インターネット字書きマンの落書き帳
津詰が葦宮の匂いをさせて襟尾がジェラシーする話(要約したらひどい)
津詰徹生と襟尾純が出る話です。
葦宮誠も少しだけ出ています。
以前Twitterに出したものですが、もそっと加筆したかったので加筆したらちょっと増えました。
お得な気分!
前半は健康診断の結果が思わしくなく葦宮に茶化されたり、襟尾に心配されたりする津詰です。
後半は津詰から他のオトコの匂いがして嫉妬する襟尾の話です。
何いってんだおめーはと思うけどオレもわりとそう思います。
Twitterに流した奴と後半の展開変えたんですが、なんかそのほうが楽しいと思ったからです。
let's Enjoy!
葦宮誠も少しだけ出ています。
以前Twitterに出したものですが、もそっと加筆したかったので加筆したらちょっと増えました。
お得な気分!
前半は健康診断の結果が思わしくなく葦宮に茶化されたり、襟尾に心配されたりする津詰です。
後半は津詰から他のオトコの匂いがして嫉妬する襟尾の話です。
何いってんだおめーはと思うけどオレもわりとそう思います。
Twitterに流した奴と後半の展開変えたんですが、なんかそのほうが楽しいと思ったからです。
let's Enjoy!
『不機嫌なシトラス』
太陽は間もなく真上まで来る頃だろう。
津詰徹生は大きなため息をつくと長い階段を上ってた。
先日の健康診断で再検査項目が出たので朝から病院へと出向いてきたのだ。刑事のような激務では食事だって睡眠だってろくにとれはしない。その上で何かと顔をつなぐために酒の席に出る事も多いのだから健康であるはずがないのだ。
それはわかっていたが、赤文字ででかでかと【再検査】と書かれるのは流石に肝が冷える。それと同時に自分の身体もそう若くはないのを悟り、そろそろ潮時かと考えたりもするのだ。
それだけでも憂鬱だというのに病院に出向いた後、偶然に葦宮誠と出会ってしまったのも津詰に大きな影を落としていた。
『おう、津詰の旦那じゃねぇか。病院帰りか? はは、いよいよ刑事やるのもしんどい歳になったって事かい。どこが悪いんだ? 膝か、腰か』
そんな風に散々と茶化されてからかわれたのだから腹が立つ。
しかも葦宮は何処か悪い所がないのか聞けば
『健康管理の行き届いた規則正しい生活、ながぁくしてたもんでな。娑婆に出て痩せてからは健康そのものよ、以前より動けるくらいだぜ』
なんて軽口を叩くからますます腹が立った。
だが
『早く引退しろよ、そうしたら俺も散々と活躍してやるから、病室で指くわえて見てるといいや』
なんて葦宮から言われたのなら倒れる訳にもいかないだろう。
苛立つ気持ちをおさえながら捜査一課のフロアへと入ればすぐに部下である襟尾純がそばへと駆け寄ってきた。
「あ、ボス。おはようございます、再検査、どうでした」
襟尾には病院で遅れてくることを告げていたから心配で声をかけてきたのだろう。
とはいえ検査の結果がわかるのは二週間後だという。一応は酒もひかえたし夜中に甘いものを喰うような事を避けてはいたが、結果が戻るのはまだ先だ。
「今日は採血だけだ、すぐに結果がわかる訳じゃねぇよ」
津詰はそう言いながら上着を椅子に引っかけてワイシャツの袖をまくると大げさに貼られたガーゼを剥がした。採血の時、血をとめるために貼り付けられたものだ。幸いに採血は痛みもなく終わったが血の痕はくっきりと残っていた。
「なるほど、それもそうですよね。今度こそ問題ないといいんですけど……あ、そうだ。もしまた問題があるようだったら、暫くオレがボスの家に住みましょうか? 料理でも洗濯でもボスの生活をおはようからお休みまでしっかりサポートして、オレが健康にしてみせますよ」
そんな津詰を前に襟尾は屈託なく笑って見せる。冗談か本気かわからないような物言いだが、次回の結果が悪ければ本当に押しかけてきそうな気がして津詰は自然と苦笑いをしていた。
「そうならねぇように祈っててくれや。まだまだ刑事を続けてぇからなぁ」
ため息をつき椅子に座ろうとする津詰の後ろで、襟尾は首を傾げながらしきりに鼻をひくひくと動かしている。まるで嗅いだことのないにおいに気付いた警察犬のようだな、等と思いながら「どうしたんだ」と聞こうとするが、津詰が口を開く前に襟尾が不思議そうな顔をしながら言った。
