インターネット字書きマンの落書き帳
興家彰吾と逆崎約子が出る話です(パラノマ存在しない後日談)
パラノマサイトの二次創作を延々と書き続けているものです。(挨拶)
真EDの後の存在しない後日談を壁に向かって話し続けているので、ネタバレがあるけどよろしくね!
真EDの後にですね。
蘇りの秘術に何かしら関わった人や、運命を絡め取られそうになっている人を闇へと落とさないため暗躍する興家彰吾という概念を書いています。
今回は、白石美智代と志岐間修一の接点を知り二人の思いを何とかしたい。
内心そう思い白石美智代の事故現場へと向かったら逆崎約子がいたよ~みたいな話ですよ。
こうして、興家彰吾が少しずつ事件のカタをつけていく……みたいな話をゆるゆると書く事で、いずれイベントが来た時に同人誌を出そうって寸法さ。
へっへっへ……頭いいだろ……。
実際に俺の頭がいいか悪いかあんぽんたんかはさておいて、楽しく書いたので皆さんも楽しく読んでください!
真EDの後の存在しない後日談を壁に向かって話し続けているので、ネタバレがあるけどよろしくね!
真EDの後にですね。
蘇りの秘術に何かしら関わった人や、運命を絡め取られそうになっている人を闇へと落とさないため暗躍する興家彰吾という概念を書いています。
今回は、白石美智代と志岐間修一の接点を知り二人の思いを何とかしたい。
内心そう思い白石美智代の事故現場へと向かったら逆崎約子がいたよ~みたいな話ですよ。
こうして、興家彰吾が少しずつ事件のカタをつけていく……みたいな話をゆるゆると書く事で、いずれイベントが来た時に同人誌を出そうって寸法さ。
へっへっへ……頭いいだろ……。
実際に俺の頭がいいか悪いかあんぽんたんかはさておいて、楽しく書いたので皆さんも楽しく読んでください!
『罪と罰の騎士』
逆崎約子が学校を出る頃、日はゆっくりと傾き初めていた。
駆け抜けるのは普段の通学路とは違う道であり、白石美智代の事故現場である。
その日、彼女が白石美智代の元へ訪れようと思ったのは全てが終わったというのを改めて自分にいい気返るためであり、事件に対するけじめのような気持ちが多分に占めていた。
白石美智代が自殺した。そんな噂が広がった時、彼女の自殺を頑なに信じなかった約子はクラスメイトの黒鈴ミヲとともに独自の調査を始めていた。
時を同じくして探偵・櫂利飛太が一年前におこった誘拐事件について調べ始めたのは因果というものだったろう。
櫂利飛太は白石美智代が秘めていた罪と秘密を明らかにし、それは約子を深く傷つけた。
暴力で支配された平穏とは程遠い日々。
恐怖に縛られ思考も感情も摩耗したまま、誘拐へと加担する事になった深い罪の意識。
そして、無慈悲に殺されていった少年の姿。
無惨に引き裂かれ奪われた命を前に苦悩を深める最中、囁かれたのは救いの言葉ではなく「全てを知っているのだから、身体を差し出せ」という下卑た大人の欲求であった。
親友であるというのに。いや、親友だからこそ約子には言えないまま彼女は全てを抱えて生きていた。生き続けようとしていたのだ。
理不尽な死が訪れるその日まで。
白石美智代を事故死させた、というのはまだ大学生の青年だったという。
すでに出頭しており、大人しく取り調べを受けているそうだ。
彼女を恫喝と暴力とで脅し、無理矢理に誘拐へと加担させた岩井官吉郎はすでに逮捕された。
20年前に世間を震撼させた犯罪者・根島史周への信望ばかり口にして悪びれた様子もないとは話に聞いているが、一つの考えに取り憑かれ他者を慮る事すらできず罪すら認めるほどの心もないような姿にはもはや哀れみさえ抱いていた。
それに連なるよう、白石美智代を脅しその身体を思うがまま貪っていた教師である城之内耕兵も事情聴取を受けているという。
当人は罪を認めてはいないが、学校内に似たような被害を訴える女子生徒がいた事実からも今後教師を続けていくのは難しいだろう。少なくとも駒形高校に戻ってくることはないはずだ。
