インターネット字書きマンの落書き帳
大統領と子飼いの玩具(ファニー×ディ・ス・コ)(BL)
昔書いた作品をサルベージして何か書いた気分になるコーナーです。
SBRを書いていた頃に書いた、ファニー×ディ・ス・コの話です。
ディ・ス・コはわりとファニーの側近というか子飼いで、小さい頃から小間使いとして育てられ、スタンド使いになってからは暗殺を一手に引き受けた。
その影でファニーの性処理なども行っていた後ろ暗い感じがあったら楽しいな~俺が!
と思って書いた話しです。
むかしの話しだけど令和でも楽しんでもらえたら……happyだぜ!
SBRを書いていた頃に書いた、ファニー×ディ・ス・コの話です。
ディ・ス・コはわりとファニーの側近というか子飼いで、小さい頃から小間使いとして育てられ、スタンド使いになってからは暗殺を一手に引き受けた。
その影でファニーの性処理なども行っていた後ろ暗い感じがあったら楽しいな~俺が!
と思って書いた話しです。
むかしの話しだけど令和でも楽しんでもらえたら……happyだぜ!
『子飼いの玩具』
日当たりだけはいい、安普請の机。
それがディ・ス・コに与えられた領域だった。
「ディ・ス・コ……仕事を頼みたいのだが」
その言葉とともに、今日も数多の書面がディ・ス・コの前を流れては渡る。
その大部分が数字の羅列……ディ・ス・コにとっては意味など希薄な、書類の処理ばかりだったがそれがディ・ス・コに与えられた仕事である。
そうである以上、やり遂げるという確固たる意志の元、ディ・ス・コはなれない書類や数字を前に黙々と仕事を続けた。
他でもない、それがあの人の。ファニー・ヴァレンタインの意志なのだから、ディ・ス・コには拒むことも断る事も出来なかった。
「スイませぇん……ディ・ス・コさぁん……ディ・ス・コさん、いらっしゃいますかァ……」
そうして昼頃まで仕事を続けていただろうか。ドアをノックする音とともに細い声が響く。 物腰柔らかな声質だが妙にはっきりと耳に絡むあの声は、ブラックモアの声に相違ない。そして、ブラックモアがこの部屋に来るという事は、用事はもう決まっている。
あの方が、自分を求めているのだろう。
「開いてる、よ……ミスター・ブラックモア」
ディ・ス・コの言葉を確かめるようゆっくりとドアノブが回され、中から黒衣の男が現れた。雨でもないのにレインコートを身にまとい、独特の意匠が施されたフードから覗く髪は、相変わらず綺麗に整えられている。
ブラックモアは、周囲をぐるりと見渡すと落ち着きのない様子で身体を揺らしながらディ・ス・コの姿を見据えた。
「……いらっしゃい、ミスター・ブラックモア。今、コーヒーでもいれよう…...かい?」
ディ・ス・コは彼の姿を見ないよう、ゆっくりと立ち上がる。
ブラックモアは大統領の下で働く中でも比較的、古い部類の人間になる。 愛国心が強く、信仰心が強い割りに野心は少なく、少なくとも、誰かをけ落としその上に立とうとするタイプではなかった。彼は愚直なほど国の為に働き、大統領の為に働く事を喜びとできる男だったのだ。
大統領の下に使えるディ・ス・コにとってはとても良く出来た幹部の一人になる。 だが、だからこそやっかいでもあった。
ブラックモアの忠誠心は厚すぎて、大統領に対し理想のヴィジョンを抱きすぎている節があったのだ。それゆえ、少しでも大統領が理想から外れるのを良しとしない。そんな彼にとってディ・ス・コの存在は受け入れがたい不浄の存在でもあるのだ。
幼い頃から大統領の下で働き、彼の寵愛を受けるディ・ス・コの身体は潔癖すぎるブラックモアにとって汚らわしいモノなのだろう。
コーヒーを煎れるためポットを探すディ・ス・コを、ブラックモアは留めた。
その視線は、明か様に汚物でも見るようなそれだ。
「スイませぇん……私、先ほどコーヒーを頂いてきてしまいましたので……」
「……そう」
「それに、貴方の手を患わせたと知ったら、きっと大統領もお喜びになりませんからね……えぇ、その手は。指先は……大統領のモノで、あるべきでしょうから」
ブラックモアは緩やかな笑顔を向ける。
だがその言葉尻で分かる……彼は、もう掴んでいるのだろう。 大統領の子飼いとして、年若い少年の頃から彼の世話をしていた自分と、ファニー・ヴァレンタインの関係を。
密やかに、秘められて続けられていた関係だ。 未だ、妻であるスカーレット夫人でさえ気付いてはいない。だが、情報を集めるのはブラックモアの役目であり彼のその情報収集能力は大統領の側近が中でも群を抜いて高い。本来、大統領の周囲にいる敵に対して使われる力だが、きっと気紛れに、その周辺を洗った時にでも気付いてしまったのだろう。