「あの、ボス。ボスから他の男のニオイがするんですけど、誰と会ってきたんですか?」
「おい、何だその言い方……いや、別に誰とも会いにいっちゃいねぇ、病院だ病院……」
襟尾が妙な言葉をチョイスするからか、一瞬同僚たちの視線がこちらへと向く。だがすぐに「何だまた襟尾か」といった様子で皆は自分の仕事へ戻っていった。襟尾は仕事はできるのだが時々上司に妙な事を言い出す癖があり、津詰に対してはそれが特に如実だということはすでに周知の事実なのだ。
それにしても他の男のニオイとは、もう少し言い方もあるだろう。
「何が悲しくてオマエになんざそんな事言われなきゃいけねぇんだ、まったく……嫁にも言われた事がねぇぞそんなこと。いや、男のニオイは誰も言わねぇわな、これだけ男くせぇ職場にいるんだからよ」
津詰は呆れながら椅子にこしかけ机に積まれた連絡のメモなどを眺める。
唐突な言葉に一瞬目眩がしたが襟尾の発言が突飛なのは今にはじまった事でもない。いちいちこれで失神していたら正気がいくらあっても足りないところだった。
すぐに仕事をはじめる津詰を横に襟尾はコーヒーメーカーで津詰のためにコーヒーを注ぐとさも当然といった様子で告げた。
「いえ、ボスの背広からタバコのにおいがしたんで、誰かに会ってきたのかなーと思って。ほら、ボスは煙草吸わないですよね」
「あぁ、そうだな……煙草のニオイか、自分じゃ気付かなかったが……」
今日は検診もあったから前日より務めて健康に過ごしていた。煙草はもちろん、酒だって一滴も飲んで無い。だとすると、煙草の臭いは葦宮だろう
見かけた以上は無視もできないので少しばかり立ち話をしていたが、その時葦宮はずっと煙草を吹かしていたのだ。 津詰から煙草のにおいがするならきっとその時のものだろう。
「顔見知りと会って話をしていたからだろうな、あいつ俺の前でも平気で煙草を吸いやがる。まったく、失礼なやつだぜ」
津詰はそう言いながら椅子に引っかけた上着に触れる。煙草臭いのは仕方ないと思うが葦宮の吸う煙草のニオイが染みついていると思うと何もしていないが悪いような気がした。
葦宮はもう罪を償い社会に出てから今のところこれといった悪事に手は染めていない。それはわかっているし元犯罪者と顔をつないでおくのも刑事の仕事ではあるが、あまり懇意にしていると思われるのもマズイ気がした。
それに理由はわからぬが、襟尾の機嫌も悪い気がしたのだ。他の男のニオイがするのは、そんなに腹が立つのだろうか。
とはいえフロアにいる連中はみんな煙草を吹かしている。一日に一箱吸うようなヘビースモーカーも多いのだから葦宮のニオイなどすぐに他の煙草で上書きされそうな気がするが。
「オレは煙草吸わないからなぁ、ボスが煙草臭くなるとオレのニオイが薄まる気がして悔しいなぁ」
襟尾は不服そうに唇を尖らせる。まったく、そんな事を気にするなんて襟尾は歳のわりにひどく子供っぽい所を見せるものだ。津詰は少し考えると、以前襟尾が鞄にいれていた瓶のことを思い出した。
「そうだ、エリオ。おまえ香水をもってたよな。最近は男でもつけるんだろう、そういうのは」
「えぇ、一応は。でもあんまり使ってないんで、鞄に入れっぱなしなんてすよ。俺は洗濯シッカリ、自分の身体をキッチリ洗って綺麗にしておく男のニオイで勝負してますから」
津詰が問えば、襟尾は何故か堂々と自分の胸を叩いて見せた。
「何なら嗅いでみますか俺のニオイ、そろそろいいニオイになってるかもしれませんよ」
「いや、嗅がねぇよ。何でおまえ突然ニオイを嗅がせようとするんだよ……前もそんな事言ってたな、オイ」
「まだ嗅ぐつもりはないんですか。でも諦めませんよ、いつかボスに俺のシャツのニオイ、嗅がせて見せますから」
そしていらぬ情熱を滾らせる。そんな事を誓われてもニオイを嗅ごうと思わないが、襟尾は自分が普段と違う煙草のにおいが染みついているのに気付いたくらいだ。津詰が知らないだけでニオイを嗅ぐというコミュニケーションが若い連中の間では流行っていたりするのだろうか。
「そんな訳ねぇよな……」
