インターネット字書きマンの落書き帳
カレルを刻む男
時々、ヤーナムの街で『こういう仕事をしてた一般人がいたかもしれない』みたいな話を書くのが好きなんですが、今回は『カレルを刻む事を仕事にしている人』を書いてみました。
もうカレルというものが失われて久しいころ。
異国からやってきて、彫り師としての腕を生かす意味でカレルを刻むのを生業にしている男のもとに『カレルを入れて欲しい』と願い出る青年に、男が聞かせた話……。
という風体の短編です。
輝きのカレルを刻む青年なので、イメージとしてアルフレート君がカレルを身体に刻む時にあった男みたいな感じです。
実際、カレルってどんなもんなんだろうね。
不思議の街、ヤーナム。
もうカレルというものが失われて久しいころ。
異国からやってきて、彫り師としての腕を生かす意味でカレルを刻むのを生業にしている男のもとに『カレルを入れて欲しい』と願い出る青年に、男が聞かせた話……。
という風体の短編です。
輝きのカレルを刻む青年なので、イメージとしてアルフレート君がカレルを身体に刻む時にあった男みたいな感じです。
実際、カレルってどんなもんなんだろうね。
不思議の街、ヤーナム。
『廃屋の彫り師と契約のカレル』
カレルを刻みたい?
あぁ、確かに俺はそういう事をやっているよ。
といっても見ての通り、俺はこの街の人間じゃぁない。
刻みたいというカレルの色やデザインはそっちの注文に準じるつもりだがね。
あぁ、俺は別に医療教会やらビルゲンワースといった組織の人間じゃぁない。
大体俺のような異邦人でも好んで迎え入れるような組織は、この街では『連盟』の奴らくらいなものだろう。
何かと秘密が好きな街だ。素性の知れないような奴はその門を叩く事すら許されないのさ。
それに俺自身、組織ってのに属するのに向いてないのはよく理解(わか)ってるつもりだ。
何せこの俺は人間関係にあぶれて故郷を追われた身の上だからねェ。今更どこかに属してまた人間関係で諍いをおこすのはウンザリってワケさ。
……あぁ、別に狩人でもない。
見ての通りの足が不自由でね。ヤーナムにはこの足の治療に来たんだが、痛みはなくなったが相変わらず足は動かないままさ。
だが一度『血の医療』とやらを受け入れると、どうにもこの場所に馴染んでしまうようでね。
痛みがあったかつての生活に戻るより、輸血液を頼って足の痛みを誤魔化しながら生活するほうがマシだと思うようになり、今はこんな街外れの掃きだめみたいな場所で寝泊まりしてるってワケさ。
さて、カレルの話だったな。
先に言った通り、俺は異邦人だ。この街の人間ではない上、カレルという文化は秘匿され、それを知るモノも僅かだ。
そんなンだから、そもそもカレルというものが何であるか知ってる奴はこの街に殆どいないのさ。
脳に瞳を与える行為の代用だとか、同じ志をもつ同士たちを見分けるための目印だとか色々と言われているけど、実際どんなモノなのか、どんな形をしてどの場所に刻むのか。そういった事を知るものはまずいないだろうし、もし居たとしたらそいつはそいつ等自身でカレルを刻んでいるだろうね。
この廃屋は、つてそのカレルを刻んだ工房……とでも呼べばいいのかね。十数年前、いや、ひょっとしたら数十年前かもしれんがここではカレルを刻んでいた痕跡のある廃屋さ。
その時の道具が幾つか残っているから、俺はそれを拝借してここで客の言われるまま望むまま、『カレル』とやらを刻んでいるという話だよ。
もう分っただろうが、俺はただ身体に模様を入れる事が出来るだけの男さ。
故郷では彫り師と呼ばれたりしていたかな……。
俺の故郷では人の肌に刺青という彫物を入れるのが流行っていたんだよ。
美しい顔をした若い男や女の白い肌に、宝石のように煌びやかな模様を入れるのが俺の生業だった。
昇り龍や不動明王なんて故郷で縁起物と呼ばれるような模様や、鳳凰に蝶々といった美しい模様まで色々つくって色々彫っていたんだが、その仕事でちょっとケチがついてね。
故郷を捨てて逃げなければ命がないって状態になっちまって、仕方なく逃げてきたって口さ。
ここでカレルを刻む仕事をするようになったのも、昔取った杵柄って奴だね……。
さ、何を入れるんだ?
望みの色や形を示してくれれば注文通りに仕上げてやろう。
何処にいれるかも好きにしてくれ。本当はどこに入れるものなのか、俺には分らないからな。
アンタは白い肌だから、どんなカレルでも似合うだろうよ。
それとも俺の彫り物を試してみるか? その肌に合う綺麗な模様を背中一面に描いてやってもいいんだぜ。
…………おっと。
あぁ、いや、すまない。
久しぶりに『本物』を見たと、そう思ってな。
先に俺はただの彫り師だと言ったろう?
