インターネット字書きマンの落書き帳
刑事になれない櫂利飛太の話
櫂利飛太という男は、全てを抱え込み感情に押しつぶされそうになる男……。
犯罪者の闇を見つめすぎてしまうから、きっと刑事に向いてなかったし、被害者の感情に寄り添いすぎてしまうから刑事には優しすぎたんだろう……。
なんて思うと、彼にとっては警察官時代の捜査も結構キツかったんじゃないかな。
そう思って……書きました。
依頼を受けそれがすでに事件になっていた時の利飛太と、その事件で偶然出会うエリオみたいな話です。
湿っぽくて、優しい利飛太。
書かずにはいられない気分だったんだよォ~。
犯罪者の闇を見つめすぎてしまうから、きっと刑事に向いてなかったし、被害者の感情に寄り添いすぎてしまうから刑事には優しすぎたんだろう……。
なんて思うと、彼にとっては警察官時代の捜査も結構キツかったんじゃないかな。
そう思って……書きました。
依頼を受けそれがすでに事件になっていた時の利飛太と、その事件で偶然出会うエリオみたいな話です。
湿っぽくて、優しい利飛太。
書かずにはいられない気分だったんだよォ~。
『哀傷』
最初の通報をうけてから小一時間も経っていないだろうというのに、周囲にはすでに警戒線が張られていた。
周囲にはマスコミ対策でブルーシートがかけられ中を見えないようにはしているが物々しい警戒と事件捜査特有の肌を焼くような空気が漂っているのだから何も知らなくとも事件が起こったのは誰の目からも明らかだろう。
櫂利飛太は忙しそうに動き回る警察官たちを、遠巻きに見つめていた。
警察官、と一口に言うが彼らの仕事は多岐にわたっている。通報してからものの5分とたたず駆けつけたのは最寄りにある派出所の警官、いわゆるお巡りさんで人の良さそうな若い警察官と、この地域にある市民の平和を守ることを決めた確固たる意志を柔和な笑顔の裏で認める事ができる壮年男性だったが、若い警察官は事件が殺人であること、屍体がどのような扱いをされている事に気付いてすぐさまトイレにかけこんだ。きっと食事の全てを吐き戻したのだろう、今もまだ顔色が優れないまま、到着してから今までのことを刑事たちに語っている。
次に到達したのが所轄の刑事たちだったか。殆ど同時に鑑識官も現れ、刑事らは屍体発見の状況を詳しく聞き、鑑識官はブルーシートの上にのせた遺体を様々な角度から写真へと収めている。
粛々と続けられる捜査は、極めて統率がとれている。戦後の復興から高度成長期を遂げ、東京都はいま日本で一番人でごった返す街となっている。それ故に事件も多く殺人という事件にも慣れているのだろう。流れるように捜査を行う警察官たちに一分の隙もなく、だからこそ利飛太にはそれがひどく尊厳を破壊している風に思えた。
屍体を見つけたのは、利飛太である。
依頼を受け、行方不明になった少女を探しつきとめた結果が「コレ」だ。
遺体は子供一人充分に入る大きさのキャリーケースに入れられ、コインロッカーに置き去りにされていたのだ。
依頼を受けて程なく、海外旅行にでも行くかのような男の姿を見たという証言を得た時から、ただの迷子でも連れ去り事件でもないのだろうと覚悟していたが想定していた中でも最低の結果だろう。
第一発見者であり通報者でもある利飛太はその場に留まるよう言われ、壁を背にぼんやりと働く警察官たちを眺めていた。この様子だとこちらの聞き取りはもう少し後になりそうだ。
自分と同じく遺体の第一発見者となった駅員は、青ざめた顔色で小さく震えながらロッカーを開けた時の様子をたどたどしく語っている。刑事達にとっては見慣れた屍体も、一般人にとっては一生でそう沢山はお目にかからない存在だ。ましてや犯罪という激しい暴力と悪意を浴びた屍体など、初めて見る事だろう。そして恐怖と嫌悪に苛まれているはずだ。
