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インターネット字書きマンの落書き帳

   
英雄は悔恨に震える夢を見るのか(ハデスの二次創作だよ)
最近はハデスかFF14かいずれかで遊んでおりますれば。
腱鞘炎、いたく悪化するのこと。
さりとてゲームをせずにいれば我がアイデンティティー消えうるので、今日もゲームパッドを握っております。

うでがぁ! もげそうだよぉ!(ゴロゴロ)

そんな腕がもげそうな合間に短編を書きました。
今回は眠りの神、ヒュプノスとかつての英雄アキレウス師匠の話です。

自罰傾向のある師匠。
俺が楽しい創作をしたので、みんなも楽しんでください!




「眠りのものと夢見のもの」

 今日も館の壁を背にしてヒュプノスは眠っていた。
 冥府の王たるハデスの館で居眠りをしていても許されているのはヒュプノスくらいのものだろう。心地よさそうに寝息をたてる姿は見ている方にも眠気を誘う。

 ヒュプノスの仕事ぶりを見る限り、彼は取り立てて仕事ができるという訳ではなかった。
 冥王ハデスは息子であるザグレウスの仕事を粗雑だ、ミスが多いと嘆いていたがミスの多さでいえばヒュプノスだって大差はない。 むしろ仕事をしている時よりも眠っている時の方が長いくらいに思えた。
 そんな彼でもハデス王が傍においているのは彼の眠りは悪気云々ではなく生まれ持った性質だからというのが大きいかっただろう。
 ヒュプノスは眠りの神なのだから。

 もちろん、ヒュプノスがハデス王をきちんと敬っていることや眠ってばかりいるが文句を言わず仕事をしているということ、何よりも陰気で塞いだ、どこか停滞した雰囲気のあるハデス王の館において常に明るく笑っていられることが、彼が大きくとがめられない理由でもあるのだろう。
 さながらヒュプノスの役割は宮廷道化師(ジェスター)に近い。
 王の前で時にユーモラスに、時に辛辣に真実を告げる事ができる存在がいなければ、王というのはどんどん尊大になりやがて足下を掬われるものだというのをハデス王は理解しているのかもしれない。

 最も、近頃は息子であるザグレウスがしばしば冥界に赴いて魂を刈り尽くしたり設備を壊したりと蛮行の限りを尽くしているのでそちらに手を焼いており、ヒュプノスの暢気な気質にいちいち関わっている暇はないのかもしれないが。

「いつも良く寝ているな、ヒュプノス。よっぽど良い夢を見ているのか?」

 ある時アキレウスは寝ぼけ眼のヒュプノスにそんな事を訪ねた。ヒュプノスはしばらく不思議そうにアキレウスを眺めていたが、すぐに鈴を転がすように笑う。

「いや、ぼくは夢を見たりしないよ。だってぼくは、眠りの神だけど夢の神ではないもんね」

 夢を司る神はオネイロスであり、彼は冥府の住人ではない。 夢というのは生と死の狭間に存在し、時に神々の言葉を伝え時に自然の言葉を伝えるある種の神託に近い存在であり、アキレウスが生きていた頃も夢による予兆は非常に重要なことだった。
 またアキレウス自身、夢の狭間で死した後に生あるものへ言づてをした経験もある。

 かつて人間だったアキレウスにとって眠りと夢は近しい存在であり、死者となり魂だけの存在になった今でも過去の「過ち」を夢に見る事がある。
 彼の弟子であるザグレウスもまたやや人間臭い所があるため、やはり過去を夢見る事があるようだ。
 だからアキレウスは神でも夢を見ると思っていたのだが、眠りそのものを司るヒュプノスにはオネイロスの加護を受けてはいないのだろう。

「そうか、てっきり夢を見ているものだと……」
「アキレウスは人間だったからそう思うんだね。ぼくの眠りは人間のとは違うから夢なんて見ないよ。ただただ、深くてくらーい闇の中に溶けておちていくだけさ」

 それは限りなく死に近いまどろみだろう。
 かつて人として死を経験したアキレウスは己の体が己のものではなくなっていく感触や呼吸が止まり酷く冷たくなっていく感覚をまだどこか体に残しているためどうにもそれが恐ろしく思えたし、眠るたびにその闇を経験するヒュプノスが酷く哀れに思えた。
 だがそれも一瞬。

「眠りは短い死にしかすぎない……眠る時、ぼくは兄さんの傍にぐっと近づけるようでなんだか嬉しいんだ」

 ヒュプノスは胸に手を当て、照れたように笑う。死を与える者として魂を刈り取るタナトス(死)の存在は人間にとって恐ろしいものだが、死の恐怖を持ち得ないヒュプノスにとっては優秀で自慢の兄に近づける瞬間でもあるのだろう。

「それに、ぼくは闇から生まれてきたからね。闇に落ちていくのはすごく安心するし、すごく心地よいんだ」

 ヒュプノスの母、ニュクスは闇そのものの化身ともいえる神である。 彼にとって闇は恐怖ではなく生まれてきた場所。眠りにつく時、闇は安らぎであり恐怖にはなり得ないのだ。
 だとしたら、ヒュプノスは幸福だ。 少なくとも過去の過ちを繰り返し夢見て、何度も親友(とも)であるパトロクロスに許しを乞うてきたアキレウスのように悪夢にとりつかれる事はないのだから。

「なるほど、だからヒュプノスはいつも幸せそうなんだな」
「そう! そうだよ、ぼくはいつだって幸せさ。ザグレウスは退屈だっていうけど、ぼくは冥府もこの館の人たちも、みんなみんな大好きだからね」

 そして不意に真面目な顔をすると、アキレウスの瞳をのぞき込む。

「だから、いつかアキレウスも幸せな眠りが来るといいね。死の先にある眠りまで運命の女神に絡め取られているのは、きっと辛いだろうから」

 アキレウスは一瞬どきりとするが、眠りの神であるヒュプノスにとってアキレウスの夢見が良くない事などとっくにお見通しなのだろう。
 だがアキレウスはその悪夢もまた自分の罰なのだとしたら、それも仕方ないのだろうとも思っていた。

 アキレウスにとって死は、罪から来る報酬であった。
 だがパトロクロスにとっての死はただの暴力だ。自分の手落ちで犠牲になった命なのだから。

 自分の罪は、死で拭えない程に大きい。未だ心に棘となって刺さる悔恨を魂が忘れぬためにも、あの悪夢は必要なのだろうから。

「ぼくは、アキレウスも幸せになってほしいよ」

 屈託なく笑うヒュプノスを前に、アキレウスは曖昧に微笑む。

 もし幸せがあるのなら、それは自分が許された時だろう。
 だがきっとその時は永遠に来ないのだ。この広い冥府のどこにかつての友がいるのか。そもそも友の魂がまだこの場に残っているのかもわからないのだから。

「そうだ、いつかザグレウスが幸せを運んでくるんじゃないかな。あれだけ冥府を走り回ってるんだから、すこしくらい良いことをしてくれると思うんだよね」

 ヒュプノスはそう言うと、柱にもたれてうたた寝をする。
 罪を持たぬ神の眠りを前に、アキレウスは相反する思いを抱いていた。

 許されたいと、救われたいと。
 救って欲しいという慟哭にもにた思いと、自分のように穢れた男に救済など烏滸がましいと、もっと罰を与えて欲しいと渇望する思いとを。

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