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インターネット字書きマンの落書き帳

   
雨の日と濡れた恋人(みゆしば)
平和な世界線で普通の恋人同士として付き合っている手塚と芝浦の話です。
このCPを書き始めた(発作がおこった)のがだいたい今ぐらいの時期だから、1年くらいは書いた事になりますね。

俺はしつこいので何度も何度も書いて。
そのうち何割かは「また同じ話している、お爺ちゃん……」と思えるくらいになって……いきないなッ!

今回は、梅雨時になりまして雨だから今日はダラダラしてよう。
そう思っていた手塚だったけど、無性に恋人の事が恋しくなってしまう話です。

愛の話をしようじゃないか……。




『濡れた身体と濡れた目で』

 目を覚ました時、雨風が狂ったように窓を打ち据える音がしたので手塚はすぐに二度寝をする事にを決めた。
 普段から外での占いを商売にしている手塚にとって天候はその日の稼ぎを左右する。暴風雨と言っても過言ではないこんな天気だと立ち止まる客などいないだろうし、簡素なテーブルだけの店は飛ばされかねない程非道い雨が降っていた。

(最近評判のゲリラ豪雨とかいう奴か。とうとう本格的に梅雨のシーズンになったんだな……)

 激しい雨音を聞きながら、手塚はぼんやりとそんな事を考える。
 もちろん、雨の日は客が来ないからといって店を出すのをやめれば稼ぎがまるで無くなってしまう。だからこの時期は普段店を出している公園より、屋根付きのショッピングモールなどで店を出す事の方が多かった。
 今日もそちらに店を出してもいいのだが。

(先月は気候もよく客足も多かったからな……こんな豪雨でバイクを走らせるのも億劫だし、今日は休みにするか……)

 雨音を聞きながらタオルケットにくるまれば激しい雨音も不思議と心安まる子守歌のように聞こえてくる。
 会社勤めの人間はこんな日でもスーツを着て満員電車に飛び込むのだろうか。濡れた傘の雫で足下を濡らし、荒れ狂う風に傘を折られながらも出勤しているのかと思うと心の底から「ご苦労様」と思う。
 手塚の仕事は決して収入が安定しているワケでもなければ他人に名乗った時に自慢できるような仕事とも言い難いがこんな時は自由気ままに生活できる立場というのは有り難いと思うのだった。

(もう少し雨足が弱くなったら店を出すか……いや、だが今月はまだ余裕がある……今週は今日が一番雨足が強いのだから明日以後に考えるか……)

 ベッドの中であれこれと考える暇うちに手塚は眠りに落ちていた。
 それは先月思いの外多くの客を相手にした疲れもあったのかもしれないし、梅雨時で不安定な気候に知らずに体力を奪われていたからかもしれない。
 普段はあまり二度寝などしないタチである手塚が目を覚ましたのは午後になってからだった。時計を見ると、とっくに正午を過ぎている。外は相変わらず荒れ狂うような雨風が吹き付けており、あまり日当たりのよくない部屋はいっそう暗く思えた。

(思ったより寝入ってしまったな……疲れてたんだろうな)

 手塚は身体を起こすと一つ大あくびをする。
 ただ寝ているだけでも腹が減れば喉も渇く。手塚は寝ぼけた顔のままキッチンへ向うと冷えた牛乳をパックに口を付け一気に飲み干した。

 冷蔵庫には卵とベーコンが。キッチンラックにはパンとインスタントスープがある。
 腹を満たすには足りないかもしれないが何も食べないよりはいいだろう。そんな事を思いながら手塚はトースターを取り出した。

(普段ならこのトースターで1枚、芝浦の分も焼いてやるんだよな)

 何気ない日常の行動で、ふと芝浦の顔を思い出す。
 今日は非道い雨だが台風ならまだしも梅雨時の豪雨で休校にはならないだろう。彼も数多の会社員と同じように濡れながら大学に通っているのだろうかと考え、すぐにそれを否定した。
 根っからのお坊ちゃんで桐箱に入れて大切に育てられている芝浦が、雨に濡れての移動なんてしないだろう。家には運転手付きの車があるし、必用ならタクシーを迷わず使うはずだ。今日のような天気の日はきっと登下校ともに運転手付きの車で移動しているに違いない。

(つまり、うちに来る事はないか……)

 焼けたばかりのパンを囓りながらぼんやりとそんな事を考える。
 先月は何かと忙しかったからあまり会ってゆっくりと話せていなかった気がしていた。

(疲れていてちゃんと芝浦と話していなかった気がするが……もっとゆっくり話をしていればよかったな)