大概の殺人事件はそう、犯人はどうしてこんなにも残虐な真似が出来るのだろうという怒りと、胸がむかつく程の悪意に満ちあふれているのだから。
ビニールシートにおかれた屍体はあらかた調べ終わったのだろう。裸にされた小さな身体はシートに包まれ、これから検死に向かうようだ。
利飛太が見つけた時、屍体は後頭部を一息で割られていたが他の外傷はみられなかった。バラバラにされているわけでもなけれ他の暴力を受けた形跡もないから、綺麗な屍体なのがまだ幸いだったのだろう。
幸い? 何をいってるのだ。
人の命が奪われたことの何が幸いなんだ。幸いはすでに失われている、それが事件現場だろう。すでに尊厳を蹂躙され命まで踏みにじられた被害者がいるというのに、何が幸いであるものか。
唇を噛みしめる利飛太を前に、見知った顔が声をかけてきた。
「おまえ、ひょっとしてリヒタ? リヒタか」
「……エリオ?」
顔をあげればそこに立っていたのは本庁の刑事であるはずの襟尾純だった。
利飛太とは警察学校時代の同期で、すぐに警察の空気には馴染めないと判断し民間へと下った利飛太とは違い順調に出世を重ね二十代という若さで本庁の刑事をつとめるというエリートだ。
だが本来、本庁の刑事であるはずの襟尾が第一報で現場に現れるはずがない。本庁の刑事が所轄に赴く時といえば、組織対策本部、通称、組対と呼ばれるチームが立ち上げられた時くらいのはずだが。
「実は、最近までこの周辺でちょっとした事件を捜査してる最中なんだよ。そこで、この事件だろ。関係があるかもしれない、と思ってオレも駆けつけたという訳さ」
襟尾は手早く説明すると、周囲の様子を見渡した。
「しかしひどいもんだよな、まだ幼い女の子をさ……」
そう、ひどい事件だ。
だがその事件を解決するため、少女の屍体を写真に残しまるでモノのように扱う行為はひどくないのか。
その考えを振り払うよう、利飛太は小さく首を振る。
何を考えているのだ、刑事は事件の痕跡を逃さぬためにやむを得ず、そうしているだけだ。自分本位に命を奪う犯人とは全然違う。
頭ではそれを理解していても、まるで事務仕事のように処理されていく遺体はとても人間にするような扱いには思えないというのもまた事実だったから。
「エリオ、キミは本当にすごいよ。僕には……やはり刑事の仕事は、出来ない……」
利飛太は腕を組み、呟くように独りごちる。
少女の屍体は車に乗せられ、検死のために運び出されるところだった。
最初の通報をうけてから小一時間も経っていないだろうというのに、周囲にはすでに警戒線が張られていた。
周囲にはマスコミ対策でブルーシートがかけられ中を見えないようにはしているが物々しい警戒と事件捜査特有の肌を焼くような空気が漂っているのだから何も知らなくとも事件が起こったのは誰の目からも明らかだろう。
櫂利飛太は忙しそうに動き回る警察官たちを、遠巻きに見つめていた。
警察官、と一口に言うが彼らの仕事は多岐にわたっている。通報してからものの5分とたたず駆けつけたのは最寄りにある派出所の警官、いわゆるお巡りさんで人の良さそうな若い警察官と、この地域にある市民の平和を守ることを決めた確固たる意志を柔和な笑顔の裏で認める事ができる壮年男性だったが、若い警察官は事件が殺人であること、屍体がどのような扱いをされている事に気付いてすぐさまトイレにかけこんだ。きっと食事の全てを吐き戻したのだろう、今もまだ顔色が優れないまま、到着してから今までのことを刑事たちに語っている。
次に到達したのが所轄の刑事たちだったか。殆ど同時に鑑識官も現れ、刑事らは屍体発見の状況を詳しく聞き、鑑識官はブルーシートの上にのせた遺体を様々な角度から写真へと収めている。