最もそれに気付いた所で、彼の愛国心も大統領に対する忠誠心も何ら揺るがなかったのは僥倖と言えただろう。
ブラックモアにとって大統領という地位はそれだけで跪くに値するものであり、またファニー・ヴァレンタインはそれだけのカリスマをもっていたのが幸いだった。
「それで……何の用?」
自分の癖毛を指先で弄びながら、ディ・ス・コは興味なさげな視線をブラックモアに投げかける。
結局の所、ブラックモアが自分と、大統領の関係その真意を知っていた所で……いや、知っているからこそ、彼は何も出来ないのだ。
むしろ大統領のお気に入りであるディ・ス・コの機嫌は損ねたくないのが本音だろう。
何処かで柱時計が鳴った。
ネジ巻き式の柱時計は毎日30秒程度は狂うのだが、これがもうすぐ昼休みになる事を告げる事にはかわりない。
「俺……休憩は出来るだけ、ゆっくりとりたい方なんだけれども?」
わざと苛立ちを露わにしブラックモアを見据えれば、彼は大仰なくらいの礼をして見せた。
「スイませぇん……私とした事が回りくどい真似でお手間をとらせたようで……実は、大統領が直々に貴方をお呼びのようなので、ご面倒をかけますがご足労願えないでしょうか。ディ・ス・コ様……」
「ファニー……大統領閣下が、俺に……?」
「はい……貴方でなければいけない、と」
ディ・ス・コは窓の外へと目をやる。
雲一つない空の下、微かに開けた窓からは初夏らしい爽やかな風が吹きそよいでいた。
普段であれば、こんな日の高い時間から大統領が彼を求める事はない。 大概は夫人が不在の時……大きなパーティや会食などで、夫人が出かけている時だけ、彼はディ・ス・コにそれを求めていた。 だからこそ誰にも知られる事のない関係だったはずなのだが、こんな日の高いうちから、しかも平日に求めるなんて、一体何を考えているのだろうか。
「……わかった、すぐ行く」
「スイませぇん、お手数をおかけして……すぐに来ますと。そうお伝えした方が宜しいですか?」
「いや……いい。俺が今から直接顔を出すから……大統領もきっと、その方がいいんだろう?」 「そうですね……スイませぇん、ご面倒をかけて」
ディ・ス・コは軽く身支度を整えると、護身用の武器だけ忍ばせて静かに部屋を後にした。
「……それでは、お楽しみを」
すれ違い様、ブラックモアから、そんな言葉をかけられて。
※※※
大統領の部屋へと続く長廊下を歩く。
どの窓からも晴天の空が見えたが、不思議とディ・ス・コの心は陰鬱だった。
慣れた廊下の角を曲がれば、目的地である大統領の部屋が見えてくる。深い褐色の扉はまるでディ・ス・コにのし掛かるようにそびえ、開ける事を一瞬戸惑わせた。
一度、呼吸を整えた後、ディ・ス・コは緩やかに扉を叩く。
「大統領閣下……お呼びに預かり参上致しました……ディ・ス・コです……大統領閣下……」
二度、三度扉を叩けば。
「来たか……開いてる。早く入れ、ディ・ス・コ……」
また一度、呼吸を整えその大きな扉を可能な限り小さく開けて、ディ・ス・コはその部屋に滑り込むよう入る。
部屋にはどうやら、大統領一人のようだった。 この屋敷にはまだ来たばかりだからだろう。 部屋は日当たりこそいいがまだ家具などはそろっておらず、棚が一つと机が一つ、ポツンと置いてある他はまだ目に付くものがほとんど無い。また壁にもただ淡い色の壁紙が張られているだけだからか、部屋は非道く殺風景に見えた。
「……何の御用でしょうか、大統領閣下」
ディ・ス・コは声を抑えながら、周囲の様子を伺う。
使用人らしい人間の姿は見えない……夫人も、今はいないようだ。 だが、人の気配はする。 どうやらこの部屋は奥にも扉があり、さらに奥にもう一つ部屋があるようだった。 恐らく夫人はそちらで休んでいるのだろう。
大統領が昼になると少し横になるのは有名だが、夫人もそれに習うよう午後に休む事が珍しくはないのだ。
「妙に他人行儀だなディ・ス・コ……」
大統領はいかにも上機嫌といった様子で彼の傍らへと歩み寄ると、その癖がある毛を一度優しく撫でて笑った。
「二人きりの時はファニーと呼べと。いつも、そう言っているじゃないか……なぁ、ディ・ス・コ」
「ん……ごめん、ファニー……」
甘い吐息が耳にかかり、それだけで自分の身体が高ぶるのがディ・ス・コにも分かった。
長く、長く……。
大統領の小間使いとして、子飼いのディ・ス・コはよく、彼に教育されていた。その髪の毛一本から足の爪の先に至るまで……全て大統領の為に教育された彼はいつしか、大統領が求める時には自然と高ぶるよう、身体を調整されていたのだ。
