インターネット字書きマンの落書き帳
津詰が襟尾を介抱するだけの話
津詰さんと襟尾くんが出る話です。(挨拶)
Twitterでペタっと張っておいたネタなんですが勿体ないお化けなのでBlogにも乗せておく事にしました。
津詰の役に立つぞー! って気合い入れてついて来たのはいいものの全然役に立てなくてダウンしちゃう襟尾と、そんな襟尾に「気にすんなよぉ」って軽くドンマイしてくれる大人な津詰さんの話ですよ。
大人……これが大人か……。
英語でいうとビックフットか……いや、ビックフットではないな、そうだな……。
Twitterでペタっと張っておいたネタなんですが勿体ないお化けなのでBlogにも乗せておく事にしました。
津詰の役に立つぞー! って気合い入れてついて来たのはいいものの全然役に立てなくてダウンしちゃう襟尾と、そんな襟尾に「気にすんなよぉ」って軽くドンマイしてくれる大人な津詰さんの話ですよ。
大人……これが大人か……。
英語でいうとビックフットか……いや、ビックフットではないな、そうだな……。
『怪異注意報』
襟尾純が気付いた時、車のバックシートで横になっていた。
身体全体がひどい倦怠感に包まれとても起きられる状態ではないという事は自分自身でもはっきりとわかる。
刑事という激務ながらできる限り健康に気を遣って生活しており、風邪ひとつひいた事がないはずの身体が今は芯まで凍えるほどの寒気で身じろぎすら億劫な程だった。
少しでも暖を取ろうとかけられた毛布を引き寄せれば毛布だと思ったのは上司である津詰徹生のコートであることに気付く。
「おう、目ェ覚めたか襟尾。気分はどうだ」
運転席に座る津詰は襟尾が目を覚ましたのに気付いた様子で振り返りながら缶コーヒーを差し出す。襟尾は何とか身体を起こすとそれを受け取り蓋を開け一口啜った。
普段は飲まないタイプの少し甘い缶コーヒーだったがホットだった事もあり温もりと甘さとがすっかり冷え切っていた襟尾の身体を随分と楽にしてくれる。
同時に襟尾の脳裏へ意識を失う前の記憶が少しずつ蘇ってきた。
一人で捜査に出向こうと車を探す津詰を見つけたのは久しぶりに事件を解決して家に帰れると思っていた夕方だった。 帰路につくつもりで裏口を出ればこれから出かけようとする津詰を偶然襟尾が見つけたのだ。
「何処に行くんですかボス。一人で捜査? ダメですよ一人では危険ですから」
襟尾が声をかければ津詰はばつの悪そうな顔を向ける。
「襟尾、見てやがったのか」
「今日はもう帰れるのに何か気になる所とかあるんですか。警察が単独捜査はNGだって言われてるでしょ、何かあるなら俺もお供しますよ」
「いや、これは野暮用というかな……公の捜査じゃなく、俺が個人的に馴染みの連中に頼まれた案件でオマエに関係はない私的なものなんだ。気にしないでくれ」
「私的な捜査ならなおさらですよ、ボスが暴走したらいけないでしょうが。それに、私的な捜査で公用車使うとかダメじゃないですかもー」
「暴走とかオマエに言われると甚だ遺憾、ってやつだがなァ」
「何言ってるんですか、ボスのお世話はちゃんと俺がしてあげてるんですからねッ。監視のため俺もついていきますよ。ダメでも勝手に尾行してついていきますからね」
津詰は襟尾を連れていくのを露骨に渋っていたが襟尾はそれを押し切って無理矢理車に乗り込んだ。
「運転手なら俺がしますから、さぁ行きましょう」
「全く、仕方ねぇな……だがこの件は他言無用だぞ」
「はい、任せておいてください」
津詰は渋々、襟尾は嬉々として向かった先は都心からも離れ人の気配も乏しいような廃校だった。普段襟尾が担当する範囲と比べれば人も建物もずっと少ないが、それでも都内でこれだけ大きな学校がに廃校になってもまだ取り壊されず残っているというのは流石の襟尾にも妙に思えた。
「この学校は火事で生徒が死んだってことが問題になり、同時に地上げ屋から強い圧力などもあってな。権利者が曖昧のまま捨て置かれたって事情で未だ取り壊しの目処がたってないのが表向きの理由なんだが……あるんだよ、幽霊が出るって噂がな」
「夜中に鏡を見ると子供の霊に呪われるとか、戦時中の軍事基地が地下にあるとか色々な噂がまことしやかに囁かれててな。オカルトブームで興味本位に肝試しって遊びに来る奴も多いんだが、この周辺では若ェ連中の行方不明者も多いんだよ」
「廃校と因果関係はわからないが、何かあったらマズいだろ。だから一応、調べておいてくれって以前の仲間から言われてな。ちょっと見回りに来たってワケだ」
