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インターネット字書きマンの落書き帳

   
記憶喪失になる受けちゃんの話(手芝・みゆしば)
平和な世界線で恋人同士として付き合ってる手塚×芝浦の話です。
(毎回恒例! 1行で説明する幻覚)

記憶喪失ネタは俺の中でテッパン。
一度はやりたいよね! って話なんですが、以前手塚が記憶喪失になるネタは書いたので、今回はしばじゅんちゃんが記憶を失う話を書きました……よ!

記憶喪失。
やはりいいネタだ。どんどん推しの記憶を奪っていきたいですね!




「頭になくとも、心にある」

 少しぼやけた頭のまま、芝浦は自分の部屋に入る。
 記憶している通り、モノの少ない部屋だった。

 寝室のベッドはまるで一流ホテルのように丁重にベッドメイクされており、勉強机には無駄な文房具は一つだって出ていない。
 本棚に整然と並んでいるのは、芝浦が学んでいる大学に必用な本ばかりがずらりと並んでいる。

 良く言えばきちんと整っている。
 悪く言えば殺風景な部屋だろう。

(半年くらいでそんな大きな変化はないよな……)

 芝浦はそう思い、疼く頭に触れる。
 丁重に巻かれた包帯は、僅かに血が滲んでいるようだった。

 大学の階段から転げ落ちたわりに、傷そのものはたいした事がなかった。
 骨折もせず、少し頭を切っただけなのだから僥倖といったところだろう。
 だが後遺症とでもいうのか、記憶の方が酷く曖昧になってしまった。

 医者の話では、ここ半年程度の記憶がほとんど「無くなっている」のではないかという話だった。

 実際に目覚めた時、芝浦はまだ夏頃だと思っていた季節がすでに冬になっていた事に驚いた。
 授業も思ったより進んではいたが、幸いこの半年の芝浦は真面目に講義には出ていたらしく単位についての心配をしなくても良かったのは幸いだろう。

(だけど、何だろうな。この落ち着かない感じ……物足りないっていうか……この部屋、ここまで殺風景だったっけ?)

 部屋に置かれたテレビを見れば、二台使っていた据え置きゲームが一台しか無くなっている事に気が付く。念のためにゲームラックを確認してみれば、かなりの数あったゲームが減っている。その殆どが対戦型のゲームや複数人で遊べるゲームだったが、芝浦が気に入ってやりこんでいるゲームも幾つか存在した。

(どこかにゲームもって遊びに行ってる? いや、これ多分誰かの家にゲームごと置いて遊んでるな……でも俺、一緒にゲーム遊ぶほど仲良い友達とかいたっけ? 大学ではそういうの面倒だから極力避けてたつもりだけど)

 芝浦はそう思い、自分の携帯電話を手に取る。
 入院は3日程度だったが病院に携帯は持ち込み禁止だと言われずっと触っていなかったものだ。

(大学の友達から連絡くらい入ってるかな……)

 そう思い気軽に見た携帯電話の通知を前に、芝浦は困惑した。
 知らない名前の通知がずらりと並んでいたからだ。

「えっ!? ちょ、だ……誰? 誰だ、手塚って……」

 慌てながも、ふと思う事がありすぐ折り返す事はせず、自分のメールボックスを確認する。
 消されているメールも少なくはなかったが、やはり件の「手塚」という人物とのやりとりが多く、その文面を見れば互いの関係性は明白だった。

「え……えぇ……これ、完全に付き合ってる奴だよね……ってことは、この手塚って奴は俺の恋人……って、この俺が? 特定の誰かと付き合うって? えー……我ながら信じられないんだけど。俺に何があったっての……」

 芝浦は、自分が誰かに好きになるとは到底思えなかった。
 今まで会った相手は腹を割って話せる相手ではなかったし、近づいてくる男の殆どは芝浦の顔と身体、そして財産が目当てだったから最初から相手に対して警戒心ばかりが募ってしまうからだ。
 また、芝浦自身誰かの事を深く知りすぎる事を恐れていた。
 表面上は飽き性に振る舞っているが内実は好奇心旺盛かつ一度のめり込んでしまったら同じ物事にずっと取り組んでいられるような性分だ。
 もし相手にのめり込んでいたらと思うと、自分でもどうなるか分らない。