だが一応はこの工房に残されていたカレルの資料、その断片を調べてはみたんだよ。
過去にどんなカレルを刻んでいたのか……そういった資料があれば仕事がやりやすくなるかと思ってね。
それで、幾つか見た事があるカレルもあるんだよ。
例えばそう『穢れ』のカレルだ。
これはカインハーストの女王から賜るカレルであり、彼女から直々に渡されなければ意味のないカレルだったようなんだがね。
一時期、この街では大々的な『血族狩り』が行われた。血族の力を持つもの殆どは殺され、吊され、血族の伴侶であったりその子であったり、僅かに血を残すだけのモノには『穢れ』のカレルが刻まれた……。
その時は俺のような彫り師の手では到底間に合わないくらい沢山の身体にカレルを刻まなければいけなかったようでね。
簡単に印をつけるために、焼き印を作ったようだ。
これがその『穢れのカレル』の焼き印さ。
……随分と冷めた眼をしてるな。
ともかく、こういった焼き印や残っているカレルについては俺も幾つか知っている。
アンタのもってきたそのカレルも、俺の知ってるカレル……つまり、同じように焼き印が残っているカレルなのさ。
それは『輝き』のカレルだろう?
血族が大量に狩られた話はさっきした通りだが、その中心となったのが『処刑隊』という一団だったらしい。
彼らは一人一人が精鋭で、己たちの結束と、覚悟とをより強固にするためこの輝きのカレルを胸に焼き付けたという。
自分たちが嫌っている『穢れ』のカレルと同じ方法で身体にカレルを焼き付けた連中の気持ちはどうだったか分らないが、輝きのカレルもまた焼き印が残っているカレルなのさ。
つまり、あんたの持ち込んだカレルは紛れもなく過去、この場所で刻まれた本物のカレルというワケだ。
さて、俺はこのカレルを見ながらあんたの肌にそれを刻む事もできる。
だが焼き印という形で、その身体にカレルを焼き付ける事も可能だ。
あんたはどっちの方法を選ぶ?
俺としては、俺がこの手で彫り物をしてやりたいって気持ちが強いがね。
あんたは綺麗な肌をしている、俺は以前彫り物でしくじったといったが、別に彫り間違えたとか失敗し不格好な彫り物を入れたというワケではないんだ。
ただ俺が彫り物を入れた相手がちょっと悪かったってだけで、腕には相当自信があるんだ。
あんたがこのカレルを入れたいってなら綺麗に彫ってやる自信はあるし、ちょっと熱は出るかもしれないが死ぬような痛みや苦しみを与えるような危険な真似は、俺はしない。
焼き印を入れるのは、そこは酷い火傷で爛れる事になる。
輝きのカレルは他のカレルに比べても随分と細かく、複雑な紋様だ。
焼き印が潰れて火傷が膿んだりでもすれば目も当てられない酷い惨状になるだろう。カレルも潰れて見えづらくなるだろうし、膿んだ傷で死ぬ事すらある。
実際、焼き印を入れた後高熱で死ぬ奴も少なからずいたそうだ。
それでもアンタは、過去の処刑隊がしたのと同じように焼き印をその胸に入れるというのか?
……だったら止めやしないさ。
いいだろう、昔ながらのやり方であんたの身体にカレルを刻もう。
当時の処刑隊がやったのと同じ方法。その資料が残ってるんだ。俺は焼き印は門外漢だがそれでもここでカレルを刻むようになってから、何度かやった事はある。
どうやらあんたは身の安全より、より深く『処刑隊』であろうとしたいタイプのようだ。
それならかつての処刑隊と同じ方法で、同じ痛みを味わいたいのだろう。
ははッ、他人から言わせればアンタはバカな奴だろうな。
わざわざ痛くて危険な思いをして、過去の存在に身を重ねようというのだからな。
ンだが、俺はアンタの気持ち、わからんでもない。
……こんな世界で、過去にくらい幻想を抱いてもいいだろう?
それが他人からしたら虚飾に見えたとしても、アンタにとって輝きならそれで別に構わないと俺は思うぜ。
それに……これは俺の悪趣味な所なんだがな。
アンタの肌は白くて美しい。
その白く美しい肌が、赤く焼けた鉄を押され、肉の焼けるいやな匂いを漂わせ、血と爛れによる赤い傷がその陶器のような肌に浮かび上がる様を見てみたいと、そう思ったからな。
さぁ、横になるといい。
昔のままだから荒療治だ、麻酔なんかもしてやらねぇが、あんたはそれでいいんだろう?
かつて栄光があり、輝きに導かれた同胞がしたのと同じようにあんたの胸に刻んでやろう。
輝き満ちたこの清浄なるカレルをな。
PR
COMMENT