歩きながら津詰は簡単に事の経緯を説明する。
取り立てて事件が起こった場所ではないが気になる事もあり見に来たといった所なのだろうが、それでも襟尾は津詰が何かしら隠しているような気がした。
表向きでは事件などおこっていない。だが実際はすでに事がおこっているのを津詰はすでに知っているのではないかと、根拠はないがそんな風に思ったのだ。
とはいえ、津詰から何も言わないのであれば襟尾がそれに立ち入るのは無粋だろうと思っていたし津詰であれば必要なら襟尾にも伝えてくれるだろうと思っていたから、襟尾はそこに踏み込むような真似をするのはやめた。
その点で襟尾は津詰みの事を信頼していたのだ。
廃校に足を踏み入れたのは午後7時頃だったろう。
住宅街から外れた場所にあり街灯も少ない場所だったがそれを差し引いても重苦しい雰囲気が周囲に立ちこめており、胸が詰まるような苦しさをが襟尾を包み込む。
歩きながら色々と説明をする津詰の言葉もやけに遠くに聞こえ、相づちすらうつ余力もないままただ彼の言葉を聞き、ついていくのがやっとだった。
足は鉛がまとわりついてるように重くなり懐中電灯に照らされているというのに目の前には黒い靄がかかっているように視界も悪い。目眩のように気が遠くなりそうな事もあるがそれでも気力を振り絞り周囲の様子を窺う。
廃校だと聞いていたが机が綺麗に並べられたまま放置されている教室が多く、壁には生徒たちが書いたとおぼしき子供らしい絵や習字が幾つも飾られていたのだが夜なのもありやけに不気味に見える。
子供たちが使っていた道具棚の上には水が腐った水槽が放置されており、子供らしくクレヨンで書き殴られた絵の上には赤い墨汁が血のように塗りつけられていてそれがまた一際不快さを煽るようだった。
気が重くなるような風景が延々と続き、襟尾の足はますます重くなる。
自分からついて行くといい出したのに弱音を吐く訳にはいかないと思っていたのだが、ついに膝をつきその場で嘔吐していた。具合が悪いということは無かったはずなのに、非道い目眩と寒気から一歩も動けなくなっていたのだ。
「す、いません。ボス、おれ、なんだか身体が……」
辛うじて声を絞り出せば、津詰は驚いたように襟尾のもとへ駆け寄る。
「くそッ、しくじったな……やっぱりエリオを連れてくるんじゃ無かったッ……何かすげぇのがいるな、ここには……とにかくコイツを外に出さねぇと……」
そこから先はハッキリと覚えていない。
動けなくなりその場で倒れ伏す襟尾の身体を抱きかかえた津詰が懸命に走り外に出てくれたというのは何とはなしに覚えているのだがきっとその後意識を失ってしまったんだろう。
津詰を手伝うために付いてきたはずなのに、逆に足手まといになってしまった。
それどころか津詰に抱えられ助けてもらったのだ。そう考えると情けない気持ちと恥ずかしい気持ちが同時に襟尾を襲ってくる。
「……すいません、ボス。俺、情けないですよね。ボスを手伝うつもりだったのにかえって助けられるなんて」
襟尾は両手で包むよう缶コーヒーをもつと俯いて呟く。
尊敬する津詰の前ではいつでも頼れる部下として頑張ってきていたし、津詰にとって一番信頼できる相棒として働きたいと思っていた。それだというのに憧れの津詰を前に倒れて助けられるなんて恥ずかしい姿を見せてしまったのだからとても顔向け出来ない。
どう謝っていいのかすらわからずつい無言になる襟尾の頭を津詰は優しく撫でてやった。
「心配すんな、こっちこそオマエを巻き込んじまって悪かったな」
「そんな、俺は好きでついてきたんですから……」
「だったらしょぼくれた顔すんじゃねぇよ、オマエ、そういうキャラじゃ無ェだろ。それ飲んで元気だして、明日からまた俺のエリオでいてくれよ。オマエの空回りした元気がねぇと拍子抜けだからな」
「か、空回りしてませんよ。俺とボスで相性バッチリ、200倍の回転してるじゃないですか」
「そうそう、そーいうのだ……ほら、明日からまたよろしく頼むぜ」
津詰の笑顔を前に、襟尾の表情は自然と和らいでいく。
津詰の前では出来る部下でいなければと肩肘張っていたところがあったが、津詰はヘマをした自分もきちんとフォローしてくれる優しい上司なのだ。
改めてそれぞ実感しながら、襟尾はますます津詰にとって一番近くにいる部下であり続けるよう心に誓う。
これほど尊敬できて寛容である偉大な刑事には二度と巡り会うことができない、そんな気がしていたからだ。
