インターネット字書きマンの落書き帳
昔の男に告白される話。(手芝・みゆしば)
平和な世界線で普通に恋人同士として付き合っている手塚と芝浦の話です。(挨拶)
最近はわりと「散々過去に男を食い散らかしてきたからその清算をしている芝浦」という概念が好きなので今回は過去の男に「よりを戻さないか」と迫られて「今恋人いるからむーりー」と断るしばじゅんちゃんという概念ですよ。
しばじゅんちゃんに「学生時代は好みの男に金で抱かれていた」という過去を付属させていますが、俺の趣味です。
ちなみに童貞だけど処女じゃないのも俺の趣味です。
みゆみゆ出ないのはバグではなく仕様ですよ。
最近はわりと「散々過去に男を食い散らかしてきたからその清算をしている芝浦」という概念が好きなので今回は過去の男に「よりを戻さないか」と迫られて「今恋人いるからむーりー」と断るしばじゅんちゃんという概念ですよ。
しばじゅんちゃんに「学生時代は好みの男に金で抱かれていた」という過去を付属させていますが、俺の趣味です。
ちなみに童貞だけど処女じゃないのも俺の趣味です。
みゆみゆ出ないのはバグではなく仕様ですよ。
「それはすぐに遠い場所になる」
普段は来ない街の喫茶店で、芝浦はうんざりした顔のまま向いに座る男を見ていた。
綺麗な顔立ちをしたやや細身の男だ。
男は低いがよく通った声で芝浦に頭を下げて見せた。
「あの頃の俺は本当に浅はかだったとは思っているし、キミに何か言える立場でもないのは充分分っているつもりだよ。だけどどうしてもキミの事が忘れられ無いんだ。勿論あれから他の出会いがなかった訳じゃないんだけれども……」
男は頼まれてもいないのにつらつらと過去の話を並べる。
それを聞き流しつつ芝浦は目の前に置かれたコーラフロートをかき混ぜた。
男の名前はよく憶えていないが、顔には何となく覚えがある。
好みの顔と身体に心地よい声。自分より随分と年上なのも考えると数年前に身体の関係だけで繋がっていた男の誰かだろう。
芝浦は学生時代(といってもまだ学生ではあるのだが)性処理用のため幾人かの男と関係をもっていた。
顔と、身体と、声。
この三つが芝浦の好みであり、年上で金を払って芝浦を抱きたいと思う相手だけと関係をもっていたがそれでも数年間で幾人か相手は変わっていただろう。
金をもらっていたのは生活に困っていた訳でもなければ小遣いが欲しかった訳でもなく、『これはビジネス上の付き合いであり、心が通い合った訳でもなければ本気で恋人になるつもりもない』といった意思表示のような意味合いが強かったのだが、それでも芝浦に入れ込んで恋人になりたいと懇願する男たちは幾人かいた。
あの頃は「恋人なんて面倒くさい」と思っていたし、当時まだ少年と呼んだ方が良い年頃だった芝浦を組み伏せて抱く男たちを「まともじゃない」とも思っていたし今でもそう思っているので勿論恋人になるつもりは欠片もないのだが。
「……俺と付き合ってくれないか? 別れた今でもキミの事が忘れられ無いんだ」
男は再度頭を下げた。
ジャズの音色が流れる薄明かりの雰囲気が良い喫茶店は一時の休憩を得る主婦やカップルらしい男女が静かに語り合っている。そんな中、年下相手に幾度も頭を下げる男は周囲からどのように見えているのだろうと芝浦はぼんやりと考えていた。
「無理かな。アンタにとって忘れられ無い男だったかもしれないけど、俺はアンタの事忘れてたし。この時点でお互いの気持ち全然歩み寄れてないでしょ。そんな状態で付き合ったってアンタが惨めになるだけだと思うよ」
男と会ったのは偶然だった。
父の代理として顔を出す事になったその会場に、この男も偶然顔を出していたのだ。
義理は果たしたから早く帰ろうと思ったのだが、呼び止められ懇願され立ち話をするのも悪いからと喫茶店で話をする事になったが、やはり何も聞かず帰った方が良かったか。
新幹線もあるし早めに切り上げたいと思っていたが、男は簡単に諦める事も無さそうだ。
「キミがそう言うのも分ってる。キミといた頃の私はもっと自分本位で……」
男はつらつらと、自分が悪かった事。その後どんな相手と出会っても芝浦と比べてしまうという事。今は以前と違い立派な仕事についているから苦労はさせないという事などを並べ立てる。
実際、芝浦が呼ばれるほどの会場に男がいたのならかなり苦労し良い仕事をしているのだろう。出会い方は最悪だが今まで一途に思っていてくれたのなら純愛と言ってもいい。
「話は分ったけど、尚更俺なんかに拘ってちゃダメだと思うけど? アンタが以前と違って立派になったのは見て分るよ。でも俺は以前と全然変わらないまま。自分勝手でワガママで奔放で、アンタじゃすぐ持て余すのが目に見えてるじゃん。俺さ、自分が遊ぶのはいいけど、遊ばれるのは嫌なんだよね」
