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インターネット字書きマンの落書き帳

   
興家くんと利飛太がBARで酒をのむ話
興家彰吾と櫂利飛太が出る話をします。(挨拶)
イメージ的には、真EDの後に互い顔見知りになって時々会うようになった興家と利飛太がたまには会って酒でも飲むくらいの関係になっている世界での話です。

会っても和気藹々といった案配では一切ないんですけど、バグではなく仕様です。
(仕様なら仕方ないね)

本当は軽い落書きをしよう。
ちょっと大人だけど湿っぽい気持ちを引きずってしまう利飛太と生き方があまりにもドライすぎる興家が一緒にお酒を飲む話だ~って気持ちで書いたんですけど思いのほか長くなったんでこっちの方に置いておく事にしました。

今まで密かに細々と書いている長めの話と全然関係ない奴ですがなんか読んでお酒でも飲みたい気分になってください。

作中に出るモスコミュールはモスコー(モスクワ)+ミュール(ラバ)のこと……って言われてるみたいですね。モスコミュールはモスクワの酒、ウォッカがベースなのでモスコー・ミュール(モスコミュール)、ケンタッキーミュールはバーボン・ウイスキーがベースなのでをケンタッキー+ミュール……つまるところ、ベースが違うけど同じようにジンジャーエールを使ったカクテルになります。

俺はウォッカベースかジンベースが好きなので、モスコミュールかジン・ミュール派ってことですね。

うしし……カクテルっていうとアレコレ難しい気がしちゃうけど雑に言えば焼酎割り。
色々なベースで楽しいお酒も飲みたいところです。



『同じように荷を背負う』

 静かな曲が流れる街角のBARで櫂利飛太は一人待ちぼうけを食っていた。
 時間が開いてたらたまには一緒に飲みに行きましょう。
 興家彰吾にそう言われた時は社交辞令で誘っただけだろうと思い適当に返事をしたのだがまさか本当に飲みに誘われるとは思っていなかったので、具体的な場所や日時を告げられた時は驚きが勝ったのは覚えている。

 社交辞令とはいえOKしていたお誘いを断るのは気が引けたし、開店休業が通常営業なのが櫂の事務所だったから時間だけはたっぷりある。断る理由もなかったし興家という人間にも多少の興味を抱いていたので応じる事にしたのだが、肝心の興家がBARに現れないままむなしく時間が過ぎていた。

「まったく、誘っておいて遅刻をするとは随分と大物だよ」

 櫂が頬杖をつきながら呆れたように呟けば、目の前に置かれたケンタッキーミュールのグラスへと手を伸ばす。その時、BARの扉が開いたことを知らせるドアベルの軽やかな音が小さな店内へと静かに響いた。
 誘われるよう視線を向ければ、背広姿をした興家がフロアの様子を窺っている。会社帰りだったのか薄手のビジネス鞄を脇に抱えている姿は普段より若干大人らしく見えた。これは、普段着の興家が実際の年齢より若く見えるというのも多少はあっただろう。
 興家は櫂の姿を見つけなり愛嬌たっぷりの笑みを浮かべると軽く声をあげ片手をあげて見せる。その所作からは自分が随分と待ち合わせ時刻から遅れているのを詫びるような姿は微塵も見えなかった。

「挨拶のまえにする事があるんじゃないのかい、ミスター興家」

 待たされたのだから多少は文句を言っても良いだろうと思い少しばかり棘のある口調で窘めるが興家はどこ吹く風といった様子でだらしなく笑うと頭を掻いて見せた。

「そうだなぁ、バーに入ったんだからまず注文しないとマスターに悪いよね。マスター、モスコミュールおねがい」

 そして特に悪びれる様子もないままカウンター席に座る利飛太の隣へまるでそこが当然自分の居場所だとでも言うように座る。
 いかにも大人しそうで人畜無害といった顔立ちをしているのに、何と不貞不貞しいのだろう。呆れながらグラスを傾ける利飛太は何となく警察官時代の同期である襟尾純のことを思い出していた。

 襟尾もまた興家のよういかにも大人しそうな可愛いくらいの見た目をしていおり一見すると無害かつ真面目な青年なのだが少し世間知らずだったのかそれとも若干浅慮すぎるきらいがあったのか、警察学校時代には時々危うい行動をして大事を起こしそうになっていたものだから同期である利飛太や吉見肇がよくフォローに回っていたのだ。放っておけば何をするか予測のつかないという点だけ見れば興家もかなり似たようなタイプと言えただろう。

