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インターネット字書きマンの落書き帳

   
今は届かないが、いずれ届く思い(手芝・みゆしば)
平和な世界線で、いずれ付き合う事になる手塚と芝浦がまだ付き合う前の話です。
この二人はすでに付き合っている話を散々っぱら書いてきたんですけどね。
付き合ってからの話を一杯書いているので、付き合う前の話も書いてみてぇな……と思ったので書きました。

手塚の顔と身体と声がメチャクチャ好みだなー。
だけど、手塚は異性愛者だろうからこっちからアプローチするのは気が引けるし。
今は手塚と話しているだけで結構楽しいから、この距離感を崩したくないなぁ~。

そんな事を考えながら、占い師の手塚とあくまで「客」の関係に留めて恋い焦がれるような芝浦の話です。

こんな初々しい二人ですが、この後一ヶ月くらいしたらえげつないセクロスをします。
しますよ。




『好かれなくても良いから』

 大学の授業が終ってからも、芝浦は大学構内の喫茶店で呆けていた。
 今日はもう授業はないのだが、すぐに家に帰りたい気分でもなかった。
 だが大学で見知った顔は他の講義をとっていたり、すでにバイトに出てしまっている。
 一応サークルには所属しているが、あまり熱心な活動をしているワケでもなければ気の合う仲間がいるワケでもなく行くのも億劫だ。

(どうしようかな……一人でゲーセンって気分でもないし。かといって家に帰っても、きっとダラダラとゲームして遊んじゃうだろうしな……映画でも見る? といっても今みたい映画ないし。やらなきゃいけない事はいーっぱいあるはずなんだけどねー……)

 レポートの提出期限はまだ先な事もあり、急ぐ気にはなれない。
 クリアしてないゲームや読もうと思って積んでいる本はあるが、まだ家に帰る気になれない。

(……もう少し、誰かと話していたい気分なんだけど)

 友人は出払っていた。
 電話をかければ誰かしらつかまるのだろうが、この時間は講義中かもしれない。
 携帯電話を暫く眺めた後、芝浦はふと閃き立ち上がった。

「そうだ、公園に行こっと。またあの占い師さん、店出してるかな……」

 その公園を訪れたのも、今日のように家に帰るのが億劫だったので気分転換にと思い大学から少し離れた場所まで散歩のつもりで出たのが切っ掛けだった。
 平日でも人の賑わいがある公園にはクレープやコーヒー、タコスなどを売るキッチンカーが出たり似顔絵描きやハンドメイドのアクセサリを販売する店などが出ている。
 その中で占いの店を出している男がいるのに気付いたのは一ヶ月ほど前だったか。

 占い師らしくどこかつかみ所のないミステリアスな印象をもつ、綺麗な顔の男だった。
 身体つきは細身に見えるが肩幅や胸元はしっかりと男の体つきをしているのも好みだったから、声を聞いてみたいと思い占ってもらったのだ。

 占いの料金は普通の大学生が気軽に払える金額ではなかっただろう。
 だが幸い芝浦は金に困るような立場ではないし、この占い師が自分だけを見て自分のためだけに話をしてくれるという空間を買うのだとしたらむしろそれは安いくらいに思えていた。

『占いに興味があるタイプでは無さそうだがな』

 顔を見てすぐそう言われたのをやけにはっきりと覚えているのは、占い師らしからぬ言葉だと思ったのもそうだが相手の言う通りだったのもあったろう。
 実際に興味があるのは占いではなくその占い師の『声』であり、彼の声は静かで心地よく聞いていて落ち着く声をしていたのが益々気に入った。

 それから疲れた時や特にする事がない時は占い師のいる公園へ足を運ぶ事が増えていた。
 占いなんて所詮バーナム効果……誰にでも当てはまりそうな事を言うだけだと思っていたが件の占い師は心当たりのある事を言い当てる事が多かったし、実際に危険な目にあいそうな時占い師の助言を思い出し事なきを得たと経験もあるから以前ほど軽んじてはいないが、それでも目当ては占いより占い師と話をする事が大きいのは相変わらずだった。

(占い師さんは俺と違ってストレートだろうから、俺が占い師さんの顔と声が好きだから通ってるなんて知ったらドン引きするだろうけどね……)

 占い師の名前が手塚海之というのは分っている。
 歳は芝浦より3つ上。普段占いの時は座っているから気付かなかったが、背は芝浦よりもやや高い。細く長い指をしている割りに手は大きいのも好みだ。

 自分の事を好きになってくれるとは思っていない。
 芝浦も「恋愛対象が男性である」という嗜好がマイノリティなのは分っていたし、それをマジョリティである異性愛者に理解してもらおと思わなかったし、この嗜好がある者たちはその者たち同士のコミューン内で生きるのが基本であり「そうではない人」に対して積極的にアプローチをしないという暗黙の了解があるのもまた理解していた。

