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インターネット字書きマンの落書き帳

   
悔悟から闇堕ちするジャミルくん概念(ダウド死亡ルート)
アサシンギルドでアサシンとなったダウドを手にかけた。
そしてその後、神殺しをなし得たジャミルのIF後日談です。

英雄と呼ばれてもいい存在だけれども、ダウドを殺してしまったこと。
それでもう永遠に「元通りの生活」になんて戻れない事を知っている故にせめて自分のするべき事をしよう……。

そんな事を思いながら「闇に生きる道」を選んでしまったジャミルの話です。
闇に落ちるジャミルの話は健康にいいから何度もします。

ニャンニャーン!




『魂まで闇に落ちて、今度は離れないように』

 ……こんな汚れ仕事をやる必用なんて無いだろう。
 もう何度そう言われたか分らないし数えてもいない。だがそう言われるたびにジャミルはどこか無邪気にさえ見えるような笑顔を向けて言うのだった。

「気にするなよ、一番上手く出来るのは俺くらいのもんだろう」

 実際その通りだろう。
 邪神であるサルーインの影が世界から消えて、徘徊するモンスターの数はずっと減った。
 凶暴化した野生の獣たちもすっかり大人しくなり世界中が少しずつ平和への歩みを始めた今、『上手く戦い、上手く殺す』といった技術(スキル)は段々と必用なくなってきている。

 それ事態は平和になっていい事なのだろう。
 だがそれは同時に以前ほど荒事に長けた人間が少なくなったという意味でもある。

 ギリギリである命の駆け引き。
 その境界で競り合って利益をかすめ取るような裏の仕事は以前よりずっと温くなったと言えるだろう。

 いずれこの手の仕事さえ無くなってしまうのが真の世界平和だと諸国の王は口を揃える。
 だがジャミルもまたジャミルの雇い主もそう簡単には救えない世界があるのを知っていた。

 生まれながらにして奪わなければいけなかったもの。
 環境からまともな学を得る機会がなかったもの。
 正しく育つコトを望まれた結果、歪んでしまったもの。  
 出生を隠さなければいけなかったもの……。

 生きるコトが幸福なものばかりとは限らない。そして幸福ではない道であっても生き続けなければいけないコトだってある。そういった者たちのためにも「闇」に蠢く社会は必用であり、その中で生きる規律も必用なのであった。
 居場所を得るために、汚い仕事があるのも必然だったと言えただろう。

 有り体にいえば「必要悪」というものだ。

「だが、お前ほどの実力をもつ者がこんな仕事ばかり続けさせるのもな……」

 ベッドに横たわり水煙管を吹かしながら、相手は言う。 顔の大半をヴェールで隠しているため表情は覗えなかったが、その声はジャミルに対しどこか同情の色が見えた。

「……知らないワケではない。英雄・ジャミル。神を殺し世界を平和に導いたのはお前なんだろう? それなのにお前は」

 そこまで言いかけた所で、ジャミルは自分の口元に指先を当てる。
 それ以上は語るな、という事だろう。

「俺が何者であって、なにをしてきたのか。どう生きてきたのかは関係ないだろ? ただ、この仕事の適任は俺で、アンタは俺に金を出す。それだけでいいんだよ、今はな」

 英雄として皆から祝福され凱旋するという未来も、彼にはあったはずだ。
 だが彼は密かに故郷(エスタミル)へ戻り、すぐに裏の仕事を始めた。

 財産も充分ある。
 その名声があれば好きな地位にもつけるだろというのにあえて裏の道を選んだのは地位や名声が招く面倒事を避けたかったからというだけではないだろう。

「……そうだね。任せるよ」

 煙を吹かしながら言えば、ジャミルは軽く手を挙げて部屋を出る。
 正直に言えば難儀な仕事だ。
 サルーインが消えてすっかり平穏となり諸外国がきちんと国として政治に集中するようになった今は闇に生きるものはますます動きづらくうとまれる事となるのだろう。

 それでも、ジャミルは闇の世界にいる事を選んだ。
 彼がそうする事により裏でしか生きられなかった人間が多く救われるのは事実だ。
 エスタミル出身の盗賊が表舞台で英雄となってもいずれは過去の悪行に難癖をつけられて体よく追い払われるのも分っている。