津詰は小さく首を振る、犬じゃあるまいしそんなコミュニケーション流行ってもらっては困る。そうして少し考えてからデスクの引き出しを開けた。
「おい、エリオ」
「何ですか、ボス……」
そして襟尾を呼び止めると、久しく使ってなかった香水を取り出しそれを勢いよく吹きかける。煙草の煙に混じり光を受けて輝きながら香水は揺らめきながら襟尾の身体へ降り注いだ。
「わわっ、何するんですかボス……」
「おまえが持ってねぇって言うんだから仕方ねぇだろ。俺が使ってた香水だからオッサン臭いかもしれねぇが、我慢しろ」
「我慢しろって……」
「俺から他のオトコのニオイするの嫌なんだろ? 俺も今日は香水を付ける、だからおまえと同じ匂いがする、これで手ぇ打たねぇか。なぁ」
悪戯っぽく笑う津詰を前に、襟尾は顔を赤くする。
「えぇ、ボスとおなじ匂いがオレから……えぇ、えっ、えっ……」
落ち葉舞う木々の合間を歩くような重厚さをもつ香りは若い襟尾のイメージからしても明らかに重く強い、良く言えば大人の。悪く言えばオジサン臭い香りと言えただろう。津詰も滅多に香水は使わないのだが如何せんフロアがいつも煙草臭いので外に出る時、これから人に会うという時は使う事もあった。
これは、聞き込みをするとき、特に女性は身だしなみや香りなど小さな部分にも敏感に反応するので相手の気持ちをほぐすためにする手段の一つであり情報収集を速やかにするテクニックの一つなのだが、それでも津詰が香水などもっているのは以外だったのか襟尾はすっかり驚いた様子で自分の匂いを確かめていた。
「ボスも香水とか使うんですね……」
「多少はな。この歳になると色々言われんだよ、加齢臭とか」
「いま、オレもボスの匂いしてます? ボスもオレの?」
「あぁ、そうだが何だ……」
襟尾は「うわぁ……」と小さく声をもらすと恥ずかしそうに顔を隠した。
「何だよ、そんなにオッサンの匂いが嫌だったか?」
「いえ、何かボスの匂いがオレからするとか想像しただけで嬉しいけど緊張して……え、オレいま実質ボスですか?」
「そんな訳ねぇだろ。しかしお前も面白い奴だな、こんなオッサンと同じ匂いさせて喜ぶとか物好きだな……」
「い、いいじゃないですか、今日はボスとおそろいだと思うと俺はやる気出ますし。それに、俺はボスの一番の相棒ですから、他の男に負けてられませんから!」
襟尾は改めて自分のにおいを確かめると、力一杯拳を握る。
そして津詰にコーヒーを入れそれを机におくと。
「よし、今日はボスみたいになオレがボスみたいにがんばりますよ!」
気合いをいれ、自分のデスクへ向かっていく。
「おぅ、頑張れ。俺も負けないようにしねぇとな」
津詰は少し笑うと詰まれた書類へ目を向ける。
二人の身体からは同じ香りが漂っていた。
太陽は間もなく真上まで来る頃だろう。
津詰徹生は大きなため息をつくと長い階段を上ってた。
先日の健康診断で再検査項目が出たので朝から病院へと出向いてきたのだ。刑事のような激務では食事だって睡眠だってろくにとれはしない。その上で何かと顔をつなぐために酒の席に出る事も多いのだから健康であるはずがないのだ。
それはわかっていたが、赤文字ででかでかと【再検査】と書かれるのは流石に肝が冷える。それと同時に自分の身体もそう若くはないのを悟り、そろそろ潮時かと考えたりもするのだ。
それだけでも憂鬱だというのに病院に出向いた後、偶然に葦宮誠と出会ってしまったのも津詰に大きな影を落としていた。
『おう、津詰の旦那じゃねぇか。病院帰りか? はは、いよいよ刑事やるのもしんどい歳になったって事かい。どこが悪いんだ? 膝か、腰か』
そんな風に散々と茶化されてからかわれたのだから腹が立つ。
しかも葦宮は何処か悪い所がないのか聞けば
『健康管理の行き届いた規則正しい生活、ながぁくしてたもんでな。娑婆に出て痩せてからは健康そのものよ、以前より動けるくらいだぜ』
なんて軽口を叩くからますます腹が立った。
だが
『早く引退しろよ、そうしたら俺も散々と活躍してやるから、病室で指くわえて見てるといいや』
なんて葦宮から言われたのなら倒れる訳にもいかないだろう。
苛立つ気持ちをおさえながら捜査一課のフロアへと入ればすぐに部下である襟尾純がそばへと駆け寄ってきた。
「あ、ボス。おはようございます、再検査、どうでした」