 とはいえ、好みのタイプであるという感情までは否定できない。
 芝浦は行きがけに出ていたキッチンカーでコーヒーを二つ買っていた。

(お土産戦法で懐柔しようとか、我ながら姑息だよねー)

 だが、愛してもらうのは無理だとしても嫌いになっては欲しくない。
 そんな思いを抱きながら紙袋を下げ歩けば、休憩中だったのか手塚は看板を下ろし呆けている様子だった。

「あれ、占い師さん今日はもう店終い?」

 芝浦が知る限り、手塚は夜まで店を開けている事が多かったから不思議に思い問いかける。
 すると手塚は芝浦に顔を向けると、僅かだが表情を緩ませた気がした。

「芝浦、だったか。いや、やっと人の波が途切れたから少し休憩しようと思っていた所だ。どうした、占っていくのか?」
「あ、じゃあ商売繁盛だったんだ。そうだなー……占ってもらおうと思ったけど、休憩なら後でもいいかな? 俺そんなに急ぎの用じゃないし……っと、そうだ。休憩するなら、一緒にコーヒーでもどう? 来る予定のトモダチが急に来なくなっちゃったから、一つ多く買っちゃって困ってたんだよね」

 勿論友達が来るなんて嘘っぱちだが、わざわざ手塚のために買ってきたなんて言って変に勘ぐられたくはない。
 そう言いコーヒーを渡せば、手塚はさして嫌がる様子もなくそれを受け取った。

「悪いな、外にいると冷えるから暖かいものはありがたい」
「もう春とはいえ、まだ寒いからねー……あ、俺もここで休んでいっていい? 占い師さんが休憩終ったら占ってもらうからさ」

 芝浦はそう言いながら、手塚の傍にある縁石へ腰掛ける。それを見た手塚は荷物から水筒をしまうと芝浦の隣へと腰掛けた。

「占い師さん、砂糖とかミルクいる? 一応多めにもらってきたけど」
「いや、大丈夫だ。コーヒーはブラックで飲む方が多いからな。最も、滅多に飲まないんだが……」

 その言葉で芝浦は手塚が普段から水筒を持参している事を思いだした。
 この公園はコーヒーや紅茶をはじめ軽食のキッチンカーが多く出ており手塚がそういった店でサンドウィッチやタコスなどを買っているのは見た事があるが飲み物を買っている事は殆ど見た事がなかったのだ。

「あれ、占い師さんひょっとしてコーヒー苦手だった?」

 悪い事をしたと思い聞けば、手塚はしまったといった表情で口を閉ざす。

「コーヒーの味は嫌いじゃないんだが、カフェインがな……」
「カフェイン? あぁ、時々カフェイン取り過ぎると具合悪くなっちゃう人いるけど、占い師さんもソレなんだ……じゃ、無理して飲まなくてもいいよ。俺も余ったから渡しただけだし」
「いや、別に飲めないワケではないから頂こう。俺のために買ってきてくれたんだろう?」

 手塚はそう言うと、不意に優しい目で芝浦を見た。
 コーヒーを買っている所を見られていたのか、最初から手塚への手土産である事にはどうやら気付いていたらしい。

(何でそんな顔するんだよ……そんなに優しくされたら、本気で好きになっちゃうじゃん……)

 砂糖とミルクをたっぷり入れたコーヒーを飲むと、芝浦は顔を上げる。

「あ、じゃあさ。今度はちゃんと占い師さんの好きな飲み物買ってくるから、何が好きなのか教えてよ」
「……気にするな、気を遣われるような事はしてない」
「そんな事ないって、俺これでも結構占い師さんの占いに助けられてるしさ。普段から色々話聞いてもらってるから、少しでもお礼したいんだよ」

 それに、もっと手塚の事が知りたい。
 何が好きなのか、何をしたら喜んでくれるのか、そしてどうしたら笑ってくれるのか。
 自分の事を好きになってもらえるとは思っていない。だが嫌いにはならないで欲しいし、こうして他愛もない会話をできる限り長く続けて欲しい。

「そうだな……俺は……」

 訥々と語る手塚の横顔を眺めながら、芝浦は温かな気持ちを噛みしめる。
 思慕や憧憬に浸るのは自分らしくない。
 そういったものに縛られず奔放であり自由である事こそ自分らしさだと思っていた芝浦だが。

(こういうのも……悪くないかもね)
 
 今はこのむず痒いような気持ちが心地よいと思う。
 だから少し、この時間に浸っていたかった。

 例えその思いが届く事がなかったとしても。

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