「遊びだなんて、私は本気で……」
何とか煙に巻こうとするが、芝浦が何を言っても男は食い下がってきた。
普段は来ない街で偶然出会ったのだ。相手からすると運命の再会にでも思えたかもしれない。
(仕方ないか……黙っていてもしょうが無いし。そろそろ帰りたいしね)
芝浦は喫茶店におかれた背の高い振り子時計を確認すると、小さくため息をついた。
「それにさ、俺いま彼氏いるんだ」
その言葉に、男は驚いたように目を丸くして見せた。
芝浦に恋人がいる事がよほど意外だったんだろう。だが無理もない。数年前の自分だったらとても恋人なんてつくれるとは思っていなかったし、そういう関係を最も忌み嫌っていたのは自分自身だったのだから。
「ほ、本当か……キミが?」
「あー、そうなるよね。俺だって信じられない位だもん。でもマジだから、写真見る? 二人でいる写真はないけど……ほらこれ、今の彼氏」
そう言いながら携帯で撮った写真を見せる。
写っているのは手塚だけだったが、その写真を見て恋人関係を疑う者はいない程度に親密な間柄でないと撮れない写真だ。
それを見ると男はまだ驚いた顔のままだったが、幾分か勢いを無くしたようだった。
「そうか、そう……か。キミの好きなタイプの顔をしてるな」
「あ、それ言う? これ言ったらあいつ怒るだろうけどさ、アイツの事、最初『好みの顔と身体だな』と思って声かけたからね……ま、まさか俺がこんなに好きになっちゃうとは思ってなかったけどさ」
そう言いながら笑う姿は惚気にしか見えなかっただろう。
男はさっきまでの積極性はすっかり消え、諦めと放心が入り混じったような顔をして見せた。
「そうか、それなら……仕方ないな」
さっきまで運命だと思っていた相手にすでに恋人がいたのがよほど堪えたのだろう。
だがしつこく食い下がってくるほど執念深くない相手なのは安心した。
あるいはそこまで惨めな男として記憶に残りたくはなかったのかもしれないが。
「……そんなにいい男なのか、今の恋人は」
「うん、まぁね。結構口うるさいけど優しいし、俺にひどい事しないし……アンタけっこうひどい事する奴だったよね? プレイが特殊っていうか……」
「それは悪かったと思っているんだ、若気の至りとでもいうか……」
「ははッ、そんな顔しなくていいって。俺も結構楽しんでたしさ」
芝浦は笑いながらコーラフロートを飲む。
実のところ被虐的な行為で昂ぶってしまう性質はこの頃の男たちに仕込まれた部分が少なからず存在したからだ。
「……それじゃ、俺そろそろ行くよ。こっちに泊まる予定ないから、早めに帰りたいと思ってるからね」
立ち去ろうとする芝浦を前に、男はふっと口を開いた。
「何をしたんだ、そいつはキミに……何をしたからキミの心を捕らえる事が出来た? キミのその風のような心を……」
やけに詩的な言葉を使うようになったものだ。
そんな事を思いながら、芝浦は笑っていた。
「別に、アイツが俺に何かしてくれたって訳じゃないかな……むしろ、俺がアイツに何かしてやりたくなったから好きになった。そんな感じかな」
その笑顔を見て、男は哀しげな。だがどこか満足そうな顔をして見せた。
「そうか、それなら仕方ない」
「それ言うの二回目じゃない?」
「一度目は理解したが納得はしてない『仕方ない』だった。だが今のは納得も理解もした『仕方ない』だ。それを聞かされたら諦めるしかない事くらい、私だって分ってるさ」
喫茶店の伝票を取ろうとする芝浦の手を遮って男は言う。
「まさか年下のキミにおごらせる訳にはいかないだろ。これくらい払わせてくれ」
「いいの? 俺の方が飲み食いしたし、これで金に不自由してないけど」
「それはキミの金じゃなくて親の金だろう。これで過去が清算できたと思えば安いものだ……一時だけでも夢を見させてくれてありがとう。幸せに……」
ずっと年下の男を金で買うような奴にはろくな相手がいないと思っていたし、実際殆どその通りだがこの男は少し「マシ」な方のようだ。
「ありがと。アンタも幸せにね……俺の恋人さ、俺なんかに引っかかっちゃったから苦労してるみたいだから、アンタは次こそもうちょっとマシな相手好きになりなよ?」
芝浦は笑うと喫茶店から出ていく。
「あ、折角遠出したから手塚に何か土産買っていこ……食べ物のがいいかな。ご当地ビール? ここって名物なんだっけ……駅で買えるかな……新幹線の時間間に合うといいけど」
冷たい風が吹く中、芝浦は早足で歩き出す。
今まで話し込んでいた喫茶店はすぐに遠くになり、やがて見えなくなっていった。
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