インターネット字書きマンの落書き帳
加齢臭が気になるお年頃の紳士。(アルヤマ)
年上ヤマムラさんが可愛くて仕方ないアルフレートくんの話です。
いつもヤマムラさんの匂いをクンクンする、ワンコフレートくんの姿を見て 「うそ……俺の体臭って、においすぎ……!?」 と気にしてしまったヤマムラさんが香水をつけるみたいなオハナシですよ。
今回はアルヤマの話です。
俺がそう言うんだからそうですよッ!
いつもヤマムラさんの匂いをクンクンする、ワンコフレートくんの姿を見て 「うそ……俺の体臭って、においすぎ……!?」 と気にしてしまったヤマムラさんが香水をつけるみたいなオハナシですよ。
今回はアルヤマの話です。
俺がそう言うんだからそうですよッ!
「いつもと違うあなたの匂い」
ヤマムラは最近、気にしている事があった。
「ヤマムラさーん!」
朝起きた時に、アルフレートが抱きついてきてくれる事は嬉しいし不満もない。
頬をすり寄せ、額や唇に触れるだけのキスをする事もこのあたりでは挨拶程度なのだという事も理解できている。
だが。
「んー……ヤマムラさんのにおい……」
やたら胸に顔を埋められて、身体の臭いを確かめられる事だけは、常々気になっていた。
「ヤマムラさんの服からも身体からも、ヤマムラさんのにおいがいっぱいする……私、あなたのにおい、大好きなんです」
アルフレートは微笑みながらいつもそう告げてくれるが……。
(俺は、他の男たちと違う臭いがするんだろうか……獣の臭いと、血と脂の臭いに混じって……もういい年齢だし、アルフレートからすれば随分と俺は年かさでもあるから。その、アレか……加齢臭、という奴か……)
自分のにおいが好きだと言ってくれるのは嬉しい。
アルフレートはそういった所で嘘はつかないだろう。
だが、他者が感じられるほど身体がにおっているのだとしたら、それは少し問題だ。
(ヤーナムに来てから風呂なんて殆ど入ってないし……元よりこの土地では風呂の習慣もない。とすると……やはり香水でもつけてにおいを誤魔化すのが一番か……)
連盟ではヘンリックに会うと、時々ふわりと良い香りが漂う事がある。
聞けば獣臭を誤魔化すため、昔から香水を使う事があったのだそうだ。あの時はいかにも洒落者のヘンリックらしい気の使い方だな、と思ったものだが相談するならやはり普段から香水を使っているヘンリックのアドバイスを聞いた方が良いだろう。
「……香水をつけたいのか? 俺は獣を殺した後につける事が多いが、翌日も匂いは少なからず残る。そうなると、獣に悟られやすくなるという危険性がある事は忘れるな」
ヘンリックはそう注意しながらも、いくつか良さそうな匂いを試させてくれた後。
「俺と同じ匂いにするのは、お前の連れも嫌がるだろう? ……気に入ったのなら、この香水に近い匂いのものはヤーナムの市場で店を出している。異邦の狩人は胡乱な目で見られる場所ではあるが、俺の名前を出せば快く応対してくれるはずだ」
そのアドバイスを受け、慣れない香水屋へと一人趣く。
元よりヤーナム市民は狩人に対して畏怖の気持ちが強く、異邦のモノに対しては排他的だ。異邦の狩人などは腫れ物に触るような扱いであり、ヤーナム市民が主に使う商店など異邦人であるヤマムラは好奇の目にさらされるため滅多に行かない場所ではあった。
勿論その香水店も一度も行った事のない場所ではあったのだが。
「ヘンリックさんのご紹介ですね。どうぞ」
ヘンリックの名を出せば、友好的という程でもないが無下にも扱わない人並みの対応をしてくれた。流石にヘンリックは長らくこのヤーナムで狩人をしている、もう古狩人の枠に入る男なだけあると言う事か。
