インターネット字書きマンの落書き帳
ヤーナムにクリスマスはたぶんない。(ヤマアル)
まだおつきあいしているのか、していないのか。
おつきあいはしてないけど、お互いに特別な存在として意識はしているのかな。
くらいのヤマムラさん×アルフレート君の話です。
ヤーナムに来る前、諸国を旅していたヤマムラさん。
ヤーナムにはクリスマスって無いんだなぁ~と思いつつ、アルフレくんにクリスマスってあるの? あるならどうすごすの? って聞いちゃったら、なんかアルフレくんの悲しい所に触れてしまったような話ですよ。
最後はハッピーエンドだから大丈夫!
そう、クリスマスだからねッ!
おつきあいはしてないけど、お互いに特別な存在として意識はしているのかな。
くらいのヤマムラさん×アルフレート君の話です。
ヤーナムに来る前、諸国を旅していたヤマムラさん。
ヤーナムにはクリスマスって無いんだなぁ~と思いつつ、アルフレくんにクリスマスってあるの? あるならどうすごすの? って聞いちゃったら、なんかアルフレくんの悲しい所に触れてしまったような話ですよ。
最後はハッピーエンドだから大丈夫!
そう、クリスマスだからねッ!
「クリスマスを過ごす相手として」
代わり映えのないヤーナムのレンガ道を宿の窓から眺めながら、ヤマムラは厚手の綿入れその襟元を少しきつく閉める。
(夏になれば暑くなり、冬になれば雪が降る。そういった季節感はあるが、この街はそれ以外の賑わいに乏しいな……)
そして外を眺めながら、何とはなしにそんな事を考えていた。
極東の祖国では、今頃になればやれ年末だ、年始に向け手の準備だと何かと忙しかった記憶がある。
稲わらを用いてお飾りを作ったり、竹を割って門前に備えたり。
年始はゆっくりするためにおせち料理を作り置きして……冬至には南瓜を煮たり、ゆず湯に入ったりと色々な事をしていた気がする。
年末、年始の故郷は忙しかった。
だが道中はどうだったろう。
自分は根無し草としてあちこちを放浪している身であったからその賑わいに直接参加したワケではないが、やはりこの時期は何処でも忙しそうにしていた気がする。
たしかクリスマスと呼ばれていたか。
12月の後半になると、自分と同じように荒事を生業とする輩も所帯があれば 『今日はクリスマスだからな』 と言って、仕事をしないか。仕事をしても早めに切り上げ帰っていった気がする。
異邦人であるヤマムラにとって彼らにとってクリスマスがどれだけ大切なものなのか推し量る事はできなかったが、何とはなしに自分たちにとって年始に家族と集まって静かに、ゆっくり過ごす感覚に近いのだろうと思っていた。
大切な家族と過ごす、大切な時間。
その理由として「クリスマス」という日が必用だったのだろう。
何かしら特別な日がなければ、人間は昨日と同じような日を怠惰に繰り返すばかりになりがちだから、誰かと集まって語り合うにも理由付けが必用なのだ。
(そういえば、このヤーナムにはクリスマスというようなモノは無いな……)
クリスマスだけではない。
ヤマムラが旅をしている最中で見た復活祭のようなものもヤーナムには存在していない。
排他的なこの街は独自の宗教観をもち、聞いた事のないような神の存在を崇め、見えない真理を秘匿して過ごしている。
外にある娯楽、賑わいといったものとは無縁か。
あるいは意図的にそういったものを入れていないのかもしれない。
(あまり外の娯楽を知り、市民に幸福の味を覚えさせると不都合なのかもな……ヤーナムは市民の視線を獣に向けようとしている部分が見受けられるからな。何かよほど隠したくないものがるのか……まぁ、俺が考える事ではないか……)
排他的であるのは息苦しい。
だが異邦人であれ狩人でさえいれば爪弾きにされない、というのは居心地が良い。
確かに異質な街ではあるが、ヤマムラは旅を出るのに老いすぎたとも感じている。今後の事をあまり考えた事はないが。
(連盟にいる限り……連盟というものがある限りはここに居て義理を果たすつもりだが。そうなると俺にとってここが終の棲家となるかもな)
そんな事を考える事は、時々あった。
だが連盟が無くなったら、自分が狩りを続けられない身体になったらと思うと、ヤーナムは住みよい街とは言えないだろう。