(とにかく、怪我してこの半年の記憶が曖昧だって事は伝えておかないといけないよね……あと、記憶がいつ戻るか分らないのも……アンタの事誰だかわからないってのも……)

 電話を手に取り、何を話すか考えているうちに携帯電話が鳴った。
 相手は『手塚海之』となっている。この名前は知らない名前だが、メールのやりとりやこれだけ多く連絡をしてくるという事は相手は自分を知っているのだろう。

「……はい、芝浦です」

 芝浦は躊躇いながらも電話に出た。

「俺だ、手塚だ。芝浦、今どこにいる? ……病院に運ばれたという話は城戸から聞いてるんだが、それから連絡もなくて心配していた所なんだが」

 低く、落ち着いた声の男だった。
 顔は思い出せないが、好きな声質だ。落ち着いた声色で囁かれるのは好きだったから、なるほどこの声の男なら自分が惹かれる事もあるだろう。

(いやいや、声だけ聞いてメチャクチャ好みとかある? じゃなくて、とにかく状況伝えないと……相手も心配してるみたいだし)

 芝浦は慌てて携帯電話を握り直すと。

「実は3日ほど入院してて、今日やっと自宅に戻ってきたとこ。なんだけどさ、ちょっと何というか……問題みたいなのがあって……」
「問題? どうした。怪我で動け無いのか?」
「動け無くはないんだけど、ちゃんと会って話した方がいいかもしれないからさ……ちょっと、会ってもらえない? 俺たちの知ってる店とかでいいんだけど……」

 それなら、と手塚と名乗った男は芝浦の大学から歩いて暫くの所にある喫茶店を指定した。
 入った事はないが、何度か見た事のある個人経営の小さな喫茶店だ。

「じゃあ、そこで待ち合わせね。俺、モスグリーンのジャンパー着てくるから、俺の事見つけたら声かけて。よろしく」

 芝浦はそう告げると電話を切り、愛用のジャンパーを羽織ると。

「ちょっと出かけてくるから」

 使用人にそうとだけ告げて、早足で歩き始めた。
 待ち合わせに余裕はある。だが自分の失った半年間にずっと傍にいたと思われる男がどんな顔で、どんな身体をしているのか……。

(この俺が人を好きになる? ……どんな相手だよ。全然想像出来ないんだけど)

 興味と期待を入り混ぜながら目的の喫茶店に入り窓際の席へと腰掛ける。
 昼時を過ぎているからか、客入りは穏やかだった。
 向こうのテーブルにいるのはカップルだろうか。ケーキを食べる少女を男が笑顔で見つめている。奥のテーブルに座るマダム二人は、保険や年金といった金のやりくりが大変だとぼやいているのが聞こえた。
 思ったより声が響く店内なのかもしれない。
 そう思っていた芝浦の肩を後ろから誰かが引き寄せた。

「おい、芝浦。俺はこっちに座ってたんだが、気付かなかったのか?」

 そう話書けてくれたのは、長身で細身の涼しい目をした男だった。
 この顔には見覚えがある。
 芝浦が通う大学の傍にある公園で、時々占いの店を出している男だった。

「あっ、あ……あんたが、手塚?」

 思わずそう、声が出る。
 占いには興味がなかったが、以前から綺麗な顔をしているとは思っていた。一度占いを頼んだ時はどんな声なのか聞いてみたかったからだ。
 そうしたら占いは驚くほどよく当たり、話してみると不思議な雰囲気ながらどこか気持ちが落ち着くのでその後も頻繁に通うようになったのは覚えているのだが……。

(まさか恋人になるとか……えっ? マジで……? 顔も声も身体もメチャクチャ好みの相手なんだけど……)

