ましてやヤマムラはヤーナムに縁もゆかりもない異邦人だ。ヤーナムに家族がいる訳でもなければ、そもそもヤーナムにとどまる理由すらない。
 普段から異邦人を見下し、市街地に足を踏み入れれば唾を吐きかけるようなヤーナム野郎たちを守るために狩りなどする必要はないだろう。

 それでもヤマムラは起き上がると、狩装束の支度をした。その手には愛用の千景が握られ、強い闘志がたぎっている。

「ヤマムラさん、行くんですか?」

 黙って出かけようとするヤマムラに、アルフレートは思わず声をかけた。
 こんなくだらない街の為に、金にも名誉にもならない戦いでヤマムラに傷ついて欲しくはなかったからだ。

「あぁ、誰かが助けを求めてるから、行かないと。もし恐ろしく強い獣だったら、犠牲が出る前に倒しておかないといけないしね」

 それが自分にとって何の利益にもならない事なんて、ヤマムラはとっくにわかっているのだろう。 もし強大な獣を打ち倒すことで富や名誉が得られるなら、ヤマムラは未だにこんな町外れの日当たりが悪い安宿で生活などしていないはずだ。
 どんなに強い獣を打ち倒しても賞賛する声すらない。 日々傷ばかりが増えるヤマムラの姿はこんなにも優しいが故に、より痛々しく思えた。

「貴方が行くなら私も……」

 たまらなくなり、そう声をかけるアルフレートの唇をヤマムラは人差し指で留める。

「いや、君は血族狩りだろう? ……獣は俺たちが始末する。君はきみのもつ使命のために生きてくれ。獣相手に怪我でもされたら、いざ血族が現れた時に困るのは君だろうからね」 

 確かにヤマムラの言う通り、アルフレートの本来すべき仕事は「血族狩り」であり「獣狩り」ではない。だがかつては獣狩りの狩人であったし、獣よりより強靱で、賢く武器や道具も使って攻撃してくる血族を想定し戦っているのだから獣狩りの狩人に劣る事はないという自負があった。

「私はそんなに弱くないですよ」

 つい、アルフレートの口からそんな言葉がこぼれる。
 最近のヤマムラは毎夜のように獣を求め狩り、鐘の音が響けばその場へと赴くような生活をしている。休むいとまも無い程に狩りを続けているのだから疲労もたまっているだろう。
 今のヤマムラと比べれば、きっと自分の方がよっぽど上手く狩りが出来るだろう。そんな自信すらあった。

「あぁ、わかってる。だけど……」

 ヤマムラはアルフレートの手をとると、その指先に口づけをする。

「……俺は、君に待っていてもらいたいんだ。待っていて、そして戻ってきたら『おかえり』と言って欲しい。君がいずれ旅立つ時まで、君には俺の帰る場所でいてほしいんだ」

 その望みは、目の前で恩人を喪った悲しみからだろうか。それとも、長く故郷を持たないが故の寂しさからだろうか。生きた人間を強く思ったのはヤマムラが初めてだったから、アルフレートには置いていかれる寂しさというのはよくわからなかった。
 だがそれでも。

「わかりました。必ず帰ってきてください……帰ってきたら、私のことぎゅっとしてくれないと許しませんからね……」

 アルフレートはヤマムラの傷だらけで分厚い手のひらを握り、精一杯の笑顔を見せる。
 だが、それでも。
 彼が自分を……いずれ彼の元を離れる自分を、そうと知っていて愛してくれているのなら今だけは彼の「故郷」でいよう。
 今の自分に出来るのは、きっとそれしか無いのだから。

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