「……でも、二人の時でも……ちょっと、恥ずかしいんだ。ファニー……」
大統領から視線を逸らす。顔が紅潮しているのは、自分でも分かる。
きっと彼からは恥じらっている姿がよく見えるのだろう。大統領は愛しそうにその頬を撫でると、軽く額にキスをした。
「んっ……」
額は挨拶のキスだ……そう教えられているのだが、身体が否応なく反応し、つい彼を抱きしめてしまう。
「ファニー……おれ……」
「……どうした、ディ・ス・コ……欲しいのか?」
「うん……キス、して……挨拶じゃなくて……恋人同士がする奴……俺、おれ……ガマン、出来ないから……」
結局、大統領の許しが出るより先にディ・ス・コの方が彼の唇を貪っていた。
首に手を絡め、柔らかな唇に何度も何度も吸い付き、絡まる舌が与える甘美な快楽に酔いしれ、解け合うように混ざり合う愛欲のジュースを飲み下す……。
「おい、そろそろ離れてくれ、ディ・ス・コ……苦しくて溺れそうだ」
「でも、ファニー……」
「……後でたっぷりくれてやる。いいだろう?」
甘い声に耳を撫でられ、ディ・ス・コはしぶしぶ、彼の身体から離れた。
ここに来るのがあれほど憂鬱だったというのに、大統領と会い穢れた遊戯に身を投じるこの事実が、あれほど恐ろしいと思っていたはずなのに、今はどうだろう。 彼の声を、身体を前にすると、抗えない自分がいる。 汚いと思う自分が許せないのに、それでもやめる事は決してない。
詰まるところ、ディ・ス・コはよく訓練された大統領の愛玩具であったのだ。
「さぁて……ところでディ・ス・コ。この部屋なんだが……お前は、この部屋をどう思う?」
「部屋……」
そう聞かれ、改めて室内を見渡す。
立派な机と棚が置かれている、どちらも一流の家具なのだろう。だがその良さは、ディ・ス・コには分からない。 比較的若い自分から大統領の傍で飼われ、常に彼の傍で一流を見てきたディ・ス・コにとって、周囲にあるものは一流が当然だった。
当たり前にあるモノについて、彼は深く考えるようなことはしないのである。
「……殺風景」
「そうか、他には?」
「あとは……良く、わからない……」
思った事を素直に吐き出す。
そんなディ・ス・コの様子を眺めて、大統領はやれやれと呟きながら溜め息をついた。
「そうか……あぁ、そうだろうな。お前にはそういった事は教えていなかったものな……」
大統領はそう言いながら、窓にかかる厚手のカーテンを引く。
淡いアイボリーのカーテンは裾にレースがあしらわれており、殺風景な部屋には不似合いに思えた。
心なしかこの、大仰な机や棚にも似合っていない気がする。
この部屋をどうやって彩っていくのか大統領にもまだ、心が定まっていないのだろうか。
周囲の事に対してはとことん無頓着なディ・ス・コが漠然とそんな事を考えたのもまた、大統領に「どう思う」等と訪ねられたからである。
彼は思考の全ても大統領の為に染まっている、そんな玩具だったのだ。
「いいか、ディ・ス・コ……部屋を作るには何が必要だと思う?」
「部屋……机、棚、椅子……」
「そうだな、家具は必要だ……だがそれらを品位よく並べるにはどうすべきだ? ……何が重要だと思う? ……わかるか?」
「え……? 俺……そういうの、よく……」
こういう質問を受けると、改めて自分は無知なのだと思う。
いつも大統領の傍に付き添い、彼の世話を……周囲の小さな世話は勿論、夜の処理などを含めてあらゆる世話をしているのだが、彼は大統領以外にあまりに無頓着なのだ。
「……ごめんなさい」
無意識に謝るディ・ス・コの頭を、大統領はくしゃくしゃと撫でた。
大統領の本音としては、ディ・ス・コの興味が自分でしかない。その事実を確かめられた事だけで嬉しかったのだ。
ディ・ス・コは自分の子飼いの玩具。
自分の為にあるべきで、他の何かの為には興味を示さない……彼が完全に自分の手中にある。その事実が、大統領に密かな優越感を与えていた事をディ・ス・コ自身がまだ気付くことはなかった。あるいは、大統領を失っても気付かないのかもしれないが。
「そうだ……それなら、教えてやろう。部屋には……色彩が大事だと、私はそう思っているのだがね……」
「色彩……?」
「暖かな色があればそれは温もりのある部屋に……素朴な色合いなら素朴な、質素な色合いなら質素な……そういう部屋になるものだ……ディ・ス・コ、壁際に立ってくれないか?」
「壁……?」
「そうだ、そこの壁だ」
大統領が指し示した場所は、何もないただ壁紙が張られただけの壁だった。 突然の命令を奇妙に思いながらも、それに抗う術を知らないディ・ス・コは素直に壁の前へ向かう。