 最も襟尾の行動は時に大胆で大雑把すぎるため一歩間違えばトラブルになりそうな所は確かにあったが彼の場合は法に則っての行動であり起因はおおむね強い正義感からであるのだが、興家の行動動悸は全く違う。正義とも悪とも言えぬ己の大義にだけ従順で法の支配や命の尊さといった倫理や道徳などいとも容易く飛び越えてしまえるのが興家という男だったからだ。
 その点だけ見ても襟尾と比べればはるかにタチの悪い人物であり御しがたい人物とも言えるのだろう。
 興家彰吾には常識など通用しないのだ。

「注文より先に、遅刻をした謝罪がほしかったものだけどね。今日僕を誘ったのはキミのほうじゃなかったかな」

 ため息交じりに告げれば、興家は相変わらずしまりのない笑顔のまま差し出されたおしぼりで手を拭く。

「いやぁ、それはごめんって。定時ギリギリになって仕事を挟まれちゃってさ、急に必要だからって断れなかったんだよなぁ」
「それだったら連絡くらいくれてもいいだろう、おかげで僕は随分待ちぼうけを食ってしまったよ」
「一応は連絡しようと思ったんだって、でもあんたの事務所に電話したらもう誰もでなくってさ。BARに電話するより仕事を片付けた方が早いかなーって思ったんだけど、結局そっちのほうが遅くなっちゃったかな。ほら、いい男は遅れてくるって言うし許してやってよ」

 冗談のつもりか、興家は笑いながら早くもグラスを空け二杯目のモスコミュールを注文している。まるでジュースでも飲むような勢いだが普段からこんなペースでカクテルをあおっているのだろうか。
 驚く櫂を前にしてもBARのマスターは表情を変えず手際よくウォッカを取り出すとすっかり慣れた様子で新たなカクテルを作り始めた。

「そうだなぁ、じゃ、遅れてきたお詫びに櫂さんに一つ何かサービス券でもあげようか。人一人呪い殺してあげる券とか」

 興家はマスターが見せる鮮やかな手際を目で追いながら、あっけらかんとした様子でそんな事を言う。 呪い殺すなんて普通は冗談だろうと笑い飛ばせるものなのだが、生憎と興家は普通の青年ではなく実際に人を呪い殺せる程の力量をもつ呪術師であった。もし櫂がが気まぐれに「じゃぁ今からマスターを殺してくれ」なんて言ったのなら躊躇いなく殺して見せそうな勢いを感じ櫂は表情を引きつらせた。

「冗談でもぞっとしないねぇ、僕は殺したい相手なんていないしキミにも人殺しになって欲しいと思ってはいないよ」

 櫂は興家の軽口など一切気に留めないといった素振りでグラスを傾けるが、内心穏やかではなかった。興家ならとっくに人殺しくらいしているのだろうと思っていたし、きっとこれからも必要とあらば躊躇わず殺して見せるのだろうと薄々感じていたからだ。
 初めて出会った時から彼の言動はすでに常識と呼ばれる感情や倫理が欠落しているところが随分とみられていた。元々そのような性格だったのか呪術者としての覚醒からそのような気質へ変貌したのか判別はつかなかったが、危険な人物であるのは変わりないだろう。

「あ、そう。遠慮しなくていいのに……」

 口を尖らせて不満そうに語る姿は人なつっこい普通の青年にしか見えないが、だからこそ不気味で恐ろしい。

「遠慮じゃなくて本心だよ、見知った顔を殺人犯にさせたく無いと思うのは当然のことだろう? まったく、キミは大人しい顔をして恐ろしいことを言うからこっちが冷や冷やするよ」