そんな襟尾に聞こえぬよう、津詰は小さく呟いた。
「とにかく、コイツは報告しねぇとな。俺はこの手の耐性が強いから見過ごしがちだが襟尾みてぇな奴がおかしくなるなら一般人が近づいていい場所じゃねぇだろ……襟尾の奴もちゃんと見せてやらねぇとな。まったく、いつも余計な仕事押しつけてきやがる、あいつらは……」
呟きはすべて闇に消える。
車内からはすでに廃校の姿など影も形も見えなくなっていた。
襟尾純が気付いた時、車のバックシートで横になっていた。
身体全体がひどい倦怠感に包まれとても起きられる状態ではないという事は自分自身でもはっきりとわかる。
刑事という激務ながらできる限り健康に気を遣って生活しており、風邪ひとつひいた事がないはずの身体が今は芯まで凍えるほどの寒気で身じろぎすら億劫な程だった。
少しでも暖を取ろうとかけられた毛布を引き寄せれば毛布だと思ったのは上司である津詰徹生のコートであることに気付く。
「おう、目ェ覚めたか襟尾。気分はどうだ」
運転席に座る津詰は襟尾が目を覚ましたのに気付いた様子で振り返りながら缶コーヒーを差し出す。襟尾は何とか身体を起こすとそれを受け取り蓋を開け一口啜った。
普段は飲まないタイプの少し甘い缶コーヒーだったがホットだった事もあり温もりと甘さとがすっかり冷え切っていた襟尾の身体を随分と楽にしてくれる。
同時に襟尾の脳裏へ意識を失う前の記憶が少しずつ蘇ってきた。
一人で捜査に出向こうと車を探す津詰を見つけたのは久しぶりに事件を解決して家に帰れると思っていた夕方だった。 帰路につくつもりで裏口を出ればこれから出かけようとする津詰を偶然襟尾が見つけたのだ。
「何処に行くんですかボス。一人で捜査? ダメですよ一人では危険ですから」
襟尾が声をかければ津詰はばつの悪そうな顔を向ける。
「襟尾、見てやがったのか」
「今日はもう帰れるのに何か気になる所とかあるんですか。警察が単独捜査はNGだって言われてるでしょ、何かあるなら俺もお供しますよ」
「いや、これは野暮用というかな……公の捜査じゃなく、俺が個人的に馴染みの連中に頼まれた案件でオマエに関係はない私的なものなんだ。気にしないでくれ」
「私的な捜査ならなおさらですよ、ボスが暴走したらいけないでしょうが。それに、私的な捜査で公用車使うとかダメじゃないですかもー」
「暴走とかオマエに言われると甚だ遺憾、ってやつだがなァ」
「何言ってるんですか、ボスのお世話はちゃんと俺がしてあげてるんですからねッ。監視のため俺もついていきますよ。ダメでも勝手に尾行してついていきますからね」
津詰は襟尾を連れていくのを露骨に渋っていたが襟尾はそれを押し切って無理矢理車に乗り込んだ。
「運転手なら俺がしますから、さぁ行きましょう」
「全く、仕方ねぇな……だがこの件は他言無用だぞ」
「はい、任せておいてください」
津詰は渋々、襟尾は嬉々として向かった先は都心からも離れ人の気配も乏しいような廃校だった。普段襟尾が担当する範囲と比べれば人も建物もずっと少ないが、それでも都内でこれだけ大きな学校がに廃校になってもまだ取り壊されず残っているというのは流石の襟尾にも妙に思えた。
「この学校は火事で生徒が死んだってことが問題になり、同時に地上げ屋から強い圧力などもあってな。権利者が曖昧のまま捨て置かれたって事情で未だ取り壊しの目処がたってないのが表向きの理由なんだが……あるんだよ、幽霊が出るって噂がな」
「夜中に鏡を見ると子供の霊に呪われるとか、戦時中の軍事基地が地下にあるとか色々な噂がまことしやかに囁かれててな。オカルトブームで興味本位に肝試しって遊びに来る奴も多いんだが、この周辺では若ェ連中の行方不明者も多いんだよ」
「廃校と因果関係はわからないが、何かあったらマズいだろ。だから一応、調べておいてくれって以前の仲間から言われてな。ちょっと見回りに来たってワケだ」
歩きながら津詰は簡単に事の経緯を説明する。
取り立てて事件が起こった場所ではないが気になる事もあり見に来たといった所なのだろうが、それでも襟尾は津詰が何かしら隠しているような気がした。
表向きでは事件などおこっていない。だが実際はすでに事がおこっているのを津詰はすでに知っているのではないかと、根拠はないがそんな風に思ったのだ。
とはいえ、津詰から何も言わないのであれば襟尾がそれに立ち入るのは無粋だろうと思っていたし津詰であれば必要なら襟尾にも伝えてくれるだろうと思っていたから、襟尾はそこに踏み込むような真似をするのはやめた。