城之内という教師はプライドが高く他人を見下すような素振りがあるのを約子は以前から感じていたから、周囲から「先生」「先生」と崇められる職業と社会的な信用を失うというのはプライドの高い彼にとって全てを失うのに近いことだ。きっと、充分な制裁になることだろう。
病床にあった彼女の母も全てが明らかになりようやく重荷が溶けたのか、少しずつ回復してきているという。
失ったものは大きいだろうが、いつかまた歩き出せるといいのだが。
白石美智代をがんじがらめに縛り付け身動きも出来ぬまま一切の思考を放棄させるほどの絶望は、全て消え失せたのだ。
「色々あったけど……これでもう、終わりだよね。美智代……」
約子は自然と胸に手をあて俯く。
心は疼くような痛みがまだ広がっていた。
逆崎約子は数日ほど前から白石美智子の霊にとりつかれていたらしい。
らしい、というのはクラスメイトの霊感少女・黒鈴ミヲに言われるまで実感がなかったということもあれば、実際に除霊のような事をされてもまだどこか白石美智子がそばにいるような感覚が抜けきっていなかったからだろう。
ミヲ曰く、約子が美智代を失ったショックと彼女が自殺などするはずがないという思いと、美智代もまた自殺などではなく事故死であったという訴えが同調したことや約子が元々霊感が高くあちらの世界と共鳴しやすい体質だった事から自然と魂が結びついてしまったのだろう、ということである。
事件が解決に近づくにつれ、事故の記憶を思い出した白石美智代は自分の死を自覚し約子の身体から出て無事に成仏した。
『約子ちゃん、私のこと忘れないでね。ずっとずっと、覚えていてね』
消え去る前に優しく笑い、静かに願う白石美智代の姿は存在していないのに今でもはっきりと約子の脳裏に焼き付いている。
そう、全ては終わったのだ。
白石美智代を縛っていたものは無くなり、彼女の辛さや痛みは約子が引き継いで生きていく。
誓いとけじめのため、約子はすべてが始まった場所へ……白石美智代が事故死した現場へ急いでいた。
今となっては事故現場だが、約子たちが奔走するまではずっと自殺した現場だった場所だ。
白石美智代の自殺が事故であったという事実が明らかになり約子の願いは叶ったといえたがそれにより負った傷も少なくはない。
だが、白石美智代は全てを背負い生きていこうとしていたのだ。親友である自分が彼女の知らぬ一面を知って泣き言を零したりするのはお門違いだ。例え死んでも彼女はずっと約子の親友なのだから。
事故現場はすっかり元通りになっていた。
最初に数日は花やお菓子などが供えられていたが、近所の住人からするとカラスの集まるゴミになるという事で学校より献花禁止のお達しが出たのだ。
だから今は何も供えるものもなく、白石美智代がそこで死んだという事すら誰にも言われなければ気付かれないだろう。
その場所で、約子は見知らぬ男が立っているのに気付いた。
年の頃なら20代は半ばといった頃合いだろう。決して長身ではない、どちらかというと脆弱そうに見える柔和そうな青年だ。
彼は白石美智代の事故現場に手をあわすと黙祷をしている。
その姿が不思議と、クラスメイトである黒鈴ミヲが笑いながら「うん、ダイジョブ」と告げる姿に似ていて約子は親近感のようなものを抱いていた。
「あの、ひょっとして白石美智代の知り合いですか」
約子が彼に声をかけたのは、彼からそんな親しみやすさを感じたからだろう。
青年は約子が声をかけた事でようやく彼女に気付いた様子で顔をあげると、穏やかに笑って見せた。
「うん、そんな所かな。正確にいうと、僕の知ってる男の子がお世話になった人なんだ。彼女は、最後まで優しくしてくれたって言うからお礼を言いにね」
「へぇ……美智代が男の子の世話なんかしてたんですね……」