 思わず苦笑する櫂の姿を興家は不意に真剣な表情を見せる。その顔からはさっきまで見せていたしまりのない笑みはすっかりと消え失せていた。

「そういう櫂さんは見た目と違ってすごく真面目だよね、真面目すぎるくらいだ。まるで自分の愚直さを姿形で誤魔化してるみたいだなぁ」

 櫂は自然と目を細め興家ではなくグラスを見た。
 彼の服装は完全に彼自身の趣味であり好きだから着ているだけではあるのだが、胸元がはだけるような白い服や長すぎるほどの髪が目立つというのは彼自身もよくわかっていた。
 探偵という仕事なのだから目立つことはそれだけ不利なのだが世間と違う傾いた服を着ることで自分自身が社会の理念や常識から外れた存在であることを誇示したいという気持ちも少なからずあることにも気付いている。
 だが、社会から外れた人間というのは外れているからこそ己を強く律する力を持たなければいけないと櫂は思っており常にそれを実践してきていた。元より正義を行使できる立場ではないのだから、まっとうな倫理観や世間の感情に寄り添っていなければ簡単に闇へと転がり落ちてしまうというのをよく心得ていたからだ。

「あんたはさ、いかにも大胆で野心的な切れ者って感じだし実際その通りだとは思うけど、内実は繊細で臆病だよねぇ。他人の気持ちによく寄り添って、依頼人には献身的でさ。でもそういう風にして背負いすぎるのは、正直どうかと思うよ。ほら、人間ってさ、確かに一人じゃ生きてはいけないから不足分は支え合っていくのが美徳だろうけど、必要以上に踏み込んで抱えてしまうのは甘やかしだよ。あんたは才能あるから不必要に色々抱えて甘やかして、一人で立てる相手を立たせないでいるような真似、しちゃってるんじゃないの」

 興家はさらに饒舌となって畳みかけるのは酒のせいで多少気が大きくなっているからか、それとも元々このように辛辣な性格なのだろうか。説教臭いくらいの言葉だが、櫂にとっては痛い所が含まれているのもまた事実であった。
 櫂は自然と口元へ手をあて黙ってしばし思案する。
 彼が警察官を辞め探偵を始めたのは警察のような公的機関のお役所仕事気質がはびこるシステムのなかでは救いきれない人がいると思ったからだ。大きな組織になると内部の派閥や保守的な考えが広がってしまうのも気質にはあわなかった。
 法での正義では零れてしまう被害者の報われぬ思いがあるのなら、せめて自分だけでも誰かの心に向き合って寄り添い、苦しみや無念を共に抱く事が出来るのではないか。自分が出会った人間だけでも暗く沈んだ運命から引き上げる事が出来ればもっと自分の使命に誇りがもてるのではないか等、そんな希望を抱いたからだ。
 だが実際、自分のしている事はどうなのだろう。依頼人に極端な肩入れは避けているつもりだが、興家の言う通り誰かが立ち上がる力を奪っていることもあるかもしれなければ、自分の明かした真実が相手の心を完全に折ってしまうような事も時にはあるのかもしれない。

「あぁ、でも櫂さんは聡いからなぁ。当然、他人の心を救ってあげるなんて自分勝手なエゴで傲慢なことだってのはわかっているよねぇ。傲慢、七つの大罪では最も力のある悪魔の一柱とされるルシファーの罪だ。おれなんかよりずぅっと常識人の櫂さんが、傲慢がいかに罪深いかを理解していてその罪に溺れるなんてことはないか」

 興家は軽口を叩くような素振りで言うが、櫂の心は静かに乱されていた。
 興家の言う通り、誰かに寄り添うといいつつ結局救われたいと思っているのは自分自身だったということくらいは櫂自身も理解しているのだ。
 警察官として犯罪を目の当たりにしたとき、理不尽な暴力で他人の人生を奪って破壊していく行為を目の当たりにしながら事務的にしか処理できない事が櫂はただ辛かった。
 もっと時間をかけてゆっくりと被害者の心に向き合いたいと思っているのにそんな希望などお構いなしに次から次へと事件はおこり、全ての人に全力で向き合うことなど到底出来やしなかった。
 それどころか、時には被害者の思いを踏みにじるような聞き込みをしなければならない事すらあるのだ。必要だったとはいえ相手の傷を抉るような質問をしなければいけない状況に吐き気を覚えたのは一度や二度ではない。
 警察では出来ない事をするために探偵を始めたのだとよく襟尾には言っているが、警察が正義を振りかざす姿勢に耐えきれなかったのもまた事実だったからだ。

「いやはや、キミは手厳しいな……」

 考えた末に櫂はやっとの思いで一言だけ絞り出すとグラスを傾けるが、さっき飲んだ一口が最後だったようですでに氷が溶けた水しか残っておらず僅かに唇を湿らすだけであった。

