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インターネット字書きマンの落書き帳

   
帰ってこない他人のアイツ(みゆしば)
平和な世界線でいずれ付き合う事になる手塚と芝浦の概念です。(挨拶兼幻覚の説明)

旅行するから暫く会えない。
そう告げて別れたしばじゅんちゃんが、旅行終ったはずなのに中々姿を見せなくて不安になってしまうみゆみゆの話ですよ。

だいぶ手塚が「クッソ重たいし面倒くさい男」になってるんだけど、俺ぁあいつだいぶ重たいし面倒くさい男だと思っているので、そうなりました。

俺が思ったからそうなんです。
二次創作はすべて俺の非公式設定を披露する場所です。




『上客が帰ってこない』

 客足が途切れる事はなかったが、手塚の占いはどこか上の空になりがちなのに気付いていた。
 今日で一週間経つが、上客である芝浦淳が姿を見せないからだ。
 最後に会った時に、彼は言っていた。

『一週間ばかり旅行する事になったから、暫く見せにこられないと思うけど寂しがらないでね』

 茶化すような笑顔で言っていた。
 旅行先は海外であり、赤道近くにある常夏の島だとは聞いていたが詳しい行き先は聞いていない。詳しい行き先を聞くような間柄でもなかったからだ。
 だが旅行先を何となく知っているのは、出発前に占いをしていたからである。

『旅行っていっても家族の手伝いみたいなもんで、現地の視察と通訳がメインだから観光って感じじゃないんだよね……あ、占い師さん。運勢占ってよ。旅行先でトラブルとかないか……そういうの本業だよね』

 芝浦は占いをしにくるというより殆ど雑談をしにくるような男だったから、こうしてまともな占いは久しぶりだった気がする。
 結果は……。

『どう? 思ったよりよく無い感じかな?』

 手塚の表情が曇ったのに気付いたのだろうか。こちらの顔をのぞき込みそう言われたので、正直に答える事にした。

『いや、別段大きな事故があるとか、災厄があるといった類いじゃない……ただ、トラブルの多い旅にはなるだろうな。行かなくていいなら、行かない方がいいくらいだ』
『マジで? あー、でも絶対行かないといけないんだよな……あ、でも飛行機事故とか、犯罪に巻き込まれるみたいなのは無い感じ?』
『そういうのは無いが……』
『ならいっか。今回、かなり治安の悪い所みたいだからそっちの方心配してたんだよね……』

 何気ない言葉だったが、今となっては気に掛かる。
 事件、事故、犯罪。そういった大事には至らないが小さなアクシデントが多数あり、疲労するばかりの旅になるだろう……自分が読み違えていなければ占いの結果はそうだった。
 だが治安が悪い国での「アクシデント」こそ、犯罪関係だったのではないか。
 そうだとすると、やはり無理矢理にでも引き留めた方が良かったのではないか。

(いや、俺がそんな事を言える立場ではないが……)

 自分が芝浦にとってもっと近しい関係だったら……。
 肉親、親戚、家族の立場であったら止められていただろう。あるいは長年の友人であったのならもっと強く言えたはずだろうが、たかが占い師の立場で出来る事など限られている。
 そう、自分と芝浦の関係は占い師とその客でありそれ以上の事は何もないのだから。

(こんなに気にする理由も必要もないというのにな)

 他の客でこんな事があっただろうか。
 占いは良くない結果が出る事もあり、それを避けるためにアドバイスする事は多い。
 だがそれを受け入れるかどうかは客の判断であり、自分に出来る事はそれ以上ない。

 今までそうしてきたし、それで良かったと思っていたのだがどうしてこんなにも気に掛かるのだろう。

(俺が恋人だったら止められたかもしれないか……)

 手塚の脳裏に、そんな考えが浮んですぐ消えた。
 何を馬鹿な事を考えているのだ。相手はただの客でしかないし、言葉を交した事もそれほど多いワケではないというのに。

(下らない事を考えたな……俺はあの手の男にどうも弱いところがある)

 天真爛漫で頭が悪いワケではないだろうがどこか世間知らずな所があり、放っておくととんでもない事をしそうな気質が芝浦にはある。
 そういった気質は親友の斎藤雄一を思い出させた。彼と長く親友をやっているのは、マイペースで自分の信念に関わらない事に対しては大らかだがお坊ちゃん育ちのため常識に疎いからつい世話を焼いてしまうが、そういった手塚の介入を斉藤が拒まないからというのはかなり大きい。

 手塚は自分の育ちがあまり良くない、というのを自覚していた。
 恵まれた環境の中にいたとは言えず、家族とも疎遠だ。
 だからこそ、恵まれた家庭……裕福で、自由に育てられ、親と対話が出来るような家庭で育った相手に羨望があり、同時にそんな相手が自分の「思い通りになる」という事にある種の喜びを覚えるような所があった。

 自分がどう足掻いても手に入らないものをもっている。
 その相手が自分の思い通りになるのなら、自分もそれを「もっているのと同じ」なのではないか……そう感じるからだ。