「? ……こう? ファニー」
この壁は隣の部屋に近いのか。 壁もあまり厚くはないのかもしれない、微かな物音がディ・ス・コの耳に入った。 恐らく夫人は……大統領の妻であるスカーレット夫人は背中にした壁の向こうにいるのだろう。
「あぁ、そう。そうだ……やはりこの部屋にはディ・ス・コ。お前の姿がよくあう……これで、いい彩りになった……」
絨毯の上を、大統領は驚く程静かに歩く。
ほとんど足音をたてずに進むのは、彼の特技の一つだった。 彼はディ・ス・コの前に立つと、壁と彼との姿を見比べる。 だが何か、気に入らない事でもあったのだろう。不意に唇を尖らせると
「……まだこの色では物足りないな」
そんな事を呟きながら、ディ・ス・コの服へと手を伸ばした。
「ちょっ……ファニー?」
大統領の指先が、彼のボタンにかかる。 ぷつり……ぷつり。
その指先は少しずつ。だが確実に、彼のボタンを外していった。
「だめ……ファニー、やめて……昼間から俺っ……は、恥ずかしい、から……」
無意識に壁へと手をつき、声が震えるのが分かる。 だが抵抗はしない。 口では嫌がる素振りを見せても、決して大統領の要求を拒絶しない……ディ・ス・コはそうやって躾られた玩具だった。
「羞恥はちゃんと覚えているようだな、いい子だディスコ……」
大統領の指先はディ・ス・コのボタンを全て外し、ゆっくりとそのシャツを床へと落とす。
窓辺から微かに差し込む光と、それさえ届かない影との間で半裸にされたディ・ス・コの肌が室内の空気を変えた。
「っ……やだ、ファニー……俺、おれっ……恥ずかしくて、溶けちゃう……」
「……可愛い事をいうな、ディ・ス・コ」
「だって……」
「だが……いい色だ。やはりこの色が必要だったようだな……ディ・ス・コこの部屋にはお前の肌の色がよくあう……」
大統領の手が、ディ・ス・コの身体を壁際へと押さえつける。
その甘い息遣いが、彼の首筋へとかかった。
背中では微かに女性の声が聞こえてくる……これは間違いなく夫人の声だ。言葉までは聞き取れないが、侍女らしい娘と何か会話をしているらしい。
「やめて……ね、もうやめようファニー……? 隣に、奥さんがいるんでしょ、俺わかる……ダメだよこういうの、俺、恥ずかしい……」
壁一枚隔てて、夫人がいる。
自分と大統領との関係を未だ知らない彼女は、ディ・ス・コの事をまるで弟のように可愛がってくれていた。
そんな彼女に、こんな姿は見られたくない。 彼女にだけは……。
そう思う反面、自分の身体が熱を帯びているのにディ・ス・コは気付いていた。 こんな最低な事をしているのに。こんな穢れた遊戯をしているのに、今、自分は最高に高ぶっている。
このまま大統領の……愛しいファニー・ヴァレンタインの身体で、攻め立てられたいと願っているのだ。
「……本当にやめたいのか、ディ・ス・コ」
彼の耳を舐りながら、大統領はそう問いかける。
「えっ……」
「……本当に私の身体を必要としていないのか? ディ・ス・コ……こたえてみろ」
甘い唇が、首筋を幾度も慰める。
「……私だってね。君が嫌がる事をするのは本意じゃないんだ……さぁディ・ス・コ。こたえてみなさい……お前は今、私を……欲していないのかというのかね?」
彼の言葉が、耳に絡まる。『穢れた関係だ』ブラックモアの軽蔑するような態度が脳裏に過ぎる。
背中では敬愛するスカーレット夫人の声が響く。
自分でも分かっていた。 これが決していい関係ではないという事を。 だがそれでも……。
「……欲しい」
ディ・ス・コは自ら、ズボンのベルトを外す。
「……欲しい、欲しい……欲しい。俺……ファニー。貴方の身体……欲しい、よ……」
求められたら、拒めない。ディ・ス・コは心も体も、完全に彼に支配されていた。
彼のその精一杯のお強請りに、大統領は満足そうに笑う。
「……いい出来だなディスコ……気に入った。私の身体も随分と疼いてきた……」
彼はディ・ス・コの身体を壁際に優しく押しつけると、静かに。だが激しい情愛を込めた口付けを交わす。 舌が絡まり、彼の身体を慰める……。
長く交わし続けた唇で、ディ・ス・コは自然と彼を喜ばせる術を覚え、彼もまたディ・ス・コを高ぶらせる方法をよく心得ていた。
「……するぞ、いいな」
「うん、ファニー……」
「何だ?」
「……嘘でもいいから、好きって言って……ね?」
「あぁ……」
愛してる。
虚ろな言葉が、ディ・ス・コの耳に絡まる。
