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インターネット字書きマンの落書き帳

   
道化師の前奏曲(ワグナスとボクオーンの話)
ロマサガ2が令和にリメイクされますね!

リメイク記念に、俺も以前書いた「ワグナスとボクオーンの話」をリメイクしたいと思います。
より狡猾に、より嫌な奴に書き直されたボクオーンを楽しんでください♥

リメイク楽しみですね♥
早く七英雄の地獄を全身の穴という穴から注がれたいです♥



『道化師の前奏曲』

 久しぶりに空を仰ぎ、ボクオーンは深呼吸をする。
 身体の中には清々しい風が満ち、梢が揺れる音が耳をくすぐる。
 小川には澄んだ水が流れている。きっといずれ大海に注ぎ、白波として輝くのだろう。

 七英雄として暗闇に封じられ、幾年月が流れたのかはわからない。
 世界は皮肉なほど美しく、何も変わっていないのに、彼らの居場所はすでに失われていた。

「一つずつ、取り戻していかなければな……」

 全てを失ってもなおボクオーンが冷静であったのは、いずれこうなることを予測していたからだろう。七英雄のなかでも最も年かさであり、若い英雄たちの志はより狡猾な人間に食い尽くされるというは世の常だ。

 いずれ来る崩壊を予測していたにもかかわらず、ボクオーンが最後まで七英雄側にいたのは、リーダーとしてのカリスマを持ちながら内実はあまりに脆く、闇に対しての嫌悪が強い潔癖すぎるほど誠実なワグナスがいたからだろう。

 こんなに純粋な若者が傷つき、追い詰められ狂わされる。
 何て悲しいのだろう。

 理想に満ちた若者が苦悩し、穢れ、悶え苦しむ。
 何て滑稽なのだろう。

 両方の気持ちが譲れないほど肥大したボクオーンは、ワグナスという男を見届けたいと思い、自ら英雄となって傍らにいることを決めたのだ。

 さぁ、時は満ちた。
 悠久とも思えた時間を失い、かけがえのない仲間たちの尊厳を蹂躙され、守ろうとした存在に裏切られた今、復讐すべき相手が誰一人残っていないこの世界で、ワグナスは何をするのだろう。

 全てを諦め、自分たちの生き方を模索するのか。
 それとも……。

「ボクオーン」

 他の仲間たちに隠れて呼び出された時、ボクオーンは内に秘めた歓喜を押し殺すのに必死だった。

 やはりワグナスは清廉な男だ。
 だからこそ、かつての民が自分たちを裏切り貶めたことを決して許せないのだろう。

 復讐なんて馬鹿げたことだ。
 無駄に血を流し他人の運命を踏みにじった先にあるのは、空虚さだけというのは賢いワグナスなら当然気付いているだろうに、それでも復讐を望むのは、己の選んだ道を歩ませ不当な汚名を着せられた仲間たちに対する償いか、それとも自らが再出発するのに必要な通過儀礼のようなものだったのだろうか。

 どちらでもいいし、どうでもいい。
 やはりワグナスはよく踊る道化だ。そのことがただ、ボクオーンには嬉しかった。

「話したいことがある、お前でなければ頼めないことだ」

 ワグナスは冷静に見えたが、それは七英雄の長として自分が狼狽えれば示しがつかないと考えたからだろうか。それともその胸に抱いた復讐の二文字は彼に感傷を抱かせる暇さえ与えなかったのだろうか。

 真意を推し量りながら、ボクオーンは困惑したような顔を向ける。
 まったく、ワグナスは何を考えているんだ。何も知らないという素振りで接したのは、そのほうがワグナスも話しやすいと思ったからだ。

 ワグナスはしばらくためらった後、静かに語り始めた。

「長い時を経て、私たちはようやくこの大地へと戻ってきた。だが、この世界にはすでに我ら七英雄を知るものはなく、復讐すべき相手の行方もわからぬ。また、我らもかつての力を取り戻してはいない……」

 時候の挨拶でも述べるかのように格式ばった言葉を流暢に並べながら、ワグナスは時に熱く、そして時に講釈めいた口調であれやこれやと言葉を尽くす。
 だが、言いたいことはもうすでにわかっていた。
 ボクオーンはなるべく慈悲深く笑うと、手にした杖をもてあそぶ。

「そんな回りくどい言い方をしなくても分かっているさ、ワグナス。私は七英雄の一人で、そしてワグナス、貴公は七英雄のリーダーだ。貴公がするべきことはただ一つ、命令を下せ。さすれば我は、それに従おう。さぁ、命じてみよ。貴公の意志で、貴公の言葉でな」