 手塚は自分のそういった欲求を完全に理解していた。それが愛情というより自己満足に近いという事も、自分の人生に欠けたものを補うために他人の運命まで絡め取ってはいけないという事も。

(……気をつけないといけないな)

 手塚は自分の愛情が「重い」という事をよく知っていた。今まで付き合った相手は手塚の愛情を背負いきれずにすぐ根を上げ逃げ出した相手も多い。
 付き合うまでクールで素っ気ないくらいに見えるくせに、深い仲になると束縛が強くなるのも理由の一つだろうがその性分はもはや矯正出来ない程根深いものになっているのは自身でも気付いていたから。

(俺は誰かを愛するのに向いてる方じゃない……)

 だがひょっとしたら、全てを受け入れる事が出来る相手がどこかにいるのではないか。
 そして芝浦は、その相手なのではないか。
 僅かだが期待してしまうのは、芝浦がむける眼差しに強い好意を感じるからだろう。
 本人は隠しているつもりなのかもしれないし、手塚もその思いにはあえて鈍感に振る舞うようにしていた。しかし、にじみ出る憧憬と思慕の入り混じった感情はどうしても肌に感じてしまう。

 芝浦はまだ年若い。
 こちらに好意が向いているうちに手塚の思うような器に仕上げる事も可能なのではないかと思ってしまう。
 だが好意を利用して、相手をうまく扱おうなんて発想はそもそも愛があるものだろうか。

(……良くないな、余計な事ばかり考える) 

 深く息を吐き、並べたカードをしまう。
 珍しく客入りが良く長く続いていた相談が一段落した時、すでに14時近くになっていた。
 妙な気を起こすのは空腹のせいもあるだろう。ランチタイムは終っているが、ちょっとしたものを腹に入れておきたい。
 そう思い一度店を片付けようと思案していたその時。

「占い師さーん、久しぶり。元気だった? あ、これ旅行のお土産-」

 一週間ぶりに聞く声で顔を上げれば、そこには芝浦が立っていた。
 海外に行っていたからか、肌は幾分か焼けて見える。
 その顔を見た瞬間、それまで抱いていた靄のかかった気持ちが一気に晴れ安堵の気持ちが広がっていくのが分った。

「あぁ、芝浦か……旅行はどうだった? あまり良くない結果だったから心配したが」

 見た事のないような言語がかかれたチョコレートの箱を見ながら聞けば、芝浦はスツールにこしかけ苦笑いをする。

「いやー、それね。占い師さんの占いやっぱ当たるんだ。ホテルは水が出ないし電気は止まるし、英語が話せるって人は全然英語話せてないし、何か調べようにも電波届いてないしで散々だったよ。ま、ちょっと向こうの言葉喋れるようになったのはラッキーだったかな。食事が会わなくてちゃんとしたもの食べれなかったから、こっち戻って来てすぐおにぎり買っちゃったよね」

 占いでもそれほど大きなトラブルではないと出ていたが、困りはすれども大事件や大怪我に至る事はなかったようだ。

「そうか……土産までもらうなんて、気を遣わせたな」
「別に気にしなくていいよ。むしろこの手のお土産ってそんな美味しくないからあんまり期待しないで……って、占い師さんひょっとして今、ご飯食べに行く所だった? それなら俺、出直すけど」

 店の違いで手塚が食事に行く頃合いなのに気付いたのだろう。
 芝浦はちょうど昼食に出ようとしていた時に現れる事が多かったのだ。

「あぁ、そうだ……食事にしようと思ってな。何なら芝浦、一緒に行くか?」
「え、いいの? 俺も今日はまだ何も食べてないからどこでも付き合うよ」
「それなら行くか……今日は客入りも良かったし、奢るぞ。そのかわり、あまり高い店は勘弁してくれ。土産の礼と、無事に帰ってこれた記念……だな」

 店を片付けながらそう言えば、芝浦は嬉しそうに笑う。

「じゃ、ファミレスでいい? いま、こっちのご飯なんでも美味しく感じるんだけどさ、占い師さんと一緒に食べるんならすっごい美味しいと思うんだ」

 無邪気に語る言葉は時々直接的すぎて鈍感に振る舞うのを戸惑わせる。
 抱きしめたらどんな風に思うのだろう。手を握ったらどんな顔をするのだろう。
 その思いが本当に愛情なのか、それともただの憧憬なのか試してみたくなるのだが。

「あぁ、お前の好きな所でいい……俺もお前となら、楽しく食事が出来そうだ」

 全て心に秘めようと思う。
 自分の愛は重く、束縛が酷い。ひょっとしたら相手を壊してしまうかもしれないし、自分すらも壊れてしまうかもしれないのなら、この温かな距離感のままでいる方がいいのだろう。

 それこそが最も賢い判断のはずだ。
 だからこれ以上どうか愛しいと思わないで欲しい。これ以上思ってしまうと、歯止めが利かなくなりそうだから。

「先に行ってるよ、占い師さん」

 手を振りながらそう言う芝浦を見つめ、ただただ自分の思いを封じる。
 その願いは叶わず思いは日に日に大きくなり、自制出来ない域に入るまでまだもう少しの時間が必用だった。

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