 だが英雄にならなくとももっと「普通」に生きる道だってあったはずなのに、ジャミルはそれを選ばなかった。
 必要悪だと理由を並べてもやることは悪党のする事であり誉められたものではない。

 賄賂や汚職の金をかすめ、時には人を粛正する事だってある。
 ジャミルが過去にしてきた細やかな盗みとは違う、二度と表舞台で英雄として讃えられるような事はないような仕事ばかりがここでは求められているのだ。

「過去なんて関係ないとお前はいったが……」

 だがジャミルという男は、過去に囚われてしまっている。
 少なくとも、彼の雇い主はそう思っていた。

 英雄となってもなお「成せなかった事」を悔いているのだと。
 取り返しのない存在のために、自らの手を汚し生きる道を選んだのだろうと。

 自分たちと同じように生きてきた人間のために生きていこうと……。

(ダウド……お前があいつの隣にいれば、あいつは『英雄』でいたのかもしれないな……)

 静かに目を閉じ、そう思う。

 ……ジャミルにはかつて相棒がいたのは知っていた。
 ジャミルの腕から比べると少し頼りなく、臆病で、どこか気弱で。盗みなんて向いてるとは思えないような弱腰の男だった。
 だが傍目からみて良い友だったと思う。

 元より「裏の人間」は血のつながりがあるような家庭・家族が存在しないかわりに赤の他人と家族かそれ以上の強い絆で結ばれる事があるが、ジャミルにとって彼がそんな存在……精神的な支柱だったのだろう。

 だがその彼は、もういない。
 サルーインの奸計により暗殺者として洗脳され、ジャミルによって討ち果たされたのだ。

 ジャミルが殺さなければきっともっとダウドは多くの人を殺していただろう。
 襲われたのだから殺すのは不可抗力だったとも言える。

(あるいは、お前が縛ってしまったのか、あの男を……)

 水煙管をふかしながら、物思いにふける。そして自嘲するように呟いた。

「感傷になんて浸るとからしくない、らしくない……だいたい、ワタシだって似たようなもんじゃぁないか。過去に囚われ縛られて、今こうして裏から牛耳って……失うものが多かったからデカイ役が回ってきた、それだけさね」

 そして漠然と思うのだ。
 もし自分が殺されても跡目にジャミルがいるのなら大丈夫だと、そんな弱気な考えは辞めておこうと。
 ジャミルにとって今の世界はきっと、『なくてもあってもいい世界』なのだろうから。

 ・
 ・
 ・

 新たな依頼を前に、ジャミルは闇を歩く。
 月の無い夜は星の光すら曖昧だった。

 過去に囚われていない……と強がったが、実際のところ嘘になる。

 もしダウドが隣にいてくれたなら。
 もし彼が生きて、どこかで幸せに過していたのなら……。

 幾度そう思い、幾度そう願ったろう。
 笑いかけてくる彼の夢を何度見てきただろう。

 だが、もうどこにもいないのだ。
 世界中のどこを探しても、もうどこにも。

『ジャミル、おいら……おいら、死ぬのが怖い』

 震える身体で死に怯えて涙を見せるダウド。 体温が下がっていき、青ざめていく姿をただ呆然と見つめる事しかできなかった。
 致命傷なのは間違いない。自分が殺したのだから。確かに手応えを感じた、その手応えが今は強い罪悪感へと変わる。

『あぁ、でも。でも……殺してくれたのが、ジャミルでよかった……最後にジャミルにあえて、よかった……』

 両手でジャミルの顔を撫で、唇を震わせ笑う姿。

『目、かすんで。きて、見えな……ジャミル、顔。見せて。顔、ジャミル……ジャミル、ジャミル……』

 最後に見せる姿が泣き顔だったらカッコ悪いとでも思ったのだろう。 無理矢理笑おうとするダウドの指が凍えたように冷たくなっていた。

 ……ダウドのアサシンとしての仕事がジャミルが初めてだったのか。 それとも多くの人を殺してきたのかははっきりとわからない。

 だがサルーインの手に落ちたのだ。
 神々に迎えられる光の世界に魂が導かれる事はないだろう。

 「心配するな、もうちょっと待っててくれよなダウド。いつか死んだ時は……俺も、お前の所に行くからさ」

 誰に語るワケでもなく、ジャミルは呟く。
 そして石畳の上を足音もなく歩むと闇のなか影とともに消えていった。

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インターネット駄文書き
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