 そう思うと、気恥ずかしさからつい俯いてしまう。
 きっと今頃顔が真っ赤になっている事だろう。

「あぁ、手塚だ……が、どうした、芝浦。お前……」
「ちょ、ちょっとまって! 今ね、俺も俺自身がどうした!? って感じになってるから……」

 二度、三度と軽く深呼吸したあと、芝浦は改めて手塚の方を向く。

「えーと……俺の恋人の……手塚海之さんでよろしいですかね……」
「何だ今更……そうだが、お前がそれを人前で言うのはまずいんじゃないのか?」
「あ、そう。そうなんだけど……実はさ、俺……」

 それから芝浦は今の状況をかいつまんで伝えた。
 怪我はたいした事がなかった変わりに、ここ半年の記憶がほとんどすっぽり抜けているという事。記憶はいつ戻るかわからない事。突然戻るかもしれないし、ずっと戻らないかもしれない事……。

「半年というと……俺たちが出会って間もない頃だな。という事は……俺の事も覚えてなかったか」

 手塚は少し落胆したように俯いて見せる。
 その憂いのある表情がまた、芝浦の好みにドンピシャだった。

「いや、アンタの事は覚えてたんだ! といっても、占い師さんと客って認識で止ってたから、まさか、その。そういう……恋人、みたいな関係になるとか思ってなかったし」
「そうか、俺の事は……いや、だがその頃お前にとって俺はただの路上で占いをする変わり者だったろう? それなのに覚えてたのか」
「当然。だって俺、アンタの顔が綺麗だからどんな声で喋るのかなーと思って、アンタに占ってもらったんだもん」

 何気なく言った言葉に、手塚は不思議そうに首を傾げて見せた。

「そうだったのか? ……初耳だ」
「えっ? 今の、言ってなかったやつ?」
「少なくとも、俺の知ってる芝浦からは聞いてない。ひょっとしたら顔から好きになったと思われるのが嫌で隠していたのかもな。お前はそういう所がある」

 手塚は涼しい顔のままだが、芝浦は恥ずかしい気持ちがどんどん膨らんでいった。
 今のは本当に隠していた事だったんじゃないだろうか。
 それに目の前にしている手塚の仕草は指先から視線の送り方まで自分の心をかき乱す。顔も声も「好み」だとは思っていたが、仕草までこうも好みと合致してるなんてよくある事なのだろうか。
 それとも、元々恋人だから余計にそう思うのだろうか。

「どうした、芝浦。コーヒーが冷めるぞ」

 こちらが飲み物に手をつけてないのに気付いたのだろう。
 手塚の言葉に、芝浦はただ顔を押さえて俯くばかりだった。

「いや、ちょっと頭の中が全然整理できてない……って感じ……いきなり、前からカッコイイと思ってた男が『お前の恋人です』って現れて、しかも服も靴も完全に俺好みのコーデだし動いたら全部カッコイイしもう何が何だかわからない……キャパオーバーしてる……」
「あぁ、この服はお前が選んだものだからな……お前好みの着こなしになってて当然だろう」
「俺そんな事もしてるの!? えー……もう何? 何……」

 そう言いながら突っ伏してしまう芝浦を見て、手塚は口元を抑えながら微かに笑う。

(あぁ、そうやって笑うんだ……笑った顔もメチャクチャカッコイイ……何? もう……俺なんて男好きになっちゃったの? ……完全に見た目が俺の好みドンピシャなんだけど)

 その姿を見て芝浦はただぼんやりと、そんな事を考えていた。

「ともかく……記憶が戻るきっかけになるか分らないが、俺の部屋に来てみるか?」

 手塚に言われたのは喫茶店を出てすぐの事だった。

「俺の部屋に、お前は随分といろいろなものを持ち込んだからな……それを見ているうちに何か思い出すかもしれないだろう」

 会ってすぐの、まだよく知らない相手の家に行くのは気が引けたのだが。

「バイクで来てるんだ。後ろに座ってくれ」

 慣れたように手渡されたヘルメットを見て、何とはなしに手塚の家に行くのは一度や二度ではないのに気付く。
 それに、自宅で明らかに少なくなっていたゲームや漫画の類いがあるかどうかも確かめておきたかったので、芝浦は素直に彼へついて行く事にした。
 勿論、手塚の住む家というのがどのような場所なのだか少なからず興味もあったのだが。