それはファニー・ヴァレンタインお得意の嘘だ。 ディ・ス・コを教育する為に使われた道具としての言葉であり、本心ではない。 それは彼によく教育され、彼だけが世界であるディ・ス・コにも何とはなくだが分かっていた。
だがそれでも……。
「好き……俺も好きだよファニー、だから……俺の事、ぐちゃぐちゃにして……壊れるくらいに、乱暴に……ね?」
穢れた関係と言われても。 背徳の遊戯と言われても。彼は身体を求めるのをやめる、その術を知らない。
ディ・ス・コは極めて優秀な側近であり、そして、大統領専属の愛玩具であったのだ。
日当たりだけはいい、安普請の机。
それがディ・ス・コに与えられた領域だった。
「ディ・ス・コ……仕事を頼みたいのだが」
その言葉とともに、今日も数多の書面がディ・ス・コの前を流れては渡る。
その大部分が数字の羅列……ディ・ス・コにとっては意味など希薄な、書類の処理ばかりだったがそれがディ・ス・コに与えられた仕事である。
そうである以上、やり遂げるという確固たる意志の元、ディ・ス・コはなれない書類や数字を前に黙々と仕事を続けた。
他でもない、それがあの人の。ファニー・ヴァレンタインの意志なのだから、ディ・ス・コには拒むことも断る事も出来なかった。
「スイませぇん……ディ・ス・コさぁん……ディ・ス・コさん、いらっしゃいますかァ……」
そうして昼頃まで仕事を続けていただろうか。ドアをノックする音とともに細い声が響く。 物腰柔らかな声質だが妙にはっきりと耳に絡むあの声は、ブラックモアの声に相違ない。そして、ブラックモアがこの部屋に来るという事は、用事はもう決まっている。
あの方が、自分を求めているのだろう。
「開いてる、よ……ミスター・ブラックモア」
ディ・ス・コの言葉を確かめるようゆっくりとドアノブが回され、中から黒衣の男が現れた。雨でもないのにレインコートを身にまとい、独特の意匠が施されたフードから覗く髪は、相変わらず綺麗に整えられている。
ブラックモアは、周囲をぐるりと見渡すと落ち着きのない様子で身体を揺らしながらディ・ス・コの姿を見据えた。
「……いらっしゃい、ミスター・ブラックモア。今、コーヒーでもいれよう…...かい?」
ディ・ス・コは彼の姿を見ないよう、ゆっくりと立ち上がる。
ブラックモアは大統領の下で働く中でも比較的、古い部類の人間になる。 愛国心が強く、信仰心が強い割りに野心は少なく、少なくとも、誰かをけ落としその上に立とうとするタイプではなかった。彼は愚直なほど国の為に働き、大統領の為に働く事を喜びとできる男だったのだ。
大統領の下に使えるディ・ス・コにとってはとても良く出来た幹部の一人になる。 だが、だからこそやっかいでもあった。
ブラックモアの忠誠心は厚すぎて、大統領に対し理想のヴィジョンを抱きすぎている節があったのだ。それゆえ、少しでも大統領が理想から外れるのを良しとしない。そんな彼にとってディ・ス・コの存在は受け入れがたい不浄の存在でもあるのだ。
幼い頃から大統領の下で働き、彼の寵愛を受けるディ・ス・コの身体は潔癖すぎるブラックモアにとって汚らわしいモノなのだろう。
コーヒーを煎れるためポットを探すディ・ス・コを、ブラックモアは留めた。
その視線は、明か様に汚物でも見るようなそれだ。
「スイませぇん……私、先ほどコーヒーを頂いてきてしまいましたので……」
「……そう」
「それに、貴方の手を患わせたと知ったら、きっと大統領もお喜びになりませんからね……えぇ、その手は。指先は……大統領のモノで、あるべきでしょうから」
ブラックモアは緩やかな笑顔を向ける。
だがその言葉尻で分かる……彼は、もう掴んでいるのだろう。 大統領の子飼いとして、年若い少年の頃から彼の世話をしていた自分と、ファニー・ヴァレンタインの関係を。
密やかに、秘められて続けられていた関係だ。 未だ、妻であるスカーレット夫人でさえ気付いてはいない。だが、情報を集めるのはブラックモアの役目であり彼のその情報収集能力は大統領の側近が中でも群を抜いて高い。本来、大統領の周囲にいる敵に対して使われる力だが、きっと気紛れに、その周辺を洗った時にでも気付いてしまったのだろう。
最もそれに気付いた所で、彼の愛国心も大統領に対する忠誠心も何ら揺るがなかったのは僥倖と言えただろう。
ブラックモアにとって大統領という地位はそれだけで跪くに値するものであり、またファニー・ヴァレンタインはそれだけのカリスマをもっていたのが幸いだった。
「それで……何の用?」
自分の癖毛を指先で弄びながら、ディ・ス・コは興味なさげな視線をブラックモアに投げかける。
結局の所、ブラックモアが自分と、大統領の関係その真意を知っていた所で……いや、知っているからこそ、彼は何も出来ないのだ。