 会えないと思うと余計に後悔が募る。
 今考えても仕方がない事なのだが、こんな鬱屈とした気分になるのは鳴り止まぬ程激しい雨足のせいもあるのだろう。
 手塚は食事を終えるとシンクに食器を浸したままソファーに横になりテレビを見ていた。
昼のテレビは昔のドラマの再放送か、何かと物事を大げさに煽るようなワイドショー。ゴールデンタイムに新しく始まる番組の宣伝ばかりと手塚の興味をひくものはなかったがそれでも雨音を聞いているよりマシだろうと思って流しっぱなしにして本などを読む。

 だがどうにも集中出来ない。

 芝浦は今何をしているのだろうか。
 大学で授業を受けているのか、家に帰って自分のように怠惰に過しているのだろうか、友人などと他愛もない話をしているのかもしれない。
 頭の中に廻るのは芝浦の姿ばかり。
 彼がどこで何をしているのか、ただそればかりだ。

(いけないな……こんな事ばかり考えても仕方ないというのに……)

 心の何処かで温もりを求めているのだろう、触れられない恋人への思いは募るばかりだ。
 会えないだけでこんなにも彼の事ばかり考えてしまうなんてきっと芝浦に言ったら苦笑いしながら『本当に重い奴だよね、アンタって』と茶化すに違いない。
 実際に自分の愛情は重いと思っているし、芝浦の事を束縛してばかりだと思う。だがそれを自覚した上で会いたいと思うのだから仕方ない。

(芝浦は今どこにいるんだ? 連絡して会いに行くか。バイクは出せないが大学までなら歩いて……)

 携帯電話を弄りながらそんな事を考えているうちに、アパートの鍵が開く。
 誰か来たのだと思うより先に現れたのは芝浦の顔だった。

「あ、手塚。ごめんごめん、連絡しないで……へへ、来ちゃった」

 合鍵を渡しているのは芝浦だけなのだから来るといったら芝浦だけなのだろうが、それでも来るとは思っていなかった恋人が突然目の前に現れた驚いていた。
 見れば髪も服もすっかり濡れている。 雨だけでなく風もかなり強かったから、手にしていた傘もあまり役に立たなかったのだろう。

「芝浦……どうして」
「んー、何か会いたいなーと思って」

 そう、芝浦はそういう男だ。自分と違って考え込む事がなく先に行動するタイプだ。
 軽率すぎる所もあるが芝浦のそのアグレッシブな性格により助かる事も多く、今回は「助けられた」と言えるだろう。

「外、そんなに非道かったのか? 服も髪もびしょ濡れじゃないか……タクシーでも使えば良かったろうに」
「だって、手塚の家までうちの車で送ってもらうワケにはいかないでしょ? ……一応、秘密にしてるんだし。へんな所で手塚の事バレて、手塚に迷惑かけたくないもん……ウチって手塚が思っている以上に厳しいし、面倒な家だからね」
「だからってこんなに濡れてまで……」

 手塚は慌ててバスタオルをとると、濡れた芝浦の身体を拭く。
 髪だけではなく服もすっかり濡れていて、白いシャツからは肌が透けて見えた。
 こんなに濡れても会いたいと思ってくれるのは嬉しいが、心配にもなる。

「風邪ひいたらどうするんだ……身体を大事にしろ」
「うん、分ってるんだけどね。どーしても手塚に会いたいって思ったら雨とか全然気にならなくて……むしろ、早く会いたいなって楽しみしかなかったんだよね」

 だが芝浦はそう言いながら無邪気に笑って見せた。
 本当に手塚に会うためなら何の苦痛も厭わないのだろう。

 同時に芝浦も自分と同じ「重い男」なのだと改めて思い知る。
 自分もそうだが芝浦もそう。

 芝浦は手塚がいなければもう生きて行く理由もないし、生きて行く指標もない。
 自分も大概に重い男だが、芝浦もそうだ。
 自分がなければもう生きていられない。自分がいなければすぐに道を失ってしまう。 そんな、愚かで可愛い「手塚の恋人」なのだ。

 愛しさから芝浦の濡れた身体ごと抱きしめれば、彼は困ったような顔をする。

「手塚。俺ビショビショだから……手塚も濡れちゃうよ」
「いいんだ、お前がこんな思いをして来てくれたのに俺だけ部屋で暢気に過していたのは割が合わないだろ。それに……二人して濡れたのなら、二人でシャワーを浴びるのも悪くないだろうからな」

 その言葉を聞き赤くなる芝浦が何か語るまえに手塚は唇を重ねる。
 濡れて冷たい唇からは初夏の雫が滴り、抱きしめた身体は少しずつ温かくなっていった。

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インターネット駄文書き
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