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インターネット字書きマンの落書き帳

   
付き合ってない男にチョコレートを渡す話。(手芝・みゆしば)
バレンタインデーなので、まだ付き合う前の手塚と芝浦の話をします。(挨拶)
まだ付き合ってない手塚に、義理っぽく本命チョコを渡している芝浦の話ですよ。
まだ付き合ってない頃の話を最近よく書きますが、段々「こいつらいつから付き合いはじめたんだ」「付き合うまで半年くらい時間かかってたんじゃないのか」という疑惑が出てきましたが、俺も良く分ってません。

ただ楽しいから書いてますし、今は付き合ってないのでこんな初々しい二人も今はえげつない交尾をしてます!

俺の中でそうなんだから……。
……きっとそうなんだろうぜ!



「戸惑いのチョコレート」

 その日は冬にしてはやけに暖かい日だった。
 朝から日が出ており風もない。
 公園を散歩する人の中には厚手のコートを脱いで手にもって歩く者もいる。

 手塚はそんな人々の姿を簡素に組み立てた店の向こう側から眺めていた。
 冬になると路上で占いをしようと言う人間はぐっと減る。
 屋根もない簡素な店で寒さに耐えながら占いを聞こうという奇特な客はあまりいないのだ。

(やはり、冬は風をしのげるような店にしたほうがいいか……とはいえ、テントを張れるような場所でもないし、どうするのが一番良いんだろうな……)

 手でコインを弄びながらそんな事を考える。
 手塚の占いはこの周辺では有名になっており、寒さに耐えても聞きたいという客も少なくない。
 その評判を聞きつけた占い店からも何件か声がかかっていたが、もともと人とのしがらみがイヤで個人で店を構えているのだ。
 また、手塚はこの場所で道行く人を眺めながら占いをするのが好きだった。
 行き交う人々にも人生があり、生活があり、運命がある。
 それを垣間見る事が出来るような気がしたからだ。

 とはいえ雨風防げないというのは問題だ。
 夏は暑さで、冬は寒さで客が減るのは事実なのだから。
 だが店をもつほど金もない。そもそも経営者に向いているかと言われればそうではなく、むしろ金勘定に関しては疎い方だ。
 もし路上占いを辞め、それでも占いを続けるのだとしたらやはり店舗をもつ占い店に行く事になるのだろう。

「そろそろいい頃合いか。俺も店専属の占い師になってもいいのかもな……」

 ぽつりと漏らした言葉に。

「えっ、占い師さん路上占いやめちゃうの?」

 思わぬ相づちが入る。驚いて声の方を見れば最近よく見る大学生の姿があった。
 名前は芝浦淳といったか。成人していると言い張るが、初めて会った時は高校生くらいかと思うほど幼い印象を与えるのは顔立ちがやや童顔というだけではないだろう。
 言葉や仕草に時々幼さが見え隠れするのだ。それは本人のやや奔放な性格も相まってどこか危うく見えた。

「何だ、芝浦か……」
「えー客にそういう態度しちゃう? まぁいいけどさ。それより占い師さん、どこか店に行くの? だったら場所教えておいてよ。俺、そっちに行くからさ」
「いや、別に行く予定はない。ただ、路上占いだと暑さ寒さをしのげないだろう? 今日はまだ暖かいが、風の強い日や雨が降った日なんかは客も来ないからな」

 実際そのような天候の日は客が来る事がなく実入りが少ない。
 あまり雨足が強い時や風が酷く吹く時は開店休業状態になりがちだから、休んでしまう日も多かった。
 特に梅雨時はそういった日が多く、殆ど商売にならない故に公園ではなく屋根のあるショッピングモールのような場所に店を移すこともある。

「とはいえ、俺はあまり人付き合いが得意ではないからな……もう暫くは公園か、天気の悪い日は屋根のあるショッピングモールなんかで店を出すのをもう少し続けるつもりだ」
「あ、占い師さんたまに公園にいないと思ってたけど、そういう所で店出してんだ」
「あぁ……」

 そんな話をして、手塚はふと思い出していた。
 つい先日、アウトレットモールで店を出す機会があった時芝浦を見かけた気がするのだ。
 あの時は客層も客入りもかなり良かったのであまり周囲を気にする余裕はなかったが、普段から金払いのいい男は良い店に行くものだと思ったものだ。

「あ、そうだ占い師さん。これ」

 店においたスツールに腰掛けると、芝浦はすぐに何かを取り出す。
 それは綺麗にラッピングされたチョコレートのようだった。

「占い師さんあんまり甘いものもカフェインも苦手だって言ってたけど、俺今年思ったよりもらっちゃって持て余してるんだ。少し協力してくれたら助かるんだけど」

 芝浦はそう言うが、見るからに高級そうなチョコだ。
 義理で渡すようなものには見えないのだが。

「これは、流石にお前にあげた相手に悪いだろう。どう見ても本命って奴だろう」
「いやいやいや、本命じゃないし」

 手塚の言葉に、芝浦は大げさな否定をした。

「これ、ビター系のチョコ多いし。お酒が入ってる奴もあるから俺食べられないんだ。だから頼むよ、ホラホラ」

 そして半ば強引に鞄の中にチョコを入れようとする。

「わかった! わかったから人の鞄を勝手に開けるな! まったく……これは受け取っておくが、お前にこれをあげた相手にはちゃんとお礼を言うなりお返しをするなりきちんと誠意をつくすんだぞ」
「へへー、わかってるって。ありがと」

 その後占いをし、暫く雑談してやけに上機嫌で芝浦は帰っていく。
 また暇になった手塚はもらったチョコレートを鞄から取り出した。

 開けて見れば芝浦の言う通り、ビターチョコ中心のアソートだ。
 ウイスキー入りのものもある。

「ん……だがあいつ、何で開けてないチョコの中身を知ってたんだ?」

 成分表はパッケージにあり、ラッピングされた包み紙にはない。
 そういえば以前アウトレットで見かけたが、あそこは高級洋菓子店も多く出店していたか。

(まさか最初から俺にくれるために……?)

 手塚はその中にあるビターチョコを口にする。

「いや、まさかな……」

 口の中にほろ苦い味が広がり、芝浦の無邪気な笑顔が浮ぶ。
 その笑顔の真意が何処に有るのか。手塚が占えばあるいは「見えた」かもしれないが今はそれをしない事にした。
 本当のことを知ってしまうより、今はもう少しだけこのむず痒いような気持ちに惑わされていたかったから。

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