襟尾には病院で遅れてくることを告げていたから心配で声をかけてきたのだろう。
とはいえ検査の結果がわかるのは二週間後だという。一応は酒もひかえたし夜中に甘いものを喰うような事を避けてはいたが、結果が戻るのはまだ先だ。
「今日は採血だけだ、すぐに結果がわかる訳じゃねぇよ」
津詰はそう言いながら上着を椅子に引っかけてワイシャツの袖をまくると大げさに貼られたガーゼを剥がした。採血の時、血をとめるために貼り付けられたものだ。幸いに採血は痛みもなく終わったが血の痕はくっきりと残っていた。
「なるほど、それもそうですよね。今度こそ問題ないといいんですけど……あ、そうだ。もしまた問題があるようだったら、暫くオレがボスの家に住みましょうか? 料理でも洗濯でもボスの生活をおはようからお休みまでしっかりサポートして、オレが健康にしてみせますよ」
そんな津詰を前に襟尾は屈託なく笑って見せる。冗談か本気かわからないような物言いだが、次回の結果が悪ければ本当に押しかけてきそうな気がして津詰は自然と苦笑いをしていた。
「そうならねぇように祈っててくれや。まだまだ刑事を続けてぇからなぁ」
ため息をつき椅子に座ろうとする津詰の後ろで、襟尾は首を傾げながらしきりに鼻をひくひくと動かしている。まるで嗅いだことのないにおいに気付いた警察犬のようだな、等と思いながら「どうしたんだ」と聞こうとするが、津詰が口を開く前に襟尾が不思議そうな顔をしながら言った。
「あの、ボス。ボスから他の男のニオイがするんですけど、誰と会ってきたんですか?」
「おい、何だその言い方……いや、別に誰とも会いにいっちゃいねぇ、病院だ病院……」
襟尾が妙な言葉をチョイスするからか、一瞬同僚たちの視線がこちらへと向く。だがすぐに「何だまた襟尾か」といった様子で皆は自分の仕事へ戻っていった。襟尾は仕事はできるのだが時々上司に妙な事を言い出す癖があり、津詰に対してはそれが特に如実だということはすでに周知の事実なのだ。
それにしても他の男のニオイとは、もう少し言い方もあるだろう。
「何が悲しくてオマエになんざそんな事言われなきゃいけねぇんだ、まったく……嫁にも言われた事がねぇぞそんなこと。いや、男のニオイは誰も言わねぇわな、これだけ男くせぇ職場にいるんだからよ」
津詰は呆れながら椅子にこしかけ机に積まれた連絡のメモなどを眺める。
唐突な言葉に一瞬目眩がしたが襟尾の発言が突飛なのは今にはじまった事でもない。いちいちこれで失神していたら正気がいくらあっても足りないところだった。
すぐに仕事をはじめる津詰を横に襟尾はコーヒーメーカーで津詰のためにコーヒーを注ぐとさも当然といった様子で告げた。
「いえ、ボスの背広からタバコのにおいがしたんで、誰かに会ってきたのかなーと思って。ほら、ボスは煙草吸わないですよね」
「あぁ、そうだな……煙草のニオイか、自分じゃ気付かなかったが……」
今日は検診もあったから前日より務めて健康に過ごしていた。煙草はもちろん、酒だって一滴も飲んで無い。だとすると、煙草の臭いは葦宮だろう
見かけた以上は無視もできないので少しばかり立ち話をしていたが、その時葦宮はずっと煙草を吹かしていたのだ。 津詰から煙草のにおいがするならきっとその時のものだろう。
「顔見知りと会って話をしていたからだろうな、あいつ俺の前でも平気で煙草を吸いやがる。まったく、失礼なやつだぜ」
津詰はそう言いながら椅子に引っかけた上着に触れる。煙草臭いのは仕方ないと思うが葦宮の吸う煙草のニオイが染みついていると思うと何もしていないが悪いような気がした。
葦宮はもう罪を償い社会に出てから今のところこれといった悪事に手は染めていない。それはわかっているし元犯罪者と顔をつないでおくのも刑事の仕事ではあるが、あまり懇意にしていると思われるのもマズイ気がした。
それに理由はわからぬが、襟尾の機嫌も悪い気がしたのだ。他の男のニオイがするのは、そんなに腹が立つのだろうか。
とはいえフロアにいる連中はみんな煙草を吹かしている。一日に一箱吸うようなヘビースモーカーも多いのだから葦宮のニオイなどすぐに他の煙草で上書きされそうな気がするが。