 ワグナスは僅かだが表情を曇らせる。

 そうだ、ワグナスはそういう男だ。
 自分で手を下さなくともそれが、悪となる所業となると許せぬ男だ。

 だからこそ、命じろと告げた。
 ボクオーンから望んで進言をすればワグナスの負担はもっと軽くなっていただろうが、あえて追い詰めるよう水を向けたのだ。

 それでもボクオーンの言葉は、ワグナスの心を幾分かは軽くしたのだろう。
 少し唇を湿らすと、ボクオーンの姿を見据える。

「ボクオーン、貴方には我々の活動資金の調達を任せたい」
「資金、なるほどな。確かにこの世界には新たな文明がある。そしてどの文明にも、金かそれに準ずるものは確かに存在する……金があることで従うものも多く、切れる手札も増える。先立つモノは必要だものな」
「あぁ、そうだ。我らはここに降り立った。だが、我らにはまだ何もない……この土地に何があるのか、どのような生活があり、為すべき事を成すにはどうしたらいいのか、そのルールさえ我らはまだ知らない。だからこそ、我らは知る必要があるのだ。この世界に法則をもち、歴史を動かすものたちのルールを。そして得る必要があるだろう。そのモノたちを利用し、手駒とする方法が」
「そのための、金だものな」
「あぁ、そのための金だ」

 ボクオーンはワグナスより視線を逸らせ、広い大地へ目を向ける。

 ここに、かつて自分たちを貶め追放した人間は誰一人残っていない。
 だが、新たに別の生命による文明と支配の痕跡は感じる。

 世界の光も風も、何もかわってない。
 だとすれば、人間が秘めた欲望もあり、貧富の差があり、貴賤が存在するのだろう。

 自分たちが生きていた時代のものと比べれば遙かに原始的で、まだ素朴な文明だと言えるだろう。だからこそ、やりやすい。

 清らかな水ほど毒というのはよく回るからだ。

「この世界に暮らす人間の法と秩序を学び適応するのなら、ノエルでいいだろう。だがノエルは人を騙し誑かすには実直すぎる。かといってロックブーケは幼く、無邪気すぎる。スービエはあれでかなり繊細だ。罪悪感でたやすく折れ、押しつぶされる可能性がある。ダンターグは粗野すぎるし、少し短気すぎる。クジンシーは臆病すぎるくせに引き際を見誤る性分だ。そういった仕事を任せるのなら、他に適任がいない……汚い仕事だというのはわかっている。だが……引き受けてくれないか?」

 ボクオーンは僅かに目を閉じる。
 金はいつの時代でも、多くの人間を狂わせ踏みにじる。
 ワグナスほどの知性があるのなら、その命令が何を意味するのかわかっているだろう。

 表面上は平静を装っているが、苦悩しているに違いない。

 ボクオーンは、かつて智者の言葉と並んで呼ばれた。

 事実、ボクオーンの知略により窮地を逃れた戦いも少なくはなかっただろう。
 物言えぬ弱者に変わり、自らの知識と弁論を武器として闘った事も一度や二度ではない。

 多くの民に感謝され、笑顔で迎えられた頃、ボクオーンは七英雄でありながら、知恵者でもあった。
 ボクオーンの知識は多く正義の為につかわれ、これからもそう有り続けるはずだった。

 それを今、ワグナスは自ずから命令を下すことで穢そうとしているのだ。

「……引き受けてくれるな、ボクオーン」

 血を吐く程の苦悩に満ちた表情で、ワグナスは頭を下げる。
 ボクオーンは口元を押さえ、思慮に耽るふりをした。

 そうしなければ、笑った顔を見られると思ったからだ。

 あぁ、やはり封じられてもワグナスについて行った甲斐があった。
 美しい顔を歪ませ、復讐という陳腐な動機でしか生きている理由を見いだせない男の苦悩をこんなに近くで見ていられるのだから。

「かまわない。いや、勿論だ。先立つモノは必要だからな……いい判断だ、リーダー。その命令、必ずこのボクオーンが成し遂げてみせよう」
「……すまない」
「何を謝る必要があるんだリーダー。貴公もわかっているのだろう。このような任務は、私が最も適任だ。なに、100年もあれば、国一つ動かせる程度の金を稼いできてやろう」
「いや、ちがう……かつては智者と呼ばれたキミの知識を。こんな……こんな汚れた任務に使わせて、すまない……」

 ワグナスの謝罪に、ボクオーンは目を細める。
 慈悲深く寛容に見えるように。彼の苦悩に寄り添い、自分もまた傷ついているように振る舞うことが、最もワグナスの心を傷つけ蝕むと思ったからだ。

「何、気にする事はない。その名はもう、過去のものでしかないからな」

 ボクオーンは歪に笑う。

「最初から、七英雄に智者などいない。居るのはたった一人、同胞(はらから)の心変わりにも気付かずただ、その名に溺れ奢り、ついに常闇に追われたおろかな道化が居るだけだ。さぁ、この世界に堕とされた同士ワグナス、どうかそこで見ていてくれ。この、愚かで汚い道化の舞台を。演じるは我らが命をかけた大喜劇、閉幕の時は、我らを追いやった憎きものを根絶やしにするまで。いいな?」

 ワグナスもその笑顔に釣られ、笑う。
 無理矢理に滑稽にふるまうが、その目はどこまでも寂しげだ。

「あぁ、踊ってくれボクオーン。そしてその演目に是非とも私も加わらせてくれまいか。英雄と呼ばれ魔物と成り下がりそして今、新たな門出においても罪を犯す事に熱心な、英雄崩れの男にもな」

 ボクオーンが差し出した手に、冷たい指先が触れる。
 血と罪ばかり積み上げる歴史が始まろうとする中、道化は一人、張り付いたような笑みを浮かべていた。

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インターネット駄文書き
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