「そうかな、おれが手厳しいんじゃなく櫂さんの友達が優しすぎるから気付いていないだけだと思うけど。あぁ、あるいは櫂さんが気丈に振る舞って弱みなんてないって顔しているから、みんな表向きのその表情で安心しちゃうのかもしれないなぁ……でもそれ、人徳ってやつだよね。櫂さんって優しいから、自然と優しい人が集まってくるってやつだ」

 バーのマスターは興家の前に新たなグラスを差し出す。気付いたら三杯目になっていたのかと思ったが、興家はそのグラスを櫂の方へと向けた。
 ケンタッキーミュールは今しがたまで櫂が飲んでいたカクテルである。こちらがそろそろ飲み終わるのに気付いて注文していたのだろう。

「あぁ、ありがとう。思ったより気が利くところもあるんだね」
「思ったより、ってのが気になるけど褒め言葉として受け取っておくよ。遅刻したお詫びも受け取ってもらってないから、それはおれのオゴリってことで」

 ちょうど飲み足りないと思っていたところだし、おごると言って受け取らないのは流石の興家でも困るだろう。櫂は例を言うとケンタッキーミュールのグラスを受け取った。

「うーん、でもそうだなぁ。やっぱり、櫂さんは優しすぎるかもしれないなァ」
「そうかな、自分ではそうは思わないんだけどな」
「多分相手に同情しすぎるというか、思いをくみ取りすぎるところがあるんじゃないかな。そういうのは、他人の思いを背負いやすい……そうして、他人の思いを背負う人間ってのはさ……好きなんだよね、幽霊っていわれる奴とか」

 と、そこで興家は櫂の首筋へ手を伸ばす。何をするのかと視線をやれば、一瞬黒い糸のようなものを櫂の身体から引き抜くような仕草をした。黒い糸のようなものは僅かに見えた気がしたが興家の手は実際に何も掴んではいない。
 何だろうと思ったが、幾分か心が軽くなったような気がする。随分暗く見えていたBARの灯りはグラスに反射し輝いて見えた。

「幽霊はさみしがり屋だし悪霊は優しい心につけ込む……ついでにちょっと面食いで、美男美女が好きなんだ。どうせついて行くなら顔がいい方が好き、みたいな所があるんだよね。それ考えると、櫂さんって好かれやすいタイプの究極系じゃないか。優しくて、顔がいい」
「何を言ってるんだよキミは……いま、僕に何かしたんだな」
「視線にチラチラはいって気になったからね。櫂さんその性格だからそろそろ色々溜まってるんじゃないかなぁと思って、ちょっと抜いてあげたってわけ」
「言い方、弁えてくれないかなキミ……」

 デリカシーの欠片もない興家の物言いには辟易するが、心も体も幾分か楽になったのは事実だ。取り憑いていた悪霊を追い払ったのか等とは聞くのも馬鹿馬鹿しいが恐らくは櫂の想像するような除霊に近い事をしたのだろう。

「それでも僕を気にかけてくれたなら感謝しようかな。ありがとう」
「いーえ……さっき、櫂さんおれに言っただろ。おれのこと、殺人犯にしたくはないってっさ。おれも櫂さんを怨霊やら呪いやら生き霊やら、そういった奴らに好きにはされたくないんだよね。顔見知りがそういうのに好き勝手されるのは、やっぱり腹が立つからさ」

 興家はそう言い、無邪気に笑って見せる。
 彼の世界はすでに常識の範囲には存在しないのだろうが、彼がいる世界にも許しがたいほど怒りを覚える相手というのがいるのだろう。
 櫂からすると興家はひどく危うい存在に思えるが、興家からすると櫂の方が危うい存在に思えているのだろう。お互いそれを気にかけて顔を見にくるのだから、表情ひとつ変えず何も気にしてない風にして実はお互いを気にかけていたのかもしれない。
 気質も違えば見える世界も違うが、譲れない信念や怒りを覚える存在はある。その部分では彼らは似ていたのだ。

「それじゃぁ、せっかく誘ってくれたんだから飲み直そうか」
「そうだね、じゃ改めて乾杯しようかな」

 興家は三杯目のモスコミュールを、櫂は興家おごりのケンタッキーミュールを手にとるとグラスを当て乾杯をする。
 BARには温かな灯りと静かな音楽が流れ、夜はゆっくりと更けていくのだった。

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東吾
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インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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