「ついたぞ……鍵は?」
「鍵? ……ちょっとまって、キーケースに……見慣れない鍵があるけど、ひょっとしてこれ」
「あぁ、それだ。バイクを止めてくるから鍵を開けておいてくれ」

 手塚は当然のようにそう行ったが、合鍵を渡される程の間柄なのだ。

(……本当に恋人なんだな……という事は、キスもセックスもしてる……って事だよな……)

 この半年の間にクリスマスがあったのだ。
 恋人同士なのだから当然、そのような関係になっていても不思議ではないのだがそれを想像するとやけに恥ずかしい気がした。

「鍵、開いたか?」

 後ろからの声に急かされて扉を開ければ、見知らぬ鍵は見知らぬアパートのドアを開く。
 どうやらこの鍵が手塚の部屋の鍵だったようだ。

「あ、開いたよ。上がらせてもらうね」

 薄暗い室内に手を伸ばせばすぐ電気のスイッチが入る。
 自然に動いた自分の手に、芝浦は何となく『記憶がなくとも身体が覚えている経験』というものを思い出していた。
 手塚の事もこの部屋の事も覚えていない。だが身体はスイッチの場所を覚えていた。
 やはり芝浦はこの部屋に来た事があるのだ。

「相変わらず片付いてないが……ソファーにでも座っていてくれ」

 室内はいかにも男所帯で服や帽子などが乱雑に置かれていたが、その中に見覚えのあるものもいくつかあった。

「あ、これ俺の……」

 部屋から無くなっていたと思っていた据え置きのゲーム機と、数種類のゲーム。見ようと思って買ったはいいが積んでいたままだったDVD。食器棚を見れば芝浦が自宅で使っていたマグカップなども置かれていた。
 この様子を見るだけでも『たまに遊びに来る恋人』ではない。週に3日以上は入り浸ってる『半同棲生活』のようなものをしていたようだ。

「どうした?」

 グラスにコーラを入れてそれをテーブルに置きながら、手塚は室内を見渡す芝浦に声をかける。

「えっ? えーっと……俺のもの、随分あるなーって思ってさ。けっこう入り浸ってた感じ?」
「そうだな、週に3日は必ず来ていた……最もお前は家の事もあるから、来ない日は全然来なかったけどな」
「そっかー……それで、その、聞きづらい事なんだけどさ。手塚……あの、俺とアンタって……どこまでしてた……感じ?」

 その質問に手塚は虚を突かれたような顔をしたが、すぐに納得したようになると耳元で静かに囁いた。

「……恋人同士がする事は全部してる。これでいいか?」

 その声も仕草もあまりに魅力的だったから、芝浦はソファーに突っ伏す。

「あー、マジでー。嘘だろ……信じられない……えー……」
「どうした、そんなに意外だったか?」
「意外だった……あっ、でも悪い意味じゃないから! ……そっかー……俺、あんたみたいなタイプを好きになるんだ……いや、自分でも誰かを好きになるとか思ってなかったからさ。何て言うんだろ……不思議な気持ちなんだよね」

 だが、嫌な気持ちはない。
 出かける時は『自分が誰かを好きになるなんて』とやや懐疑的な気持ちが大きかったのだが、手塚に会ってみてすぐに理解した。
 顔も身体も声も全てが芝浦の理想に合致しているし、実際話している時に全く気を遣わない。それだというのに時々見せる仕草にひどくドギマギしてしまうのだ。