幾つかの香水を試した後、あまり匂いが残らないというものの中で抜けるようなさわやかな香りがするものを選びそれを買うと、アルフレートが戻ってくる前に身体へと振りかけた。
(あまりつけすぎるとキツくなると言ってたな……自分で匂いを感じない程度に……)
とはいえ、胸元や首筋などは特にアルフレートが抱きついて匂いを確かめる場所だから、少し念入りに香水を付ける。
「あっ、ヤマムラさん。今日は先に戻ってたんですね、おかえりなさい!」
そうこうしているうちに、アルフレートが戻ってくる。
そして挨拶するようにハグをして、首筋に、胸に顔を埋めてヤマムラの匂いを確かめた。
「……あれ? ヤマムラさん、香水つけてますね。どうしたんですか? いつもと全然違うにおいがするんですけど」
やはり、すぐに気付いたようだ。
困惑したような顔を向けるアルフレートに対し、ヤマムラはつい苦笑いになっていた。
「いや、別に何だというワケではないんだが……キミはいつも俺の身体から、俺のにおいがすると言うだろ? ……ひょっとして、臭いのか……とかそう思ったから、香水を使ってみたんだ。臭くはなくなっただろう?」
そう告げるヤマムラを前に、アルフレートは頬を膨らまして見せた。
どうやら怒っているようだ。
「別にッ、最初からヤマムラさんの事を臭いだなんて言ってないじゃないですか! 私は作り物の香水の匂いじゃ無くて、ヤマムラさんの匂いが好きなんです!」
「そ、そうだったのか? でも……俺の匂いがするって事は、やっぱり俺って……その、独特のの匂いがあるって事だよな……?」
「もちろん、人は食べてるものとか、生活習慣で匂いは変わってきますよ。でも、別にヤマムラさんの身体が臭いというワケじゃないんです。貴方の身体は確かに獣狩りの狩人のにおいがする。いつも、血と脂のにおいがついて回っている。だけど……それでも貴方からは、温かな陽の匂いがする。だから私は、貴方の匂いが好きなんです」
そうとは知らなかった。
ただ嬉しそうに抱きついてキスとともに匂いを嗅いでいくから挨拶の延長くらいに思っていたのだが、どうやら思っていた以上にアルフレートはヤマムラの匂いを気に入っていたようだ。
「そうだったのか……それは悪い事をしたな。そこまで思ってくれているとは微塵も考えていなくて……」
「いえ、私も言ってませんでしたからね。でも、まさか香水を買うくらい気にしてるとは思っていませんでした……あ、これが香水の瓶ですね」
アルフレートは見慣れぬ瓶に気付くと、その蓋を開け手で扇ぎながら匂いを確かめる。
「悪くない、ですけど……やっぱり私はいつもの、貴方の匂いが好きです」
「そうか……」
別に臭いワケではない事が分ると、改めてアルフレートの真っ直ぐな愛情が染みいる。
「だったら、悪い事をしたな……いつもと違う匂いだと……やっぱりおかしいか」
「そうですね、確かにおかしくて、落ち着かないので……」
と、そこでアルフレートは一歩踏み出すとヤマムラの唇を少し強引に奪い、そのままベッドへ押し倒す。
「……今、ここで私の匂いに上書きしておきますね。ふふ……私のヤマムラさんが、勝手に他の匂いをつけてきた罰だと思って、甘んじて受けて下さいよ?」
自らの指先を舐り、濡れたその指先でヤマムラの身体をつつ……となぞるアルフレートはどこか楽しそうにヤマムラを見下ろす。
「はぁ……敵わないな、キミには。わかったよ、好きにしてくれ……キミの匂いに変えられるのも、悪くない」
妖しく笑うアルフレートを前に、ヤマムラは全て諦めたように身を委ねる。
互いの匂いが交わるまで、その日の「仕置き」は続けられた。
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