インターネット字書きマンの落書き帳
アルフレくんの大切な箱庭。(ヤマアル)
ヤマムラさんが『自分を看取るまで傍にいてほしい』なんていうから、ヤマムラさんを看取るための部屋に監禁して愛を育むアルフレートくんを連れてきた。
(ルール・オブ・ローズ口調で)
何かこう……。
ここ最近はラブラブしている二人を書いていたんですが、もそっと原典に戻ってこう。
原点回帰していこう!
みたいな気持ちになって後ろ暗い二人を書いてみましたよ。
何故原点回帰するのだ……わからない……わからないが何かが俺をそうさせるのだ……!
(ルール・オブ・ローズ口調で)
何かこう……。
ここ最近はラブラブしている二人を書いていたんですが、もそっと原典に戻ってこう。
原点回帰していこう!
みたいな気持ちになって後ろ暗い二人を書いてみましたよ。
何故原点回帰するのだ……わからない……わからないが何かが俺をそうさせるのだ……!
『アルフレートの箱庭』
一体どれくらい、この部屋にいるのだろう。
陽の光が入る窓もなく乏しいカンテラの光も間もなく消えそうに揺らめく室内で、ヤマムラはただぼんやりとそんな事を考えていた。
腕も足もきつく縛られて身動きがとれない。
時々天井が激しくガタガタ揺れる事から何とはなしにここが何処かの地下室なのは理解していたがそれ以上の事は何もわからなかった。
「お待たせしました、ヤマムラさん」
階段から軋む音がして程なく、大柄な青年の影がヤマムラの前へ現れる。
その手には焼きたてのパンにたっぷりとバターを塗ったものと温かなミルクが乗ったトレイが握られていた。
「アルフレート……アルフレートか……」
「はい、アルフレートです。あなたの愛しい、あなただけのアルフレートですよ」
アルフレートはヤマムラの前に座ると、微笑みながらパンをミルクに浸すと、軟らかくなったパンをさらに自分の口の中で咀嚼してからヤマムラへ口移しでそれを与えた。
噛む必用もなくなったパンを、ヤマムラは静かに飲み下す。
「美味しいですか、ヤマムラさん」
「ん、あぁ……あぁ……甘い、甘くて、とても美味しいよ……」
きつく縛られた腕はすでに感覚を失っている。
あるいは腕はすでに血も通わなくなり、腐り落ちているのかもしれない。
室内には肉の腐る匂いが充満していたが、腐った肉などヤマムラの見える範囲でどこにも存在していなかった。
「少しミルクも飲みますか? 暖かく、甘く作ってきました。お口にあうか分りませんけど……」
「……もらおうか。キミが作ってくれたのなら、何でも美味いさ」
微笑みながら顔を上げるヤマムラの表情を見て、アルフレートもどこか安心したように笑うと再び口移しでミルクを与えた。
ここが何処なのか、ヤマムラは分らない。
ただ身体の自由を縛られてからずっとアルフレートが甲斐甲斐しく傍に付き添ってくれている事と、この部屋にいる時だけ、アルフレートは『血族狩りのアルフレート』ではなくただ一人の人間・アルフレートとしてヤマムラに接してくれているのだけは分った。
何故こんな生活を始めたのか。
その切っ掛けを、ヤマムラももはや曖昧にしか覚えていなかった。
ただ、願ったのは確かだった。
『キミはいずれ俺の元を去っていくのだろう。それは分っているつもりだが……どうか俺の元を去るのを、せめてこの老いぼれが死ぬまでまってくれないか?』
いつ死ぬかも分らないくせに、そんな事を思った。
『俺は、色々なものに置いて逝かれた。見送るばかりの人生っだった。この上、キミまで見送るのはあまりにも……あまりにも辛い、耐えられない。だから……』
『今回は、どうか俺を看取ってはくれないか? ……その方がキミも、何の憂いも無く輝きへ導かれる事が出来るだろう?』
今回は、とはどういう意味だ。
まるで以前も、あるいはこれからもアルフレートと出会い、別れる運命が決まっているかのようではないか。
全て自分勝手な言い方なのは分っていた。だからその願いが届くとも思わなかったし、アルフレートがそれを聞いてくれるとも思っていなかったのだが。
「美味しかったですか、愛しい人」
温かなタオルでヤマムラの口を丁重に拭うアルフレートの瞳は優しく、笑顔もまた穏やかだった。この部屋でアルフレートは何でもヤマムラにしてくれたし、ヤマムラが望むのなら何でも与えてくれた。
食べ物も飲み物も不自由はしなかった。縛られ動け無いヤマムラの下の世話だって嫌がる素振りは見せず、ただ一身に愛を注ぐ。
「あぁ、美味しかった……アル、もっと口づけを……」
強請ればアルフレートはいくらでも口づけを交わしたし、欲しいと思った時はその身体を抱かせてもくれた。
ヤマムラがアルフレートを愛していること。
アルフレートがヤマムラを愛していること。
それらを疑う余地は無かっただろう。
同時に、ヤマムラは分っていた。
自分はそう長くもないのだろうと。
食事をするたび、身体が重くなる。意識も日々遠のいていき、眠っているのか起きているのか自分でも分らなくなる。
自分を看取るまで傍にいてほしいとヤマムラは願った。
アルフレートはその願いを受け入れたが、いつまで生きるかわからないヤマムラを看取るまで傍にいるという事はやはり難しいのだろう。
食事に毒が入っているのは、最初から気付いていた。
だがそれは微毒で、身体の中に少しずつ蓄積していくものだろう。
そうでなければアルフレートがわざわざ口移しで与えるはずはない。
いや、あるいはアルフレートの事だ。
ヤマムラだけに辛い思いをさせたくないと考え、自分も同じ毒を含む事をそれほど苦とはしてないのかもしれないが。
「……アル、抱いていいか?」
アルフレートは頷くと手足が動かないヤマムラにかわり、その身体を慰める。
「愛してる、アル。俺はキミを愛してる……」
「……私もです、ヤマムラさん。ここでは、私の全てがあなたのもの。そして、あなたの全てがわたしのものなんです……」
美しい笑顔は、だからこそ歪に見える。
閉ざされた部屋の中でお互いの温もりを確かめながら、互いに愛を囁き合う。
この部屋は背徳の部屋。
正気の人間が見たらきっと狂った箱庭だと顔を歪めるのだろう。
だが二人にとって世界で唯一、自分の心を偽らずに過ごせるただ一つの箱庭だったのだ。
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