インターネット字書きマンの落書き帳
英雄と呼ばれるから英雄でいるルドウイーク概念。
生前のルドウイークは英雄と呼ばれるにはあまりにも純朴で、不器用な人間だったのではないか。という生前ルドウイーク妄想です。
(ここまで一息)
今回は、密偵がローレンスに頼まれて英雄を呼びに行った時、英雄が想像以上に質素な生き方をしているから 「マジかよ!?」 って驚いちゃうような話ですよ。
密偵は作中で明言してないんですが、シモンさんを想定してます。
作中で明言してないのにここでは明言する!
これが俺クオリティ……。
(ここまで一息)
今回は、密偵がローレンスに頼まれて英雄を呼びに行った時、英雄が想像以上に質素な生き方をしているから 「マジかよ!?」 って驚いちゃうような話ですよ。
密偵は作中で明言してないんですが、シモンさんを想定してます。
作中で明言してないのにここでは明言する!
これが俺クオリティ……。
「汝英雄たれ」
獣狩りの夜が来る前に英雄を呼んできてくれ。
教区長ローレンスに頼まれたその男は初めて英雄の家に訪れた。
「ここが……?」
その家を見て、男は自分が間違った家を訪ねてしまったのではないかと戸惑う。
ヤーナムでも郊外のあまり治安もよくない場所にある、小屋や物置を思わすほどに手狭な家はおおよそ英雄の名誉を受ける男の家とは思えなかったからだ。
だが恐る恐るドアを叩けば 「開いているよ」 と静かな言葉が返ってくる。
その声は他の狩人たちを前にして 「狩人の矜持として剣も銃すらももてぬ市民を守る」 と高らかに宣言したルドウイークの声だった。
扉を開ければすでに身支度を終えたルドウイークが、背もたれすらない粗末な木製の椅子に腰掛けて背中を丸めながら食事をする姿が見える。
テーブルに置かれているのは固いライ麦パンとカップに注がれた水のみで、ハムやソーセージ、チーズといった嗜好品の類いどころか芋すらも付け合わせていなかった。
普段は貧しい身なりをして物乞いへと身をやつし密偵として活躍している男でも、ここまで酷い食事をする日は早々ない。
だがそれが英雄にとって日常のようだった。
「あぁ、わかっている。あまり良いものを食べてないと思ったのだろう? だが私は狩りに出て、君たちと同じ食事をするほうが多いからね。普段は節制するくらいでいいんだよ」
果たしてそれは本当だろうか。
つい訝しげに見る癖が出ていたのだろう。その視線に気付いたのか、ルドウイークは困ったように笑ってみせた。
「キミのような人に、嘘をついてもすぐに分ってしまうか……実際のところ私はね、市場で沢山のものが並んでいても、何を食べていいのかよく分らないんだよ」
英雄はパンをちぎり、それを口に含むと水だけで飲み下す。
「市場には色とりどりの野菜や果物が並んでいる。最近はこの街でも豚をさばいただけではない。チーズやバターといった嗜好品も並んでいるのだろう? だけど私はどれが美味しいものなのか、よくわからないんだ。どれも美味しそうに見えるのだけれども、私には少し勿体ない気がしてね。そうして気付いたらいつも食べ慣れているこのパンを選んでいるんだ」
男は以前耳にした英雄の噂を思い出す。
ルドウイークは高潔な人だ、清らかな人だ。
あれほどまでに名声を得て栄誉を得ているというのに質素に過ごし、傲る事もなく、鍛錬を欠かした事もない。酒も飲まず賭け事もせず色を好む訳でも無い。
それだというのに戦場では勇猛果敢。
何ら欠陥のない、理想の英雄とはあのような男を言うのだろうと。
だが今目の前にいるルドウイークは果たして高潔な英雄なのだろうか。
男はそれは違う気がした。
目の前にいるルドウイークは、ただの不器用な人間だ。
生きるのが下手で、人付き合いが下手で、口下手で。
おそらくヤーナムという街でなければ人並み以上の時間をかけようやく仕事を為遂げて得た僅かな日銭で食い扶持を稼ぎ、服すら満足に買い換えられないような貧しい生活をしていた。そんな面白みのない、だが静かな生活の似合う男だったのだろう。
しかしヤーナムに生まれたから。
ヤーナムで生き、獣狩りが人よりほんの少し上手かったから英雄として担ぎ上げられてしまったのだ。
影にあるべき人間が、光にならざるを得なかった。
それが英雄の正体なのではないか。
「そんな顔をしないでくれ」
気付いた時、英雄ルドウイークは男の隣に立つ。
男より頭一つは背が高かっただろうか。ルドウイークはどこか哀しげに微笑むと、男の頭をポンと撫でた。
「私があまり人間を上手にできていないのは私自身も分っているよ。でも、それでも英雄と呼ばれたからにはその役割は果たそうと思う。私が出る限り、キミも。市民も。狩人の命一つだって取りこぼしてなるものか……まかせてくれ、これでも英雄だからね」
狩装束に身を固め、うっすら輝く剣を握る。
さっきまで不器用な生き方しかできない男に見えていたルドウイークの手は温かく、そして力強くさえ感じる。
英雄の仮面をつけた彼は、静かで不器用な男から猛々しく人々を導いていく光をもった英雄へと変貌していた。
「さぁ、行こうか」
部屋から出る時、男は英雄の背中に確かに光を感じた。
それは人々を真っ直ぐに導く希望の光なのだろう。
だがその光はどこか儚く、哀しく、だからこそ輝いて見えた。
PR
COMMENT