「あぁ、その子にとってどんなに怖い思いをしても美智代お姉さん……白石美智代さんが優しく、自分を守ろうとしてくれていた事が本当に救いだったんだよ。彼女を守れなかった事が、本当に悔しくて悲しかったんだ。自分は男なのに、助けてあげられなかったって……」
そんな、私だって助けてあげられなかった。
何もすることができなかったのに。
ふと、約子の記憶にない風景が彼女の脳裏によぎる。
雨戸もカーテンも閉ざされたかび臭い部屋にうずたかく積まれた不気味な本、床一面に広げられた禍々しい魔方陣。その中でふるえる少年を抱きしめ、何度も謝る自分の姿……。
約子はすぐにそれが自分の記憶ではないのを悟った。
きっとこれは、白石美智代の記憶だろう。 青年の語った言葉が、約子の中にかつて存在し今は存在していない白石美智代の記憶を引き出したのだ。
「そ、そんな。あたし、何も出来なかったじゃないか……見ているだけで、その子を死なせちまったのはあたしだろう? ……それなのに、その子はそんなことを……そんな事を言ってるのかい? あたしを、許してくれるとかじゃなく……助けたかっただなんて……」
無意識に言葉が漏れ、自然と涙が流れる。
その姿を前に、青年は黙ってハンカチを差し出した。
「やっぱりそうか、キミは……白石美智代さんが少しだけ混じっているんだね」
唐突に言われ、約子は驚いて顔を上げる。確かに青年の言う通りだったからだ。
だがそれは霊感少女の黒鈴ミヲから聞いた事で憑かれていたという当人の約子は実感が薄かったし、今でも本当に白石美智代が自分に取り憑いていたのか疑う事があったくらいだ。
それだというのに、この青年は自分に白石美智代が憑いていたことを知っているというおんだろうか。
それに、約子の脳裏によぎったあの少年は誰だろう。
青年の言葉で見えた世界は約子の見て来た風景ではない。いったい彼は何を知っているのだろうか。
驚きと戸惑いでつい、青年を睨み付けると青年は苦笑いしながら大げさに首を振ってみせた。
「いやいや、おれは怪しいモノじゃないよ。といっても無理はあるだろうけど……えーと、ここに残っていた白石美智代のニオイといまのキミがもっているニオイがよく似ていたからそう思った……そう言えば信じてくれるかな? 人間の魂はそれぞれ個性があって、成仏すると大体があの世、って場所に行くんだけどさ。それでも全部がそっちに行くんじゃなくて、少しの欠片が残っていくことがあるんだけど……キミに残った欠片は随分大きかったから、それだけ大きい欠片が残っている人は、たぶん彼女の縁者か、彼女が取り憑いた経験があるんじゃないかって思ったんだよ」
男が饒舌に語る言葉はいかにもオカルトマニアが好きそうな話でありほとんど作り話のように聞こえた。 実際に約子も友人にミヲがいなければ、こんなオカルトマニアなんか相手にしなかっただろう。
だが男は確かに白石美智代を知っているようだったし約子の脳裏に浮かんだ少年のことも気になる。
「あんた、すっごい胡散臭い人だね」
「はは……やっぱりそう思う? 自分でももう少しリアリティのある話し方をしたほうがいいだろうな、と思うんだけどこういう話説明が難しくてさ」
「でも……あたし、その男の子のこと知ってる。あたしじゃなくて、美智代が知っていたのかもしれないけど……美智代は、その子にものすごく悪い事をしたって、そう思っているんだ」
「うん。そうか……そうかもね、その子も……もう死んでいるから……」
青年はそう言うと静かに目を閉じる。
約子はその言葉で、彼の知る少年こそ白石美智代が誘拐し、そして殺されてしまった志岐間修一という少年のことなのだろうと何とはなしに察した。
「えぇと、もしよかったらなんだけど……キミの知る、少年のことをもっとおれに教えてくれないかな。いまのおれには、彼の記憶が必要なんだ」
約子が見る限り、青年と志岐間修一は知り合いや縁者のように思えなかった。
志岐間修一の年齢を考えれば当然親子ではないだろうが、年の離れた兄弟か親戚関係といった様子もうかがえないからだ。