その点で襟尾は津詰みの事を信頼していたのだ。
廃校に足を踏み入れたのは午後7時頃だったろう。
住宅街から外れた場所にあり街灯も少ない場所だったがそれを差し引いても重苦しい雰囲気が周囲に立ちこめており、胸が詰まるような苦しさをが襟尾を包み込む。
歩きながら色々と説明をする津詰の言葉もやけに遠くに聞こえ、相づちすらうつ余力もないままただ彼の言葉を聞き、ついていくのがやっとだった。
足は鉛がまとわりついてるように重くなり懐中電灯に照らされているというのに目の前には黒い靄がかかっているように視界も悪い。目眩のように気が遠くなりそうな事もあるがそれでも気力を振り絞り周囲の様子を窺う。
廃校だと聞いていたが机が綺麗に並べられたまま放置されている教室が多く、壁には生徒たちが書いたとおぼしき子供らしい絵や習字が幾つも飾られていたのだが夜なのもありやけに不気味に見える。
子供たちが使っていた道具棚の上には水が腐った水槽が放置されており、子供らしくクレヨンで書き殴られた絵の上には赤い墨汁が血のように塗りつけられていてそれがまた一際不快さを煽るようだった。
気が重くなるような風景が延々と続き、襟尾の足はますます重くなる。
自分からついて行くといい出したのに弱音を吐く訳にはいかないと思っていたのだが、ついに膝をつきその場で嘔吐していた。具合が悪いということは無かったはずなのに、非道い目眩と寒気から一歩も動けなくなっていたのだ。
「す、いません。ボス、おれ、なんだか身体が……」
辛うじて声を絞り出せば、津詰は驚いたように襟尾のもとへ駆け寄る。
「くそッ、しくじったな……やっぱりエリオを連れてくるんじゃ無かったッ……何かすげぇのがいるな、ここには……とにかくコイツを外に出さねぇと……」
そこから先はハッキリと覚えていない。
動けなくなりその場で倒れ伏す襟尾の身体を抱きかかえた津詰が懸命に走り外に出てくれたというのは何とはなしに覚えているのだがきっとその後意識を失ってしまったんだろう。
津詰を手伝うために付いてきたはずなのに、逆に足手まといになってしまった。
それどころか津詰に抱えられ助けてもらったのだ。そう考えると情けない気持ちと恥ずかしい気持ちが同時に襟尾を襲ってくる。
「……すいません、ボス。俺、情けないですよね。ボスを手伝うつもりだったのにかえって助けられるなんて」
襟尾は両手で包むよう缶コーヒーをもつと俯いて呟く。
尊敬する津詰の前ではいつでも頼れる部下として頑張ってきていたし、津詰にとって一番信頼できる相棒として働きたいと思っていた。それだというのに憧れの津詰を前に倒れて助けられるなんて恥ずかしい姿を見せてしまったのだからとても顔向け出来ない。
どう謝っていいのかすらわからずつい無言になる襟尾の頭を津詰は優しく撫でてやった。
「心配すんな、こっちこそオマエを巻き込んじまって悪かったな」
「そんな、俺は好きでついてきたんですから……」
「だったらしょぼくれた顔すんじゃねぇよ、オマエ、そういうキャラじゃ無ェだろ。それ飲んで元気だして、明日からまた俺のエリオでいてくれよ。オマエの空回りした元気がねぇと拍子抜けだからな」
「か、空回りしてませんよ。俺とボスで相性バッチリ、200倍の回転してるじゃないですか」
「そうそう、そーいうのだ……ほら、明日からまたよろしく頼むぜ」
津詰の笑顔を前に、襟尾の表情は自然と和らいでいく。
津詰の前では出来る部下でいなければと肩肘張っていたところがあったが、津詰はヘマをした自分もきちんとフォローしてくれる優しい上司なのだ。
改めてそれぞ実感しながら、襟尾はますます津詰にとって一番近くにいる部下であり続けるよう心に誓う。
これほど尊敬できて寛容である偉大な刑事には二度と巡り会うことができない、そんな気がしていたからだ。
そんな襟尾に聞こえぬよう、津詰は小さく呟いた。
「とにかく、コイツは報告しねぇとな。俺はこの手の耐性が強いから見過ごしがちだが襟尾みてぇな奴がおかしくなるなら一般人が近づいていい場所じゃねぇだろ……襟尾の奴もちゃんと見せてやらねぇとな。まったく、いつも余計な仕事押しつけてきやがる、あいつらは……」
呟きはすべて闇に消える。
車内からはすでに廃校の姿など影も形も見えなくなっていた。
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