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インターネット字書きマンの落書き帳

   
狂った世界で輝いている。(ヤマアル/アルヤマ)
ヤマムラさんが、もうこの場にはいないアルフレートくんを思い返す。
そんな二人の話です。
明確にどっちがチンポをつっこむほうか分らない話だから両方表記してますが、作者はヤマアル派です。(?)

アルフレートくんの事を愛していた。
だけど彼の生きる理由は自分ではなかった。
仕方ない事だった。

全て納得した上でアルフレートくんを送り出して、もう会えないのだと覚悟も決めた。
だけど彼が信望し、命をなげうってもいいと思ったものの正体は……。

そういったヤーナムの「狂った」話ですよ。

狂おしいほど愛して。
そして狂おしい世界で正しいものを探そうとする。
そうそれがブラッドボーン。




『だがそれは輝いていた』

 アルフレートは自分の隣にいるときはよく笑っていた。
 他愛もない話をして怒る事もあれば、肌に触れれば照れたように赤くなる事もある。
 人形のような美しい顔をしており、美術品を思わす綺麗な体をしていたが彼は間違いなく一人の人間だったのをヤマムラはよく知っていた。

 だが同時に彼の心はいつもどこか現(うつつ)にあらず、その目が常に遠き幻想のような世界にばかり向いているのも理解していた。
 アルフレートはすでにヤーナム市民の記憶から消えた「ローゲリウス」という男の意思を継ぎ、彼の名誉を取り戻すために戦うのを生きがいに。いや、己の使命にしていた。

 叶うかも分らない夢のような世界であり、簡単に手が届くような目標でもない。
 だからだろう、アルフレートは日常の合間、ふと何処にあるかも知れぬ輝きの世界を見るように、どこか遠くを見るような素振りが多かった。

 二人でいた頃、ヤマムラはよく手帳を眺めるアルフレートを見ていた。
 その手帳はかつて処刑隊にいた隊士の持ち物であり、ローゲリウス師の残した言葉が司祭に記録されているのだとアルフレートは語っていた。
 手帳そのものも随分と古いようで、ヤーナム周辺で産まれ育ったアルフレートから見ても古めかしい言語で書かれているため読むのは随分と難儀なのだとこの地域に残る古い言語で書かれており読むのは難しいと聞いた事がある。
 だがそのその意味のわからぬ言葉が何であったのか推測し追求するのがアルフレートの楽しみでもあるようで、手帳を前に思案する顔はどこか楽しそうにさえ見えたものだ。

 また、アルフレートはよく手記を自ずから書き写していた。
 読んで理解出来なかった部分があっても、自らの手で書き写す事によって理解が深まると考えていたのだろう。
 書き散らしたメモに突っ伏してうたた寝をする姿を幾度か見た事ある。
 その時に手記の一部らしき文字列を幾度か読んだ事があるが、随分と古い言葉らしくヤマムラはそれを理解する事はおろか、読む事すらできなかった。
 最も、元々ヤマムラは会話の方はまだしも文字の読み書きは不得手だったので、例え共通語で書かれていたとしても理解しきれなかった事だろうが。

 ヤマムラの理解が及ばぬ世界に愛しい男の運命が絡め取られていくという事実に空しさを感じなかったといえば嘘になる。
 だがそれでもアルフレートを留めよう思わなかったのは、自分にその権利がないと思っていたのも大きかっただろう。

 周囲に馬鹿馬鹿しいと言われて留められても、狂っていると罵られたとしても譲れない意地というのは存在する。
 自分にとって恩人の復讐がそうであったように、アルフレートにとって師の名誉こそが生きる理由であり存在価値の全てなのだろうから。

 復讐のために生きて、それを成し遂げた自分の事をアルフレートがどう思っているかは分らない。だが生きる理由であった大義を成し遂げた自分が、生きるただ一つの目標のために邁進する青年を窘める理由などどこにもない。

 それに、ヤマムラは復讐だけのために生きてきた。
 言うなればずっと殺すために生きていたのだ。
 相手は人智を越えた領域にいる恐ろしい獣ではあったが、かつては人間あったはずだ。

