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インターネット字書きマンの落書き帳

   
しゅがはる先生の誕生日という地獄で会おうぜベイビーの話。
潜書の代償として、記憶が失われている。
そういった概念の図書館で、幾度も潜書をし弟子たちを救い出したかわりに幾つもの記憶を失っているしゅがはる先生という概念を書きました。

しゅがはる先生のお誕生日なので書きました!
しゅがはる先生お誕生日おめでとうございます!

これが地獄のhappybirthdayって奴だよ……。
概念司書が出ますが概念なので概念です。

というか、全てが概念です。
二次創作 is GAINEN。OK?




『残渣』

 断片的な記憶が脳裏に過ぎる。

『おまえは、転生させた初期の文豪として強靭な素体を使用している』
『それだけおまえに■■をしてほしいからだ』

 あぁ、あれは目覚めて間もない頃の記憶だ。
 話していたのはこの図書館の館長か、それとも特務司書だったか今となっては非道く曖昧で覚えていない。
 いや、忘れてさせられてしまったのだろうか。
 この図書館はすでにこの世にない存在も顕現できる能力者……錬金術師(アルケミスト)がいるのだから、他人の記憶をいじるのなんて造作も無い事だろう。

『……中也の印象が違う? んー、そうだろうな。彼は一部の記憶に鍵をかけているんだ』
『それは彼にとって大事な記憶ではあるんだが、あれは粗暴な振る舞いをする癖にけっこう繊細だろう?』
『今の彼じゃ、ちょっと受け止めきれないだろうからね……もう少し、自己を確立出来たのならそれを解くつもりだよ』
『そうなれば、先生の知ってる中也くんのイメージにもっと近くなるんじゃないかな』

 そんなことも、言っていた。
 この図書館で異物とも言える存在と闘い立ち向かう精神と肉体を保つために、不必要な情報はあえて隠しておくのも彼らの勤めなのだ。
 それならば、と春夫は思う。

 それならば、自分の記憶にまるで黒い染みでも出来たように濁って見えない所があるのも、彼らのせいなのだろうかと。

『■■をする時には……連れてきたいと思った人物の性格、気質といったものを強くイメージする必用がある』
『媒体として作品や伝聞、記録を多く使用してはいるけどね』
『実際の声、におい、印象……その他もろもろの具体的な姿となると、見知らぬ俺たちが再現するのはとても難しいんだよ』
『だから、きみのーーをよすがにして、彼らを呼び出す糸口にする必用があるんだ』

 死んだ人間を生き返らせているのだ。
 対価があるのは普通だろう。
 一人を蘇らすのに図書館としては無数の資材として魔術的な要素のあるインクを使用しているといっていたが。

『独歩くんが取材熱心なのはよーく分ったよ。でも、このインクが何で出来ているかは詮索しないでくれるかな? 世の中、知らない方がいい真実があるのは君だって理解してるだろう』

 抑揚のない声でそう語る特務司書は、口元だけ微笑んでいたが目は笑ってなどいなかった。
 むしろあれは悲哀。罪業。それらの汚い液体を一気に飲み下し、畜生道に堕ちても構わないといった覚悟を背負った目だ。

 全ての責務を担う覚悟をしている特務司書を前にして、何か「こたえてやりたい」と思ってしまうのが春夫の性分だったから。

ーー俺にできる事はないか?

 よく自分から、館長や司書にそう聞きに行っていた。
 必用なら武器をとり戦うのに躊躇いもなかった。
 だから……。

『■■をすると、失われる。それが対価だ』

 それを聞かされた時も。

『それは君が欠けてしまうという事だし、君そのものが誰かの中から消失してしまう事でもある』
『だから無理にとは言わないし……やってくれって頼めた義理もない』
『断ってくれてもいいんだぞ。誰の思い出にも残らないのは、悲しい事だからな……』

 迷う事など、なかった。

ーーそれなら、俺が適任だな。
ーー心配するな、伊達に門弟3000人じゃない。知り合いは多い方だ、誰かしら捕まえてくるさ。
ーーそれに、俺は弟子に恵まれた。
ーー忘れられてしまっても……。

 思い出ならまた作ればいい。
 そう思っていたし、今でもそう思っている。
 自分の記憶ひとかけらでまた、弟子に。盟友に。親友に出会えるのなら、何とちっぽけな対価だろうとさえ思っていたのだが。