むしろ大統領のお気に入りであるディ・ス・コの機嫌は損ねたくないのが本音だろう。
何処かで柱時計が鳴った。
ネジ巻き式の柱時計は毎日30秒程度は狂うのだが、これがもうすぐ昼休みになる事を告げる事にはかわりない。
「俺……休憩は出来るだけ、ゆっくりとりたい方なんだけれども?」
わざと苛立ちを露わにしブラックモアを見据えれば、彼は大仰なくらいの礼をして見せた。
「スイませぇん……私とした事が回りくどい真似でお手間をとらせたようで……実は、大統領が直々に貴方をお呼びのようなので、ご面倒をかけますがご足労願えないでしょうか。ディ・ス・コ様……」
「ファニー……大統領閣下が、俺に……?」
「はい……貴方でなければいけない、と」
ディ・ス・コは窓の外へと目をやる。
雲一つない空の下、微かに開けた窓からは初夏らしい爽やかな風が吹きそよいでいた。
普段であれば、こんな日の高い時間から大統領が彼を求める事はない。 大概は夫人が不在の時……大きなパーティや会食などで、夫人が出かけている時だけ、彼はディ・ス・コにそれを求めていた。 だからこそ誰にも知られる事のない関係だったはずなのだが、こんな日の高いうちから、しかも平日に求めるなんて、一体何を考えているのだろうか。
「……わかった、すぐ行く」
「スイませぇん、お手数をおかけして……すぐに来ますと。そうお伝えした方が宜しいですか?」
「いや……いい。俺が今から直接顔を出すから……大統領もきっと、その方がいいんだろう?」 「そうですね……スイませぇん、ご面倒をかけて」
ディ・ス・コは軽く身支度を整えると、護身用の武器だけ忍ばせて静かに部屋を後にした。
「……それでは、お楽しみを」
すれ違い様、ブラックモアから、そんな言葉をかけられて。
※※※
大統領の部屋へと続く長廊下を歩く。
どの窓からも晴天の空が見えたが、不思議とディ・ス・コの心は陰鬱だった。
慣れた廊下の角を曲がれば、目的地である大統領の部屋が見えてくる。深い褐色の扉はまるでディ・ス・コにのし掛かるようにそびえ、開ける事を一瞬戸惑わせた。
一度、呼吸を整えた後、ディ・ス・コは緩やかに扉を叩く。
「大統領閣下……お呼びに預かり参上致しました……ディ・ス・コです……大統領閣下……」
二度、三度扉を叩けば。
「来たか……開いてる。早く入れ、ディ・ス・コ……」
また一度、呼吸を整えその大きな扉を可能な限り小さく開けて、ディ・ス・コはその部屋に滑り込むよう入る。
部屋にはどうやら、大統領一人のようだった。 この屋敷にはまだ来たばかりだからだろう。 部屋は日当たりこそいいがまだ家具などはそろっておらず、棚が一つと机が一つ、ポツンと置いてある他はまだ目に付くものがほとんど無い。また壁にもただ淡い色の壁紙が張られているだけだからか、部屋は非道く殺風景に見えた。
「……何の御用でしょうか、大統領閣下」
ディ・ス・コは声を抑えながら、周囲の様子を伺う。
使用人らしい人間の姿は見えない……夫人も、今はいないようだ。 だが、人の気配はする。 どうやらこの部屋は奥にも扉があり、さらに奥にもう一つ部屋があるようだった。 恐らく夫人はそちらで休んでいるのだろう。
大統領が昼になると少し横になるのは有名だが、夫人もそれに習うよう午後に休む事が珍しくはないのだ。
「妙に他人行儀だなディ・ス・コ……」
大統領はいかにも上機嫌といった様子で彼の傍らへと歩み寄ると、その癖がある毛を一度優しく撫でて笑った。
「二人きりの時はファニーと呼べと。いつも、そう言っているじゃないか……なぁ、ディ・ス・コ」
「ん……ごめん、ファニー……」
甘い吐息が耳にかかり、それだけで自分の身体が高ぶるのがディ・ス・コにも分かった。
長く、長く……。
大統領の小間使いとして、子飼いのディ・ス・コはよく、彼に教育されていた。その髪の毛一本から足の爪の先に至るまで……全て大統領の為に教育された彼はいつしか、大統領が求める時には自然と高ぶるよう、身体を調整されていたのだ。
「……でも、二人の時でも……ちょっと、恥ずかしいんだ。ファニー……」
大統領から視線を逸らす。顔が紅潮しているのは、自分でも分かる。
きっと彼からは恥じらっている姿がよく見えるのだろう。大統領は愛しそうにその頬を撫でると、軽く額にキスをした。
「んっ……」
額は挨拶のキスだ……そう教えられているのだが、身体が否応なく反応し、つい彼を抱きしめてしまう。
「ファニー……おれ……」
「……どうした、ディ・ス・コ……欲しいのか?」