それに、彼はきっと黒鈴ミヲと同等に霊能力がある人間だ。そうじゃなければ約子を見て「白石美智代が混ざっている」なんて馬鹿馬鹿しい話を持ち出したりもしないだろう。
彼の目的はわからない。 当然、少年の事を聞く意図もだ。
だが、約子の中にかすかに残る白石美智代が必死に叫ぶ声が響いてくる。
『約子ちゃん、私は許されないことをした。あの子に。あの子が苦しんでいるのなら……助けてあげて、協力してあげて、その人に……』
ミヲの話だと白石美智代はすでに成仏したはずだが、こんなに心が軋むとはきっと本当に助けられなかった少年に対して悔いているのだろう。
美智代は、約子の親友だ。彼女が望むならそうしてあげたいと思う。いや、そうするのが当然だろう。
どのような形になっても、約子と美智代はずっと親友同士なのだから。
約子はハンカチで涙を拭うと
「これ、今度洗って返すよ。だから、次に会う時に話せないかな。あなたの事信頼してないって訳でもないけど、か弱い女子高生が一人でってのは危険だろう? それに、連れてきたい人もいるからね」
そう、青年に告げる。
連れてきたい人、というのは当然黒鈴ミヲのことだ。 彼女は強い霊感をもち、簡単な除霊くらいなら成し遂げる力がある。いま目の前にいる青年が本当の霊能力者なのか、それとも何処かから情報を小耳に挟んで近づいた胡散臭い男なのかという判断くらいはつくだろう。
それに、一人だと何か悪い事をされかねないが二人いれば心強い。
「あぁ、いいよ。急に怪しい男が話しかけてきたのに、快く承諾してくれてうれしいなぁ」
「あたしじゃなくて、美智代が話したいみたいだから仕方ないじゃないか。それに、もしあたしに何かしようっていうならとっちめてやるから、覚悟しておいたほうがいいよ」
「おぉ、怖いなぁ。今は女の子も強いからねぇ……でも、おれだって自分があやしい奴だって自覚してるから……行くなら、キミが話しやすい場所にしようかな。おれが指定した場所だと、キミたちも話しづらいだろうしね。さて、どこがいいかな」
「それじゃ、あたしの家がいいかねぇ。駄菓子屋をやってるんだよ……おっと、その前に名前を聞いておかないと。あたし、逆崎約子。あなたは?」
「おれは興家彰吾だよ、よろしく」
青年は静かな笑顔を約子へと向ける。
その笑顔は一瞬、悲しみと冷たさを全て飲み込んだ上での温もりという矛盾する感情全てを約子へ与え、歪さと異質さとで物怖じしない彼女も思わず息をのむ。
彼は、いったい何者なのだろうか。
本当にまだ、人間なのだろうか。
そんな風に思ってしまったのはきっと逆光となる強い西日のせいだろう。顔が陰り表情がよく見えなかったから、そう見えてしまったのだ。
胸騒ぎのようなざわめく心を落ち着けながら、約子は青年の方を見る。
目の前にいる青年は、あいかわらず柔らかに笑うばかりだった。
逆崎約子が学校を出る頃、日はゆっくりと傾き初めていた。
駆け抜けるのは普段の通学路とは違う道であり、白石美智代の事故現場である。
その日、彼女が白石美智代の元へ訪れようと思ったのは全てが終わったというのを改めて自分にいい気返るためであり、事件に対するけじめのような気持ちが多分に占めていた。
白石美智代が自殺した。そんな噂が広がった時、彼女の自殺を頑なに信じなかった約子はクラスメイトの黒鈴ミヲとともに独自の調査を始めていた。
時を同じくして探偵・櫂利飛太が一年前におこった誘拐事件について調べ始めたのは因果というものだったろう。
櫂利飛太は白石美智代が秘めていた罪と秘密を明らかにし、それは約子を深く傷つけた。
暴力で支配された平穏とは程遠い日々。
恐怖に縛られ思考も感情も摩耗したまま、誘拐へと加担する事になった深い罪の意識。
そして、無慈悲に殺されていった少年の姿。
無惨に引き裂かれ奪われた命を前に苦悩を深める最中、囁かれたのは救いの言葉ではなく「全てを知っているのだから、身体を差し出せ」という下卑た大人の欲求であった。