「オレは煙草吸わないからなぁ、ボスが煙草臭くなるとオレのニオイが薄まる気がして悔しいなぁ」
襟尾は不服そうに唇を尖らせる。まったく、そんな事を気にするなんて襟尾は歳のわりにひどく子供っぽい所を見せるものだ。津詰は少し考えると、以前襟尾が鞄にいれていた瓶のことを思い出した。
「そうだ、エリオ。おまえ香水をもってたよな。最近は男でもつけるんだろう、そういうのは」
「えぇ、一応は。でもあんまり使ってないんで、鞄に入れっぱなしなんてすよ。俺は洗濯シッカリ、自分の身体をキッチリ洗って綺麗にしておく男のニオイで勝負してますから」
津詰が問えば、襟尾は何故か堂々と自分の胸を叩いて見せた。
「何なら嗅いでみますか俺のニオイ、そろそろいいニオイになってるかもしれませんよ」
「いや、嗅がねぇよ。何でおまえ突然ニオイを嗅がせようとするんだよ……前もそんな事言ってたな、オイ」
「まだ嗅ぐつもりはないんですか。でも諦めませんよ、いつかボスに俺のシャツのニオイ、嗅がせて見せますから」
そしていらぬ情熱を滾らせる。そんな事を誓われてもニオイを嗅ごうと思わないが、襟尾は自分が普段と違う煙草のにおいが染みついているのに気付いたくらいだ。津詰が知らないだけでニオイを嗅ぐというコミュニケーションが若い連中の間では流行っていたりするのだろうか。
「そんな訳ねぇよな……」
津詰は小さく首を振る、犬じゃあるまいしそんなコミュニケーション流行ってもらっては困る。そうして少し考えてからデスクの引き出しを開けた。
「おい、エリオ」
「何ですか、ボス……」
そして襟尾を呼び止めると、久しく使ってなかった香水を取り出しそれを勢いよく吹きかける。煙草の煙に混じり光を受けて輝きながら香水は揺らめきながら襟尾の身体へ降り注いだ。
「わわっ、何するんですかボス……」
「おまえが持ってねぇって言うんだから仕方ねぇだろ。俺が使ってた香水だからオッサン臭いかもしれねぇが、我慢しろ」
「我慢しろって……」
「俺から他のオトコのニオイするの嫌なんだろ? 俺も今日は香水を付ける、だからおまえと同じ匂いがする、これで手ぇ打たねぇか。なぁ」
悪戯っぽく笑う津詰を前に、襟尾は顔を赤くする。
「えぇ、ボスとおなじ匂いがオレから……えぇ、えっ、えっ……」
落ち葉舞う木々の合間を歩くような重厚さをもつ香りは若い襟尾のイメージからしても明らかに重く強い、良く言えば大人の。悪く言えばオジサン臭い香りと言えただろう。津詰も滅多に香水は使わないのだが如何せんフロアがいつも煙草臭いので外に出る時、これから人に会うという時は使う事もあった。
これは、聞き込みをするとき、特に女性は身だしなみや香りなど小さな部分にも敏感に反応するので相手の気持ちをほぐすためにする手段の一つであり情報収集を速やかにするテクニックの一つなのだが、それでも津詰が香水などもっているのは以外だったのか襟尾はすっかり驚いた様子で自分の匂いを確かめていた。
「ボスも香水とか使うんですね……」
「多少はな。この歳になると色々言われんだよ、加齢臭とか」
「いま、オレもボスの匂いしてます? ボスもオレの?」
「あぁ、そうだが何だ……」
襟尾は「うわぁ……」と小さく声をもらすと恥ずかしそうに顔を隠した。
「何だよ、そんなにオッサンの匂いが嫌だったか?」
「いえ、何かボスの匂いがオレからするとか想像しただけで嬉しいけど緊張して……え、オレいま実質ボスですか?」
「そんな訳ねぇだろ。しかしお前も面白い奴だな、こんなオッサンと同じ匂いさせて喜ぶとか物好きだな……」
「い、いいじゃないですか、今日はボスとおそろいだと思うと俺はやる気出ますし。それに、俺はボスの一番の相棒ですから、他の男に負けてられませんから!」
襟尾は改めて自分のにおいを確かめると、力一杯拳を握る。
そして津詰にコーヒーを入れそれを机におくと。
「よし、今日はボスみたいになオレがボスみたいにがんばりますよ!」
気合いをいれ、自分のデスクへ向かっていく。
「おぅ、頑張れ。俺も負けないようにしねぇとな」
津詰は少し笑うと詰まれた書類へ目を向ける。
二人の身体からは同じ香りが漂っていた。
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