粛々と続けられる捜査は、極めて統率がとれている。戦後の復興から高度成長期を遂げ、東京都はいま日本で一番人でごった返す街となっている。それ故に事件も多く殺人という事件にも慣れているのだろう。流れるように捜査を行う警察官たちに一分の隙もなく、だからこそ利飛太にはそれがひどく尊厳を破壊している風に思えた。
屍体を見つけたのは、利飛太である。
依頼を受け、行方不明になった少女を探しつきとめた結果が「コレ」だ。
遺体は子供一人充分に入る大きさのキャリーケースに入れられ、コインロッカーに置き去りにされていたのだ。
依頼を受けて程なく、海外旅行にでも行くかのような男の姿を見たという証言を得た時から、ただの迷子でも連れ去り事件でもないのだろうと覚悟していたが想定していた中でも最低の結果だろう。
第一発見者であり通報者でもある利飛太はその場に留まるよう言われ、壁を背にぼんやりと働く警察官たちを眺めていた。この様子だとこちらの聞き取りはもう少し後になりそうだ。
自分と同じく遺体の第一発見者となった駅員は、青ざめた顔色で小さく震えながらロッカーを開けた時の様子をたどたどしく語っている。刑事達にとっては見慣れた屍体も、一般人にとっては一生でそう沢山はお目にかからない存在だ。ましてや犯罪という激しい暴力と悪意を浴びた屍体など、初めて見る事だろう。そして恐怖と嫌悪に苛まれているはずだ。
大概の殺人事件はそう、犯人はどうしてこんなにも残虐な真似が出来るのだろうという怒りと、胸がむかつく程の悪意に満ちあふれているのだから。
ビニールシートにおかれた屍体はあらかた調べ終わったのだろう。裸にされた小さな身体はシートに包まれ、これから検死に向かうようだ。
利飛太が見つけた時、屍体は後頭部を一息で割られていたが他の外傷はみられなかった。バラバラにされているわけでもなけれ他の暴力を受けた形跡もないから、綺麗な屍体なのがまだ幸いだったのだろう。
幸い? 何をいってるのだ。
人の命が奪われたことの何が幸いなんだ。幸いはすでに失われている、それが事件現場だろう。すでに尊厳を蹂躙され命まで踏みにじられた被害者がいるというのに、何が幸いであるものか。
唇を噛みしめる利飛太を前に、見知った顔が声をかけてきた。
「おまえ、ひょっとしてリヒタ? リヒタか」
「……エリオ?」
顔をあげればそこに立っていたのは本庁の刑事であるはずの襟尾純だった。
利飛太とは警察学校時代の同期で、すぐに警察の空気には馴染めないと判断し民間へと下った利飛太とは違い順調に出世を重ね二十代という若さで本庁の刑事をつとめるというエリートだ。
だが本来、本庁の刑事であるはずの襟尾が第一報で現場に現れるはずがない。本庁の刑事が所轄に赴く時といえば、組織対策本部、通称、組対と呼ばれるチームが立ち上げられた時くらいのはずだが。
「実は、最近までこの周辺でちょっとした事件を捜査してる最中なんだよ。そこで、この事件だろ。関係があるかもしれない、と思ってオレも駆けつけたという訳さ」
襟尾は手早く説明すると、周囲の様子を見渡した。
「しかしひどいもんだよな、まだ幼い女の子をさ……」
そう、ひどい事件だ。
だがその事件を解決するため、少女の屍体を写真に残しまるでモノのように扱う行為はひどくないのか。
その考えを振り払うよう、利飛太は小さく首を振る。
何を考えているのだ、刑事は事件の痕跡を逃さぬためにやむを得ず、そうしているだけだ。自分本位に命を奪う犯人とは全然違う。
頭ではそれを理解していても、まるで事務仕事のように処理されていく遺体はとても人間にするような扱いには思えないというのもまた事実だったから。
「エリオ、キミは本当にすごいよ。僕には……やはり刑事の仕事は、出来ない……」
利飛太は腕を組み、呟くように独りごちる。
少女の屍体は車に乗せられ、検死のために運び出されるところだった。
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