親友であるというのに。いや、親友だからこそ約子には言えないまま彼女は全てを抱えて生きていた。生き続けようとしていたのだ。
理不尽な死が訪れるその日まで。
白石美智代を事故死させた、というのはまだ大学生の青年だったという。
すでに出頭しており、大人しく取り調べを受けているそうだ。
彼女を恫喝と暴力とで脅し、無理矢理に誘拐へと加担させた岩井官吉郎はすでに逮捕された。
20年前に世間を震撼させた犯罪者・根島史周への信望ばかり口にして悪びれた様子もないとは話に聞いているが、一つの考えに取り憑かれ他者を慮る事すらできず罪すら認めるほどの心もないような姿にはもはや哀れみさえ抱いていた。
それに連なるよう、白石美智代を脅しその身体を思うがまま貪っていた教師である城之内耕兵も事情聴取を受けているという。
当人は罪を認めてはいないが、学校内に似たような被害を訴える女子生徒がいた事実からも今後教師を続けていくのは難しいだろう。少なくとも駒形高校に戻ってくることはないはずだ。
城之内という教師はプライドが高く他人を見下すような素振りがあるのを約子は以前から感じていたから、周囲から「先生」「先生」と崇められる職業と社会的な信用を失うというのはプライドの高い彼にとって全てを失うのに近いことだ。きっと、充分な制裁になることだろう。
病床にあった彼女の母も全てが明らかになりようやく重荷が溶けたのか、少しずつ回復してきているという。
失ったものは大きいだろうが、いつかまた歩き出せるといいのだが。
白石美智代をがんじがらめに縛り付け身動きも出来ぬまま一切の思考を放棄させるほどの絶望は、全て消え失せたのだ。
「色々あったけど……これでもう、終わりだよね。美智代……」
約子は自然と胸に手をあて俯く。
心は疼くような痛みがまだ広がっていた。
逆崎約子は数日ほど前から白石美智子の霊にとりつかれていたらしい。
らしい、というのはクラスメイトの霊感少女・黒鈴ミヲに言われるまで実感がなかったということもあれば、実際に除霊のような事をされてもまだどこか白石美智子がそばにいるような感覚が抜けきっていなかったからだろう。
ミヲ曰く、約子が美智代を失ったショックと彼女が自殺などするはずがないという思いと、美智代もまた自殺などではなく事故死であったという訴えが同調したことや約子が元々霊感が高くあちらの世界と共鳴しやすい体質だった事から自然と魂が結びついてしまったのだろう、ということである。
事件が解決に近づくにつれ、事故の記憶を思い出した白石美智代は自分の死を自覚し約子の身体から出て無事に成仏した。
『約子ちゃん、私のこと忘れないでね。ずっとずっと、覚えていてね』
消え去る前に優しく笑い、静かに願う白石美智代の姿は存在していないのに今でもはっきりと約子の脳裏に焼き付いている。
そう、全ては終わったのだ。
白石美智代を縛っていたものは無くなり、彼女の辛さや痛みは約子が引き継いで生きていく。
誓いとけじめのため、約子はすべてが始まった場所へ……白石美智代が事故死した現場へ急いでいた。
今となっては事故現場だが、約子たちが奔走するまではずっと自殺した現場だった場所だ。
白石美智代の自殺が事故であったという事実が明らかになり約子の願いは叶ったといえたがそれにより負った傷も少なくはない。
だが、白石美智代は全てを背負い生きていこうとしていたのだ。親友である自分が彼女の知らぬ一面を知って泣き言を零したりするのはお門違いだ。例え死んでも彼女はずっと約子の親友なのだから。
事故現場はすっかり元通りになっていた。
最初に数日は花やお菓子などが供えられていたが、近所の住人からするとカラスの集まるゴミになるという事で学校より献花禁止のお達しが出たのだ。
だから今は何も供えるものもなく、白石美智代がそこで死んだという事すら誰にも言われなければ気付かれないだろう。
その場所で、約子は見知らぬ男が立っているのに気付いた。
