インターネット字書きマンの落書き帳
ヤーナムでクリスマスを祝う神父のはなし
クリスマスの季節は終った!
だがクリスマスの話を思いついてしまったから……書くよッ!
ヤーナムにはクリスマスがない。
だけど幸せにクリスマスを祝う、ガスコイン神父概念だよ。
この家族はずっとずっと幸せに……。
……幸せに、なるとよかったねぇ……。
だがクリスマスの話を思いついてしまったから……書くよッ!
ヤーナムにはクリスマスがない。
だけど幸せにクリスマスを祝う、ガスコイン神父概念だよ。
この家族はずっとずっと幸せに……。
……幸せに、なるとよかったねぇ……。
「あなたと私と、そして娘のクリスマス」
それは、クリスマス間近の頃だった。
「ママ。パパがね、庭に大きい木を持ってきたの。イチイって言うんだって」
ガスコインの娘は、息を弾ませながら部屋へと飛び込んでくる。
それを聞いて、ヴィオラはもうそんな季節なのかと密かに思っていた。
「そう。だったらあなたもパパを手伝って、そのイチイの木に飾り付けをするといいわ。飾り付けは、去年使ったものがあるかしら……」
ヴィオラはそう言いながら引き出しの奥にしまった小さな箱を取り出す。
中身は雪に見立てた綿や赤や金色に塗られたボールや松ぼっくり。厚紙を星の形に切り抜いて黄色の絵の具を塗ったものなどが入っている。
去年、ガスコインとその娘が二人で作ったものだ。
「ママありがとう!」
娘はその箱を大事そうにかかえると、庭先へと出ていた。
窓から眺めればガスコインが娘と二人並んで、イチイの木に飾り付けをしている姿が見える。
ヤーナムの街に「クリスマス」は存在しない。
排他的で秘密主義のヤーナムは、外の文化や宗教に対して徹底的に反発し受け入れる事を拒んでいるからだ。
この街にある行事といえば、医療教会の催す集会(ガスコインに言わせると、それは彼がかつて信仰していた宗派でミサと呼ばれているものに近いらしい)や、聖歌隊が市民をあつめて歌うヤーナムの言語でも、外の言語とも思えない不思議な音楽会くらいだ。
庭にイチイの木をたててそれに飾り付けをする。
晩餐には鶏肉の丸焼きやケーキを焼いて出す。
子供が喜ぶように、欲しがっていたものをプレゼントとして包む……。
全て外から来たガスコインが持ち込んだ外の風習であり、ヤーナムの街で同じように飾り付けをしたり、ケーキを焼いたり、子供にプレゼントを与えるような家はない。
だがガスコインは言うのだ。
『俺はもう神父でも無いんだが、クリスマスはやっぱり特別な日という思い入れが強くてな……回りの人間には変な目で見られるかもしれないが、俺のワガママに付き合ってくれ』
あくまで、外からの慣習に縛られている体裁で。
だがヴィオラは知っていた。
本当は彼らにとって大切なのはこのクリスマスのミサではなく、復活祭の方だという事を。
しかしガスコインが復活祭にはあまり拘らないのは、クリスマスと違い復活祭はケーキを焼く理由も、子供にプレゼントをあげるような理由も特に存在しないからだろう。
本当はただ、子供を喜ばせたいから。
娯楽の少ないヤーナムという街で、何か子供を笑わせるための切っ掛けが欲しいから。
きっとガスコインはそんな理由から、周囲から浮いていようが何と陰口をたたかれようが「クリスマス」という日を祝うのだろう。
娘と、妻の笑顔のために。
「……せめてそう言ってくれれば、私も嬉しいんですけどね」
窓から離れ、ヴィオラはそう独りごちる。
今日の晩餐はビーフシチューにする予定だ。これで葡萄酒があればきっと、もっと素敵なご馳走になっていたのだろうが。
「失礼、少しお邪魔している。ヴィオラ」
鍋をかき混ぜるヴィオラが振り返ると、そこにはヘンリックの姿があった。
夫であるガスコインのかつての相棒であり、ガスコインが獣狩りをやめてからも時々顔を見せてくれる男だ。
「あぁ、ヘンリックさん。夫なら外に……」
「クリスマスツリーとやらの飾り付けをしていたな。今、挨拶をしてきた所だ。いやはや、隠しておくつもりだったが娘さんは目聡いな。俺がもってるプレゼントを見つけたから、まだ早いが先に渡してしまったよ」
ヘンリックに言われ、ヴィオラは窓から外を見る。
真新しい白いマフラーに包まれて温かそうに笑う娘がはしゃぎながらクリスマスツリーの飾り付けをしていた。
「あら、すいません。あの子ったらはしたない所ばかりで」
「いや、子供はそれくらいでいいだろう? それと、これはガスコインと貴女への手土産だ」
ヘンリックは続けて、葡萄酒を取り出す。
恐らく外から取り寄せたものだろう。見慣れぬラベルの葡萄酒は娘が生まれた年に作られたもののようだった。
「ありがとうございます、わざわざ外で?」
「あぁ、この街の葡萄酒は血の味が混じっていて飲めたものじゃないからな。せめて祝いの日くらい、普通の酒で酔いたいだろう」
「こんな、良いものを……あぁ、ヘンリックさん。よろしければお夕食、食べていかれますか?」
ヴィオラの言葉に、ヘンリックは静かに首を振る。
「いや、家族の団らんに紛れ込むほど野暮じゃないさ。では、良い聖夜を」
そしてそうとだけ言うと、軽く手を挙げ去って行った。
その背中を見て、ヴィオラは改めて幸福を噛みしめる。
良き夫であり良き父でもあるガスコインが傍にいて、最愛の娘の笑顔があって、夫の親友もまた優しい。
この掃きだめのような街でも自分たちはきっと、このままずっと幸せに生きていられるのだろう。
そうあってほしいと、祈りながら。
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