 殺すために生きていた自分と師の名誉を回復するために生きているアルフレートを比べたら、アルフレートの生きる理由のほうがよっぽど高潔だろう。

 また、アルフレートに小言を言続け彼から疎まれるのはイヤだった。
 折角親しい間柄になり、穏やかな日々を送っているというのにそれを自分の下らない嫉妬のような感情で壊してしまいたくはなかったのだ。

 つまるところ、ヤマムラはアルフレートという青年に嫌われるのが恐ろしかったのだ。
 いずれローゲリウス師のため命を賭した戦いに出る事が決まっていたとしても、自分を思ってくれたままでの別れるのと自分に愛想を尽かして別れて行くのとは違う。

 せめてアルフレートには自分の思いがあった事を一欠片でも残して進んで行ってほしいと思っていたヤマムラはアルフレートが己の使命のために去って行くのは構わなかった。
 だがアルフレートから三行半を突きつけられ強く拒まれるのは避けたかったのだ。

 アルフレートに対してどこまでも優しくする事が出来たのは愛だったのか、それともただ嫌われたくないというエゴからだったのかは今でもはっきりと分らない。
 だがどちらでも構わないしどちらでも変わらないだろう。
 愛だってしょせんはエゴなのだ。

 大事なのは、最後まで穏やかな時をともに過ごせたという事。
 振り返った時温かな時間が続いていたということだけだ。

 ヤマムラが目を覚ました時、すでにアルフレートの姿はなかった。
 部屋は普段と変わりはないが、処刑隊の装束と武器とだけが消えている。

 前日に変わった様子はなかった。
 だがこの僅かな変化でアルフレートがもう戻ってこないのをヤマムラは知った。

 きっと、カインハーストに向っていったのだろう。
 アルフレートにとってカインハーストに向うという事は処刑隊としての使命を果たすとという事であり、現実の自分との決別でもあるのだろう。

 もう二度と会うことはないはずだ。
 ヤマムラは整った室内で全てを悟る。

 いつか来る時だとは分っていたから、後悔はなかった。
 ただ一時でも思いが通じ合っていたという事実と、最後の日まで一緒に過ごせたという事があればヤマムラは充分すぎる程幸福だったからだ。

 処刑隊の装束と武器以外はもう必用ないと思ったのだろう。
 ここで生活していた時に使っていたものは殆ど残っている。

 暫くはこのまま彼の置いた荷物とともに生活し思い出の残り香に包まれて過すのも悪くはないとも思っていたが、生憎そんな感傷に長く浸れるほど広い部屋ではない。
 せめて残った荷物を整理してまとめるくらいはするべきだろう。
 そうして、アルフレートの荷物を開けばすぐに彼が肌身離さずもっていた処刑隊の手記が転がり出てきた。
 ここにあるという事は、置いていったという事だ。
 あんなにも大切にしていたものだから必ずもっていくと思っていたのだが。

 ヤマムラは何とはなしにそれを手に取ると、ぱらぱらとページをめくる。
 いつもアルフレートが大事に抱いていたものであり、彼が書き写したメモは幾度か見た事があるが実物を読むのはそれが初めてだった。
 アルフレートは大事にそれを扱っていたし、自分には読めない文字で書いているのなら読んでも仕方ないだろうと思ってふれずにいたのだ。

 だがその手記を見て、ヤマムラは愕然とする。
 ヤマムラの思っていた通り、その手記を読む事はできなかった。
 だが読めない理由はヤマムラの想像とは違っていた。

 その手記に全て白紙であり、どこにも、何も書かれた形跡などなかったからだ。
 ページが破られた様子もなければ、筆圧で読めるようなページも一切ない。
 ただ真っさらな手帳だけがヤマムラの手元に残っている。

 果たしてアルフレートは何を「見ていた」のだろうか。
 この手帳から何を見て、何を学びそして何を思っていたのだろうか。

「アルフレート、キミは一体……」

 開いた白紙のページはランプの下、やけに白く輝いて見えた。

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