年の頃なら20代は半ばといった頃合いだろう。決して長身ではない、どちらかというと脆弱そうに見える柔和そうな青年だ。
彼は白石美智代の事故現場に手をあわすと黙祷をしている。
その姿が不思議と、クラスメイトである黒鈴ミヲが笑いながら「うん、ダイジョブ」と告げる姿に似ていて約子は親近感のようなものを抱いていた。
「あの、ひょっとして白石美智代の知り合いですか」
約子が彼に声をかけたのは、彼からそんな親しみやすさを感じたからだろう。
青年は約子が声をかけた事でようやく彼女に気付いた様子で顔をあげると、穏やかに笑って見せた。
「うん、そんな所かな。正確にいうと、僕の知ってる男の子がお世話になった人なんだ。彼女は、最後まで優しくしてくれたって言うからお礼を言いにね」
「へぇ……美智代が男の子の世話なんかしてたんですね……」
「あぁ、その子にとってどんなに怖い思いをしても美智代お姉さん……白石美智代さんが優しく、自分を守ろうとしてくれていた事が本当に救いだったんだよ。彼女を守れなかった事が、本当に悔しくて悲しかったんだ。自分は男なのに、助けてあげられなかったって……」
そんな、私だって助けてあげられなかった。
何もすることができなかったのに。
ふと、約子の記憶にない風景が彼女の脳裏によぎる。
雨戸もカーテンも閉ざされたかび臭い部屋にうずたかく積まれた不気味な本、床一面に広げられた禍々しい魔方陣。その中でふるえる少年を抱きしめ、何度も謝る自分の姿……。
約子はすぐにそれが自分の記憶ではないのを悟った。
きっとこれは、白石美智代の記憶だろう。 青年の語った言葉が、約子の中にかつて存在し今は存在していない白石美智代の記憶を引き出したのだ。
「そ、そんな。あたし、何も出来なかったじゃないか……見ているだけで、その子を死なせちまったのはあたしだろう? ……それなのに、その子はそんなことを……そんな事を言ってるのかい? あたしを、許してくれるとかじゃなく……助けたかっただなんて……」
無意識に言葉が漏れ、自然と涙が流れる。
その姿を前に、青年は黙ってハンカチを差し出した。
「やっぱりそうか、キミは……白石美智代さんが少しだけ混じっているんだね」
唐突に言われ、約子は驚いて顔を上げる。確かに青年の言う通りだったからだ。
だがそれは霊感少女の黒鈴ミヲから聞いた事で憑かれていたという当人の約子は実感が薄かったし、今でも本当に白石美智代が自分に取り憑いていたのか疑う事があったくらいだ。
それだというのに、この青年は自分に白石美智代が憑いていたことを知っているというおんだろうか。
それに、約子の脳裏によぎったあの少年は誰だろう。
青年の言葉で見えた世界は約子の見て来た風景ではない。いったい彼は何を知っているのだろうか。
驚きと戸惑いでつい、青年を睨み付けると青年は苦笑いしながら大げさに首を振ってみせた。
「いやいや、おれは怪しいモノじゃないよ。といっても無理はあるだろうけど……えーと、ここに残っていた白石美智代のニオイといまのキミがもっているニオイがよく似ていたからそう思った……そう言えば信じてくれるかな? 人間の魂はそれぞれ個性があって、成仏すると大体があの世、って場所に行くんだけどさ。それでも全部がそっちに行くんじゃなくて、少しの欠片が残っていくことがあるんだけど……キミに残った欠片は随分大きかったから、それだけ大きい欠片が残っている人は、たぶん彼女の縁者か、彼女が取り憑いた経験があるんじゃないかって思ったんだよ」
男が饒舌に語る言葉はいかにもオカルトマニアが好きそうな話でありほとんど作り話のように聞こえた。 実際に約子も友人にミヲがいなければ、こんなオカルトマニアなんか相手にしなかっただろう。
だが男は確かに白石美智代を知っているようだったし約子の脳裏に浮かんだ少年のことも気になる。
「あんた、すっごい胡散臭い人だね」
