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インターネット字書きマンの落書き帳

   
おまえがくれた笑い方(みゆしば)
平和な世界線で普通に付き合っている手塚と芝浦の話です。
(端的に幻覚を説明することで冷静なふりをするアカウント)

今回は、いつも通り占いの仕事で路上占いをしてたら、思いがけず常連客から差し入れをもらった手塚と、その一部始終を実は見ていてめちゃくちゃ嫉妬していた芝浦の話ですよ。

何だかんだで嫉妬深いお坊ちゃん概念…。
概念概念! 概念をどんどん摂取しましょうね!




『君が作った優しい笑顔』

 手塚はいつもと同じように公園で占いの店を出していた。
 季節は秋から冬へと変わり肌寒い日も多くなっているが、幸いと今日は晴れ間がのぞきジャケットを着てると汗ばむほどの陽気だ。小春日和とよぶには少し暖かすぎるだろうが、残暑にするにはやや遅すぎる。
 だが外で商売をする手塚にとってはありがたい陽気なのは確かだ。天気は客足に大きく影響する路上占い師にとって、陽気がいいのはそれだけでも幸運といえた。そして手塚の目論見通り、その日は暖かさも相まっていつもより多くの客が足を止めてくれていた。

「手塚さん、いつもありがとうございます。これ、良かったら差し入れです」

 常連の一人は笑顔で差し出したのはこの周辺では知らぬ者はない有名店のサンドウィッチだ。手塚もよく昼食にしているから、それを見て差し入れてくれたに違いない。
 手塚は感謝の言葉を交わすと、いつも通り占いをする。普段と変わらぬ時間が、いつもより穏やかに流れているような気がした。

「よ~ぉ、手塚ぁ。ずーいぶんと楽しそうに占いしてるよねー?」

 そう思っていた昼下がり、芝浦は突然現れると誰も座っていない客用の椅子にどっかりと座り込む。感情が表情に出やすいタイプだとは思っていたが、今日はずいぶんとご機嫌斜めのようで、笑顔は見せているが目は全く笑っていない。

「あぁ、おかげさまでな。今日は天気もいいし、人通りもまずまずだ。久しぶりに稼がせてもらった」

 だが手塚は普段と変わらぬといった様子で応対する。
 芝浦が怒るような理由に心当たりがあったのならそれ相応の対応をするつもりだったが、あいにく芝浦が不機嫌になる理由はとんと思い当たらなかったからだ。
 そんな時はいつも手塚は普段通りに受け答えをするようにしていた。勝手に不機嫌になってる相手のご機嫌取りをする必要などないと思っているからだ。

 そんな手塚の態度も気に入らなかったのだろう。芝浦はますます不服そうな顔をすると口をとがらせた。

「はいはい、わかってますよっと……遠目で見てたからね。ずいぶんと楽しそうだったじゃん……女の子から差し入れまでもらってさ」

 そう言い終わらないうちに、芝浦はやや斜めを向き頬杖をつく。
 そのふてくされた姿を見て、手塚やようやく芝浦が何に対して不機嫌だったのか理解した。

 常連客と親しくし会話する姿を見て嫉妬したのだろう。

 手塚は自分でもあまり愛想の良い占い師だとは思っていないが、それでも一応は客商売で喰っている身だ。客の前なら優しい言葉を使うし、不慣れながら笑顔になるコトだってある。だがそんな客に対するサービスさえ芝浦にとっては嫉妬の対象なのだろう。

 理由もわからず不機嫌でいられるのは困るが理由がわかっているのなら扱いやすい。しかもその理由が嫉妬ならなおさらだ。嫉妬するまでもなく、他の誰かなんか目に入らないと教えてやればいいだけなのだから。
 むしろ、この程度のコトでも嫉妬するなら可愛いものだろうとさえ思う。

「別にいい、だろう、俺が誰から何をもらっても……嫉妬してるのか?」

 試しに軽くからかってみれば。

「べつに、嫉妬とかじゃないけどさー……何か手塚が俺以外の奴に笑ってるとちょっとムカつくって言うか。デレデレしてる所は見たくなって感じかなーって。ただそれだけだし……」