 自分は誰かを好きになる事はない。
 そう思っていたのだが、今の自分は間違い無く手塚の事が『好き』だった。

「……そうか。だが、記憶がないのなら無理をして俺を好きになる必用もないぞ」

 そう思っていた芝浦の隣に座ると、手塚は不意に真面目な顔になってそう告げる。

「俺と付き合っていたのは事実だが、それに縛られて無理に俺を愛そうとしなくてもいい。もしお前が他に好きな相手ができたのならそれを優先させてくれて構わないし、今の俺を見て別段好きだと思わないのなら律儀に俺を好きになる必用はないからな」

 口元を抑えて言う手塚の横顔を、芝浦は不思議そうに見つめていた。
 本当に手塚はそう思っているのだろうか。
 半年の空白は確かにあるが、その半年の空白を忘れられても良い程、手塚にとって自分は軽い存在だったのか……。

「いやいやいや、待って。それは無いでしょ? ……だってお前、俺と半年付き合ってたんだよね?」
「あぁ、そうだな」
「その間の俺さ、アンタのせいで不幸な顔してた? ……アンタがいる事で辛い思いとか、アンタに対してキツく当たったりしてた? ……違うよな? 俺、自分が楽しくない相手とは絶対に付き合わないから。半年もアンタと一緒にいて、キスもセックスもしてるんならさ……俺にとってアンタは最高の恋人だったってワケじゃん? それなのに、思い出がなくなったから関係も無かった事にしようって、それは無いでしょ」

 芝浦は手塚の身体に必死に縋り付く。
 離したくないと思ったし、離れたくないとも思っていた。

「思い出ならまた作ればいいじゃん。大体さ、俺今の時点で結構手塚の事好きだし……あんたの事カッコイイって思ってるし、声聞いたら頭がくらくらする程幸せな気持ちになるし。多分、身体が覚えてんだよ……アンタの事好きだっての、記憶がなくてもあんたの愛情、俺の中にもう染みこんじゃって抜けないくらい……それなのに、アンタ軽率に俺の事手放しちゃうワケ?」

 手塚を掴む腕の力が自然と強くなっていた。

「……俺は、嫌だから。心も体もこんなにアンタの事好きなのに。一目見て心臓が高鳴るっての? 『あ、アンタが俺の恋人だったんだ』っての、完全に理解しちゃうくらい好きなんだぜ。別れられるもんか……別れてやるもんかよ。アンタは俺のモノだし、俺はアンタのモノだ。なぁ、そうだろ?」

 恋人としての記憶は確かにない。
 だが心が、身体が離れたくないと望んでいる。必死の訴えを前にし、手塚は深くため息をついた。

「あぁ、そうだな……お前もかなり重い男だってのを忘れてた」
「そうだよ。俺、絶対諦めないし……俺から離れようって、絶対許さないから」
「だが、な……」

 と、そこで手塚は芝浦の身体をソファーへと押し倒す。

「ちょ、て……手塚……さん?」
「……俺はお前より、ずっとずっと重い男だ。ここで俺を手放していたら俺もまた諦めていただろうが、俺から離れないのを望んだのなら……文字通り、俺はお前を手放さないぞ? 記憶がないなら、新しい記憶と思い出を全て俺で染め直す。心も体もまた、俺好みに調教しなおしてやる……その覚悟はあるな? ……最も、もうお前の覚悟あるなしに関わらず、俺はそうするつもりだがな」

 戸惑ううちに、唇が重なる。

(あぁ、俺……)

 この吐息、この唇、この温もり。
 記憶はないが確かにこの身体は『覚えて』いる。

 今まで相手したどの男より優しくも情熱的で、だが熾烈に責め立てるこの身体は自分の理性も何もかもすぐに溶かしてただ相手の事だけを考えさせてしまう、愛しいが危険な身体だ。
 きっとまた、この身体に溺れ沈んでいくのだろうが。

(……悪くないかな。二度も一人の男に溺れ狂わされるっての、案外と悪くないし)

 重なる唇の感触を確かめながら、芝浦はしっかりと手塚の身体を抱く。
 テーブルに置かれたグラスは、溶けた氷がグラスとぶつかりカランと小気味の良い音を立てていた。

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プロフィール
HN:
東吾
性別:
男性
職業:
インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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