「うん……キス、して……挨拶じゃなくて……恋人同士がする奴……俺、おれ……ガマン、出来ないから……」
結局、大統領の許しが出るより先にディ・ス・コの方が彼の唇を貪っていた。
首に手を絡め、柔らかな唇に何度も何度も吸い付き、絡まる舌が与える甘美な快楽に酔いしれ、解け合うように混ざり合う愛欲のジュースを飲み下す……。
「おい、そろそろ離れてくれ、ディ・ス・コ……苦しくて溺れそうだ」
「でも、ファニー……」
「……後でたっぷりくれてやる。いいだろう?」
甘い声に耳を撫でられ、ディ・ス・コはしぶしぶ、彼の身体から離れた。
ここに来るのがあれほど憂鬱だったというのに、大統領と会い穢れた遊戯に身を投じるこの事実が、あれほど恐ろしいと思っていたはずなのに、今はどうだろう。 彼の声を、身体を前にすると、抗えない自分がいる。 汚いと思う自分が許せないのに、それでもやめる事は決してない。
詰まるところ、ディ・ス・コはよく訓練された大統領の愛玩具であったのだ。
「さぁて……ところでディ・ス・コ。この部屋なんだが……お前は、この部屋をどう思う?」
「部屋……」
そう聞かれ、改めて室内を見渡す。
立派な机と棚が置かれている、どちらも一流の家具なのだろう。だがその良さは、ディ・ス・コには分からない。 比較的若い自分から大統領の傍で飼われ、常に彼の傍で一流を見てきたディ・ス・コにとって、周囲にあるものは一流が当然だった。
当たり前にあるモノについて、彼は深く考えるようなことはしないのである。
「……殺風景」
「そうか、他には?」
「あとは……良く、わからない……」
思った事を素直に吐き出す。
そんなディ・ス・コの様子を眺めて、大統領はやれやれと呟きながら溜め息をついた。
「そうか……あぁ、そうだろうな。お前にはそういった事は教えていなかったものな……」
大統領はそう言いながら、窓にかかる厚手のカーテンを引く。
淡いアイボリーのカーテンは裾にレースがあしらわれており、殺風景な部屋には不似合いに思えた。
心なしかこの、大仰な机や棚にも似合っていない気がする。
この部屋をどうやって彩っていくのか大統領にもまだ、心が定まっていないのだろうか。
周囲の事に対してはとことん無頓着なディ・ス・コが漠然とそんな事を考えたのもまた、大統領に「どう思う」等と訪ねられたからである。
彼は思考の全ても大統領の為に染まっている、そんな玩具だったのだ。
「いいか、ディ・ス・コ……部屋を作るには何が必要だと思う?」
「部屋……机、棚、椅子……」
「そうだな、家具は必要だ……だがそれらを品位よく並べるにはどうすべきだ? ……何が重要だと思う? ……わかるか?」
「え……? 俺……そういうの、よく……」
こういう質問を受けると、改めて自分は無知なのだと思う。
いつも大統領の傍に付き添い、彼の世話を……周囲の小さな世話は勿論、夜の処理などを含めてあらゆる世話をしているのだが、彼は大統領以外にあまりに無頓着なのだ。
「……ごめんなさい」
無意識に謝るディ・ス・コの頭を、大統領はくしゃくしゃと撫でた。
大統領の本音としては、ディ・ス・コの興味が自分でしかない。その事実を確かめられた事だけで嬉しかったのだ。
ディ・ス・コは自分の子飼いの玩具。
自分の為にあるべきで、他の何かの為には興味を示さない……彼が完全に自分の手中にある。その事実が、大統領に密かな優越感を与えていた事をディ・ス・コ自身がまだ気付くことはなかった。あるいは、大統領を失っても気付かないのかもしれないが。
「そうだ……それなら、教えてやろう。部屋には……色彩が大事だと、私はそう思っているのだがね……」
「色彩……?」
「暖かな色があればそれは温もりのある部屋に……素朴な色合いなら素朴な、質素な色合いなら質素な……そういう部屋になるものだ……ディ・ス・コ、壁際に立ってくれないか?」
「壁……?」
「そうだ、そこの壁だ」
大統領が指し示した場所は、何もないただ壁紙が張られただけの壁だった。 突然の命令を奇妙に思いながらも、それに抗う術を知らないディ・ス・コは素直に壁の前へ向かう。
「? ……こう? ファニー」
この壁は隣の部屋に近いのか。 壁もあまり厚くはないのかもしれない、微かな物音がディ・ス・コの耳に入った。 恐らく夫人は……大統領の妻であるスカーレット夫人は背中にした壁の向こうにいるのだろう。
「あぁ、そう。そうだ……やはりこの部屋にはディ・ス・コ。お前の姿がよくあう……これで、いい彩りになった……」
絨毯の上を、大統領は驚く程静かに歩く。
ほとんど足音をたてずに進むのは、彼の特技の一つだった。 彼はディ・ス・コの前に立つと、壁と彼との姿を見比べる。 だが何か、気に入らない事でもあったのだろう。不意に唇を尖らせると