 芝浦はやや顔を赤くしながら早口でそれを否定する。
 だがどう考えてもその言葉は世間一般的に「嫉妬」というものだろう。そこに触れてもう少し茶化しているのも面白いだろうが、あまりふざけすぎると芝浦はすぐにへそを曲げるから今日はここでやめておくコトにする。
 そして手塚は常連客からもらった紙袋に一瞬目をやった。自分にとってただの常連客でありそれ以上にはなり得ない存在なのだが、芝浦から見ると客と仲良く話しているだけでも気に入らないのだろう。

 ましてや件の客は女性であり傍目から見ても相当な美人なのだ。そんな美人から差し入れまで受け取っていれば気が気では無いのだろう。
 彼女は常連客でありすっかり顔なじみでもあるから、彼女が長く交際している恋人がいる事は手塚も承知していたが、占い師にだって守秘義務はあるのでそれを言うワケにもいかない。(別に占い師に「守秘義務」なんて大仰なものが明確に提示されているワケではないが、業務上知り得た情報を他人に漏らすという事は倫理的に良くはないのは当然のことだ。そしてうかつにそれを喋る事で客からの信用を失えば、長くこの仕事を続けるのも難しいのである)

 つまるところ、芝浦の嫉妬は全くの的外れな徒労であり手塚自身も今の自分が芝浦以外を相手にする理由などないと、そう思っているのだが。

「だいたいさ、手塚は別に俺じゃなくてもいいワケじゃん……元々、女の子の方が好きだったんだろ? 俺だって……俺と恋人になるよりさ。女の子と恋人になったほうが難易度低いんだって事くらいわかってるし……」

 やはり心配なのだろう。
 芝浦は今まで特定の恋人を作った事がないという。つまり手塚がはじめて「マトモに付き合った恋人」になるのだ。
 本気で失いたくないと思う人間関係は初めてだから、自分の感情に彼自身戸惑っているのだろう。
 また、以前から女性に興味がなく肉体関係になった相手も同性だけだという芝浦にとって、異性を愛した経験のある手塚が心変わりしたら「異性恋愛の間にあるアドバンテージには勝てない」というコトは痛いほどわかっているのだろう。

 この関係性は、お互いの気持ちがすれ違ったら簡単に壊れてしまう。
 それを理解しているからこそ、失う事に対して必要以上に敏感なのだ。

 そんな心配しなくとも、今の手塚には他の誰かなど考える余地すらない。取り越し苦労でしかないのだが。

「心配しなくとも、俺はおまえを手放す気はないからな」
「それはわかってるけどさぁ……」
「それに、この差し入れは常連客からもらったもので他意は無い…… 『最近、占い師さんもずいぶん笑うようになった』 と、そう言いながら渡してくれたものだ」

 手塚は紙袋を取り出すと、優しい目で芝浦を見つめた。

「俺は……あまり、笑うのが得意ではないし、今でも笑ってくれと言われてもどうやって笑っていいかわからない所がある。が……おまえと過ごすようになって、やっと俺も……普通に笑えるようになってきた」

 だから、この差し入れをもらえたのは自分の力だけではない。
 いつも芝浦がそばにいて、無表情で無感動。面白みなどとは無縁だったはずの手塚にいろいろと「楽しい」というものを教えてくれたからだ。
 そう伝えようとする前に、芝浦は真っ赤になって目を丸くしていた。

「手塚ってさ、ほんっとズルいよね。時々、そうやってサラっと、何でもないように俺の欲しい言葉くれるんだもん……そんなコト言われたらさぁ……こっちも、何も言えないじゃん……」

 そうして所在なさげに視線を泳がせる姿は年齢からすると子供っぽいくらいだが、それがまた愛おしく手塚はそっとその頬に触れる。
 愛おしい。すぐにでも抱きしめて唇を交わしたいと思うが、ここは人前でまだ明るい時間だからぐっとこらえると。

「……さて、昼にしよう。芝浦、一緒にどうだ?」
「もっちろん。俺もサンドウィッチ買ってあるし、暖かいハーブティ煎れてきたからさ。一緒に……いて、いいよな?」

 手塚は静かに手を伸ばす。
 芝浦はそんな彼の手をしばらくうれしそうに眺めていたが、やがてためらいがちに手を伸ばすと指先だけを小さく握った、
 その姿を見て、手塚は不器用ながらかすかに笑う。
 そしてその手を握りかえすと、ゆっくりと歩き出すのだった。

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インターネット駄文書き
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