インターネット字書きマンの落書き帳
付き合う前の二人。(手芝・みゆしば)
平和な世界線で、いずれ付き合う事になる手塚と芝浦の話です。(挨拶)
今回はまだ付き合ってない頃、芝浦が手塚にとって「占いの客」くらいでしかなく、芝浦もまた手塚の事を「顔がいい占い師」くらいにしか思ってなかった、お互い友人になれるとも、ましてやその後恋人になるとも思ってもいなかった頃の話を……話をしたくなったので、します。
しました!
付き合って仲が深まっていく二人を書いていると、付き合う前の話も書きたくなるもんだよね。
俺がそう思ったので書きました。
みんなもそう思って楽しむといいよ!
今回はまだ付き合ってない頃、芝浦が手塚にとって「占いの客」くらいでしかなく、芝浦もまた手塚の事を「顔がいい占い師」くらいにしか思ってなかった、お互い友人になれるとも、ましてやその後恋人になるとも思ってもいなかった頃の話を……話をしたくなったので、します。
しました!
付き合って仲が深まっていく二人を書いていると、付き合う前の話も書きたくなるもんだよね。
俺がそう思ったので書きました。
みんなもそう思って楽しむといいよ!
『一歩踏み込む二人の距離』
手塚が時計を眺めれば、時刻は17時を過ぎていた。
これから夕方になれば公園の人波は一端途切れ、帰路につくものや夕食をとるものが多くなる。
その流れが終ればまたぽつぽつと占いの客が入るのだが、それまで少し客入りは減るだろう。
この間に一度店を畳んで食事にするか、それとももう少し店を出して会社帰りのサラリーマンやOL客に狙いをつけもう少し店を出してみるか。
あれこれ考えているうちに、見知った顔が近づいてくるのが見えた。
「よぉ、占い師さーん。よかった、今日は店出してたんだ。ちょっと隣に座って休ませてもらってもいい?」
それは最近店にくる客の一人だった。
名前は確か「芝浦淳」と言っただろうか。この公園と比較的近くにある大学に通っている大学生で、金払いも良い上客である。
最もこの芝浦は占いの結果より手塚と話しに来るのが目的のような所があり、芝浦が話す事の方が多いような所もあったから、普通は客の事などあまり知らないで占う事が多いのに芝浦についてはやけに知っている事が多くなっていた。
「芝浦、だったか。休むのは別に構わないが、今日は占いはいいのか」
「んー、ちょっと休んでからやってもらおうかな? そういえばこの前占った時、思わぬ災難があるから気をつけるように、って言ってたっけ。……もっと気をつけてればよかったよ、当たっちゃって酷い目にあった」
芝浦はそう言いながら笑うが、その笑顔は明らかに無理をしているように見えた。
膝を伸ばしたまま床に座る様子から見て、どうも足を庇っているように思える。
「……怪我をしてるのか」
「えっ? あ、うん、まぁ。でもたいした事じゃないし……」
「足だな、見せてみろ」
芝浦が止めようとする前にズボンの裾をたくし上げれば、足首が紫に腫れ上がっている。
触れれば熱をもっており、かなり酷い打ち身になっているのは明らかだった。
「この足で歩いてきたのか? 酷い怪我じゃないか」
「うん、まぁね。でもちょっとワケアリで……」
「どんなワケがあってこんな酷い怪我でここまで歩く必用があったんだ……」
手塚はすぐに店を片付けはじめる。
「ちょ、占い師さんどっか行っちゃうの? 俺もうちょっと休ませて欲しいんだけど……」
「病院に行くつもりは無いんだろう。だったら俺の家に来い。湿布くらいはしてやる……動くな、今すぐバイクを取ってくるからな」
手塚の行動に芝浦はどうしていいのか分らず戸惑った様子を見せたが、ヘルメットを渡され。
「乗れ。心配するな、お前を取って喰おうとは思わないからな」
そう言われたら断れないと思ったのか、あるいは本心では誰かの助けを待っていたのかもしれない。芝浦は素直にヘルメットを受け取ると、素直にバイクへ乗ってきた。
「少し揺れるぞ。しっかりつかまってろ」
「あ、うん。わかった」
芝浦は思ったより細い手で手塚の腰へとしがみつく。
それを確認すると、手塚はエンジンを吹かして自宅への道を走り出した。
大通りを真っ直ぐ抜けおおよそ5分ほど走った所に、手塚のアパートはある。築15年を過ぎお世辞にも日当たりが良いとは言えないアパートの1階だが、立地にしては家賃が安くリビングと寝室の二部屋使えるのが気に入って随分と長く暮している場所だ。
「へぇ……ここが占い師さんの家? オートロックとか無いアパート初めてみたんだけど」