「……まだこの色では物足りないな」
そんな事を呟きながら、ディ・ス・コの服へと手を伸ばした。
「ちょっ……ファニー?」
大統領の指先が、彼のボタンにかかる。 ぷつり……ぷつり。
その指先は少しずつ。だが確実に、彼のボタンを外していった。
「だめ……ファニー、やめて……昼間から俺っ……は、恥ずかしい、から……」
無意識に壁へと手をつき、声が震えるのが分かる。 だが抵抗はしない。 口では嫌がる素振りを見せても、決して大統領の要求を拒絶しない……ディ・ス・コはそうやって躾られた玩具だった。
「羞恥はちゃんと覚えているようだな、いい子だディスコ……」
大統領の指先はディ・ス・コのボタンを全て外し、ゆっくりとそのシャツを床へと落とす。
窓辺から微かに差し込む光と、それさえ届かない影との間で半裸にされたディ・ス・コの肌が室内の空気を変えた。
「っ……やだ、ファニー……俺、おれっ……恥ずかしくて、溶けちゃう……」
「……可愛い事をいうな、ディ・ス・コ」
「だって……」
「だが……いい色だ。やはりこの色が必要だったようだな……ディ・ス・コこの部屋にはお前の肌の色がよくあう……」
大統領の手が、ディ・ス・コの身体を壁際へと押さえつける。
その甘い息遣いが、彼の首筋へとかかった。
背中では微かに女性の声が聞こえてくる……これは間違いなく夫人の声だ。言葉までは聞き取れないが、侍女らしい娘と何か会話をしているらしい。
「やめて……ね、もうやめようファニー……? 隣に、奥さんがいるんでしょ、俺わかる……ダメだよこういうの、俺、恥ずかしい……」
壁一枚隔てて、夫人がいる。
自分と大統領との関係を未だ知らない彼女は、ディ・ス・コの事をまるで弟のように可愛がってくれていた。
そんな彼女に、こんな姿は見られたくない。 彼女にだけは……。
そう思う反面、自分の身体が熱を帯びているのにディ・ス・コは気付いていた。 こんな最低な事をしているのに。こんな穢れた遊戯をしているのに、今、自分は最高に高ぶっている。
このまま大統領の……愛しいファニー・ヴァレンタインの身体で、攻め立てられたいと願っているのだ。
「……本当にやめたいのか、ディ・ス・コ」
彼の耳を舐りながら、大統領はそう問いかける。
「えっ……」
「……本当に私の身体を必要としていないのか? ディ・ス・コ……こたえてみろ」
甘い唇が、首筋を幾度も慰める。
「……私だってね。君が嫌がる事をするのは本意じゃないんだ……さぁディ・ス・コ。こたえてみなさい……お前は今、私を……欲していないのかというのかね?」
彼の言葉が、耳に絡まる。『穢れた関係だ』ブラックモアの軽蔑するような態度が脳裏に過ぎる。
背中では敬愛するスカーレット夫人の声が響く。
自分でも分かっていた。 これが決していい関係ではないという事を。 だがそれでも……。
「……欲しい」
ディ・ス・コは自ら、ズボンのベルトを外す。
「……欲しい、欲しい……欲しい。俺……ファニー。貴方の身体……欲しい、よ……」
求められたら、拒めない。ディ・ス・コは心も体も、完全に彼に支配されていた。
彼のその精一杯のお強請りに、大統領は満足そうに笑う。
「……いい出来だなディスコ……気に入った。私の身体も随分と疼いてきた……」
彼はディ・ス・コの身体を壁際に優しく押しつけると、静かに。だが激しい情愛を込めた口付けを交わす。 舌が絡まり、彼の身体を慰める……。
長く交わし続けた唇で、ディ・ス・コは自然と彼を喜ばせる術を覚え、彼もまたディ・ス・コを高ぶらせる方法をよく心得ていた。
「……するぞ、いいな」
「うん、ファニー……」
「何だ?」
「……嘘でもいいから、好きって言って……ね?」
「あぁ……」
愛してる。
虚ろな言葉が、ディ・ス・コの耳に絡まる。
それはファニー・ヴァレンタインお得意の嘘だ。 ディ・ス・コを教育する為に使われた道具としての言葉であり、本心ではない。 それは彼によく教育され、彼だけが世界であるディ・ス・コにも何とはなくだが分かっていた。
だがそれでも……。
「好き……俺も好きだよファニー、だから……俺の事、ぐちゃぐちゃにして……壊れるくらいに、乱暴に……ね?」
穢れた関係と言われても。 背徳の遊戯と言われても。彼は身体を求めるのをやめる、その術を知らない。
ディ・ス・コは極めて優秀な側近であり、そして、大統領専属の愛玩具であったのだ。
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