ヤマムラは別段、血の医療を求めてこの地に来たワケでもない。敵討ちも果たしている。この土地にさして未練はない。
(留まるには少し息苦しいか。時が来ればまた旅に出るのも悪くないかもな。なに、人間到る処青山あり、だ。どこに行っても何とかなるだろう)
だが今は、どこにも行く気にはなれなかった。
それは自分が生きる気力を失い亡霊のように這いずっていた最中拾ってくれた連盟への恩もあるのだが。
「ヤマムラさん、いますか? 今日は市場で新鮮な野菜と果物が一杯あって……少し多めに買ってきたんで、たまには手料理にしましょう。私、こう見えても結構料理とか得意なんですよ」
紙袋に沢山の食材を詰め込んで、アルフレートが現れる。
ヤーナムに訪れてしばらく後、彼は突然ヤマムラの前へと現れた。血族狩り専門の狩人だと言い、アルフレートと名乗ったその青年はヤマムラの得物が千景と呼ばれる血族由縁の武器である事からヤマムラと血族との繋がりを執拗に詮索していたが、誤解がとけた今はまるで以前からヤマムラと知り合っていたかのように色々と世話を焼いてくれている。
(そういえば……この街にクリスマスは本当に無いのか。アルフレートなら知っているかもな)
ヤマムラは何気なくそう思うと、アルフレートに聞いていた。
「ところでアル、この街ではクリスマスという風習はないのか?」
「クリスマス? 何ですかそれ」
「俺も詳しくないんだが……12月も終わり頃。24日か25日頃になると、クリスマスだからという理由で、昔の仕事仲間がよく家族と団らんするために休んだりしてたんだ。キミも家族と過ごしたりするのかと、そう思ってな」
家族という言葉に、アルフレートの表情は一瞬曇る。
だがすぐに作ったような笑顔になると。
「さぁ、どうでしょう。私はクリスマスなんて知りませんし、ヤーナムではそういう事をやらないんじゃないですかね。この街で特別な日は、獣狩りの夜くらいですし……それに、私には家族が居ませんから。もしあったとしても、私には関係ないですよ」
アルフレートの言葉を聞き、ヤマムラは自分の失言に気付く。
アルフレートは人生の殆どをヤーナムで過ごし、外の世界について全くといって知らない青年だ。常識も、考えもヤーナム式に囚われすぎている所がある。
そんなアルフレートが今まで一度も家族や両親の事、兄弟の事など語ろうとしなかった時点で察するべきだった。
彼にはもう家族がいないか、あるいは居たとしても会いたい相手ではないのだろう。
「そうか……」
ヤマムラは口もとに手をやり、少し思案する。
悪い事をしたと思った。その詫びを何かしたいと思ったから、つい口に出ていた。
「それなら、俺と一緒に過ごすか?」
「えっ?」
「外ではクリスマスはご馳走を並べて、パーティを開いて。家族とゆっくり団欒し、語り合って過ごすらしい。俺も詳しくは知らないんだが、おおむねそういう催しだと聞いている……どうだ、アル。その日は俺と家族にならないか?」
あまり深い意味があって言った訳ではないのだが、それでもアルフレートは真っ赤になって俯いてしまう。
「そ、それって。ヤマムラさっ……私と、結婚……いや、その。そういう……?」
「ん? あ、あぁ……まぁ、キミがその方がいいというなら、俺はそれでも構わないが、どうだ」
「だ、ダメですそんな。そんな事簡単に決めちゃっ……そういう事を言うなら、もっとロマンチックに言ってくださいよ。こんな、日常でさりげなく言うとか……ダメです! 認めませんから!」
「何だ、思ったよりキミは。その……そういうのに理想を抱いてるタイプなんだな」
「当たり前ですよ! 一生に一度なんですからッ……それと、そのクリスマスの招待、お受けしますね。貴方と家族になる練習だと思って、私、頑張りますから」
アルフレートは顔を赤くしたまま、ヤマムラの傍に寄りそうとそっと手を伸ばす。
ヤマムラもまた照れた笑みを浮かべ、伸ばした手を握りしめた。
ヤーナムの冬は寒く、クリスマスの賑わいもない。
だが二人の間には温かな思いが通いあっており、それは紛れもなく幸福な時間であった。
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