 頭の中にある染みは日に日に広がっていき、春夫の記憶を喰らっていた。
 それが後遺症なのか。それとも、春夫自身が知らないうちに思った以上に■■していたのか、それさえも思い出せないが……。

『もうやめてください、先生』

 太宰か、谷崎か、井伏か、それとも檀か。
 その声は誰のものだったろうか。

『このままでは貴方があなたでなくなってしまう。あなたが、壊れてしまう……』
『そんなのは、嫌です』
『俺の先生でいてください、俺の先生で……』

 握った手が温かかったのかさえ、もう覚えていない。
 誰だった。そもそもあれは自分の弟子だったのか。その時自分は何と言ったのだろうか。

 ……その手を振り切ったような気がしてならない。
 己を犠牲にするのは怖くなかったから。
 だが。

ーーどうしてこんな事を。
ーー俺は、喪う事など何も怖くなかった。だから戦えた。
ーーだが。
ーーどうか、おまえは。お前自身を壊さないでくれ。

 人に言えた義理ではないのに、そう願っていた自分が傲慢なのはわかっていた。
 身勝手な言い分なのも。だが犠牲は自分一人で充分だと思っていたのに……。

『今まで散々と自分を壊していて、他人が壊れるのが恐ろしいなんて本当にワガママな人だ』

 どこか悲しそうに笑った男は誰だったろう。
 覚えてはいない。だが、その笑顔を真っ直ぐに見て居られないほど強い悲しみと悔悟に襲われたその感覚は残ってる。

『記憶を失っても、感情まで奪うワケではないからね。覚えてなくてもその時に想った気持ちってのは、存外に残るものなんだよ』

 特務司書は、そうとも言っていた。
 これもまた染みの中に消えていった誰かとの記憶であり、残り香のようなものなのだろう。

ーー俺は、自分が強い男だと思っていたんだよ。
ーーいや、強くなければいけないと思っていたんだ。
ーー弟子が沢山いるだろう? その指標にならないといけない責務があった気がしてな。
ーーだから面倒見のいい兄貴肌って顔をして、おまえたちの全部を受け止めるつもりでいた。
ーー今でもそのつもりだよ。だけど。

 喪うことは恐ろしかった。
 自分の記憶から大事な存在との、ほんの僅かな語らいでも消えてしまうことが。
 せっかく取り戻した思い出を。やり直そうとした交流を、全て壊してしまうことが怖かったから。

ーー俺は臆病な男だったんだなぁ。

 あの時、抱きしめてくれたのは誰だったのだろうか。
 覚えていない。
 だが温もりだけははっきりと覚えている。

『あなたは、臆病です』
『ずるくて、卑怯で』
『でも……』

 いとしいひと。
 どうか貴方に、たった一時の安らぎがありますように。

 囁くような唇の動きだけは、かろうじて覚えている。
 その唇に触れたのはどちらからだったろう。
 そしてそう言ったのは、一体誰だったろうか……。

 ……淡い香りが頬を撫でる。
 目を覚ませば、珍しく花を抱えた太宰が窓辺に立っていた。

「あぁ、先生。起こしちゃいましたか?」

 見た事のない、名も知らぬ花だ。
 淡い紅色の花弁に得も言えぬ豊かな香りをまとった花は開いた窓で揺れる。

「寝てたのか、俺は。妙な夢を見ていた気がするが……それにしても太宰、何だその花は」
「これ、名前は。えーっと……俺も知らないんですけど。ほら、春夫先生誕生日じゃないですか。だから花でも飾ってやれって高村先生が……それで、井伏先生とか壇とかと相談して、見繕ってもらったんです。綺麗でしょう?」

 名も知らぬ花は、微笑むように揺れる。
 それは春の日差しのようにあたたかくてやわらかくて、いつもよりずっと愛しい弟子たちが近くに感じられたから。

「……そうか、ありがとう。それじゃ、みんなに礼でもしてやらないとな」
「えっ、先生の誕生日ですよ? 先生が祝われるべきでしょ?」
「はは、俺は誰かに祝われるよりお前たちにたらふく飯を喰わせてる方が楽しいからな。行くぞ、皆を呼んでくれ。俺の誕生日だから、盛大に頼む」

 春夫は、自然と笑っていた。

「まってくださいよ、先生-。もー」

 どこか覚束ない足取りでついてくる愛弟子の姿を眺めて。

 この先何を喪っても、自分はきっと幸せだろう。
 だからどうか誰も、自分の手から零れ落ちないでくれ。

 そんな事を願いながら。

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東吾
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インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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