「男一人で暮すのならこれで充分だからな……入れ」
芝浦は戸惑いつつも足を部屋へと上がる。
足を引きずっている様子からすると、やはり相当痛むのだろう。
「部屋にソファーがあるだろ。そこに座って……いや、そこで横になってろ。応急手当くらいしか出来ないが、薬箱をもってくる」
「あ、ありがと……」
薬箱の中を確認すれば、市販の湿布薬が何枚かある。
(いや、打ち身なら冷やした方がいいか……)
手塚はふとそう考え、冷蔵庫を開けると保冷剤をいくつか取り出してそれをタオルに包んだ。
「足を見せてみろ……やっぱり、随分と酷い打撲になってるな。痣が出来てる……何だ、片足だけかと思ったら両足もか。膝も擦りむけてるし、何をやったらこんな怪我になるんだ?」
「ま、色々とワケアリで……あんまり聞かないでくれる? 一応言っておくけど、俺が悪い事したってワケじゃないから」
「打ち身になってる足はひとまず冷やしておく。保冷剤はまだあるから温くなったら言ってくれ。擦り傷は消毒とガーゼでも張っておくか……これは後から痛くなるぞ。もし酷くなるようなら、諦めて病院に行け」
両足に保冷剤を撒き、すりむいた膝や手を消毒していく。
その姿を芝浦は暫く黙って見ていたが。
「……占い師さん、結構優しいんだね。フツー、ただの客が怪我してきたからってここまでしてくれる?」
不思議そうに問いかけてくる。
確かにそれは、そうだろう。正直手塚自身もただ顔を見知っているだけの客に対してここまで親身になる理由も必要もないと思っていたし、いつもの手塚であればここまでしないだろう。
ただ芝浦は何となく助けてやりたい気持ちになるのだ。
隙が多そうに見えるからか、見た目が小動物を思わすからか、何となく保護しておかないといけないような気持ちを抱いているのは事実だった。
「ただの客といえばその通りだが、お前は上客だからな。それに、何となくだがお前は放っておけない。放っておいたらダメになりそうな所があるからな」
「ダメになりそうって何だよ……それ占いの結果? それとも俺の雰囲気見て言ってる?」
「さぁ、どうだろうな」
手塚は曖昧に誤魔化すと温かなハーブティを差し出す。
起き上がりそれを啜りながら、芝浦はぽつぽつ語り始めた。
「実は、先輩から研究の手伝いして欲しいって呼ばれてさぁ。普段行かない研究室に色々と運んでたんだよ。そしたら急に後ろから抱きつかれて、ヤバイなって思った時に床に押し倒されてて……俺って昔から結構そういう男に絡まれてたからさ、とっさに相手の顔引っ掻いて逃げようと思ったんだけど、そこ2階じゃん。出入り口にはアイツがいるし、どうしようかなと思ったんだけど、あいつにいいようにされるくらいならって窓から飛び降りて逃げてきたんだよね」
通りで両足が酷く腫れているはずだ。
二階から飛び降りた時に足をどこかにぶつけたか、その衝撃に耐えられなかったのだろう。それでも無理をして公園まで逃げて来たのならこれだけ足が腫れるのも分る。
「俺って男を誤解させるのかな? なーんかこういう事多いんだよね……」
芝浦は頭を抱えながらため息をついた。
話している口ぶりや対処法を見てもこのような目にあった事は一度や二度ではなさそうだ。
実際、芝浦を何度か占っているがどうにも災いを引き寄せやすい性分であるのは分っていた。それは本人の挑発的な態度が他人の怒りを煽るというのもそうだったが、大人しそうかつ可愛らしく見える外見だというのもそうなのだろう。
「あ、でもこれで占い師さんがいい人だって分ったのはラッキーだったかな? ……ただの客でしかない俺が怪我してるって知っただけで家に連れて行ってくれて、何も聞かないで治療してくれるとか、普通じゃ出来ないもんねー」
そう言いながら笑う芝浦の言葉は軽いが、内心かなり傷ついているのだろう。無理矢理笑っているように見えて、それが手塚にはかえって痛々しく思えた。
「どうだろうな、善意でやってるんじゃないかもしれないだろう。俺が何かするような男だとは思わなかったのか?」
「それは考えたよ? 今さっき酷い目にあったばっかりでいきなり優しくされたから疑っちゃったのは正直な所だし。んでもさ、占い師さん悪い人って感じじゃなかったし。それに……占い師さんだったら裏切られて酷い事されても、ま、仕方ないかなってちょっと思ったんだよね」
ハーブティを飲み干すと、芝浦はまたソファーに横になる。
