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インターネット字書きマンの落書き帳

   
スケッチするヤマとアル(ヤマアル)
決して平和ではない世界線で出会ってしまいいずれ別たれる時がくる。
それを知っていてもお互いのことを愛してしまうヤマムラさんとアルフレートくんの概念です。

いつか別れの運命がある結ばれない前提。
でもこの瞬間だけは確かに存在していたのだよ……俺の中ではな!

今回は実は絵がうまいヤマムラさんに自分の絵を描いてもらうアルフレートくんの話です。
独占欲が強いアルフレートくんは俺の脳内でデフォルトですよ。




『私の愛した風景』

 アルフレートがテーブルの上に投げ出されたままのメモ帳を開いてみるとそこには草木や鳥、動物など無数の生き物が生き生きと描かれていた。
 ここはヤマムラの部屋だしメモ帳の持ち主は当然ヤマムラだろう。その下に拙い文字が書かれているところからこの字も絵もヤマムラが描いたに違いない。

「これ、ヤマムラさんの絵ですか。ヤマムラさん絵がお上手なんですね」

 アルフレートが声をかけるとヤマムラは照れたような笑みを浮かべ置かれていたメモ帳を手に取った。

「いや、自然とね。俺は旅人で言葉が通じない所も多く旅してきたから、そういう時は絵を描いて伝える事も多かったんだよ」

 ヤマムラは異邦人である。
 最近のヤーナムには外から来る旅人も少なくはなかったろうがヤマムラは異邦人のなかでも特に遠方から流れてきた者だといえただろう。 数多の国境を越えてきた彼は他の狩人より多くの言葉に触れその違いに戸惑いながら旅を続けたに違いない。
 そんな中で絵は文字という文化を持たない相手にもイメージを伝える手段としては良い手だといえただろう。そういった意味で彼の絵が上手いのは旅をするため必然だった事かもしれないがそれを差し引いても上手いものだ。意味を伝えるためならもっと簡素な線でも良いだろうに全ての絵は緻密に描かれヤマムラの几帳面さがうかがえる。これだけ細かい書き込みをするなんてきっと元々絵を描くのが好きなのだろう。本来なら狩人などをせず絵筆をとってのんびりと花鳥風月を紙に写し取っている方が似合いだったのかもしれない。

「お上手ですね、もしよかったら今度私のことも描いてくださいよ」

 アルフレートは笑顔でそう告げる。社交辞令のような言葉になってしまったがヤマムラに自分を描いてもらえたらどんなに嬉しいだろうと思ったのが正直な気持ちだった。
 それは彼の絵が素晴らしい腕前だったのもあるが、絵のモデルをしている時はヤマムラの視線全てがアルフレートに注がれるのだと思うと嬉しいといったある種の独占欲もある。
 絵を描いている時間ずっと彼の視線を独り占めできるのは嬉しい。その間自分のことを細かく観察してくれるのだと思うと昂揚する。それが絵として残るのなら尚更だ。
 だからもし願いが叶うのならば嬉しいという気持ちで言ったのだが。

「いいよ。一度きみをモデルにして描いてみたいと思ったんだ」

 ヤマムラは快く受け入れてくれただけでは飽きたらずすぐにペンを手にとりこちらを向く。

「きみさえ時間があるのなら今からでも描いていいかい? あまり人物画はやらないから上手く描けるか自信は無いのだけれども……」

 そして当たり前のようにそんな事を言い笑ってくれるものだから、アルフレートはすっかり舞い上がってしまった。 今からずっとヤマムラの視線を独り占めできるのだ。 絵を一枚仕上げるのにどれくらい時間がかかるのかは解らなかったが小一時間はずっとヤマムラがこちらを見てくれているのだろう。そう思うだけで嬉しくて飛び跳ねそうになる。

「いいんですか!? あの、もし描けたら記念に頂いても……」
「あぁ、気に入ってくれたのならもらってくれ。キミが気にいってくれるよう描ければいいのだけどね……」

 しかも絵をもらえるという約束まで出来た。ヤマムラがずっとアルフレートの姿を見つめ自分のために時間を費やしてくれた、その証が手元に残るのだからこんなに嬉しい事はない。
 だが絵のモデルをするというのは初めてだ。どうしたらいいのだろう。
 困惑しながらアルフレートは自分の服を脱ごうとし、それを見たヤマムラは慌ててその手を止めた。

「ちょ、ちょっと待ってくれアルフレート。どうして服を脱ごうとするんだ!?」
「えっ、えっと……絵のモデルっていうんだからヌードじゃないんですか?」

 アルフレートはあまり絵画に興味はないのだが芸術作品は裸婦が多い気がしていたしデッサンなど身体のラインを描くために裸になる事が多いという印象がある。 だから当然服を脱ぐものだと思っていたのだ。だがヤマムラは顔を真っ赤にして首を振った。

「服は着たままでいいよ! ヌードデッサンをしようとか裸体を描こうとは思ってないし、俺は普段のキミが好きだからね」

 アルフレートの手を止めながら叫びに近い声をあげるヤマムラの言葉を聞き逃しはしなかった。

「えっ、ヤマムラさん。あの、今……好きって、いいました?」

 その言葉で、ヤマムラは自分の失言に気付いたのか顔を真っ赤にしながら大きくかぶりを振った。

「ほら、そのままでいいから椅子に座ってくれないか。そうしたら描き始めるから」
「えっと、私のこと好きって……言いませんでした? あの」
「普段のキミを描いてみたいと思っていたんだよ。キミは綺麗な顔をしているし、体つきも立派だからね! ほら、細かい事は気にしないで座って、座って」

 ヤマムラは何度も聞くアルフレートの言葉を遮り半ば強引に椅子へと座らせる。
 一瞬の事だったから自分の聞き間違えかもしれないしヤマムラは二度と同じ言葉を言わなかったのだが。

「えぇ……ヤマムラさんが、私を好き? えぇっと、私の見た目をすこしでも好いてるって事でしょうか。それとも……」

 椅子に座ってもただそればかりが気になってしまう。
 好きだというのが容姿だけだったとしても、そこに愛情がなかったとしても、アルフレートの姿を少しでも好意的に見てくれるのならこんなに嬉しい事はないのだが、もし本当に好きだと言ってくれたのならそれはどういう意味の言葉なのだろう。
 せっかくヤマムラの視線を独り占めしているというのアルフレートはずっと上の空のままだった。

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