「はは……やっぱりそう思う? 自分でももう少しリアリティのある話し方をしたほうがいいだろうな、と思うんだけどこういう話説明が難しくてさ」
「でも……あたし、その男の子のこと知ってる。あたしじゃなくて、美智代が知っていたのかもしれないけど……美智代は、その子にものすごく悪い事をしたって、そう思っているんだ」
「うん。そうか……そうかもね、その子も……もう死んでいるから……」
青年はそう言うと静かに目を閉じる。
約子はその言葉で、彼の知る少年こそ白石美智代が誘拐し、そして殺されてしまった志岐間修一という少年のことなのだろうと何とはなしに察した。
「えぇと、もしよかったらなんだけど……キミの知る、少年のことをもっとおれに教えてくれないかな。いまのおれには、彼の記憶が必要なんだ」
約子が見る限り、青年と志岐間修一は知り合いや縁者のように思えなかった。
志岐間修一の年齢を考えれば当然親子ではないだろうが、年の離れた兄弟か親戚関係といった様子もうかがえないからだ。
それに、彼はきっと黒鈴ミヲと同等に霊能力がある人間だ。そうじゃなければ約子を見て「白石美智代が混ざっている」なんて馬鹿馬鹿しい話を持ち出したりもしないだろう。
彼の目的はわからない。 当然、少年の事を聞く意図もだ。
だが、約子の中にかすかに残る白石美智代が必死に叫ぶ声が響いてくる。
『約子ちゃん、私は許されないことをした。あの子に。あの子が苦しんでいるのなら……助けてあげて、協力してあげて、その人に……』
ミヲの話だと白石美智代はすでに成仏したはずだが、こんなに心が軋むとはきっと本当に助けられなかった少年に対して悔いているのだろう。
美智代は、約子の親友だ。彼女が望むならそうしてあげたいと思う。いや、そうするのが当然だろう。
どのような形になっても、約子と美智代はずっと親友同士なのだから。
約子はハンカチで涙を拭うと
「これ、今度洗って返すよ。だから、次に会う時に話せないかな。あなたの事信頼してないって訳でもないけど、か弱い女子高生が一人でってのは危険だろう? それに、連れてきたい人もいるからね」
そう、青年に告げる。
連れてきたい人、というのは当然黒鈴ミヲのことだ。 彼女は強い霊感をもち、簡単な除霊くらいなら成し遂げる力がある。いま目の前にいる青年が本当の霊能力者なのか、それとも何処かから情報を小耳に挟んで近づいた胡散臭い男なのかという判断くらいはつくだろう。
それに、一人だと何か悪い事をされかねないが二人いれば心強い。
「あぁ、いいよ。急に怪しい男が話しかけてきたのに、快く承諾してくれてうれしいなぁ」
「あたしじゃなくて、美智代が話したいみたいだから仕方ないじゃないか。それに、もしあたしに何かしようっていうならとっちめてやるから、覚悟しておいたほうがいいよ」
「おぉ、怖いなぁ。今は女の子も強いからねぇ……でも、おれだって自分があやしい奴だって自覚してるから……行くなら、キミが話しやすい場所にしようかな。おれが指定した場所だと、キミたちも話しづらいだろうしね。さて、どこがいいかな」
「それじゃ、あたしの家がいいかねぇ。駄菓子屋をやってるんだよ……おっと、その前に名前を聞いておかないと。あたし、逆崎約子。あなたは?」
「おれは興家彰吾だよ、よろしく」
青年は静かな笑顔を約子へと向ける。
その笑顔は一瞬、悲しみと冷たさを全て飲み込んだ上での温もりという矛盾する感情全てを約子へ与え、歪さと異質さとで物怖じしない彼女も思わず息をのむ。
彼は、いったい何者なのだろうか。
本当にまだ、人間なのだろうか。
そんな風に思ってしまったのはきっと逆光となる強い西日のせいだろう。顔が陰り表情がよく見えなかったから、そう見えてしまったのだ。
胸騒ぎのようなざわめく心を落ち着けながら、約子は青年の方を見る。
目の前にいる青年は、あいかわらず柔らかに笑うばかりだった。
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