「流石に1日に二度も裏切られたら俺の見る目が無かったなーって諦めもつくし……それにさ、占い師さん俺が休ませてくれって言っても、嫌な顔しないで受け入れてくれたじゃん。あの時ホント、しんどかったからそれだけで嬉しかったし、救われたって思ったんだよね。だから、少しでも助けてくれた相手だったら、ま、いいかなとか思ったんだ」
ソファーに横たわる芝浦は顔を隠していたからどんな表情をしているのか分らなかった。
どこまで本気なのかはわからないが、気持ちが参ってるのは間違いない。
ただ占い師と客という間柄ではあるが、差し出した手を今更引っ込めるのも気が引けたし何より手塚は本心から「力になってやりたい」と、そう思い始めていた。
「安心しろ、そんな事はしない。今は少し休むといい……」
「うん、ありがと……」
「そういえば芝浦、家族に話はしてあるのか? 帰らないと心配するんじゃ……」
それを言われ、芝浦はやや渋い顔をしてみせる。
「うーん、ちょっと家族には知られたくないかな……それに家さ、普段から俺くらいしか家にいないんだよね。だからどこに居ても一緒だから、痛みがひいたらビジホにでも泊まって様子見るつもり」
「それなら無理せず家に泊まっていけ。ちょっと待ってろ、ベッドを開けてきてやる」
「えっ!? ちょ、流石にそれは悪いって。占い師さん!?」
芝浦は止めようとしたが、手塚は寝室のシーツを変え室内を整える。
「よし……あまり綺麗な部屋じゃないが、それでも良かったらうちで休んで行くといい」
「占い師さん、優しい通り越してお人好しすぎるでしょ? 俺が泥棒とかだったらどうするつもり? 怪我がフェイクで急に強盗になったりするとか考えてないワケ?」
「どう見てもその怪我がフェイクなワケないだろ。盗むようなモノもない。それに……」
手塚は今し方芝浦の見せた、寂しそうな笑顔を思い出す。
「……それに、お前は何だか放っておけない所があるからな」
「何だよそれ……」
「とにかく、ベッドに横になれ。動けるか? ……まぁいい」
手塚はソファーに横になる芝浦の身体に手を伸ばすと、彼の身体を抱き上げる。
「ちょっ!? 占い師さん、結構力あるね!? 俺、そんな軽くないと思うけど?」
「そうだな、細いように見えたがやはり男の身体か……あまり話かけると落とすかもしれないから少し黙ってろ」
芝浦は頷き、手塚の首へと手を回す。
落ちないように注意深く芝浦の身体を包むと、ゆっくりベッドへ横たわらせた。
「……ありがと、占い師さん」
「俺はリビングにいる。何かあったら呼んでくれ。足の腫れは高くしておいた方が治りが良いはずだから、足の下にクッションを入れておくからな」
「うん、わかった……」
ベッドに横にしてすぐ、芝浦は微睡みはじめる。
疲れていたのか、それとも思ったより緊張していたところようやく安心できたのか。手塚が二度目に部屋を見た時、彼は寝息を立てていた。
「何でだろうな……」
その寝顔に触れ、手塚は考える。
今まで客に対してここまで深く関わった事はなかった。それは占いの仕事上、常連はいるがその時々にアドバイスをするだけの関係というのが多かったのもあるだろう。
ただの客ながら友人のように振る舞い、他愛もない会話をし、占いが本来の目的ではなくただ手塚に会いに来るといった相手は芝浦が初めてだったから特別視してすまうのかもしれない。
だが芝浦に対する感情が何なのか、手塚もまだ分りかねていた。
常連の名前を憶えるのは当然であり、芝浦は良く顔を見せるから名前を憶えるのは自然な事だと思っていた。
しかし家に入れるのには抵抗がなく、助けてやりたいと思ったこの感情はただの占い師と顧客という間柄にある感情ではないだろう。
友情と言えばそうかもしれないが、そう呼ぶ程互い親しくないような気がする。
まだ芝浦の事は名前と大学生である事、占いに使う時に聞いた生年月日くらいしか知らない。だがもっと知りたいと思う気持ちがあるのは確かだ。
どこまで知りたいのか。どこまで教えてくれるのか。手塚を信頼し、どこまで心を許してくれるのか……。
それを思うと妙にむず痒いような気持ちになる。
「……まぁいい、今は深く考えないでおくか」
手塚はそこで思考を打ち切る。あまり考えてしまって、答えが出るのが怖かったからだ。
ただ今は、芝浦がゆっくり休めるのならそれでいいだろう。
手塚は静かに寝息をたてる芝浦の髪に触れると、その姿を見てリビングへと戻る。
彼らが「恋人」として付き合うようになるのは、それから一ヶ月と少し過ぎてからの事だった。
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